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2章。バフ・マスター、Lv5覚醒

20話。バフ・マスター、最強の剣技を継承する

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 僕の屋敷内にある剣の道場に、ティファとリディアと一緒に入った。

 ティファが円形の巨大水晶に手を触れて、起動コマンドとなる呪文を唱える。
 すると水晶に、剣を振るう父上の姿が映し出された。

 これは映像を記録し、再生する魔法だ。

「アベルよ。よく見ておくが良い」

 今は亡き父上が、鋭い呼気と共に上段斬りを放つ。

 空間さえ切り裂くようなすさまじい剣速に、僕は息を飲んだ。基本的な技だというのに、その迫力に圧倒される。

「これが大陸最強と謳われた父上の剣か!」

 僕は剣聖イブから剣の腕を褒められたが、あれは8000オーバーの筋力と、5000オーバーの敏捷性に物を言わせた力技だ。

 これからリディアを守っていくには、ちゃんとした剣術を身に着けなくてならない。

「はい。まずは見ようみまねで良いですから、シグルド様の動きを再現してみてください。
 おかしなところがありましたら、私がそのつど指摘します」

「アベル、がんばってね!」

 リディアから声援が飛ぶ。

 剣を握った僕は、繰り返し繰り返し、上段斬りを放った。
 水晶に映る映像を見ながら、なるべく父上の動きと同じになるように意識する。

 熱を持った身体から湯気が立ち上り、大粒の汗が床を濡らす。

 今までバフ・マスターの力を使うと行動が制限されて剣が振れなかったが、スキルが進化してその制限がなくなった。

 スキルを使いつつ、剣術の修行ができることは素直に嬉しかった。

「アベル様、ちょっと違います。もっと脇を締めて、顎を引いてください。全身の力を剣先に伝える感覚を意識なさってください」

 ティファが僕の動作におかしいところを発見すると、指摘してくれる。

 彼女は実際に自分でも剣を振るったり、僕の腕を取って動かしたりして、具体的に教えてくれた。

 ティファは父上の弟子なだけあって、教え方が上手だった。

 最強の師匠と最高のコーチ。究極とも言える訓練環境だった。

「少し休憩されなくても大丈夫ですか? かれこれ、2時間近く素振りをされてますが……?」

 時が経つのも忘れて没頭していると、ティファが休憩を勧めてきた。

「うん? そういえば、意外と疲れていないな……」

「体力の能力値が、5543になったって聞いたけど、そのおかけじゃないかしら? スゴイ体力ね!」

 おおよそ2000回近く素振りをしたが、息が乱れていなかった。
 1.5キロの重量の剣が、羽根のように軽く感じる。
 まだまだ、いけそうだ。

「僕は他人よりずっと遅れているからな。今日は最低でも5000回は、素振りをしたいと思う!」

「ご立派ですが、根を詰めすぎるのは良くありません。休息も修行には必要です。いったん休憩にしましょう」

「そうか……」

 僕は手を止めて剣を収める。
 過酷なだけの訓練に意味は無いが、ティファの持論だった。

「お疲れ様です。汗をお拭きしますね」

 ティファがタオルで、僕の頭をごしごし拭いてくれる。
 これは気持ち良いな。

「アベル! はい、これ。疲労回復効果のあるポーション(回復薬)よ」
 
 リディアがポーションの瓶を取り出して、僕に渡してくれた。

 口に含むと、甘さの中に絶妙な酸味が効いていた。しかも氷の魔法を使ったのか、冷えていて、火照った身体に心地よい。

「あなたのために、はちみつと潰したイチゴを入れて、飲みやすくしたの。どう、おいしい?」

「す、すげぇー、うまいよっ!」

「よかった! まだまだ、たくさんあるから、どんどん飲んでね」

 リディアが鞄から次の瓶を取り出してくれる。どうやら僕のために、たくさんポーションを用意してくれていたらしい。

 その心遣いにジーンと来た。

「だいぶ疲れたみたいだから、膝枕してあげるね? さっ、横になって」

 リディアが床に女の子座りすると、僕を手招きした。

 ……はあ!?

 僕の目は、彼女のスカートからはみ出た眩しすぎる太ももに釘付けになる。

「ぶっ! いや、それはちょっと……」

「王女殿下、は、はしたないですよ!」

「はしたないって何が? アベルを癒やしてあげるだけよ? ほら、ヒーリングマッサージもしてあげるから。早く来て」

 リディアはキョトンとしている。
 その手には、回復魔法の優しい輝きが宿っていた。

 回復魔法をかけながら、マッサージしてくれるようだ。
 疲れた身体には抜群に効くだろうが……

「えっと、僕の身体。汗でビッショリなんだけど……?」

「いいから、いいから」

 リディアはまったく気にした様子がない。

 ええい。もう、どうにでもなれ。
 僕はリディアに近づくと、意を決して頭を彼女の膝の上に乗せた。

 心地よい弾力とぬくもりが伝わってくる。
少女の息づかいを間近で感じて、心臓がバクバクした。

「それじゃ、酷使した肩と腕を重点的にマッサージしてあげるね」

 リディアが僕の肩を揉みほぐす。
 負荷のかかった筋肉が癒やされ、疲労が芯から抜けていく。

「どう? 気持ちイイ? 元気が出てくるでしょう?」

「げ、元気が出過ぎでヤバイ……」

「お、王女殿下! 私も多少は回復魔法の心得があります。アベル様の膝枕とマッサージは、私が代わりに行います!」

 ティファがなぜか慌てまくっている。

「はぁ? アベルを癒すのは婚約者である私の務めよ」

「いいえ! アベル様の体調管理は、副団長である私の仕事です!」

 ティファは僕の頭を無理矢理つかむと、自分の膝の上に乗せた。

 うげっ。痛い。
 だけど、ティファの膝枕も心地良いな。

「ちょっとティファ! アベルが嫌がっているでしょ? 回復魔法なら聖女の私が誰よりも得意なんだから、任せておいてよ」

 今度はリディアが、僕の頭をティファから強引に引き剥がして、自分の膝の上に置いた。

「いや、ちょっと痛いんだけど」

「王女殿下にこのようなことをさせる訳には参りません。それに、はしたないですよ!」

 さらにティファが、僕を自分の元に奪い返す。

 うげっ。

「はしたないって言うなら、あなたも同じでしょ!?」

「私はアベル様と一緒に育った仲です。いわば家族なのですから、はしたなくありません!」

「家族って言うなら、私は婚約者よ!」

「つまり、まだ結婚してないということでは、ありませんか!?」

 ふたりの美少女は、僕を奪い合いながら口論している。

「おい。これじゃ休憩にならないだろ! いい加減にしてくれ」

「それじゃ、アベル。どちらに膝枕して欲しいか選んでちょうだい。当然、私よね!?」

「い、いいえ。私ですよね。アベル様!?」

 リディアもティファもムキになっているようだ。
 僕は全身から冷や汗が吹き出すのを感じた。

 これはどちらを選んでも、ロクなことにならなそうな予感がする。

「いや、リディアとティファのお陰で、もうすっかり元気になったな!」

 僕は飛び上がって、剣の素振りを強引に再開した。

「ノルマ5000回を目指して、がんばるか!」

 ワザとらしい僕の態度に、ふたりの美少女がジト目を向けて来る。
 とにかく誤魔化すべく、剣を振り続けた。

 まったく、このふたりはどうしてしまったのだか……

 修行を終えた僕は、風呂に入ってさっぱりした。

 そして正装に着替えて、ふたりと共に王城で開かれる祝勝会へと向かった。
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