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2章。学園のナンバー1を目指す

31話。超レア素材【地竜王の宝珠】で最強武器を作る

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【フィアナ視点】

 わたくしはヴァイスさんとエレナさんを救出すべく、ダンジョンに単身で向かいました。
 裏切り者の書紀生徒の引き渡しと、セリカさんの護衛はレオナルドさんに任せましたわ。

「このわたくしの道を塞ぐなど、不遜の極みですわ!」

 途中で出現する魔物は、ユニークスキル【炎帝の剣レーヴァンテイン】で生み出した炎の魔剣で、焼き尽くして進みます。

 【炎帝の剣レーヴァンテイン】に、火属性と剣の攻撃力をアップさせるスキルを覚えられる上位クラス【戦乙女《ヴァルキリー》】を組み合わせたわたくしのビルドは、まさに天下無敵。攻撃力においては、すでに【栄光なる騎士グロリアスナイツ】にも比肩しうる領域に達していますわ。

「このわたくしの目が黒いうちは、相手が大魔族だろうとなんだろうとブチのめして、我が校の生徒を守って見せますわ!」

 愛するヴァイスさんを救いたいという気持ちもありますが、そもそも魔族の仕掛けた計略で、学園の生徒が命を落とすなど、あってはならないこと。学園ナンバー1としての誇りにかけて、阻止してみせますわ。

「はぁ? 石橋が崩れ落ちている!?」

 地下5階に降りると、そこには我が目を疑う光景が広がっていました。
 なんと、地下5階の名物である大橋が消え去り、どこまでも続く巨大な穴が広がっているではありませんか。

「い、一体、何が? 地震でも起きたんですの?」
「フィアナ様ぁあああッ!」
 
 そこに切迫した少女の大声が響きました。
 見れば反対側の岸で、エレナさんが手を振っているではありませんか?

 どうやら、エレナさんは自力でここまで登って来たものの、こちら側に渡れずに立ち往生しているようですわね。

「エレナさん、ご無事でしたの!? 石橋はなぜ崩れておりますのぉおおおおッ!?」
「石橋は、ヴァイス兄様が【超重量】スキルで破壊しましたぁ! 兄様は、まだ地下12階です! 私を地竜王レッドバロンから逃がすために囮になって!」
「はぁあああッ!?」

 えっ? この石橋を壊した? 天災級の破壊力ではありませんか?

 それに地竜王レッドバロンとは、下層に落ちた歴代の生徒たちを喰らって手が付けられないほど進化していると噂の凶悪モンスター。騎士学園の教師陣が、討伐しようと何度か試みたもののことごとく失敗に終わった難敵、絶対に遭遇してはいけない相手ですわ。

「お願いしますフィアナ様! ヴァイス兄様を助けてください! きっとまだ戦っておられます!」

 フィアナさんが喉を枯らして訴えます。

 え、えーい! ごちゃごちゃ考えるより、まずはエレナさんを保護することが先決ですわ。

 こういった事態に備えて、ダンジョン探索用の道具をバックパックに入れてきてありますの。

「どぉりゃぁあああああッ!」

 わたくしは手槍にロープを括り付け、エレナさんのいる岸に向かって、思い切り投げ放ちました。
 手槍はエレナさんの頭上の壁に突き刺さります。

「これを伝って、こちら側にいらっしゃいな! わたくしは地下12階に突撃しますわ」
「は、はい!」

 エレナさんのおっしゃる通り、まだ希望は有りますわ。

 わたくしはエレナさんに投げ渡したロープの端を、石橋の残骸である石柱に巻き付けて固定しました。

「ふん!」

 それから、ぽっかり空いた地下への巨穴に飛び込みます。

 高度からの降下訓練も、淑女の嗜みとして受けておりますので、問題ありませんわ。

 問題は、地竜王レッドバロン。
 討伐に参加した教師の話では、他の魔物を支配し、手下を指揮することに長けているとのこと。
 
 個体としての強さに集団戦術も加わるとなれば、おそらくこのわたくしでも、単独での討伐は困難な敵ですわ。
 ヴァイスさんと協力しても、切り抜けるのは厳しいかも知れませんわね。

「いえ、弱気になってはダメですわ、フィアナ・ブレイズ。『死地にあっても気高く優雅たれ』が、我が家訓ですもの」
 
 やはりヴァイスさんは、化けましたわね。

 地竜王レッドバロンと相対して、妹を守るために囮になるという誇り高い精神には、敬服しますわ。

 なればこそ、彼をここで死なせる訳には参りません。
 やがて地面が見えてきました。 

「はぁっ!」

 わたくしは、ブレーキのために魔力の塊を地面に叩きつけます。
 そして、つま先から、フワリと優雅な着地を決めました。ふっ、決まりましたわ。誰も見ていない状況でも、気を抜かずに優雅に振る舞うからこそ、優雅さを極められるのです。

「ヴァイスさん、どこですの!? このわたくしが来たからには、もう安心ですのよ……って!?」

 魔物への威嚇のために、手元に【炎帝の剣レーヴァンテイン】の炎の魔剣を生み出したわたくしは、驚嘆しました。

 なんと、数十メートルほど先に、ヴァイスさんがうずくまっているではありませんか?

 周囲に魔物の気配は全く無く、ヴァイスさんの近くには、赤く輝く宝珠が転がっています。

「あ、あれは、まさか……レッドバロンのレアドロップ【地竜王の宝珠】ぅうううッ!?」

 はっ、いけまけんわ。
 ぶったまげ過ぎたあまり、優雅さとは程遠い声を出してしまいましたわ。
 
 し、しかし、これは致し方ないというもの。
 これはつまり、ヴァイスさんが地竜王とその取り巻きの軍勢を1人で討伐した証。

 周辺には激戦の爪痕が残っています。

 おそらく、魔物の気配を感じ取れないのは、ヴァイスさんがこの階層の魔物をほとんど倒してしまったのと、レッドバロンを討伐したことで、魔物たちから恐怖の対象にされてしまったからでしょう。

 ゴクリと、思わず生唾を飲み込んでしまいます。
 たった1人で、ここまでのことを……? よ、予想外過ぎて、声も出ませんわ。

「……あっ。もしかして、フィアナ会長ですか? た、助かったぁ。疲労困憊で、動けなくなっていたもので」
「うっ、し、しかも無傷ですの? 一体全体、どうやって?」

 駆け寄って見ると、驚くべきことにヴァイスさんの身体には傷一つありませんでした。
 疲れてはいるようですが、ダメージを負っている気配はありませんわ。

「いや、俺のことよりも、セリカとエレナは無事ですか?」
「ご心配には及びませんわ。あなたのおかげで、お二人とも無事ですわ」

 しかも、真っ先にセリカさんとエレナさんの安否を確認してくるなんて……

 たった1人で、地獄の12階層に取り残されて心細かったでしょうに。本当に気高い心をお持ちなのですのね。

「そうか。良かったぁあああッ」

 ヴァイスさんは、安心したのか大の字に寝そべりました。

「……それに、生徒会に潜り込んでいたジゼルの下僕も捕縛できましたわ。これもすべてヴァイスさんのおかげです。さすがは、このわたくしが見込んだ殿方ですわね」

 幼き日、ヴァイスさんと出会ったわたくしは、将来、この方はきっと大成するという予感を覚えました。
 それはもうビビッと来たのです。

 もちろん、ヴァイスさんの顔が好みだったというのもありますが……
 あの時のわたくしの直感は、やはり正しかったのですわ。

 くぅうううッ、だからこそ、婚約破棄してしまったのが、今になって心底、悔やまれますわ。
 過去に戻って、あの時の自分をぶっ飛ばして、沼に沈めてやりたい気分です。
 
「こほん。今回の王国と学園への貢献を讃えて、生徒会から、ヴァイスさんにはなにか褒賞を出したいと思いますわ。わたくしのできる範囲で、望みの品を与えて差し上げますわ」
「……望みの品ですか? それは何でも良いですか?」
 
 この時、わたくしはハッと気が付きました。

 もしかすると、褒賞としてヴァイスさんから、再び婚約者になって欲しいとお願いされてしまうかも知れませんわね。

 それは、ヴァイスさんがレオナルドさんに勝ったら考えて差し上げると決めておりましたが……

 まっ、特別にお受けして差し上げても、よろしくてよ?

「では、この【地竜王の宝珠】を素材に造っていただきたい装備があるんですが。1週間以内にお願いできますか?」
「はぇ? そ、装備?」

 予想とは違った申し出に、面食らってしまいました。
 ……うん? ですが、今、1週間以内と言いましたよね。

「はっは~ん、そういうことですわね!」

 わたくしはポンと手を叩きました。
 つまり、レオナルドさんとの決闘に間に合うようにして欲しいということ。
 決闘の場には、武器を持ち込むことが許されていますわ。

 今朝、わたくしが『レオナルドさんに勝利することができたら、お約束通り私の婚約者に返り咲くチャンスを差し上げても、よろくしくてよ』と告げたのを受けてのことですわね。

 くふふっ、おかわいいですわ。
 やはり、ヴァイスさんの心は、昔から変わらずわたくしに有るのですね。
 まっ、当然ではありますが……!

「もちろんですわ! ブレイズ公爵家の威信にかけて、1週間と言わず3日以内に用意してご覧に入れますわ!」

 わたくしは胸を張って宣下しました。
 こうして、【超重量】の力を最大限引き出すヴァイスさん専用の恐るべき新兵器が、誕生することになったのです。
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