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3章。バフ・マスター、Lv6覚醒

54話。バフ・マスター、神獣に王と認められる

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「アベル団長! これで西での戦いは私たちの勝利ですね!」

 ルーンナイツの少女騎士たちが、黄色い歓声を上げながら殺到してくる。

「あれほど強大なドラゴンゾンビを倒してしまうとは。竜殺しの異名は伊達ではございませんな!」

 森に退避していたブラックナイツのメンバーたちも、騎乗して駆け寄ってきた。

「残念だけど、喜んではいられない。リディアが拉致されたようだ。連れ去られた先は、北の魔物の軍勢だ。すぐに助けに向かう!」

「ええっ! 王女殿下が!?」

 リディアにはバフ・マスターの強化をかけてあるので、どこにいるのか僕にはわかった。

 意識をこらせば、リディアの護衛として付けたルーンナイツの少女騎士たちの反応が消えていた。残念だが、おそらく殺されたのだろう。

 リディアをさらったというアンジェラの言葉を裏付ける事実だった。

「しばらくお待ちください! アベル王太子殿下にお伝えしたきことがあり、参上しました!」

 その時、たくましい六本足の軍馬に乗った騎士がやって来た。その背には伝令であることを示す旗を立てている。

「あれは国王陛下の神馬スレイプニールか?」

 六本足の馬スレイプニールは、騎士の国アーデルハイドの象徴とも言うべき神獣だ。

 スレイプニールは、アーデルハイドを建国した初代王を背にして共に戦った。それ以来、スレイプニールの子孫は、代々の国王に仕えている。
 貴重なスレイプニールを伝令に使うとはよほどのことだろう。

『まずは貴殿を、我が主として認めることを伝えよう』

 スレイプニールが、僕におごそかに語りかけてきた。
 まだ戴冠はずっと先のはずだが、神獣は僕を王として早くも認めてくれたらしい。

「ありがたい! リディアを救うために、一日に千里(約3900km)を駆けるという脚力を貸してもらうぞ」

『望むところ』

「おおっ! もしやすでにリディア王女殿下が、吸血鬼化したバラン殿に拉致されたことをご存知でおいででしたか!?」

 下馬した伝令の言葉に、全員が驚愕した。

「はぁ!? なんと、まさかバラン団長が!」

「本当に裏切り者だったなんて!」

「バラン、見下げ果てた奴」

 剣聖イブも吐き捨てるように告げる。
 
「お伝えしたいことは、それだけではありません。実はバラン殿はリディア王女殿下を拉致する際に、アンジェラ王女のスキルの詳細を大声でしゃべったのです。
 それをたまたま聞いていた者がおり、我らが知るところとなったのです」

「アンジェラのスキルを大声でしゃべった?」

 アンジェラの手下となったバラン団長が、なぜそんなことをしたのだろうか?
 こちらを撹乱する意図か?

「それによると、アンジェラ王女のスキル【不死の支配者(アンデッド・ルーラー)】とは。
 騎士に指定した3体のアンデッドの全ステータスを3倍に引き上げ、弱点属性の耐性も付与するというモノだそうです」

「なるほど……」

 僕はその情報が真実か吟味する。
 アンジェラのスキルが、アンデッドを強化するモノであることは間違いない。

 彼女は自分を守る特別なアンデッドを『騎士』と呼んでいた。
 アンデッドを強化できるなら、強化の内容や、どれくらいの数を対象とできるかが問題になる。

 【不死の暴走(アンデッド・スタンピード)】の時は、リッチ以外に、特別に強いアンデッドはいなかった。

 今の戦いでも、アンジェラは幽霊(レイス)を操っていたが、強化までしていたようには感じられなかった。

 おそらくアンジェラが強化できるアンデッドの数は多くない。
 この事実は、バラン団長がもたらしてくれた情報と一致する。

「バラン団長はフォルガナに寝返ったフリをして、この情報を必死に伝えてくれたのか……?」

「いえ多分、違うと思いますが」

 僕の呟きをティファが否定した。

「私もティファに同意。バランは本物のバカ。何も考えていないだけ」
 
 イブも肩を竦める。
 いや、しかし……

「バラン団長がフォルガナに寝返る動機が無いし……寝返ったとしたら、アンジェラの弱点を漏らすなんて、そんなことをするか?」

「バカだから、常識外れの愚行をおかすだけ。バランのような真正バカを常人の尺度で測ってはいけない」

「はぁっ。不覚にもアンジェラ王女に同情したくなりますね……」

 ティファとイブは、顔を見合わせて頷きあう。

「逆に言えば、この情報の信憑性は高いと思います。バラン団長は、偽情報を流すなどという知恵の回る人ではありませんから。
 おおかたリディア様に対して、手に入れた力を自慢でもするつもりで、しゃべったのでしょう」

「バランは部下にしても組織を崩壊させる猛毒だったということ」

 かつての副団長ふたりから、バラン団長はさんざんに、こき下ろされていた。

「いずれにしても、リディアを拉致した以上、バラン団長は斬らねばならない」

 僕はバラン団長を倒す決意を固めた。かつての上司であろと、容赦するつもりは無かった。
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