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2章。バフ・マスター、Lv5覚醒

23話。【バランSIDE】バラン団長、バフ・マスターに忠誠を誓わせられる

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「アベルに忠誠を誓えだと!?」

 バランは国王の言葉に愕然とした。

「アベル・ベオルブ伯爵をワシの後継者。次期国王とする。異議がある者は、この場にて申し出でよ!」

 無論、国王の決定に、異論を述べることができる者などいない。
 ひざまずいて、頭を垂れるのみだ。

「我らに異議はございません! 魔法王国フォルガナの脅威が高まっている現在、最良の選択かと存じます!」

「誠に、ご英断でございます!」

 宰相ら国の重鎮たちが、大声で賛意を表する。
 他の貴族たちも、次々に支持を表明した。

「それではアベルよ。みなに言葉を」

「はっ!」

 アベルが国王の隣に立つ。

「アベル・ベオルブ伯爵です。この度、ルーンナイツ、ブラックナイツの力を借りて、アンデッドの討伐に成功し、リディア王女殿下の婚約者となる栄誉を得ました。
 僕のスキル『バフ・マスター』は、3000人の全ステータスを10倍にアップさせる力です。
 この力で王女殿下と、この国を守って行く所存でありますので、どうか御指導ごべんたつのほどよろしくお願い致します」

 アベルが頭を下げると、万雷の拍手が鳴り響いた。

「アーデルハイドの軍神アベル様、ばんざい!」

「我らが王太子殿下!」

 会場内で拍手をしていないのは、バランくらいなものだった。
 そんなバランに、周囲が不審の目を向けてくる。

「バラン殿……?」
 
 国王の決定に賛同を示さないなど、家臣として有り得ないことだ。
 仕方なく、手を叩いているフリをする。
 それだけでも、身を焼くような屈辱だった。

「では、ひとりずつ前に出て、我が息子に忠誠を誓うが良い」

「はっ!」

 貴族たちが先を争って、アベルの前に出て平伏する。
 次期国王に、真っ先に忠誠を見せることで、覚えを良くしようという目論見だ。

「次期国王陛下に、忠誠を捧げます!」

「アベル王太子殿下! 私はあなた様の手足となって働くことを誓います!」

「うむうむ!」

 国王が満足そうに頷いている。

「どうかみなさん、未熟な僕を導いてください。いえ、冗談とかではなく……」

 アベルが緊張した面持ちで、貴族たちと握手を交していた。
 落ちこぼれが、すっかり次期国王気取りのようだ。

「バラン? あなたもアベルに忠誠を誓いなさい」

 リディア王女が一向に動こうとしないバランに声をかけてきた。
 会場の注目がバランに向けられる。

「バラン・オースティン殿は、なぜ動こうとしないのだ……?」

「まさか、国王陛下に叛意がお有りなのか?」

 このままでは立場が悪くなる。
 刺客を放ち、どうせアベルの命は今夜限りなのだ。
 バランは意を決して、アベルの前に進み出てた。

「……アベル王太子殿下に忠誠を誓います!」

 ヤケクソで叫んで返事も聞かぬまま、踵を返した。
 本来は王太子に対して、忠誠の証として剣を捧げねはならなかったが、頭を軽く下げるだけにした。

「あっ、バラン団長。どちらへ?」

「バラン! 我が夫に対して無礼ですよ!」

 アベルが困惑し、リディア王女の叱責が飛ぶ。

「ブラックナイツの団長たるお方が、王太子殿下に剣を捧げない?」

 貴族たちからも訝しむ声が上がった。

「軍務に関わる急用ができました故に、失礼いたす!」

 バランは聞く耳を持たずに、その場を後にした。
 これ以上、この場にいるなど我慢がならなかった。
 
 この態度が、後日バランをさらなる窮地に追い込むことになるとは、彼はこの時、思いもしていなかった。
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