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3章。バフ・マスター、Lv6覚醒

43話。作戦会議

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「おおっ! やって来てくれたかアベル。我が国の守護神よ」

 僕が城の作戦会議室に入ると、国王陛下が両手を広げて歓迎してくれた。
 円卓が置かれた室内には、王国軍部の主だった顔触れが並んでいる。

「陛下。歴戦の将軍たちの前で、守護神などと言われるのは……」

「何を言うか。先日は、フォルガナの王女の刺客から、見事に我が娘リディアを救ってくれたではないか。
 ブラックナイツをこれまでずっと支えてくれたのも、そなた。
 そなたには何度、窮地を助けられたかわからぬ」

「アベル! 邪魔なバランは牢屋にぶち込んでやったわ! これでブラックナイツも戦力として、まともに機能するわね。
 あなたの役に立ちたくて、がんばったんだから!」

 国王陛下の隣にいたリディアが抱きついて来た。

「お、王女殿下。慎みを持ってくださいっ!」

 ティファがリディアを無理矢理、僕から引き剥がす。
 お馴染みになってきているやり取りだが、ツッコミを入れている余裕もない。

「アベル殿。フォルガナは、婚約祝いの使者であるアンジェラ王女に対して、我々が刃を向けたことを理由に宣戦布告をしてきました。誠に申し訳ない……」

 祝勝会で、アンジェラに掴みかかろうとした武官が頭を下げた。
 彼は相当、肩身の狭い思いをしているようだ。

「戦争の大義名分作りのために、アンジェラ王女はひとりでやって来たのでしょう。フォルガナが最初から、そのつもりであったのなら仕方がないです」

 戦争の大義名分とは必要に応じて、でっち上げるものだ。
 遅かれ早かれ、戦争にはなっていただろう。

「状況は聞いています。すぐに対処せねばなりません。
 まず結論から言いますが、僕はルーンナイツとブラックナイツのみを率いて、東の国境から侵攻してきたフォルガナ軍1万5千と戦います」

「なんと。両騎士団を合わせて千人にも満たない兵力ではないか?」

 国王陛下が目を丸くする。

「フォルガナ軍には、アンジェラ王女がいる可能性があります。彼女ほどの【死霊使い(ネクロマンサー)】に対して、大軍で挑むのは危険です。
 戦死者はすべてアンデッドにされると考えるべきでしょう」

「アンジェラ王女の能力は、個人戦闘ではなく、軍団戦向きですね。数が利とならず、逆にこちらの首を締めることになります」

 ティファが補足してくれる。

「理想は策をもって、少数で敵軍の総大将を討つことです」

「なるほど……では、我が国の兵力の大半は、北から侵攻しつつある3万の魔物の軍勢に向けるべきであるかな?」

 国王陛下の提案に対して、僕は考えを述べた。

「アンジェラ王女の所在が掴めないうちは、それも危険です。彼女は魔物の軍勢の中にいる可能性もあります。
 大軍同士の激突で、死者が大勢出ればアンジェラ王女の思うツボでしょう。【不死者の暴走(アンデッド・スタンピード)】が再び引き起こされます」

「なんとっ……下手をすれば、新たな脅威を生むだけということか」

 国王陛下が頭を抱えた。

「アンジェラ王女について、情報部が調べましたところ……
 彼女はフォルガナ王が、強い魔力を持った子供を作る実験として、捕らえた魔族の娘と交わって作った娘のようです」

 情報武官が立ち上がって告げた。その顔はおぞましさから引きつっている。

「アンジェラ王女の生母は、フォルガナの王宮内になぜか幽閉されており、姿を見た者はいないとか。アンジェラ王女の出自については秘匿されていますが……
 彼女が魔族との混血児というのは、信憑性の高い情報だと思われます」

「あの娘は、半魔族だったの?」

「フォルガナ王は狂っておるな……魔族と子を成すなど」

 リディアが息を呑み、室内がざわめく。
 魔物と人間の混血児を半魔族と呼ぶ。
 半魔族は、邪悪な存在として迫害の対象だった。

「そうか。フォルガナは魔族と手を結んだようだったけど、半魔族のアンジェラが仲立ちをしていたのか」
 
 それで、いろいろな疑問に合点がいった。

 アンジェラが王女でありながら、単独行動でこちらを攻撃してきたのは、半魔族として、国内で疎まれていたからだろう。

 アンデッドを友達と呼ぶのは、人間を信用していないため。
 ティファに対して、アンジェラは自分と似ていると言ったらしい。ティファがハーフエルフであることに共感を覚えたのだろう。

「だとしたら、アンジェラは魔物の軍勢の中にいる可能性が高いな……」

 アンジェラは人間を信用しておらず、フォルガナの者たちもアンジェラを恐れ、忌み嫌っているだろう。

 アンジェラの生い立ちには同情の余地があるが、敵として襲ってくるなら戦うしかない。なにより父上を天に還してやらねば。

「国王陛下、北に軍を派遣しつつも、こちらからは攻撃を仕掛けず様子を見ていただけないでしょうか?
 フォルガナ軍を叩いて、アンジェラ王女がフォルガナ軍にいることがわかったら、北で総攻撃を仕掛けてください。それと……」

 僕は続けて、考えた作戦の全容を説明した。それが終わると、軍の重鎮たちが膝を叩いて賛同を示す。

「おおっ! 素晴らしき作戦です! アベル王太子殿下の作戦を支持します」

「うむ。見事だ。その知略、シグルドに勝るとも劣らん!」

 国王陛下が感嘆の声を上げた。 
 作戦会議が長引かないのはありがたかった。
 
 兵は神速を尊ぶ。すぐに行動を開始しなければ、王国は甚大な被害を受けてしまうだろう。

「それでは出陣します!」

 僕は作戦会議室を後にしようとした。
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