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3章。バフ・マスター、Lv6覚醒

46話。【バランSIDE】バラン、アンデッドになる

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 ルーンナイツの小娘どもを率いて、リディア王女が、バランの独房の前までやって来た。
 
「バラン。フォルガナの情報を教えてくれると聞いてやって来たわよ。さっさと教えなさい!」

 リディアは距離をおいてバランに話しかける。
 その顔には、バランに対する嫌悪感が浮かんでいた。

 ハハッ、良いぞ……っ!

 この美しい姫君を自分の奴隷にして好き放題にできると思うと、バランは心が踊った。

 フォルガナの情報を渡す代わりに、減刑を望むと言えば、リディアは必ず乗ってくると、アンジェラ王女に助言された。

 新しき主君アンジェラには感謝しかない。

「それでは、もう少し近くに来ていただけませんか王女殿下。その距離では話がしにくいですな」

「……嫌よ。あなたが大声でしゃべれば良いだけよ。さっ、早くしてちょうだい。
 役に立つ情報を話すなら、お父様にとりなして、刑を軽くしてあげても良いわよ?」

 リディアの顔には、焦りの色が見えた。
 アンジェラの教えてくれた通り、フォルガナと魔物の軍勢に同時に攻め込まれ、窮地に立たされているのだろう。

「これは願ってもなきこと。実はアンジェラ王女が、この度の戦でゴニョゴニョということなのですが」

「はぁ? よく聞き取れなかったわ。アンジェラ王女がなんですって?」

 わざと肝心な箇所の声を落としてやると、リディアはじれったくなったのか、近付いて来た。

 この距離なら……万が一にも逃がすことはない。

「解放」

 バランが呟いたのは、吸血鬼化の引き金となる呪文だ。
 その瞬間、バランの身体に強烈な力がみなぎり、手で鉄格子を紙のように引き裂いた。

 バランはアンジェラ王女から吸血鬼に転生する魔法をかけられていた。それを今、解放したのだ。

「はっ……!?」

 あまりのことにリディアは、あ然とした。
 
「リディア王女殿下!」

 ルーンナイツの小娘どもが、一斉にバランに向けて炎の魔法を撃ち込む。
 だが、それらはバランに何らダメージを与えなかった。

「フハハハハッ! すばらしいっ! これがアンジェラ王女のスキル【不死の支配者(アンデッド・ルーラー)】の力か。
 騎士に指定した3体のアンデッドの全ステータスを3倍に引き上げ、弱点属性の耐性まで与えるという、まさに究極の力!」

 バランは力に酔いしれながら、拳を繰り出す。

 音速を超えた拳から発生した衝撃波が、少女騎士たちを弾き飛ばし、壁に激突させた。
 彼女たちは、気絶して倒れた。

「やはり筋力こそ正義!」

 魔法使いを筋力でなぎ倒した満足感に、バランは浸る。
 筋力を極限まで鍛えれば、倒せない敵などいないのだ。

「あっ、ああ……まさか。牢屋に入れる前に【解呪(ディスペル)】をかけておいたのに……」

 リディアが怯えた目でバランを見た。
 これだ。
 この瞬間を待ち望んでいたのだ。

 【聖女】など、アンジェラ王女のスキルで神聖魔法耐性を得たバランには怖くも何ともない。

 まずは、この俺をコケにしてくれたことをたっぷり後悔させてやろう。
 バランはリディアの首を掴んで、壁に押し付けた。

「ぐぅっ!?」

 かつて妻にしたいと思っていた王女の悲鳴は、耳に心地よく響いた。

「残念だったなリディア。俺はアンジェラ王女よりその力を見出され、あのお方の三騎士のひとりに。吸血鬼に転生したのだ! フハハハッ! やはり優れたお方には、俺の価値がわかるということだな!」

『何を言ってるのよ、このバカ!』

 悦に入ったバランの頭の中に、アンジェラの怒気に満ちた声が響いた。
 【死霊使い(ネクロマンサー)】に使役されるアンデッドは、主と離れていても意思疎通ができるのだ。

『私のスキルの詳細を話してしまうなんて……あり得ないバカ! 何を考えているのよ!?』

「あ、いや、姫様。この小娘に、この俺と御身の偉大さを知らしめてやろうと……」

『誰かに聞かれていたら、どうするの!? まさか私の弱点を。三騎士に指定したアンデッドしか強化できない、秘中の秘とすべき情報を漏らしてしまうなんて……あ、あなた、まさか私に寝返ったと見せかけてアーデルハイドの二重スパイだったとか……いえ、それはないわ。正真正銘のバカなだけね』

「姫様……?」

 何がまずかったのか、バランには理解できなかったが、アンジェラからの評価が急落したことはわかった。

『命令よ。もう二度と、私のスキルについて口外しないで頂戴。それと力を授けるために便宜上、あなたを私の【騎士】に指定しただけよ。
 あなたを騎士にしただなんて、お父様に知られたら……私までバカだと思われてしまうわ!』

「いや、姫様が何をお困りになられているのか、わかりませぬが……まずはリディアを痛めつけ、たっぷりと恐怖と絶望を味あわせてから……」

『余計なことはしないで! フォルガナを勝たせるだけでなく、アベルを私の騎士とするためにリディアを生かしたまま捕らえるのが目的よ。
 時間が無いのだから、私が指示したこと以外は一切しないでちょうだい。いいわね?』

「しかし、それではリディアを俺の奴隷にするというお約束が」

 アベルを騎士にしたいという言葉に、嫉妬を覚えて、バランは食い下がった。

『その娘に絶望を味合わせるのは賛成だけど。せめて逃亡に成功してからにしなさい。物事の優先順位もわからないの? はぁ……もう救いようがないバカね。工作を仕掛ける人間を間違えてしまうなんて、私としたことがっ……』

 心底、呆れたようなアンジェラの声が返って来た。

 とりあえず、バランは気を取り直すことにした。これから、ずっと楽しい復讐タイムが続くのだ。慌てることはない。

「……クハハハッ! お前をここで痛めつけてやろうとしたが、姫様の命令でそれはしないでおいてやろう。後のお楽しみというヤツだ」

「離して!」

 リディアに手錠をはめ、首筋に手刀を撃ち込んで気絶させた。

『それじゃ、そこに転がっているルーンナイツの娘たちの血を吸って、吸血鬼にしなさい。城内で暴れさせて混乱を引き起こすのよ』

「御意」

 バランは先ほどから、若い娘の生き血を啜りたくて、たまらなくなっていた。
 アンジェラの指示は、渡りに船である。

 少女たちの首筋に牙を突き立て、血を飲む。吸血鬼に血を吸われた者は吸血鬼になる。
 やがて、バランに忠実な5人の配下が出来上がった。

『……ふぅん。バフ・マスターで強化された最強の吸血鬼が手に入るかと思ったけど。吸血鬼になった途端、その娘たちのバフが消えてしまったわ。転生したら別人と判定されるようね』
 
 アンジェラが残念そうに呟く。

『アベルなら、そのあたりの対策を考えていたとしても不思議じゃないし。そう簡単にはチェックメイトとはならないようね』
 
「お前たち、行け。城内で暴れてこい」

 バランが命令を与えると、新米吸血鬼たちは、弾かれたように飛び出して行く。
 彼女たちが暴れているすきに逃げるのが、アンジェラの計画だった。

 アンジェラは、やはり頭が切れる。
 この姫君についていくことにして、正解だったとバランはほくそ笑む。

 リディア王女を手中に収めたバランは、二国の戦争の鍵を担う重要人物となったのだ。

 その全能感に気分を良くしながら、バランは外に出た。

 自分がアンジェラにとって、ただの捨て駒であるとは、バランは思いもしていなかった。
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