のんびり異世界旅行~キャンピングカーごと死んだので特典てんこ盛りで転移しました~

みりん/鷹山リン

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「うぅ、ぁぁぁっ」

 俺の質問への答えは泣き声。これ以上耐えられなかった、という風に男の子はわんわん泣き出してしまった。
 その泣き声に通行人やギルドに入る人がチラッと見ては来るけれど、こちらに話し掛けて来る事もなく通り過ぎて行く。怪しく見えてないかな?大丈夫?

 男の子が落ち着くまで抱き締めて背中を撫でて待つ。
 身なりからして予想はついているけど、気になったので腕とかもさりげなく触って栄養状態をチェックしておく。すごく痩せているし、所々破れている服を着ていて正直ちょっと良いとは言えない匂いもある。
 どうにかしてあげたいと思うけど、それが良い事なのかも自信が無い。とりあえず今は何があったか聞かないと……。



「……兄ちゃんが帰ってこない」

 涙はまだ零れているが、少し落ち着いてきたのでゆっくりでいいから教えてと促すと一回深呼吸をしてからぽつぽつと話し出した。
 
 一生懸命話す拙い言葉を拾い上げて聞いていった結果、この子は小さいと思っていたがもう九歳で、名前はイルム。兄はアルミオといい、一昨日十五歳になったばかりで二人で暮らしている。
 母親はイルムの産後すぐ他界し、父親も何年か前に仕事中の事故により他界、それからはアルミオが冒険者ギルドで報酬の安い依頼をこなして生きてきたらしい。

 そのアルミオが昨日の朝にギルドに行く、昼過ぎくらいには帰ると言って出て行ってから帰って来ない。いつもはその通りに帰って来るので、初めての事に不安になってここまで来てみたもののどうしたらいいのか判らないので帰って来るのをひたすら待っていたらしい。夜は寝床に帰って待っていたがやっぱり帰って来なかったので朝からまたここに来たという事だった。

「ソランツェ、十五歳って」
「魔物討伐の依頼を受けられる様になったばかりだな」
「あー……お兄ちゃん、そういうやつ受けるって言ってた?」

 イルムは不安そうな顔でわからないと首を振るが、多分アルミオはそういう類の依頼を受けて街の外へ行った可能性が高そうだ。
 十五歳前に受けられる依頼は一件当たり銅貨一~ニ枚くらいばかりだが、十五歳以降は常設依頼になっているゴブリンなどの駆除で一体倒せば銅貨五枚は稼げる様になるので、もしかしたらそれを受けたんじゃないかとソランツェが言う。

「でも、講習などがある訳ではないから、慣れていないのにろくな準備もせず一人で行って大怪我をしてくる者や中には死んでしまう者もいる」
「!」
「ちょっ、ソランツェ!」

 はっきりと言うソランツェの言葉にショックを受けて再びイルムが泣き出しそうな気配に、子供相手なんだから言葉を選べと目線で抗議するもソランツェは俺から目線を逸らさず首を振る。

「これが現実だ。言葉で取り繕っても現実は変わらない」
「そ、れは……そうだけど……」

 ソランツェに反論なんて出来ず、腕の中でその可能性に震えて静かに泣き出したイルムをただ抱き締める。大丈夫だよなんて軽々しく言えない。



「イルム、よく聞け」

 ソランツェが俺と同じ様にしゃがみ込み、イルムを自分と向かい合わせ目線を合わせて言い聞かせる様に話し出す。

「俺達がお前の兄を探しに行こう。でも、それはお前が一つ覚悟をするなら、だ」
「?」

 イルムは少し首を傾げているが口を挟む事はせず、ソランツェの話をじっと聞いている。俺も黙って聞いているが何を言いたいのかが判ってしまうのが辛い。

「俺達が探して連れて帰って来た兄がであってもそれを受け入れるという覚悟をしろ」
「状態……?」
「怪我無く生きていても大怪我を負っていても、そして、死んでいても、という事だ」



 しばし重い沈黙の後、イルムが小さな声でわかったとソランツェに告げた。俺の目の前で栄養が足りず大きくなれないでいる小さな手がギュッと握られたのを見て、ここでの現実を思い知る。
 地球でだって同じ様な事がなかった訳じゃないけど……目の前の現実じゃなかった。






++++++






 アルミオを探しに行くにあたって情報を得る為にソランツェには冒険者ギルドに行ってもらった。顔が利くソランツェだと融通利きそうだし何か教えてくれるかもしれないから。

 俺も行こうかと思ったがやめて、その間イルムに食べ物を食べさせる。どうしても気になって聞いてみたら、昨日の朝に食べたイルムの手のひらサイズのパンからずっと食べていなかったみたいで……。

 ソランツェと離れる時に、用心のためイルムに気付かれないようにマジックミラー状の結界を張り、その中で屋台で買っておいたパンと水を渡す。
 初めは戸惑って遠慮していたが、イルムに食べて欲しいなと押し付けると、食べ始めてくれた。

「おいしい……パン柔らかい………」
「それは良かった」

 イルムの少しだけ緩む頬になんとも言えない気持ちになってしまって泣きそうだ。
 もっとあれこれいっぱいいっぱい食べさせてあげたいけど、身長一メートルを越えたくらいの体が持つ小さな胃では負担にしかならないのは判るので自制する。

 小さな口で一生懸命食べるイルムを見ているとソランツェがギルドから出てきたので、結界を解き呼び寄せた。そのまま食べていていいよと言ってから少しだけ離れると、イルムに聞こえないように俺達の周りにだけ防音結界を張る。

「何か判った?」
「受付の者が常設依頼の案内をしたのは確かだ。初めはいつもと変わらない街の中での依頼の話をしていたそうだが、本人から聞かれて答えたらしい」
「それで受注したって?」
「いや、常設依頼の場合は殆どが事後報告だ……」

 あー、絶対行ってる、これ。弟を養っていく上で十五歳になったなら、稼ぎのいい方にいこうとするだろうし……。

「武器とか防具とか準備してたとは思えないよな?丸腰?」
「もしかしたら、魔法適性ランクが高かったのかもしれないな」
「あぁ……それで」

 行けると判断したのかもしれない。たとえ適性ランクが高くても、実戦での経験もなしにいきなり行くなんて自殺行為でしかないと思うけど、小さく痩せた弟を抱えた、余裕のない生活では判断も鈍くなってしまっていたんだろう。



「お兄ちゃん、やっぱり街の外に行ってるかもしれない」
「……うん」
「探しに行ってくるから待っててね」
「ありがとう」

 常設依頼を熟すべく街の外に行ったと判断して、探しに行く。どうか無事でありますように。



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