パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん

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1章。バフ・マスター、Lv4覚醒

9話。【団長SIDE】バラン団長、手柄を上げようとアンデッドの軍団に突っ込み返り討ちにされる

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 街道を1000人ほどの騎馬の一団が駆け抜けていた。
 バランに率いられたブラックナイツだ。

 王国には整備された石畳の街道が敷かれており、いかなる場所にもすぐに騎士団を派遣できるようになっていた。

 騎士の国として勇名を馳せてきたアーデルハイド王国の強みである。

「……本気で【不死者の暴走(アンデッド・スタンピード)】に突っ込むつもり?」

 バランと併走する剣聖の美少女イブが眉根を寄せる。

「突撃で敵に大打撃を与える! しかる後に離脱して、もう一撃だ! 敵は知能のないアンデッド。これであらかた片付くハズだ」

 バランは焦っていた。
 報告では【不死者の暴走(アンデッド・スタンピード)】の中核にいるのは、元ブラックナイツの騎士たちだという。

 死んだ後まで、俺の顔に泥を塗りおってクズどもめ!
 
 いち早く【不死者の暴走(アンデッド・スタンピード)】を討伐し、なんとしても汚名を返上しなくてはならなかった。
 そのため、他の兵団と協調せずに出撃した。

「……アンデッド対策は練ってある? この騎士団のアンデッドとの戦闘経験は、どれくらい?」

「なに心配はいらぬ。ブラックナイツは最強。物理耐性などあろうがなかろうが、叩き潰すのみよ!」

 ここ数年、アンデッドの大群が湧いたことなど無かったので、奴らとの戦闘経験は、ほぼない。

 アンデッド対策など、何をすれば良いのか見当もつかなかった。

 だが、バランはそれを正直に言うつもりはない。
 言っても士気が下がるだけだ。

「団長! アンデッドの軍団が、この先の街道にいます。どうやら近くの村に向っているようです!」

 偵察に出していた騎士が、向かいからやってきて叫んだ。

「好機だ! 街道におるなら、騎馬突撃の恰好のマトだ!」

 どうやらツキが向いて来たらしい。
 森やぬかるみなど、地形によっては騎兵の力を最大限活かせない場合がある。

 しばらくすると、瘴気を撒き散らすおぞましい死人の群れが、行く手に現れた。

「全軍、突撃! 蹂躪せよ!」

 勇気を奮い立たせて、騎士たちがアンデッド軍団に突っ込んで行く。

 スケルトンが、騎士剣の一撃に吹き飛んだ。ゾンビが槍に突き倒され、軍馬に踏まれて粉砕されていく。

「ワッハッハ! もろい! しょせんは、この程度か!」

 バランが勝利を確信した時、あちこちで悲鳴が上がった。

「なに!?」

 馬が急に足をもつれさせて、前のめりに倒れる。
 落馬したバランは、地面が紫色の毒沼に変わっているのに気づいた。
 泥に濡れた全身に痺れが走る。

「な、なんだこれは!?」
 
「これは暗黒魔法【毒沼(ポイズン)】……!」

 剣聖イブが、馬から華麗に飛び降りながら告げる。
 沼地では騎兵最大の長所である機動力が活かせない。イブは馬を捨てた方が良いと判断したようだ。

「地形を変えてしまう魔法だと!? そんなモノが有り得るのか!?」

「ここまで広範囲というのは私も信じられない」

「ぐぅっ、おのれ! 姑息なフォルガナの魔法使いごときが!?」

 アンデッドたちが、足の止まったブラックナイツに群がってきた。
 気づけば5000ものアンデッド軍団に包囲される形になっていた。
 
「わざと騎兵突撃がしやすい地形で待ち伏せて。私たちが入ってきたら、魔法で地面を毒沼に変えて、包囲殲滅」

 イブが目にも止まらぬ早さで剣を振るい、近づいてきたゾンビを細切れにする。

「これは、とんでもない死地。ゾクゾクする……!」

 イブはこのような窮地に、なぜか微笑した。

「お、おのれ! 離脱せよ!」

 たまらずに、バランは退却を命じる。
 このままでは全滅だ。

 毒のせいで身体が痺れて、満足に剣が振れなくなっている。
 逆に生物ではないアンデッドに毒は通用しない。こちらだけが、圧倒的に不利な状況だ。

 バランが逃げようとすると、背後から矢を射掛けられる。

「がぁ!?」

 敵は味方に矢が当たることなど意にも留めずに、乱射してくる。
 見れば戦死した元ブラックナイツの団員たちだった。
 バランは肩に矢を受けて、うめいた。
 
「私が殿(しんがり)をつとめる。離脱を急いで」

 イブがスケルトンどもをバラバラに斬り刻みながら告げる。

「さ、さすがは剣聖様だ!」

 彼女の奮戦に励まされて、ブラックナイツから希望の声が上がった。
 この足場の悪い毒沼で、これだけ動けるとは、剣聖の名は伊達ではないようだ。

 だが、群がってくるアンデッドの数はすさまじく、離脱しようにも突破できない。
 首をはねようと、胸を貫らぬこうと、敵は怯むことなく反撃してくる。

「ひぐぁあっ!? お、お前、何を!?」

「ロイド、やめろぉ!」

 混乱と恐怖の叫びが、あちこちで上がった。
 敵に殺された騎士が起き上がり、新たなアンデッドと化して、ブラックナイツに襲いかかってきた。

 かつての仲間を攻撃することをためらった騎士が、凶刃に倒れる。その騎士も、毒の沼地に突っ伏したと同時に、魔物と化して起き上がった。

「ひゃあああっ!?」

 ついに恐怖に屈したのか、半狂乱になって泣き叫びながら剣を振るう者が現れた。
 士気が保てず、軍が総崩れになっていく。

「くそぉ! 団長がアベルを追放なんてするからだ! 最強だった俺たちが、なんでこんな目に!?」

「こ、こいつら、いくら斬っても死なない!? せめてティファ副団長がいてくれたら……!」

「団長、このままでは全滅です!」

「わかっておる!」

 バランが怒鳴る。
 だが、対処しようにもどうにもならなかった。
 かくなる上は……

「貴様ら、血路を開け! この俺を逃がすのだ!」

「だ、団長!?」

「貴様らの代わりはいくらでもおる! だが、この俺の代わりはおらん! 衛生兵、俺にありったけの回復薬をかけろ!」

 肩の痛みが深刻だ。まずは治療をせねば。

「イブ! こっちに来い! 俺を守れ! 俺を逃がすのだ!」

「正気? 指揮官が部下を捨てて逃げる?」

 後方で敵を引きつけていたイブが、不快そうな声を発した。

「団長! ひとりだけ助かろうって……! あんた、それでも騎士かよ!?」

「必死について来た俺たちを見捨てる気ですか!?」

「黙れ! 俺が死ぬということが、王国にとってどれだけの損失かわからんか!?」

 その時、突如、大歓声が鳴り響いた。

「全軍、攻撃開始! ブラックナイツを救援せよ!」

 戦場に轟く号令。
 聞き覚えのあるこの声は……ま、まさかアベルか?
 
 驚いたことに落ちこぼれとバカにしていたアベルが、新設のルーンナイツを率いて、援軍に現れたのだ。

 炎の魔法が一斉に飛び、アンデッドどもが火だるまとなって崩れる。包囲の一角が破れ、退路ができた。
 
「あれは神剣グラム! シグルド様が、我らが真の主が参られたぞ!」

 古参の騎士が何をトチ狂ったか、感激の声を上げた。
 こともあろうに神剣グラムを掲げたアベルを、英雄シグルドと見間違えたようだ。

「おおっ! た、助かった! 王女近衛騎士団ルーンナイツ、ばんざい!」

 ブラックナイツの騎士たちから、喜びの声が上がる。

 それはバランにとって、腸が煮えくり返るほどの屈辱だった。
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