146 / 148
143
しおりを挟む
「え? セラスって教会無いの?」
「そんな筈はないだろう」
「いえ、無いと言いますか、あると言えばあるのですが……えぇと、もう……」
総教国ギフトもちゃんと拾い入れ、それを色々あれこれしつつ幾日か経ち、ちょっと落ち着いてきたので、明日か明後日くらいにセラス国に行こうと思うと話した時にライアスが「セラスですか」って何やら難しそうな顔で考え出したので、どうしたのか訊いてみれば、「教会が無いんです……」なんて話。
「「もう?」」
「まだ公になっていないのですが―――」
と言いつつ教えてくれたのは、セラスからヴァルオム総教教会関係が撤退する事が決定したばかりという事実。
「一体どういう事だ?」
「撤退……って、教会って撤退する様なものなの?」
「本当につい数日前にそう決定したと聞いたばかりでして」
ライアスは定期報告の際に話題の一つとして軽く通知されただけなので詳細をまだ聞いていないが、撤退するという微妙な時期に名目上の護衛とは言え聖騎士の小隊を呼び寄せるのはいらぬ誤解を招きかねないのではと考えたそうで。
あと、セラスにある教会所有の例の転移門は王城内にある教会にのみ存在しているので、もしそこを使用して呼び寄せるとすると尚更誤解されそうだと。
で、誤解を生ませない為に俺がセラス国側に顔を見せなきゃいけなくなるかもしれない。
そして、さっきの教会が無いってのは『(呼び寄せるのに)適当な』教会が無いという事を含んでたっぽくて、俺達がファンディオ側から入国するなら、そこから一緒にという事でいいかもしれないが、俺が嫌がるんじゃないかって事までも瞬時に考えてくれていたらしい。おぉ……。
そういう理由を聞いて嫌がる程俺は我儘じゃないぞと言いたいが、考えてくれてありがとう。
「そもそも誤解ってどんな、っつーか、何が原因でそんな事になってんだろ……?」
不思議がっている俺の横で、何やら考えていたソランツェには思い出した事があった様で
「……寄進関係か?」
「きしん?」
「……そうかもしれませんが」
と言われても、俺にはさっぱりなのでソランツェの袖を引っ張ってみると、ああ、と思い出した様な顔をして頷かれる。
「そういえば、リヒトには貧しい国だという以外元々どういう国か説明していなかったな」
撤退云々よりも先にお勉強という事で、ソランツェ曰く現在は貧しい国となっているセラスは、ソランツェやライアスが生まれるよりもずっと昔、鉱山事業で物凄く潤っていた国なんだそう。
元々は河を挟んだロイトダシェーンとは反対側の陸続きの隣国ルトゥスアの一部・セラス辺境地区だったらしいが、その当時の辺境伯が領内で見つけた鉱脈を秘匿したまま独立を宣言し、まあバレたりだとかで血で血を洗う様な事も勿論色々ありつつも建国された国だそうだ。
「しばらく景気も良く裕福な国だったらしいが、俺が生まれた頃には既に厳しい状態だったようだ」
「へぇ~」
続きを引き取ったライアスによると、鉱山は限りある資源で終わりは勿論あり、しばらく時を経ると産出量も減少し段々と国自体が傾いてきだした。
無計画で掘られた場所も多くそれが影響し鉱山事故も多発、肺の病に倒れる者も多く出る様になって来て、資源も無くなっていくが労働力も無くなっていく。勿論、治安も悪くなった。
作物も出来なくはないが肥沃な大地という訳ではなかった為、食料などは輸入頼みが多かったのに肝心の資金を満足に稼げない。
方針転換して作物を作っても満足な量が生産できる訳でもなく、ここ数年はそれすらも不作続きだったらしい。
「昨年がどうであったか聞いていませんでしたが、以前にも増して駄目だったのかもしれません。あとは、本当に鉱山資源が尽きてしまったか……」
「そうなると俺が前に滞在した時よりも状況は悪いだろうな」
「そして、寄進についてですが」
「うん」
寄進というのは、国からヴァルオム総教への毎年行われる”寄付”の事だそう。
「あ、なんか判って来たかも」
国からの寄進は、その国での教会支部の『活動資金』の主なものとなっていて、それがあるから教会が各地に設置出来、適性検査・怪我の治療、婚姻の儀式や男同士でも子を授かれる詳しく知りたくない謎技術だったり色々な事が教会で出来ていて、国営以外の孤児院や体が思う様に動かず働けない人達の為の救貧院なんかも運営出来ている。
「セラス支部が受け取っていた寄進の額は最小限だった様です。教会本部から各国の支部に割り当てられている一律の予算を足しても、活動資金としては満足な額では無かったようで、昔と比べると教会の数も削り、神官や聖騎士の数も下働きの数も最低限でやっていたと聞いています。ですので、最小限だったとはいえそこから寄進分がなくなると……」
「運営は厳しいっていうか出来ないかもね」
「あと、いらぬ誤解と言った点ですが」
「うん」
「一応、寄進は強制という物ではないのですが……それによって国として得られる一番大きな物は”総教国での”国家承認だと言う話もありまして」
「あー……それは―――」
他の国から認められてても、一番の大国っつーか、ぶっちゃけこの世界を牛耳ってる国からの承認は大事だわ。それに追随してる所もありそうだし。
「もっとも明言されている訳ではないがな」
ソランツェは元聖騎士だし、そういう話もちゃんと知っていたって事か。
「いくらか知らないけどそれも払えない国は国としてやっていけてないんだから国として諦めろみたいな話になっちゃうのか? まあ、そんな感じの時期に総教国聖騎士団の小隊送られたら、そりゃ誤解招くかもなぁ」
弱った国を総教国が侵略し始めたなんて言われたら大変な話。
「んー、じゃあ撤退するっていう決定の詳細が判ってから動いた方がいいよな」
「はい」
「そうだな」
それじゃ、ライアスお願いなって事で。さて、どういう事なんだろうなあ。
「そんな筈はないだろう」
「いえ、無いと言いますか、あると言えばあるのですが……えぇと、もう……」
総教国ギフトもちゃんと拾い入れ、それを色々あれこれしつつ幾日か経ち、ちょっと落ち着いてきたので、明日か明後日くらいにセラス国に行こうと思うと話した時にライアスが「セラスですか」って何やら難しそうな顔で考え出したので、どうしたのか訊いてみれば、「教会が無いんです……」なんて話。
「「もう?」」
「まだ公になっていないのですが―――」
と言いつつ教えてくれたのは、セラスからヴァルオム総教教会関係が撤退する事が決定したばかりという事実。
「一体どういう事だ?」
「撤退……って、教会って撤退する様なものなの?」
「本当につい数日前にそう決定したと聞いたばかりでして」
ライアスは定期報告の際に話題の一つとして軽く通知されただけなので詳細をまだ聞いていないが、撤退するという微妙な時期に名目上の護衛とは言え聖騎士の小隊を呼び寄せるのはいらぬ誤解を招きかねないのではと考えたそうで。
あと、セラスにある教会所有の例の転移門は王城内にある教会にのみ存在しているので、もしそこを使用して呼び寄せるとすると尚更誤解されそうだと。
で、誤解を生ませない為に俺がセラス国側に顔を見せなきゃいけなくなるかもしれない。
そして、さっきの教会が無いってのは『(呼び寄せるのに)適当な』教会が無いという事を含んでたっぽくて、俺達がファンディオ側から入国するなら、そこから一緒にという事でいいかもしれないが、俺が嫌がるんじゃないかって事までも瞬時に考えてくれていたらしい。おぉ……。
そういう理由を聞いて嫌がる程俺は我儘じゃないぞと言いたいが、考えてくれてありがとう。
「そもそも誤解ってどんな、っつーか、何が原因でそんな事になってんだろ……?」
不思議がっている俺の横で、何やら考えていたソランツェには思い出した事があった様で
「……寄進関係か?」
「きしん?」
「……そうかもしれませんが」
と言われても、俺にはさっぱりなのでソランツェの袖を引っ張ってみると、ああ、と思い出した様な顔をして頷かれる。
「そういえば、リヒトには貧しい国だという以外元々どういう国か説明していなかったな」
撤退云々よりも先にお勉強という事で、ソランツェ曰く現在は貧しい国となっているセラスは、ソランツェやライアスが生まれるよりもずっと昔、鉱山事業で物凄く潤っていた国なんだそう。
元々は河を挟んだロイトダシェーンとは反対側の陸続きの隣国ルトゥスアの一部・セラス辺境地区だったらしいが、その当時の辺境伯が領内で見つけた鉱脈を秘匿したまま独立を宣言し、まあバレたりだとかで血で血を洗う様な事も勿論色々ありつつも建国された国だそうだ。
「しばらく景気も良く裕福な国だったらしいが、俺が生まれた頃には既に厳しい状態だったようだ」
「へぇ~」
続きを引き取ったライアスによると、鉱山は限りある資源で終わりは勿論あり、しばらく時を経ると産出量も減少し段々と国自体が傾いてきだした。
無計画で掘られた場所も多くそれが影響し鉱山事故も多発、肺の病に倒れる者も多く出る様になって来て、資源も無くなっていくが労働力も無くなっていく。勿論、治安も悪くなった。
作物も出来なくはないが肥沃な大地という訳ではなかった為、食料などは輸入頼みが多かったのに肝心の資金を満足に稼げない。
方針転換して作物を作っても満足な量が生産できる訳でもなく、ここ数年はそれすらも不作続きだったらしい。
「昨年がどうであったか聞いていませんでしたが、以前にも増して駄目だったのかもしれません。あとは、本当に鉱山資源が尽きてしまったか……」
「そうなると俺が前に滞在した時よりも状況は悪いだろうな」
「そして、寄進についてですが」
「うん」
寄進というのは、国からヴァルオム総教への毎年行われる”寄付”の事だそう。
「あ、なんか判って来たかも」
国からの寄進は、その国での教会支部の『活動資金』の主なものとなっていて、それがあるから教会が各地に設置出来、適性検査・怪我の治療、婚姻の儀式や男同士でも子を授かれる詳しく知りたくない謎技術だったり色々な事が教会で出来ていて、国営以外の孤児院や体が思う様に動かず働けない人達の為の救貧院なんかも運営出来ている。
「セラス支部が受け取っていた寄進の額は最小限だった様です。教会本部から各国の支部に割り当てられている一律の予算を足しても、活動資金としては満足な額では無かったようで、昔と比べると教会の数も削り、神官や聖騎士の数も下働きの数も最低限でやっていたと聞いています。ですので、最小限だったとはいえそこから寄進分がなくなると……」
「運営は厳しいっていうか出来ないかもね」
「あと、いらぬ誤解と言った点ですが」
「うん」
「一応、寄進は強制という物ではないのですが……それによって国として得られる一番大きな物は”総教国での”国家承認だと言う話もありまして」
「あー……それは―――」
他の国から認められてても、一番の大国っつーか、ぶっちゃけこの世界を牛耳ってる国からの承認は大事だわ。それに追随してる所もありそうだし。
「もっとも明言されている訳ではないがな」
ソランツェは元聖騎士だし、そういう話もちゃんと知っていたって事か。
「いくらか知らないけどそれも払えない国は国としてやっていけてないんだから国として諦めろみたいな話になっちゃうのか? まあ、そんな感じの時期に総教国聖騎士団の小隊送られたら、そりゃ誤解招くかもなぁ」
弱った国を総教国が侵略し始めたなんて言われたら大変な話。
「んー、じゃあ撤退するっていう決定の詳細が判ってから動いた方がいいよな」
「はい」
「そうだな」
それじゃ、ライアスお願いなって事で。さて、どういう事なんだろうなあ。
35
お気に入りに追加
3,358
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる