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二人の親に当たる人物達は初めはテッドさん達が宿屋を開業して間もない頃に客として来たらしい。少し汚れていたが二人の着ている服の生地の上等さから言って平民ではないだろうという感じがしており、駆け落ちしてきたのでは?と思えるものだったそうだ。それについて詳しく訊いた事は無いというか訊かない方がいいだろうと思ったので本当はどうだか判らないけれどとテッドさんは笑う。
二人はしばらくは客として泊まって部屋に籠もっていたが、ある日どこかに住める所は無いかと相談されたそう。しかし、手持ちのお金もそれまでの宿代を除くと心許なくまずお金を貯めた方がいいと助言し、腕に覚えがあったらしい男性の方・コルアディオさんは冒険者として活動し始めた。
でも、二人分の宿代を払いながらだとなかなか貯まらないだろうと思ったので、訳アリっぽい二人を助けたい気持ちから、女性の方・ミルロレーヌさんがここで働いてくれるなら住み込みという事にしてそれからの宿代は無しでいいよと提案し、受け入れた彼らはしばらくここに居たそうだ。
しばらくして小さな家を借りる事が出来るまで資金が貯まったので出て行ったが、アルミオがまだ小さい時までは家族で顔を出す事もあったらしい。
段々とその頻度が落ちていくのも家族を養うのに大変なんだろうと気にしていなかったそうだが、四年ほど前にロスティルさんがたまたまコルアディオさんに街中で会い、顔を出したいが二人目の出産後ミルロレーヌさんが亡くなった以降はなかなか難しくてという話を聞いていたそう。
「その時に知らない仲じゃないんだし頼ってくれと言ってたんだが」
「まさか、彼も亡くなっていたなんて……」
アルミオの顔は父親と瓜二つという程似ているそうで起きている顔を見てすぐに判ったという。そして、兄弟二人とも一目ですぐ判るほど痩せてしまっている現状に俺達が知っていればと、これまでも話しながら涙ぐんでいたテッドさんはついに泣きだしてしまった。
「あの時に今すぐ子供達連れて来いって言って連れて来させればよかったって、な」
おいおいと泣くテッドさんの背中を撫でながらロスティルさんは悔やんでいたが、一呼吸置いて俺達の方をまっすぐ見つめ居住まいを正す。
「俺達があの子達を引き取りたいんだ」
++++++
「ちょっと二人にお話があるんだけどいいかな?」
ソランツェと二人でアルミオ達の部屋のドアをノックする。
テッドさん達からの申し出を受けて、彼らの為には良い事だと思うし俺達だってどうにかならないかと思ってはいてそれが最善と思うけれど決めるのは彼らだしと、まずは俺達だけで話をしてみようと部屋を訪れた。アルミオはソランツェの事は知っていたので俺はともかくソランツェが信頼に足る人物というのは判ってくれているんじゃないかと思うし……。
「いいよ~!」
すぐにイルムが開けてくれ、中に入れてもらった。
中に入るとイルムは喜んでピョンと飛び付いて来てくれたのでそのまま受け止め抱きかかえる。今日知り合ったばかりなのに兄ちゃんを無事に連れて帰って来た俺達への懐き方は凄い。可愛いな。
テッドさんによるとイルムは痩せているため判り難いがお母さんに似た可愛い顔なんじゃないかとの事。コルアディオさんはキリッとした眉毛と切れ長の目が特徴の真面目な人でミルロレーヌさんはくりくりとした大きな目で顔も仕草も可愛い明るい人だったそうだ。
アルミオは俺達の来た理由が自分達のこれからの事なのだろうと予想がついている様子で少し緊張した表情をしている。ソランツェとアルミオは目を合わせると頷き合い向かい合わせに椅子に腰掛け、俺はそのままイルムを膝に抱いてベッドに腰掛けた。話は俺よりもソランツェの方がいいだろうと思ったので俺はイルムの相手をしておこう。
「まず、これから話す事は二人への事だ。俺達も押し付けたい訳じゃないが、出来ればイルムの事を主に考えてくれ」
「はい」
「今までも考えてなかった訳じゃないのは判っているからな。責めている訳じゃない」
「はい、大丈夫です」
アルミオは今回の事でイルムとの二人だけのこの生活を改めて考える事になったと思う。少し俯くその頭には色んな事が渦巻いているんだろう。
「早く言うと、ここの宿屋の主人がお前達を引き取りたいと言っている」
「そう……なんですか……?」
俯いていた頭がソランツェの言葉で少し上に上がるが、やっぱり戸惑いの表情を見せている。イルムも俺の顔を不思議そうな顔で見ているので頷くとイルムも首を傾げながら頷いてアルミオの方を向いた。
「実はここの主人達はお前達二人の親を知っていてな、今回初めて知った二人の現状に心を痛めている」
「……え?」
「ここに住み込みで働いてもらっていた縁もあるし、こういう事だったが今会えたのだからと……」
アルミオに俺達も聞いた彼らの親とテッドさん達の繋がりを話す。驚き戸惑うアルミオに、顔の特徴や性格を挙げた上でアルミオの顔がお父さん似でイルムの顔はお母さん似だって言ってたよと伝えると、自分以外に両親の事を二人揃ってちゃんと知っている人達が居たなんて……と静かに涙を流し始めた。勿論イルムは母親の顔は知らないし父親の記憶だって自分よりもかなり少ないから”自分だけしか”という気持ちが常にあったんだろう。
泣き出したアルミオにイルムは急いで俺の膝から降りて行きアルミオに抱きつき慰める様に背中を撫で始めたのを見て俺まで涙腺がなんかもう……今は耐えよう……。
アルミオの涙が落ち着くのを待って俺達は部屋を後にする。あくまでも提案だから兄弟二人でも少し話し合ってみて、と告げておいた。
「あとで夕ご飯を持って来てくれるそうだから、その時に決まっていたら直接話してみてね」
「判りました。有難うございます……本当に」
二人はしばらくは客として泊まって部屋に籠もっていたが、ある日どこかに住める所は無いかと相談されたそう。しかし、手持ちのお金もそれまでの宿代を除くと心許なくまずお金を貯めた方がいいと助言し、腕に覚えがあったらしい男性の方・コルアディオさんは冒険者として活動し始めた。
でも、二人分の宿代を払いながらだとなかなか貯まらないだろうと思ったので、訳アリっぽい二人を助けたい気持ちから、女性の方・ミルロレーヌさんがここで働いてくれるなら住み込みという事にしてそれからの宿代は無しでいいよと提案し、受け入れた彼らはしばらくここに居たそうだ。
しばらくして小さな家を借りる事が出来るまで資金が貯まったので出て行ったが、アルミオがまだ小さい時までは家族で顔を出す事もあったらしい。
段々とその頻度が落ちていくのも家族を養うのに大変なんだろうと気にしていなかったそうだが、四年ほど前にロスティルさんがたまたまコルアディオさんに街中で会い、顔を出したいが二人目の出産後ミルロレーヌさんが亡くなった以降はなかなか難しくてという話を聞いていたそう。
「その時に知らない仲じゃないんだし頼ってくれと言ってたんだが」
「まさか、彼も亡くなっていたなんて……」
アルミオの顔は父親と瓜二つという程似ているそうで起きている顔を見てすぐに判ったという。そして、兄弟二人とも一目ですぐ判るほど痩せてしまっている現状に俺達が知っていればと、これまでも話しながら涙ぐんでいたテッドさんはついに泣きだしてしまった。
「あの時に今すぐ子供達連れて来いって言って連れて来させればよかったって、な」
おいおいと泣くテッドさんの背中を撫でながらロスティルさんは悔やんでいたが、一呼吸置いて俺達の方をまっすぐ見つめ居住まいを正す。
「俺達があの子達を引き取りたいんだ」
++++++
「ちょっと二人にお話があるんだけどいいかな?」
ソランツェと二人でアルミオ達の部屋のドアをノックする。
テッドさん達からの申し出を受けて、彼らの為には良い事だと思うし俺達だってどうにかならないかと思ってはいてそれが最善と思うけれど決めるのは彼らだしと、まずは俺達だけで話をしてみようと部屋を訪れた。アルミオはソランツェの事は知っていたので俺はともかくソランツェが信頼に足る人物というのは判ってくれているんじゃないかと思うし……。
「いいよ~!」
すぐにイルムが開けてくれ、中に入れてもらった。
中に入るとイルムは喜んでピョンと飛び付いて来てくれたのでそのまま受け止め抱きかかえる。今日知り合ったばかりなのに兄ちゃんを無事に連れて帰って来た俺達への懐き方は凄い。可愛いな。
テッドさんによるとイルムは痩せているため判り難いがお母さんに似た可愛い顔なんじゃないかとの事。コルアディオさんはキリッとした眉毛と切れ長の目が特徴の真面目な人でミルロレーヌさんはくりくりとした大きな目で顔も仕草も可愛い明るい人だったそうだ。
アルミオは俺達の来た理由が自分達のこれからの事なのだろうと予想がついている様子で少し緊張した表情をしている。ソランツェとアルミオは目を合わせると頷き合い向かい合わせに椅子に腰掛け、俺はそのままイルムを膝に抱いてベッドに腰掛けた。話は俺よりもソランツェの方がいいだろうと思ったので俺はイルムの相手をしておこう。
「まず、これから話す事は二人への事だ。俺達も押し付けたい訳じゃないが、出来ればイルムの事を主に考えてくれ」
「はい」
「今までも考えてなかった訳じゃないのは判っているからな。責めている訳じゃない」
「はい、大丈夫です」
アルミオは今回の事でイルムとの二人だけのこの生活を改めて考える事になったと思う。少し俯くその頭には色んな事が渦巻いているんだろう。
「早く言うと、ここの宿屋の主人がお前達を引き取りたいと言っている」
「そう……なんですか……?」
俯いていた頭がソランツェの言葉で少し上に上がるが、やっぱり戸惑いの表情を見せている。イルムも俺の顔を不思議そうな顔で見ているので頷くとイルムも首を傾げながら頷いてアルミオの方を向いた。
「実はここの主人達はお前達二人の親を知っていてな、今回初めて知った二人の現状に心を痛めている」
「……え?」
「ここに住み込みで働いてもらっていた縁もあるし、こういう事だったが今会えたのだからと……」
アルミオに俺達も聞いた彼らの親とテッドさん達の繋がりを話す。驚き戸惑うアルミオに、顔の特徴や性格を挙げた上でアルミオの顔がお父さん似でイルムの顔はお母さん似だって言ってたよと伝えると、自分以外に両親の事を二人揃ってちゃんと知っている人達が居たなんて……と静かに涙を流し始めた。勿論イルムは母親の顔は知らないし父親の記憶だって自分よりもかなり少ないから”自分だけしか”という気持ちが常にあったんだろう。
泣き出したアルミオにイルムは急いで俺の膝から降りて行きアルミオに抱きつき慰める様に背中を撫で始めたのを見て俺まで涙腺がなんかもう……今は耐えよう……。
アルミオの涙が落ち着くのを待って俺達は部屋を後にする。あくまでも提案だから兄弟二人でも少し話し合ってみて、と告げておいた。
「あとで夕ご飯を持って来てくれるそうだから、その時に決まっていたら直接話してみてね」
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