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「さて、俺に言っていなかった事はなんだ?」
ライアスと別れ、先程までの場所にまた馬車を出してソランツェと向かい合う。
「アシュマルナ様との話で俺にも言えない事があるのは理解している――が、どうもそういう範囲外の事で何か俺に言ってない事がある様な気がするんだが?」
「……あー、うん。まあ、うん」
ソランツェも知っての通りあのダンジョンの変化はトリラウーユによるものだが、理由を曖昧にしておいたのは、実は金銭援助目的っていう甘やかされっぷりが恥ずかしくて黙っておきたいなーとかって考えたからだよー……って白状する。あ、顔が呆れてる……。
「あと、俺がクリアしに行かなければSS級アイテム目当てに、あのダンジョンへの挑戦者がいっぱい増えて街が賑わうから……」
「宿を改装して客室を増やしたがったのもそれか」
「うん。稼げる時に稼いでもらおうと思ってさ。イルム達の分で今までより支出は増えるだろうけど、直接の金銭援助だと受け取って貰えなさそうだし、改装くらいならいいかなあって」
あそこに連れて行ったのは俺達だもん。やっぱり気になる。これが孤児院に行く事になってた場合でも俺はその孤児院の住環境を良くしようとどうにかしてたと思う……と考えて、別にイルムと関係なくとも孤児院は気にした方がいい場所だなって気付く。時間は嫌というくらい俺にはあるんだから気になる所は色々触れていこうかな。
「で、今回のもトリラウーユ様が?」
「らしいよ」
詳しくは知らないが、どうやらこれも金銭援助目的と
「大々的にうちの子強いでしょ自慢したかったみたい?因みにアシュマルナはうちの子可愛いでしょ自慢をやりたがる傾向がある……」
「…………そうか」
ソランツェのその何とも言えない気の毒そうな微妙な表情。
周りに迷惑を掛ける親を持つ俺の心境を察してか頭をそっと撫でてくれるが……ああ、もう居た堪れない。だから、隠したかったんだよ。
++++++
「まあ、そういう事で。さっさと終わらせなきゃなと」
「ああ」
ぶっちゃけダンジョンの新エリアにやってくるのはSS級目当てに欲に目が眩んだ奴らだろうから怪我とかは自己責任って話だけど、トゥアンニコのは全然違うからな。放置出来ない。気まぐれ神様め……。
「じゃあ、ちょっと早いかも知れないけどトゥアンニコ中央教会に行こう!」
馬車を戻し逸る気持ちでトゥアンニコ中央教会と思い浮かべて出て来た座標そのままに『えいやっ!』と転移するが、パッと切り替わった視界で自分の確認ミスに気付いて頭を抱えたくなった。
「うわぁ……」
「やってしまったか……」
よりにもよって転移場所は礼拝堂。祭壇の前方付近。
そこは今回の事で祈りを捧げる為だったり避難して来ている人達がいっぱい居る場所で……。
「そっか、そうだよな……」
ちょっと考えれば有事の際に教会が避難場所になっていそうだって判る事だったけど、全く考えていなかった。透明化するのも忘れてたからどうしようもない。
突然現れた俺達に皆一様にポカンとした顔をしているのを見ると本当に申し訳なく思う。驚かしてゴメン……。
この状況をどうしようかと思っていると、いち早く我に返った一人の神官が恐る恐る俺達に近付いて来る。それを見て他の皆も我に返ったみたいだが、騒ぐ事はせずに神官と俺達の方をじっと窺っている様子だ。
神官の彼は近付いて来ながらもその目線を俺達の横の方にチラチラと移動させていて、何かあるのかと気になって俺もそこに目を向けてみる。
ああ、なるほど。
そこには例の絵姿がそれはそれは大層な額装でもって飾られていて納得。確認大事だよな。
「あの、愛し子……リヒト様でしょうか?」
近付いてきた神官は俺に直接聞く事はせず、ソランツェに問いかける。ちょっと寂しい……。
「ああ、そうだ」
普通の声の大きさだったのに静まり返っている空気の中でのその会話は、その場に居る全員の耳に届いたんじゃないかってくらい大きく聞こえた気がする。そして、その会話を受けて祭壇の近くに居た人たちが絵姿と俺を見比べ、驚きながらも本物だと口々に言い、それが後ろの方まで伝わり礼拝堂全体がどよめき出した。
残りの神官達が視線を遮る人垣になる様に急いで移動してくれたおかげか、こちらへ押しかけてきそうな雰囲気は今の所ないものの一旦移動した方が良さそうだとソランツェと目で会話する。
「ライアス達が詰めている場所へ案内してくれ」
「は、はいっ!」
ライアスはまだ戻っていない様だが、俺達が神官の先導で移動しようとした所、避難してきた人たちから『もしかしてあれを退治しに来てくれたのか』との声が次々に上がる。
その通りだけど、ライアスがここにいないって事は『先触れ』の処理がまだ終わってないみたいだし、そうだよとはっきり言えない。
「一応、そのつもりですけど……」
俺の言葉に歓声が上がるが、
「すまないが、まだどうなるかは判らない。国の返答次第だ」
ライアスと別れ、先程までの場所にまた馬車を出してソランツェと向かい合う。
「アシュマルナ様との話で俺にも言えない事があるのは理解している――が、どうもそういう範囲外の事で何か俺に言ってない事がある様な気がするんだが?」
「……あー、うん。まあ、うん」
ソランツェも知っての通りあのダンジョンの変化はトリラウーユによるものだが、理由を曖昧にしておいたのは、実は金銭援助目的っていう甘やかされっぷりが恥ずかしくて黙っておきたいなーとかって考えたからだよー……って白状する。あ、顔が呆れてる……。
「あと、俺がクリアしに行かなければSS級アイテム目当てに、あのダンジョンへの挑戦者がいっぱい増えて街が賑わうから……」
「宿を改装して客室を増やしたがったのもそれか」
「うん。稼げる時に稼いでもらおうと思ってさ。イルム達の分で今までより支出は増えるだろうけど、直接の金銭援助だと受け取って貰えなさそうだし、改装くらいならいいかなあって」
あそこに連れて行ったのは俺達だもん。やっぱり気になる。これが孤児院に行く事になってた場合でも俺はその孤児院の住環境を良くしようとどうにかしてたと思う……と考えて、別にイルムと関係なくとも孤児院は気にした方がいい場所だなって気付く。時間は嫌というくらい俺にはあるんだから気になる所は色々触れていこうかな。
「で、今回のもトリラウーユ様が?」
「らしいよ」
詳しくは知らないが、どうやらこれも金銭援助目的と
「大々的にうちの子強いでしょ自慢したかったみたい?因みにアシュマルナはうちの子可愛いでしょ自慢をやりたがる傾向がある……」
「…………そうか」
ソランツェのその何とも言えない気の毒そうな微妙な表情。
周りに迷惑を掛ける親を持つ俺の心境を察してか頭をそっと撫でてくれるが……ああ、もう居た堪れない。だから、隠したかったんだよ。
++++++
「まあ、そういう事で。さっさと終わらせなきゃなと」
「ああ」
ぶっちゃけダンジョンの新エリアにやってくるのはSS級目当てに欲に目が眩んだ奴らだろうから怪我とかは自己責任って話だけど、トゥアンニコのは全然違うからな。放置出来ない。気まぐれ神様め……。
「じゃあ、ちょっと早いかも知れないけどトゥアンニコ中央教会に行こう!」
馬車を戻し逸る気持ちでトゥアンニコ中央教会と思い浮かべて出て来た座標そのままに『えいやっ!』と転移するが、パッと切り替わった視界で自分の確認ミスに気付いて頭を抱えたくなった。
「うわぁ……」
「やってしまったか……」
よりにもよって転移場所は礼拝堂。祭壇の前方付近。
そこは今回の事で祈りを捧げる為だったり避難して来ている人達がいっぱい居る場所で……。
「そっか、そうだよな……」
ちょっと考えれば有事の際に教会が避難場所になっていそうだって判る事だったけど、全く考えていなかった。透明化するのも忘れてたからどうしようもない。
突然現れた俺達に皆一様にポカンとした顔をしているのを見ると本当に申し訳なく思う。驚かしてゴメン……。
この状況をどうしようかと思っていると、いち早く我に返った一人の神官が恐る恐る俺達に近付いて来る。それを見て他の皆も我に返ったみたいだが、騒ぐ事はせずに神官と俺達の方をじっと窺っている様子だ。
神官の彼は近付いて来ながらもその目線を俺達の横の方にチラチラと移動させていて、何かあるのかと気になって俺もそこに目を向けてみる。
ああ、なるほど。
そこには例の絵姿がそれはそれは大層な額装でもって飾られていて納得。確認大事だよな。
「あの、愛し子……リヒト様でしょうか?」
近付いてきた神官は俺に直接聞く事はせず、ソランツェに問いかける。ちょっと寂しい……。
「ああ、そうだ」
普通の声の大きさだったのに静まり返っている空気の中でのその会話は、その場に居る全員の耳に届いたんじゃないかってくらい大きく聞こえた気がする。そして、その会話を受けて祭壇の近くに居た人たちが絵姿と俺を見比べ、驚きながらも本物だと口々に言い、それが後ろの方まで伝わり礼拝堂全体がどよめき出した。
残りの神官達が視線を遮る人垣になる様に急いで移動してくれたおかげか、こちらへ押しかけてきそうな雰囲気は今の所ないものの一旦移動した方が良さそうだとソランツェと目で会話する。
「ライアス達が詰めている場所へ案内してくれ」
「は、はいっ!」
ライアスはまだ戻っていない様だが、俺達が神官の先導で移動しようとした所、避難してきた人たちから『もしかしてあれを退治しに来てくれたのか』との声が次々に上がる。
その通りだけど、ライアスがここにいないって事は『先触れ』の処理がまだ終わってないみたいだし、そうだよとはっきり言えない。
「一応、そのつもりですけど……」
俺の言葉に歓声が上がるが、
「すまないが、まだどうなるかは判らない。国の返答次第だ」
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