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1章。バフ・マスター、Lv4覚醒

3話。バフ・マスター、王女から神剣を授かり近衛騎士団長に抜擢される

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「アベル、王家に伝わる神剣グラムを授けるわ。この剣で、私を守ってね?」
 
 リディア王女の私室に通された僕は、彼女から剣を渡された。

「姫、お待ちを。これは剣術大会の優勝者のバラン団長に授与される剣では……?」

「アベルは竜殺しの英雄なんだから、バランなんかより、この剣を持つのに相応しいの!
 それから、ふたりっきりの時は、敬語は無しにしてよね」

 ぷうっと、頬を膨らませてリディアが言う。
 まるで子供の頃に戻ったようだ。

「……嫌なの?」

「わかった、わかった。敬語はなしね」

「わかったのなら良し」
 
 リディアは昔から変わっていない。
 僕が勝手に、彼女と付き合う資格がないと、壁を作っていただけのようだ。

 リディアから渡された剣を鞘から抜く。
 鏡のように磨き込まれた刀身には一点の曇りもなく、魔性の美しさを宿していた。

 これは、かつて王国最強の騎士だった父上が使っていた剣だ。
 これを手に持つ日が来るとは、夢にも思っていなかった。

「実は今回のあのドラゴンの出現は、敵国の刺客の仕業であることが、わかっているの」

 リディアが声をひそめて告げる。極秘にしたい話のようだ。
 彼女から手招きされて、耳を寄せる。

「あの場に、魔力を増幅させるクリスタルが落ちていたわ。クリスタルの力を使ってドラゴンを召喚、使役したようだけど……
 そのクリスタルには、魔法王国フォルガナの紋章が刻まれていたの」

「フォルガナの刺客が、リディアを狙ったってこと?」

「あの国との国境付近で、ミスリル鉱山が見つかって……今、その所有権で揉めているのよ。
 刺客を放って、こちらを挑発し、戦争を起こすのが狙いだってお父様は考えているわ」

 フォルガナは魔法の研究と教育に力を入れて、最近、勢力を伸ばしている隣国だ。

「……王女が暗殺などされたら、戦争にならざるを得ないね」

「さすがアベルね。そう。あいつらが、あからさまな証拠を残しているのは、そのためよ」
 
 リディアが腕組みをする。気丈に振る舞っているが、命を狙われて不安を感じているのがわかった。

「お父様は、フォルガナと戦えば、我がアーデルハイド王国に勝ち目はないと、おっしゃっているわ。
 最新の魔法技術を持つあの国と、未だに騎士による突撃戦法に頼っている我が国とでは、軍事力に大きな開きがあると……」

「それは、わかる……」

 ブラックナイツに魔法使いの部隊はおらず、物理攻撃に特化した集団だった。

 『剣にてすべてを粉砕する!』が、バラン団長が信仰する騎士の正しい在り方なのだから仕方がない。
 そして、これがアーデルハイド王国の軍部全体に染み付いた伝統だった。

 それが、だんだん通用しなくなってきているのは感じていた。

「だから、こちらも魔法戦闘に対応できる魔法騎士団を新設するつもりなの。私の近衛という名目でね。
 アベルには、その団長になってもらいたいの。ねっ? いいでしょ?」

「……僕が騎士団長に?」

 一兵卒からの大抜擢に、僕は声を失った。

「もう誰にもアベルを落ちこぼれなんて言わせないわ。私を守ってくれた英雄なんだもん!」

 リディアが感極まったように僕の手を握る。心臓がドキッと跳ねた。

「名前は王女近衛騎士団ルーンナイツよ!」

 これが、やがて伝説となる史上最強の騎士団が誕生した瞬間になるとは、この時、僕は思いもしていなかった。
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