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4章。傾国の大魔族ジゼルとの決戦

43話。過去の悪行は全て王国のためであったことが知れ渡り、国王と重臣たちから大絶賛される

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「はっ……!」

 俺は国王陛下に頭を垂れる。
 これでセリカから同じベッドで寝るなんてことを強要されることは無いハズだ。とりあえず、危機はしのげたし、良しとするか……

「ではヴァイスは、今はまだセリカの婚約者とする。もし、ヴァイスを【栄光なる決闘】グロリアス・デュエルで破る男が現れたら、その者がセリカの婚約者だ。アルバンも良いな」
「はっ……!」

 国王陛下から言われて、父上も首を縦に振った。

「考えてみればヴァイスを破る男など、それこそ、我ら【栄光なる騎士】グロリアスナイツの誰かでもなければあり得ません。ワシにも異論はございません」
「お待ちださい陛下!」

 その時、謁見の間の扉が開いて、大柄な男が飛び込んできた。

「我が息子レオナルドを差し置いて、ヴァイス殿を王女殿下の結婚相手にお選びになったとお聞きしましたが、誠でありますか!?」

 それはレオナルドの父親、【栄光なる騎士】グロリアスナイツの1人であるリーベルト公爵家当主、エドワード殿だった。

「2日後に、レオナルドとヴァイス殿の【栄光なる決闘】グロリアス・デュエルが迫っております。その結果を待たずして、なんという暴挙!? とても容認できませんぞ!」

 リーベルト公爵は居並ぶ貴族たちの前で、俺を敵愾心剥き出して睨みつけた。

「なにより、ヴァイス殿は、グロリアス騎士学園始まって以来の問題児。婦女子の──よりにもよって王女殿下のスカートをめくるなどのハレンチ極まりない行為を繰り返していたとか!? とても王家に迎え入れられるに相応しい人物とは申せません! 不敬罪で投獄しても良いくらいの輩ですぞ!」
「す、スカートめくりですと!?」

 厳格な貴族たちが、顔をしかめた。
 うぉ、大勢の前で、クズヴァイスの蛮行を暴露されるとは、穴があったら入りたくなるな。

「ちょっ!? リーベルト公爵様、ヴァイス君は心を入れ替えたのよ! もうスカートめくりなんてしていないわ……ッ!」

 セリカが慌てて反論するが、後半、わずかに言葉を濁した。風魔法の奥義の修行で、それはセリカ相手に思い切りやってしまっているんだよな。
 俺はリーベルト公爵に告げる。

「リーベルト公爵様。セリカ王女との結婚については、俺から辞退しました。王女殿下の婚約者の座を賭けたレオナルド先輩との【栄光なる決闘】グロリアス・デュエルは望むところです」
「なにぃいいッ!?」

 俺の言葉があまりに意外だったのか、リーベルト公爵は目を白黒させた。

「ま、まさか、レオナルドに決闘で勝つ自信があるというのか!? お、おのれ、魔族に数回勝った程度で、驕るなよシルフィードの小倅めが!」
「リーベルト公爵様! いくらなんでもヴァイス君に対して失礼です! 彼は今や、紛れもなく王国の英雄なのよ!」

 セリカが憤然として、リーベルト公爵に喰ってかかった。
 王国の英雄とか言われると、それはそれで小っ恥ずかしい。

「その通りだエドワード。くくくっ、ワシの息子ヴァイスは、国王陛下もお認めになった真の強者。いかに過去の悪行を持ち出して、名誉を傷つけようとしても無駄であるぞ。貴様の息子よりも、ヴァイスの方が格段に優れているのだ」

 すっかり優越感に浸った父上が鼻で笑った。
 父上とリーベルト公爵は、かつて同級生としてグロリアス騎士学園で切磋琢磨したライバル同士で、犬猿の仲だった。

 『雷は風を貫く』という性質がある。雷属性は風属性に対して優位なのだ。
 風使いの父上は、雷使いのリーベルト公爵に魔法属性的に不利で、子供の頃からさんざん負けて、見下されてきたらしい。

「アルバン! き、貴様ぁああ! 調子に乗るなよ! こたびの手柄は、貴様の息子だけのモノではない。フィアナ嬢らの力添えあってのことであろうが!?」
「おおっ、そうであったな。ワシとワシの娘、エレナもヴァイスの作戦立案の元、魔族討伐に大きく貢献したことを忘れておった」

 父上は鬼の首を取ったかのように、笑った。
 王妃に踊らされかけたことは、父上の中では無かったことになっているらしい。まったく調子の良いことだ。

「お、おのれぇえええッ! 風使いごときが、この私を愚弄する気か!? たまたま運良く王妃様の罪を暴けただけであろうが!?」

 リーベルト公爵は悔しそうに歯軋りをする。
 これはマズイ。

 父上の指導で習得した【空気抵抗ゼロ】ゼロ・レジスタントのおかげで勝利できたのだから、感謝しているが……
 息子をくだらないマウント合戦のダシに使うのは、やめて欲しい。見てるこっちが恥ずかしいぞ。

「父上、どうかそのあたりで……! 【栄光なる騎士】グロリアスナイツ同士が不和など、大魔族ジゼルに付け込まれる隙を与えかねません」

 俺は父上をたしなめたが、触発されたセリカとフィアナがヒートアップしだした。

「そうよ! 勝利の立役者は、間違いなくヴァイス君だわ! そうでしょ、フィアナ!?」
「その通りですわ。いくらなんでも、無礼が過ぎましてよリーベルト公爵。ご存知無いようですが、ヴァイスさんのこれまでの悪行は、すべて王妃様を独自に調査していることを悟られないようにするためのカモフラージュ。その地道な努力のおかげで、王国の平和が保たれたのです。それを指摘して、ヴァイスさんの名誉を傷つけようなどとは、噴飯ものですわ!」

 フィアナがリーベルト公爵に指を突きつけて、喝破した。

「な、なにぃいい!? バカな、そんなことが!」
「たまたま運良く手柄を上げられたなんて、大間違い! すべては、ヴァイス君の自己犠牲的な崇高な行動のおかげなのよ!」
「おっ、おぉおおおおッ!」

 二人の少女の主張に、貴族たちは深く感動したようにどよめく。
 それはセリカの勘違いなんで、あまり広めないでもらいたいんだが。いたたまれない。

「さすがはヴァイス殿だ! まさに知勇兼備の英雄でありますな!」
「私は感服いたしましたぞ!」
「とても学生とは思えません! いや、見事と言う他にありません!」
「ヴァイス殿、バンザイ!」
「まさに、王女殿下を娶るのにふさわしいお方ですな!」

 リーベルト公爵は愕然とし、貴族たちからは賞賛の声が上がった。

「ふふっ、それを知った時、余は久々に身体が芯から震えた。真の強者とは、時に汚名を被っても偉業を成す者。ヴァイスの偉大さが、多少は理解できたか、エドワードよ?」

 国王陛下がニヤリと笑った。
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