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3章。黒幕の王妃との対決
38話。大逆転。王妃の罪を暴く
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【セリカ視点】
「【剣聖】の私から命とも言うべき剣を取り上げるとは、どういうおつもりですか!? 私はセリカ様の護衛を国王陛下から仰せつかっているエレナ・シルフィードですよ!」
後宮の門前で、エレナが女官と押し問答を繰り広げていた。
「なりません。後宮には、武器の持ち込みは一切禁止でございます」
はぁ、さっきから、この一点張りだわ。
ヴァイス君の言った通り、何が何でもエレナから武器を取り上げようとしているわね。
エレナは剣を抱きかかえて、必死に抵抗する。
ふふん。これならエレナが実は、目に見えない【不可視の剣】を、背中に隠し持っているなんて、思われないわよね。
私も手荷物カバンの中に、護身用の【不可視の短剣】を忍ばせていた。
これはヴァイス君が、ギルベルト君に頼んで用意してもらったモノだけど……荷物検査で全く気づかれなかったわ。
こんな特殊な武器なんて、想定外でしょうね。
「エレナ殿、いい加減になさい。私の管理する後宮にセリカを襲うような不届き者がいるハズも無いでしょう? もし、どうしても剣を渡さないと言うのであれば、あなたの入場は許可いたしません」
「王妃様、それは……! わかりました。誠に無念ではありますが、セリカ様の護衛ができなくなっては本末転倒。従います」
苛立ったイザベラ王妃に詰め寄られて、エレナはやむを得ず剣を差し出した。
すごいわ、迫真の演技よエレナ。
エレナは、さらに危険物を所持していないかボディチェックを受けた。さすがに入念で、女官ら数人がかりよ。
でもエレナは音も無く【不可視の剣】を地面に落とし、うまく身体検査を躱していた。
「どうやら、隠し武器を持ってはいないようです」
「そうですか。では、エレナ殿の入場を許可します」
「……ありがとうございます」
王妃はほくそ笑んでいるけど、これで武器の持ち込みはクリアね。
エレナは足の爪先を器用に使って、不可視の剣】を拾い上げた。
ボディチェック後の気の緩みもあって、暗がりでのエレナの挙動を怪しむ者はいなかったわ。
思わず、エレナとハイタッチしたい気分に駆られるけど、我慢、我慢。
澄まし顔で、私はやり過ごした。
次の日の朝、王妃から夕食に招かれたわ。
「……やはり、ヴァイス兄様の予想された通り、今夜、仕掛けてくるつもりでしょうか?」
私はエレナと小声で相談する。
この部屋は、盗聴される危険があるから、大事なやり取りは小声でしなければいけないのよね。
「これはいわば歓迎会。料理に一切口をつけないなんてあり得ないから、100%毒を盛ってくるわよ!」
私の身に怒りが漲る。そうやって昔、王妃は私のお母様を殺したのよ。
対策として、【毒耐性】スキルを獲得しておいたけど、これだけでは心もとないわ。
「では、ヴァイス兄様の指示通り、脱出経路を確認しておきましょう」
「そうね、二人で後宮を探検しましょう。私もここには、ほとんど来たことがないから」
エレナと二人で後宮を歩き回って、晩餐会場から抜け道のある場所へのルートを頭に叩き込んでおく。
抜け道は中庭にある古井戸の中だと、ヴァイス君から教えられたけど……多分、アレね。
「これはこれは、セリカ王女殿下、お初に御意を得ます」
女官やお父様の側室たちは、私を見かけると、礼儀正しくあいさつをしてきた。
彼女たちの作法は完璧で気品があり、8歳まで市井で暮らしていた私にとっては、正直、肩が凝るわ。
「……どうぞ、よろしく」
愛想笑いをしながら頭を下げると、怪訝な顔をされた。
立ちふるまいが、あまり王女らしくないと思われているんでしょうけど、こればかりは仕方がないわ。
お父様は私を、魔族と戦えるような強い娘に育てることにした。
それ故に、礼儀作法の習得よりも、魔法や護身術の体得に、私の教育時間は割かれた。
「わたくしはセリカさんに宿題のプリントを届けに参りましたのよ! なぜ、後宮に入ることができませんの!?」
「フィアナ様! 恐れながら、王女殿下にお渡しするモノがございましたら、私どもがお預かりします」
「ダメですわ。ちゃんとセリカさんに宿題が渡ったかどうか、生徒会長として、わたくしには確認する義務があります。王女殿下が宿題を怠ったなどとなれば、王家の恥ですわ! いいから通しなさい! あなた責任が取れるんですの!?」
門の近くを通ると、フィアナの大声が聞こえてきた。
「ぶはっ。かなり強引な理由をつけて、後宮に入ろうとしているわね」
思わず笑ってしまった。
「はい、フィアナ様も兄様のご指示通りに動いてくださっていますね。心強いです」
「そうね。なんだか、いつも通りっていう感じで、正直とてもありがたいわ」
フィアナは合図と同時に、すぐに後宮に踏み込めるように、やってきてくれていた。
ヴァイス君も秘密の抜け道を使って、内部への侵入を試みてくれているハズよ。
これから、私は人生最大の敵と対決することになる。
だけど、1人じゃないのだと思うと。私を愛する人が、私を守ろうとしてくれているのだと思うと、足の震えが収まった。
「セリカ様、ご安心ください。何があろうとも、セリカ様は私がお守りします。そうヴァイス兄様とお約束してきましたから」
「ありがとう。うん、頼んだわよ、エレナ」
そして、とうとう歓迎会の時間となった。
食卓を囲むのは、私とエレナと王妃の3人だけよ。
さすがに緊張で嫌な汗が浮かび、心臓がバクバクする。思わず、会場の入り口でつまずいて転びそうになってしまった。
部屋の窓は締め切られて、心なしか空気か淀んでいる気がする。
まるで、強大な魔物の巣に迷い込んでしまったかのような心境だわ。
「ふふ、だいぶ、緊張しているようね、セリカ。まさかとは思うけど、あなたのお母様を毒殺したのは、私であるなどという噂を真に受けていたりはしないわよね?」
「えっ……?」
い、いきなりのドストレートな質問ね。
微笑む王妃が、獲物に喰らいつく毒蛇のように見えてしまう。
私のお母様は、側室として正式に後宮に召し出された日の歓迎パーティで、毒を盛られて殺されたのよ。
そう……ちょうど今夜と同じ状況ね。
「そんなことは。根も葉もない中傷だと思っています」
私は動揺しつつも、なんとか王妃の対面に着席した。
「無理をしなくても良いのよ。私が怖いって、顔に書いてあるわ。そんな誤解を解きたくて、この場を用意したのよ」
給仕の女官たちによって、湯気が立つ豪勢な料理が運ばれてくる。
だけど、私はまったく食欲を感じなかった。
「さあ、くつろいでちょうだい。学園での話など聞かせてもらえると、うれしいわ」
「王妃様。このエレナ・シルフィードはセリカ様の護衛役です。大変失礼かとは存じますが、王女殿下が口をつける前に、料理の毒見をさせていただきたく存じます」
「あらあら、仕事熱心な小さなナイトね。でも、ソレには及びませんわ。毒見はこの私が直々に行います」
「えっ! お、王妃様が毒見役を!?」
私はとても驚いた。
だって完全にヴァイス君の予想通りだったんだもの。
見れば、隣のエレナも目を丸くしていた。
「当然です。そうしなければ、セリカの信頼を勝ち取ることはできないものね。私はあなたの本当の母親になりたいと思っているのですよ」
王妃は心にも無いことを言って、スープを掬って口をつける。
そして、そのスープを私に差し出してきた。
「これで、この料理は安全だということが、証明できたわ。これなら安心して食べることが、できるのではなくて?」
私は覚悟を決めた。
対決の時よ。力を貸して、お母様。
今からヴァイス君に授けてもらった秘策を決行するわ。
「はい、そうですね、王妃様。このスープにはお王妃様の本心が現れていると思います。だから、お願いです。このスープを飲み干していただけませんか?」
「……なんですって?」
王妃の笑顔が強張った。
「王妃様のユニークスキルは【蠱毒使い】。効果は、触れた相手に毒の状態異常を付与できるというもの。でもこのスキルの真の力は、『触れた物体を毒で汚染できる』というモノではありませんか?」
ヴァイス君によると、スキルはステータス画面に表示されたことが仕様のすべてでは無いらしいわ。
細かく検証すると、スキルの真の仕様がわかることが、あるらしい。
王妃は気に入らない人間を密かに殺すために、【蠱毒使い】の真の力を隠し、利用してきた。
後宮に入った何人もの美姫が毒殺されるも、その犯人はわからなかった。
なぜって、飲食物はすべて毒見役を通した物が提供されており、王妃は毒など所有していなかったのだから。無論、相手に触れなければ、スキルで殺したとも思われない。
「なんのことかしら? まさか、この私を疑っているというの?」
「もし、このスープに毒が混入されているとしたら、その犯人は王妃様しか有り得ません。もし違っていたとしたら、幾重にもお詫びいたします。その時はお望み通り、お義母様とお呼びします」
「【蠱毒使い】で生み出された毒は、非常に強力らしいですね。いかに対策をしていたとしても、無事では済まないハズです」
エレナが王妃を睨みつけた。
「さあ、王妃様。あなたが無実だとおっしゃるなら、もう一度、毒見をしていただけませんか?」
私はなるべく王女らしい気品のある所作で、頭を下げた。
ここは本心を礼儀作法で偽装して、相手を陥れる女の戦場。なら、ここの流儀で戦ってやるわ。
「ぶ、無礼にも程があります! 不愉快です! 私の提供した料理を食べたくないとおっしゃるなら、晩餐会はこれまでです!」
席を立とうした王妃に、エレナが毒に汚染されたスープを投げつけた。
「ぎゃあああッ!」
スープに触れた王妃の顔が爛れて、煙が立ち昇る。
「やはり、毒! セリカ様を……王女殿下を殺そうとしましたね!?」
「あなたの本心、見極めさせてもらったわ! 【傾国】のジゼルを手引きしたのも、私のお母様を暗殺したのもあなたね!?」
私は激怒して立ち上がった。
「なぜ、お前ごときが!? ま、まさか、あのヴァイスの入れ知恵か!?」
「その通りよ。彼を侮ったわね! あなたは今夜限りでおしまいよ!」
「【剣聖】の私から命とも言うべき剣を取り上げるとは、どういうおつもりですか!? 私はセリカ様の護衛を国王陛下から仰せつかっているエレナ・シルフィードですよ!」
後宮の門前で、エレナが女官と押し問答を繰り広げていた。
「なりません。後宮には、武器の持ち込みは一切禁止でございます」
はぁ、さっきから、この一点張りだわ。
ヴァイス君の言った通り、何が何でもエレナから武器を取り上げようとしているわね。
エレナは剣を抱きかかえて、必死に抵抗する。
ふふん。これならエレナが実は、目に見えない【不可視の剣】を、背中に隠し持っているなんて、思われないわよね。
私も手荷物カバンの中に、護身用の【不可視の短剣】を忍ばせていた。
これはヴァイス君が、ギルベルト君に頼んで用意してもらったモノだけど……荷物検査で全く気づかれなかったわ。
こんな特殊な武器なんて、想定外でしょうね。
「エレナ殿、いい加減になさい。私の管理する後宮にセリカを襲うような不届き者がいるハズも無いでしょう? もし、どうしても剣を渡さないと言うのであれば、あなたの入場は許可いたしません」
「王妃様、それは……! わかりました。誠に無念ではありますが、セリカ様の護衛ができなくなっては本末転倒。従います」
苛立ったイザベラ王妃に詰め寄られて、エレナはやむを得ず剣を差し出した。
すごいわ、迫真の演技よエレナ。
エレナは、さらに危険物を所持していないかボディチェックを受けた。さすがに入念で、女官ら数人がかりよ。
でもエレナは音も無く【不可視の剣】を地面に落とし、うまく身体検査を躱していた。
「どうやら、隠し武器を持ってはいないようです」
「そうですか。では、エレナ殿の入場を許可します」
「……ありがとうございます」
王妃はほくそ笑んでいるけど、これで武器の持ち込みはクリアね。
エレナは足の爪先を器用に使って、不可視の剣】を拾い上げた。
ボディチェック後の気の緩みもあって、暗がりでのエレナの挙動を怪しむ者はいなかったわ。
思わず、エレナとハイタッチしたい気分に駆られるけど、我慢、我慢。
澄まし顔で、私はやり過ごした。
次の日の朝、王妃から夕食に招かれたわ。
「……やはり、ヴァイス兄様の予想された通り、今夜、仕掛けてくるつもりでしょうか?」
私はエレナと小声で相談する。
この部屋は、盗聴される危険があるから、大事なやり取りは小声でしなければいけないのよね。
「これはいわば歓迎会。料理に一切口をつけないなんてあり得ないから、100%毒を盛ってくるわよ!」
私の身に怒りが漲る。そうやって昔、王妃は私のお母様を殺したのよ。
対策として、【毒耐性】スキルを獲得しておいたけど、これだけでは心もとないわ。
「では、ヴァイス兄様の指示通り、脱出経路を確認しておきましょう」
「そうね、二人で後宮を探検しましょう。私もここには、ほとんど来たことがないから」
エレナと二人で後宮を歩き回って、晩餐会場から抜け道のある場所へのルートを頭に叩き込んでおく。
抜け道は中庭にある古井戸の中だと、ヴァイス君から教えられたけど……多分、アレね。
「これはこれは、セリカ王女殿下、お初に御意を得ます」
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「……どうぞ、よろしく」
愛想笑いをしながら頭を下げると、怪訝な顔をされた。
立ちふるまいが、あまり王女らしくないと思われているんでしょうけど、こればかりは仕方がないわ。
お父様は私を、魔族と戦えるような強い娘に育てることにした。
それ故に、礼儀作法の習得よりも、魔法や護身術の体得に、私の教育時間は割かれた。
「わたくしはセリカさんに宿題のプリントを届けに参りましたのよ! なぜ、後宮に入ることができませんの!?」
「フィアナ様! 恐れながら、王女殿下にお渡しするモノがございましたら、私どもがお預かりします」
「ダメですわ。ちゃんとセリカさんに宿題が渡ったかどうか、生徒会長として、わたくしには確認する義務があります。王女殿下が宿題を怠ったなどとなれば、王家の恥ですわ! いいから通しなさい! あなた責任が取れるんですの!?」
門の近くを通ると、フィアナの大声が聞こえてきた。
「ぶはっ。かなり強引な理由をつけて、後宮に入ろうとしているわね」
思わず笑ってしまった。
「はい、フィアナ様も兄様のご指示通りに動いてくださっていますね。心強いです」
「そうね。なんだか、いつも通りっていう感じで、正直とてもありがたいわ」
フィアナは合図と同時に、すぐに後宮に踏み込めるように、やってきてくれていた。
ヴァイス君も秘密の抜け道を使って、内部への侵入を試みてくれているハズよ。
これから、私は人生最大の敵と対決することになる。
だけど、1人じゃないのだと思うと。私を愛する人が、私を守ろうとしてくれているのだと思うと、足の震えが収まった。
「セリカ様、ご安心ください。何があろうとも、セリカ様は私がお守りします。そうヴァイス兄様とお約束してきましたから」
「ありがとう。うん、頼んだわよ、エレナ」
そして、とうとう歓迎会の時間となった。
食卓を囲むのは、私とエレナと王妃の3人だけよ。
さすがに緊張で嫌な汗が浮かび、心臓がバクバクする。思わず、会場の入り口でつまずいて転びそうになってしまった。
部屋の窓は締め切られて、心なしか空気か淀んでいる気がする。
まるで、強大な魔物の巣に迷い込んでしまったかのような心境だわ。
「ふふ、だいぶ、緊張しているようね、セリカ。まさかとは思うけど、あなたのお母様を毒殺したのは、私であるなどという噂を真に受けていたりはしないわよね?」
「えっ……?」
い、いきなりのドストレートな質問ね。
微笑む王妃が、獲物に喰らいつく毒蛇のように見えてしまう。
私のお母様は、側室として正式に後宮に召し出された日の歓迎パーティで、毒を盛られて殺されたのよ。
そう……ちょうど今夜と同じ状況ね。
「そんなことは。根も葉もない中傷だと思っています」
私は動揺しつつも、なんとか王妃の対面に着席した。
「無理をしなくても良いのよ。私が怖いって、顔に書いてあるわ。そんな誤解を解きたくて、この場を用意したのよ」
給仕の女官たちによって、湯気が立つ豪勢な料理が運ばれてくる。
だけど、私はまったく食欲を感じなかった。
「さあ、くつろいでちょうだい。学園での話など聞かせてもらえると、うれしいわ」
「王妃様。このエレナ・シルフィードはセリカ様の護衛役です。大変失礼かとは存じますが、王女殿下が口をつける前に、料理の毒見をさせていただきたく存じます」
「あらあら、仕事熱心な小さなナイトね。でも、ソレには及びませんわ。毒見はこの私が直々に行います」
「えっ! お、王妃様が毒見役を!?」
私はとても驚いた。
だって完全にヴァイス君の予想通りだったんだもの。
見れば、隣のエレナも目を丸くしていた。
「当然です。そうしなければ、セリカの信頼を勝ち取ることはできないものね。私はあなたの本当の母親になりたいと思っているのですよ」
王妃は心にも無いことを言って、スープを掬って口をつける。
そして、そのスープを私に差し出してきた。
「これで、この料理は安全だということが、証明できたわ。これなら安心して食べることが、できるのではなくて?」
私は覚悟を決めた。
対決の時よ。力を貸して、お母様。
今からヴァイス君に授けてもらった秘策を決行するわ。
「はい、そうですね、王妃様。このスープにはお王妃様の本心が現れていると思います。だから、お願いです。このスープを飲み干していただけませんか?」
「……なんですって?」
王妃の笑顔が強張った。
「王妃様のユニークスキルは【蠱毒使い】。効果は、触れた相手に毒の状態異常を付与できるというもの。でもこのスキルの真の力は、『触れた物体を毒で汚染できる』というモノではありませんか?」
ヴァイス君によると、スキルはステータス画面に表示されたことが仕様のすべてでは無いらしいわ。
細かく検証すると、スキルの真の仕様がわかることが、あるらしい。
王妃は気に入らない人間を密かに殺すために、【蠱毒使い】の真の力を隠し、利用してきた。
後宮に入った何人もの美姫が毒殺されるも、その犯人はわからなかった。
なぜって、飲食物はすべて毒見役を通した物が提供されており、王妃は毒など所有していなかったのだから。無論、相手に触れなければ、スキルで殺したとも思われない。
「なんのことかしら? まさか、この私を疑っているというの?」
「もし、このスープに毒が混入されているとしたら、その犯人は王妃様しか有り得ません。もし違っていたとしたら、幾重にもお詫びいたします。その時はお望み通り、お義母様とお呼びします」
「【蠱毒使い】で生み出された毒は、非常に強力らしいですね。いかに対策をしていたとしても、無事では済まないハズです」
エレナが王妃を睨みつけた。
「さあ、王妃様。あなたが無実だとおっしゃるなら、もう一度、毒見をしていただけませんか?」
私はなるべく王女らしい気品のある所作で、頭を下げた。
ここは本心を礼儀作法で偽装して、相手を陥れる女の戦場。なら、ここの流儀で戦ってやるわ。
「ぶ、無礼にも程があります! 不愉快です! 私の提供した料理を食べたくないとおっしゃるなら、晩餐会はこれまでです!」
席を立とうした王妃に、エレナが毒に汚染されたスープを投げつけた。
「ぎゃあああッ!」
スープに触れた王妃の顔が爛れて、煙が立ち昇る。
「やはり、毒! セリカ様を……王女殿下を殺そうとしましたね!?」
「あなたの本心、見極めさせてもらったわ! 【傾国】のジゼルを手引きしたのも、私のお母様を暗殺したのもあなたね!?」
私は激怒して立ち上がった。
「なぜ、お前ごときが!? ま、まさか、あのヴァイスの入れ知恵か!?」
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