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「え? セラスって教会無いの?」
「そんな筈はないだろう」
「いえ、無いと言いますか、あると言えばあるのですが……えぇと、もう……」
総教国ギフトもちゃんと拾い入れ、それを色々あれこれしつつ幾日か経ち、ちょっと落ち着いてきたので、明日か明後日くらいにセラス国に行こうと思うと話した時にライアスが「セラスですか」って何やら難しそうな顔で考え出したので、どうしたのか訊いてみれば、「教会が無いんです……」なんて話。
「「もう?」」
「まだ公になっていないのですが―――」
と言いつつ教えてくれたのは、セラスからヴァルオム総教教会関係が撤退する事が決定したばかりという事実。
「一体どういう事だ?」
「撤退……って、教会って撤退する様なものなの?」
「本当につい数日前にそう決定したと聞いたばかりでして」
ライアスは定期報告の際に話題の一つとして軽く通知されただけなので詳細をまだ聞いていないが、撤退するという微妙な時期に名目上の護衛とは言え聖騎士の小隊を呼び寄せるのはいらぬ誤解を招きかねないのではと考えたそうで。
あと、セラスにある教会所有の例の転移門は王城内にある教会にのみ存在しているので、もしそこを使用して呼び寄せるとすると尚更誤解されそうだと。
で、誤解を生ませない為に俺がセラス国側に顔を見せなきゃいけなくなるかもしれない。
そして、さっきの教会が無いってのは『(呼び寄せるのに)適当な』教会が無いという事を含んでたっぽくて、俺達がファンディオ側から入国するなら、そこから一緒にという事でいいかもしれないが、俺が嫌がるんじゃないかって事までも瞬時に考えてくれていたらしい。おぉ……。
そういう理由を聞いて嫌がる程俺は我儘じゃないぞと言いたいが、考えてくれてありがとう。
「そもそも誤解ってどんな、っつーか、何が原因でそんな事になってんだろ……?」
不思議がっている俺の横で、何やら考えていたソランツェには思い出した事があった様で
「……寄進関係か?」
「きしん?」
「……そうかもしれませんが」
と言われても、俺にはさっぱりなのでソランツェの袖を引っ張ってみると、ああ、と思い出した様な顔をして頷かれる。
「そういえば、リヒトには貧しい国だという以外元々どういう国か説明していなかったな」
撤退云々よりも先にお勉強という事で、ソランツェ曰く現在は貧しい国となっているセラスは、ソランツェやライアスが生まれるよりもずっと昔、鉱山事業で物凄く潤っていた国なんだそう。
元々は河を挟んだロイトダシェーンとは反対側の陸続きの隣国ルトゥスアの一部・セラス辺境地区だったらしいが、その当時の辺境伯が領内で見つけた鉱脈を秘匿したまま独立を宣言し、まあバレたりだとかで血で血を洗う様な事も勿論色々ありつつも建国された国だそうだ。
「しばらく景気も良く裕福な国だったらしいが、俺が生まれた頃には既に厳しい状態だったようだ」
「へぇ~」
続きを引き取ったライアスによると、鉱山は限りある資源で終わりは勿論あり、しばらく時を経ると産出量も減少し段々と国自体が傾いてきだした。
無計画で掘られた場所も多くそれが影響し鉱山事故も多発、肺の病に倒れる者も多く出る様になって来て、資源も無くなっていくが労働力も無くなっていく。勿論、治安も悪くなった。
作物も出来なくはないが肥沃な大地という訳ではなかった為、食料などは輸入頼みが多かったのに肝心の資金を満足に稼げない。
方針転換して作物を作っても満足な量が生産できる訳でもなく、ここ数年はそれすらも不作続きだったらしい。
「昨年がどうであったか聞いていませんでしたが、以前にも増して駄目だったのかもしれません。あとは、本当に鉱山資源が尽きてしまったか……」
「そうなると俺が前に滞在した時よりも状況は悪いだろうな」
「そして、寄進についてですが」
「うん」
寄進というのは、国からヴァルオム総教への毎年行われる”寄付”の事だそう。
「あ、なんか判って来たかも」
国からの寄進は、その国での教会支部の『活動資金』の主なものとなっていて、それがあるから教会が各地に設置出来、適性検査・怪我の治療、婚姻の儀式や男同士でも子を授かれる詳しく知りたくない謎技術だったり色々な事が教会で出来ていて、国営以外の孤児院や体が思う様に動かず働けない人達の為の救貧院なんかも運営出来ている。
「セラス支部が受け取っていた寄進の額は最小限だった様です。教会本部から各国の支部に割り当てられている一律の予算を足しても、活動資金としては満足な額では無かったようで、昔と比べると教会の数も削り、神官や聖騎士の数も下働きの数も最低限でやっていたと聞いています。ですので、最小限だったとはいえそこから寄進分がなくなると……」
「運営は厳しいっていうか出来ないかもね」
「あと、いらぬ誤解と言った点ですが」
「うん」
「一応、寄進は強制という物ではないのですが……それによって国として得られる一番大きな物は”総教国での”国家承認だと言う話もありまして」
「あー……それは―――」
他の国から認められてても、一番の大国っつーか、ぶっちゃけこの世界を牛耳ってる国からの承認は大事だわ。それに追随してる所もありそうだし。
「もっとも明言されている訳ではないがな」
ソランツェは元聖騎士だし、そういう話もちゃんと知っていたって事か。
「いくらか知らないけどそれも払えない国は国としてやっていけてないんだから国として諦めろみたいな話になっちゃうのか? まあ、そんな感じの時期に総教国聖騎士団の小隊送られたら、そりゃ誤解招くかもなぁ」
弱った国を総教国が侵略し始めたなんて言われたら大変な話。
「んー、じゃあ撤退するっていう決定の詳細が判ってから動いた方がいいよな」
「はい」
「そうだな」
それじゃ、ライアスお願いなって事で。さて、どういう事なんだろうなあ。
「そんな筈はないだろう」
「いえ、無いと言いますか、あると言えばあるのですが……えぇと、もう……」
総教国ギフトもちゃんと拾い入れ、それを色々あれこれしつつ幾日か経ち、ちょっと落ち着いてきたので、明日か明後日くらいにセラス国に行こうと思うと話した時にライアスが「セラスですか」って何やら難しそうな顔で考え出したので、どうしたのか訊いてみれば、「教会が無いんです……」なんて話。
「「もう?」」
「まだ公になっていないのですが―――」
と言いつつ教えてくれたのは、セラスからヴァルオム総教教会関係が撤退する事が決定したばかりという事実。
「一体どういう事だ?」
「撤退……って、教会って撤退する様なものなの?」
「本当につい数日前にそう決定したと聞いたばかりでして」
ライアスは定期報告の際に話題の一つとして軽く通知されただけなので詳細をまだ聞いていないが、撤退するという微妙な時期に名目上の護衛とは言え聖騎士の小隊を呼び寄せるのはいらぬ誤解を招きかねないのではと考えたそうで。
あと、セラスにある教会所有の例の転移門は王城内にある教会にのみ存在しているので、もしそこを使用して呼び寄せるとすると尚更誤解されそうだと。
で、誤解を生ませない為に俺がセラス国側に顔を見せなきゃいけなくなるかもしれない。
そして、さっきの教会が無いってのは『(呼び寄せるのに)適当な』教会が無いという事を含んでたっぽくて、俺達がファンディオ側から入国するなら、そこから一緒にという事でいいかもしれないが、俺が嫌がるんじゃないかって事までも瞬時に考えてくれていたらしい。おぉ……。
そういう理由を聞いて嫌がる程俺は我儘じゃないぞと言いたいが、考えてくれてありがとう。
「そもそも誤解ってどんな、っつーか、何が原因でそんな事になってんだろ……?」
不思議がっている俺の横で、何やら考えていたソランツェには思い出した事があった様で
「……寄進関係か?」
「きしん?」
「……そうかもしれませんが」
と言われても、俺にはさっぱりなのでソランツェの袖を引っ張ってみると、ああ、と思い出した様な顔をして頷かれる。
「そういえば、リヒトには貧しい国だという以外元々どういう国か説明していなかったな」
撤退云々よりも先にお勉強という事で、ソランツェ曰く現在は貧しい国となっているセラスは、ソランツェやライアスが生まれるよりもずっと昔、鉱山事業で物凄く潤っていた国なんだそう。
元々は河を挟んだロイトダシェーンとは反対側の陸続きの隣国ルトゥスアの一部・セラス辺境地区だったらしいが、その当時の辺境伯が領内で見つけた鉱脈を秘匿したまま独立を宣言し、まあバレたりだとかで血で血を洗う様な事も勿論色々ありつつも建国された国だそうだ。
「しばらく景気も良く裕福な国だったらしいが、俺が生まれた頃には既に厳しい状態だったようだ」
「へぇ~」
続きを引き取ったライアスによると、鉱山は限りある資源で終わりは勿論あり、しばらく時を経ると産出量も減少し段々と国自体が傾いてきだした。
無計画で掘られた場所も多くそれが影響し鉱山事故も多発、肺の病に倒れる者も多く出る様になって来て、資源も無くなっていくが労働力も無くなっていく。勿論、治安も悪くなった。
作物も出来なくはないが肥沃な大地という訳ではなかった為、食料などは輸入頼みが多かったのに肝心の資金を満足に稼げない。
方針転換して作物を作っても満足な量が生産できる訳でもなく、ここ数年はそれすらも不作続きだったらしい。
「昨年がどうであったか聞いていませんでしたが、以前にも増して駄目だったのかもしれません。あとは、本当に鉱山資源が尽きてしまったか……」
「そうなると俺が前に滞在した時よりも状況は悪いだろうな」
「そして、寄進についてですが」
「うん」
寄進というのは、国からヴァルオム総教への毎年行われる”寄付”の事だそう。
「あ、なんか判って来たかも」
国からの寄進は、その国での教会支部の『活動資金』の主なものとなっていて、それがあるから教会が各地に設置出来、適性検査・怪我の治療、婚姻の儀式や男同士でも子を授かれる詳しく知りたくない謎技術だったり色々な事が教会で出来ていて、国営以外の孤児院や体が思う様に動かず働けない人達の為の救貧院なんかも運営出来ている。
「セラス支部が受け取っていた寄進の額は最小限だった様です。教会本部から各国の支部に割り当てられている一律の予算を足しても、活動資金としては満足な額では無かったようで、昔と比べると教会の数も削り、神官や聖騎士の数も下働きの数も最低限でやっていたと聞いています。ですので、最小限だったとはいえそこから寄進分がなくなると……」
「運営は厳しいっていうか出来ないかもね」
「あと、いらぬ誤解と言った点ですが」
「うん」
「一応、寄進は強制という物ではないのですが……それによって国として得られる一番大きな物は”総教国での”国家承認だと言う話もありまして」
「あー……それは―――」
他の国から認められてても、一番の大国っつーか、ぶっちゃけこの世界を牛耳ってる国からの承認は大事だわ。それに追随してる所もありそうだし。
「もっとも明言されている訳ではないがな」
ソランツェは元聖騎士だし、そういう話もちゃんと知っていたって事か。
「いくらか知らないけどそれも払えない国は国としてやっていけてないんだから国として諦めろみたいな話になっちゃうのか? まあ、そんな感じの時期に総教国聖騎士団の小隊送られたら、そりゃ誤解招くかもなぁ」
弱った国を総教国が侵略し始めたなんて言われたら大変な話。
「んー、じゃあ撤退するっていう決定の詳細が判ってから動いた方がいいよな」
「はい」
「そうだな」
それじゃ、ライアスお願いなって事で。さて、どういう事なんだろうなあ。
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