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1章。クズ悪役貴族、ゲーム知識で王女を救う
5話。外れスキル【超重量】の真の力
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「俺様のペットどもが!? て、てめぇ何者だぁ!?」
ガロンが振り返って叫ぶ。
「俺はエレナの兄、ヴァイス・シルフィードだ!」
あ、危ない。ギリギリだった。
鈍重なこの身体で馬車に追い付くのは、想像以上に大変だった。
もう少し遅れていたら勇者アレンが、この場にやってきていただろう。
ゲームシナリオでは、勇者アレンが魔獣になぶりものにされているエレナを助けて、拉致されたセリカ王女の救出を決意するのだ。
「はぁ!? あの落ちこぼれ変態貴族ヴァイスだとぉ!?」
ガロンの腕の傷が、見る見る塞がっていった。
やはりゲームと同じように、魔族は【生命力自動回復】の特性を持っているようだ。
今の俺の魔法攻撃力では、コイツを倒し切るのは不可能だな……
ぶっつけ本番だがユニークスキル【超重量】を使うしかない。
「ヴァイス君!? どうしてここへ!?」
ガロンの拘束から逃れたセリカが、驚きの目で俺を見つめる。
「もちろん、セリカ王女とエレナを助けに来たんです!」
「えっ、えぇえええ!?」
大声で宣言すると、セリカは完全に面食らっていた。
よし。これでシナリオ改変の第1関門はクリアだな。
「ガロン! この俺のすべてを賭けて、お前をぶっ倒す!」
理想は勇者アレンが到着する前にガロンを倒して、3人でここを離れることだ。
そうすれば、勇者アレンの学園入学フラグは、完璧に叩き壊せる。
セリカとエレナが勇者アレンに惚れて、ヤツの味方になることも100%無くなる。
俺の破滅の未来を回避できるんだ。
「あぁっ、ヴァイス兄様。助けに来てくださったのですね……!」
頭から血を流したエレナが、感涙を流していた。
エレナは、見るも無残な傷を負っていた。
自分の妹に、ここまでのことをされると、さすがに怒りが湧いてくるな。
一歩間違えれば死ぬ……って言うより、勇者アレンがやってくるのが、遅すぎるんだよ。
「でもダメです、逃げてください! い、いくら兄様でも、ガロン先輩には勝てません!」
「心配するなエレナ。俺がこれ以上、お前に毛ほどの傷も付けさせない!」
俺はエレナに声をかけてから、ガロンに向き直る。
「ちっ! これ程の風魔法……てめぇ実力を隠してやがったのか!? だが、魔族と化した俺様をぶっ倒すとは、片腹痛いぜぇえええッ!」
ガロンが、殺気を叩きつけてきた。
転生して、いきなりの実戦。しかも相手は、俺よりはるかに格上の魔族だ。
生存本能が全力で逃げろと、警鐘を鳴らしていた。
「なんだ? カッコつけて登場しておきながら、ビビってやがるのか、てめぇ!?」
ガロンの身体が、土塊で覆われていく。やがてそれは輝く全身鎧となった。
「ちょ!? な、なに、ソレ!?」
セリカが息を飲む。
「驚いたか!? これぞ【ダイヤモンド・メイル】! 俺様の土魔法とスキル【金剛】の組み合わせによって生まれた究極の鎧だ!」
力をひけらかして、ガロンは得意の絶頂だった。
「残念だったなヴァイス! てめぇに勝ち目はねぇぞ!?」
ゲームではガロンは、ただのチュートリアルボスだった。ストーリー的には、勇者アレンに王女救出の手柄を立たせるためのヤラレ役。
でも、現実に殺意を向けられると威圧感が半端じゃないな。
「だが、それがどうした!?」
「なにぃ!?」
もうすぐこの場に、俺を殺すことが決まっている勇者アレンがやってくるのだ。
俺にとっては、ヤツと関わる方が怖い。
ここでシナリオをぶっ壊さなければ、結局、俺に未来は無いんだ。
「時間がないんだ。とっとと、かかってこい!」
俺はガロンを思い切り挑発した。
「あぁ、わ、私のために……そこまで……!」
エレナは気を失ったようだった。
妹のことは心配だが、今はガロンを倒すことに集中だ。
「外れスキル持ちのクズが! 後悔しながら、死ねぇえええッ!」
地面を蹴って、ガロンが突進してくる。
俺はポケットから、小石を取り出してスキルを発動させた。
「【超重量】!」
ガロンの怒りの形相が凍りついた。
俺の風魔法によって弾丸のように放たれた小石が、ヤツの【ダイヤモンド・メイル】を貫通して、その身に風穴を開けたのだ。
「あっ……?」
信じられないといった表情で、ガロンは腹に開いた穴を見下ろす。
「あっ、あああああああッ!?」
その穴から、勢い良く血が噴き出した。
「なに、なに、どゆこと!?」
セリカも何が起こったのかわからず、動転している。
「セリカ王女。危ないから、なるべく離れていてください!」
「ええっ!? う、うん。わかったわ!」
俺は次々に風魔法で小石を飛ばし、ガロンを穴だらけにする。
人間よりもはるかにHP《生命力》の高い魔族は、この程度では倒せない。
「バ、バカな!? 俺様の【金剛】による防御が、通じないだとぉおおおおッ!?」
「当然だ! 俺は【超重量】で、小石の重さを1000倍に増やしているんだからな!」
「なにィイイイッ!?」
ユニークスキル【超重量】の効果は『重くなる』だ。
一見、ただのマイナス効果しかないスキルだ。
だがゲーム攻略済みの俺は、その真の力を知っていた。
【超重量】は、俺の身体に触れた物体の重さを増すことができるんだ。
俺は風魔法で小石を飛ばすと同時に、その重量をアップさせ、飛弾の攻撃力を極限まで上昇させていた。
「攻撃力とは要するに『速度×重量』だ。つまり、風魔法と【超重量】の組み合わせこそ、最強なんだ!」
空気圧を使いエアガンの要領で撃ち出した小石の速度は、約秒速80メートル。小石の重さを【超重量】で約200キロまで増やせば、その破壊力はライフル弾をはるかに凌駕する。
これを至近距離から浴びせれば、ダイヤモンドですら砕けるのだ。
「この力の前に防御なんぞ、無意味だぁあああッ!」
「んな、バカな!?」
ガロンは戦慄の声を上げる。
俺の【超重量】は、防御力に特化したヤツの【ダイヤモンド・メイル】にとって天敵とも言うべきスキルだ。
もっとも、俺も無事では済まなかった。
プレイヤーの意思によって発動するアクティブ系スキルは、代償としてHP《生命力》を消耗する。
1つの物体の重量を1000倍にするためには、HP《生命力》の10%を捧げなければならなかった。
「やばい。もう赤色か」
目の前に赤文字のステータスボードが飛び出して、俺のHP《生命力》が、早くも残り2割を切ったことを知らせた。
ゲームでもそうだったが、HP全損の危機が迫るとシステムが警告を発してくれるんだ。
「もう赤色って。てめぇ……! こんなムチャクチャなスキル行使。正気かぁああああッ!?」
ガロンが目を剥く。
HP《生命力》が0になれば、死ぬのだから当然だ。
だが、俺はたったのレベル2だ。
これで格上の敵を倒そうと思ったら、初手で大ダメージを与えて、立て直す暇を与えないまま押し切らなければならない。
それに、こちらには回復魔法のスペシャリスト【聖女】セリカがいる。
「ちょ!? ヴァイス君、無茶はやめてぇえええ!?」
案の定、セリカが大慌てで、俺に回復魔法をかけてくれた。
何とも言えない心地良さと共に、HP《生命力》が最大値の8割くらいまで回復する。セリカはヴァイスを嫌っていたが、この状況ならきっと俺を支援してくれると信じていた。
「セリカが俺の味方をしてくれるなら、怖いもの無しだ。とっとと消え失せろガロン!」
俺はさらに超重量の弾丸を連射する。
「て、てめぇ!?」
「ヴァイス君、あ、あなたは……!」
ガロンは肝を潰し、セリカ王女は感嘆の息を吐いた。
「ちくしょぉおおおおッ! な、なら王女を人質に!」
「きゃわ!? ちょっとぉおおお!?」
ガロンが最後の力を振り絞って、セリカに向かって突進する。
まずい、セリカを人質にされたら俺の負けだ。
「【風走り】!」
「なんだとぉ!?」
俺は風圧を背にして一気に加速し、セリカの前に出た。
エレナの得意とする【風魔剣】。風魔法の剣術への応用だ。
ヴァイスも10歳になるまで真面目に【風魔剣】の修行に励んできたため、今の俺にもできた。
「おもしれぇええ! この俺様に接近戦を挑むつもりか!? 肥満デブ野郎が!」
ガロンがダイヤモンドの拳を繰り出す。
セリカが悲鳴を上げた。
「【風流し】!」
その拳を俺は、風をまとった手で受け流した。
これも【風魔剣】の技だ。敵の攻撃を受け止めるのではなく、力のベクトルを逸らして、攻撃をいなす。
だが、完全には威力を殺し切れず、皮膚が裂けて血が飛び散った。
ガロンが勝利を確信し、ニヤリと笑うが──次の瞬間、その顔が驚愕に染まった。
「俺に触れたな。お前の負けだ!」
俺が【超重量】を発動させて、ガロンの【ダイヤモンド・メイル】の重量を1000倍に引き上げたのだ。
「なにぃ!? 身体がァァァ!」
身を守る自慢の鎧が、ガロンを圧死させる凶器と化す。そのあまりの重さに、ヤツは地面に片膝をついた。
「見誤ったな。接近戦は、むしろ【超重量】スキルを持つ俺の独壇場だ!」
俺はすかさず、ガロンに護身用の短剣を叩き込んだ。
インパクトの瞬間、【超重量】によって、短剣の重量を1000倍に引き上げ、攻撃力を1000倍にする。
「げぇはあああああッ!?」
ひび割れていた【ダイヤモンド・メイル】が砕け散り、ガロンは胸を貫かれた。
仰向けに倒れたヤツは、光の粒子となって崩れ去る。
『魔族ガロンを倒しました!
レベルアップ!
レベルアップ!
レベルアップ!』
俺の頭にレベルアップを知らせるシステムボイスが連続で鳴り響いた。
ゲームと全く同じだった。
『おめでとうございます!
レベルが10に上がりました!』
「いきなりレベル10までアップか!?」
このゲームでは自分よりレベルの高い敵を倒すと、大量に経験値を獲得できた。
俺の元々のレベルは2だった。エレナのレベルは14だ。
レベル10というのは、グロリアス騎士学園の中でも、かなりの上位だぞ。
『ユニークスキル【超重量】で魔族を倒したことにより、【超重量】がレベル3に進化しました。
体重を自由にコントロール可能になります。
次のレベルへの進化条件は【超重量】を使用して、魔物を500匹倒すことです』
これにはいささか驚いた。
ユニークスキルの中には極稀に、使えば使うほどパワーアップしていく晩成型のモノがあった。
そうか、【超重量】もやっぱりそうなのか。
俺は歓喜した。
おそらく、レベル1の【超重量】は、単に太りやすくなるだけのスキルだったに違いない。
それが5年経過する間に、レベル2の『触れた物体の重量を増加できる』能力にいつの間にかレベルアップし、ヴァイスはその真の力に気づかないまま過ごしたのだ。
これは思っていた以上に優れたスキルだぞ。
「す、すごい勝った!? ヴァイス君が魔族に!?」
セリカが喜びのあまり、背後から抱き付いてきた。
「おう!?」
体験したことの無い柔らかな感触が押し付けられ、思わず胸が高鳴る。
前世から今までずっと、『彼女いない歴=年齢』の俺には刺激が強すぎだった。
ガロンが振り返って叫ぶ。
「俺はエレナの兄、ヴァイス・シルフィードだ!」
あ、危ない。ギリギリだった。
鈍重なこの身体で馬車に追い付くのは、想像以上に大変だった。
もう少し遅れていたら勇者アレンが、この場にやってきていただろう。
ゲームシナリオでは、勇者アレンが魔獣になぶりものにされているエレナを助けて、拉致されたセリカ王女の救出を決意するのだ。
「はぁ!? あの落ちこぼれ変態貴族ヴァイスだとぉ!?」
ガロンの腕の傷が、見る見る塞がっていった。
やはりゲームと同じように、魔族は【生命力自動回復】の特性を持っているようだ。
今の俺の魔法攻撃力では、コイツを倒し切るのは不可能だな……
ぶっつけ本番だがユニークスキル【超重量】を使うしかない。
「ヴァイス君!? どうしてここへ!?」
ガロンの拘束から逃れたセリカが、驚きの目で俺を見つめる。
「もちろん、セリカ王女とエレナを助けに来たんです!」
「えっ、えぇえええ!?」
大声で宣言すると、セリカは完全に面食らっていた。
よし。これでシナリオ改変の第1関門はクリアだな。
「ガロン! この俺のすべてを賭けて、お前をぶっ倒す!」
理想は勇者アレンが到着する前にガロンを倒して、3人でここを離れることだ。
そうすれば、勇者アレンの学園入学フラグは、完璧に叩き壊せる。
セリカとエレナが勇者アレンに惚れて、ヤツの味方になることも100%無くなる。
俺の破滅の未来を回避できるんだ。
「あぁっ、ヴァイス兄様。助けに来てくださったのですね……!」
頭から血を流したエレナが、感涙を流していた。
エレナは、見るも無残な傷を負っていた。
自分の妹に、ここまでのことをされると、さすがに怒りが湧いてくるな。
一歩間違えれば死ぬ……って言うより、勇者アレンがやってくるのが、遅すぎるんだよ。
「でもダメです、逃げてください! い、いくら兄様でも、ガロン先輩には勝てません!」
「心配するなエレナ。俺がこれ以上、お前に毛ほどの傷も付けさせない!」
俺はエレナに声をかけてから、ガロンに向き直る。
「ちっ! これ程の風魔法……てめぇ実力を隠してやがったのか!? だが、魔族と化した俺様をぶっ倒すとは、片腹痛いぜぇえええッ!」
ガロンが、殺気を叩きつけてきた。
転生して、いきなりの実戦。しかも相手は、俺よりはるかに格上の魔族だ。
生存本能が全力で逃げろと、警鐘を鳴らしていた。
「なんだ? カッコつけて登場しておきながら、ビビってやがるのか、てめぇ!?」
ガロンの身体が、土塊で覆われていく。やがてそれは輝く全身鎧となった。
「ちょ!? な、なに、ソレ!?」
セリカが息を飲む。
「驚いたか!? これぞ【ダイヤモンド・メイル】! 俺様の土魔法とスキル【金剛】の組み合わせによって生まれた究極の鎧だ!」
力をひけらかして、ガロンは得意の絶頂だった。
「残念だったなヴァイス! てめぇに勝ち目はねぇぞ!?」
ゲームではガロンは、ただのチュートリアルボスだった。ストーリー的には、勇者アレンに王女救出の手柄を立たせるためのヤラレ役。
でも、現実に殺意を向けられると威圧感が半端じゃないな。
「だが、それがどうした!?」
「なにぃ!?」
もうすぐこの場に、俺を殺すことが決まっている勇者アレンがやってくるのだ。
俺にとっては、ヤツと関わる方が怖い。
ここでシナリオをぶっ壊さなければ、結局、俺に未来は無いんだ。
「時間がないんだ。とっとと、かかってこい!」
俺はガロンを思い切り挑発した。
「あぁ、わ、私のために……そこまで……!」
エレナは気を失ったようだった。
妹のことは心配だが、今はガロンを倒すことに集中だ。
「外れスキル持ちのクズが! 後悔しながら、死ねぇえええッ!」
地面を蹴って、ガロンが突進してくる。
俺はポケットから、小石を取り出してスキルを発動させた。
「【超重量】!」
ガロンの怒りの形相が凍りついた。
俺の風魔法によって弾丸のように放たれた小石が、ヤツの【ダイヤモンド・メイル】を貫通して、その身に風穴を開けたのだ。
「あっ……?」
信じられないといった表情で、ガロンは腹に開いた穴を見下ろす。
「あっ、あああああああッ!?」
その穴から、勢い良く血が噴き出した。
「なに、なに、どゆこと!?」
セリカも何が起こったのかわからず、動転している。
「セリカ王女。危ないから、なるべく離れていてください!」
「ええっ!? う、うん。わかったわ!」
俺は次々に風魔法で小石を飛ばし、ガロンを穴だらけにする。
人間よりもはるかにHP《生命力》の高い魔族は、この程度では倒せない。
「バ、バカな!? 俺様の【金剛】による防御が、通じないだとぉおおおおッ!?」
「当然だ! 俺は【超重量】で、小石の重さを1000倍に増やしているんだからな!」
「なにィイイイッ!?」
ユニークスキル【超重量】の効果は『重くなる』だ。
一見、ただのマイナス効果しかないスキルだ。
だがゲーム攻略済みの俺は、その真の力を知っていた。
【超重量】は、俺の身体に触れた物体の重さを増すことができるんだ。
俺は風魔法で小石を飛ばすと同時に、その重量をアップさせ、飛弾の攻撃力を極限まで上昇させていた。
「攻撃力とは要するに『速度×重量』だ。つまり、風魔法と【超重量】の組み合わせこそ、最強なんだ!」
空気圧を使いエアガンの要領で撃ち出した小石の速度は、約秒速80メートル。小石の重さを【超重量】で約200キロまで増やせば、その破壊力はライフル弾をはるかに凌駕する。
これを至近距離から浴びせれば、ダイヤモンドですら砕けるのだ。
「この力の前に防御なんぞ、無意味だぁあああッ!」
「んな、バカな!?」
ガロンは戦慄の声を上げる。
俺の【超重量】は、防御力に特化したヤツの【ダイヤモンド・メイル】にとって天敵とも言うべきスキルだ。
もっとも、俺も無事では済まなかった。
プレイヤーの意思によって発動するアクティブ系スキルは、代償としてHP《生命力》を消耗する。
1つの物体の重量を1000倍にするためには、HP《生命力》の10%を捧げなければならなかった。
「やばい。もう赤色か」
目の前に赤文字のステータスボードが飛び出して、俺のHP《生命力》が、早くも残り2割を切ったことを知らせた。
ゲームでもそうだったが、HP全損の危機が迫るとシステムが警告を発してくれるんだ。
「もう赤色って。てめぇ……! こんなムチャクチャなスキル行使。正気かぁああああッ!?」
ガロンが目を剥く。
HP《生命力》が0になれば、死ぬのだから当然だ。
だが、俺はたったのレベル2だ。
これで格上の敵を倒そうと思ったら、初手で大ダメージを与えて、立て直す暇を与えないまま押し切らなければならない。
それに、こちらには回復魔法のスペシャリスト【聖女】セリカがいる。
「ちょ!? ヴァイス君、無茶はやめてぇえええ!?」
案の定、セリカが大慌てで、俺に回復魔法をかけてくれた。
何とも言えない心地良さと共に、HP《生命力》が最大値の8割くらいまで回復する。セリカはヴァイスを嫌っていたが、この状況ならきっと俺を支援してくれると信じていた。
「セリカが俺の味方をしてくれるなら、怖いもの無しだ。とっとと消え失せろガロン!」
俺はさらに超重量の弾丸を連射する。
「て、てめぇ!?」
「ヴァイス君、あ、あなたは……!」
ガロンは肝を潰し、セリカ王女は感嘆の息を吐いた。
「ちくしょぉおおおおッ! な、なら王女を人質に!」
「きゃわ!? ちょっとぉおおお!?」
ガロンが最後の力を振り絞って、セリカに向かって突進する。
まずい、セリカを人質にされたら俺の負けだ。
「【風走り】!」
「なんだとぉ!?」
俺は風圧を背にして一気に加速し、セリカの前に出た。
エレナの得意とする【風魔剣】。風魔法の剣術への応用だ。
ヴァイスも10歳になるまで真面目に【風魔剣】の修行に励んできたため、今の俺にもできた。
「おもしれぇええ! この俺様に接近戦を挑むつもりか!? 肥満デブ野郎が!」
ガロンがダイヤモンドの拳を繰り出す。
セリカが悲鳴を上げた。
「【風流し】!」
その拳を俺は、風をまとった手で受け流した。
これも【風魔剣】の技だ。敵の攻撃を受け止めるのではなく、力のベクトルを逸らして、攻撃をいなす。
だが、完全には威力を殺し切れず、皮膚が裂けて血が飛び散った。
ガロンが勝利を確信し、ニヤリと笑うが──次の瞬間、その顔が驚愕に染まった。
「俺に触れたな。お前の負けだ!」
俺が【超重量】を発動させて、ガロンの【ダイヤモンド・メイル】の重量を1000倍に引き上げたのだ。
「なにぃ!? 身体がァァァ!」
身を守る自慢の鎧が、ガロンを圧死させる凶器と化す。そのあまりの重さに、ヤツは地面に片膝をついた。
「見誤ったな。接近戦は、むしろ【超重量】スキルを持つ俺の独壇場だ!」
俺はすかさず、ガロンに護身用の短剣を叩き込んだ。
インパクトの瞬間、【超重量】によって、短剣の重量を1000倍に引き上げ、攻撃力を1000倍にする。
「げぇはあああああッ!?」
ひび割れていた【ダイヤモンド・メイル】が砕け散り、ガロンは胸を貫かれた。
仰向けに倒れたヤツは、光の粒子となって崩れ去る。
『魔族ガロンを倒しました!
レベルアップ!
レベルアップ!
レベルアップ!』
俺の頭にレベルアップを知らせるシステムボイスが連続で鳴り響いた。
ゲームと全く同じだった。
『おめでとうございます!
レベルが10に上がりました!』
「いきなりレベル10までアップか!?」
このゲームでは自分よりレベルの高い敵を倒すと、大量に経験値を獲得できた。
俺の元々のレベルは2だった。エレナのレベルは14だ。
レベル10というのは、グロリアス騎士学園の中でも、かなりの上位だぞ。
『ユニークスキル【超重量】で魔族を倒したことにより、【超重量】がレベル3に進化しました。
体重を自由にコントロール可能になります。
次のレベルへの進化条件は【超重量】を使用して、魔物を500匹倒すことです』
これにはいささか驚いた。
ユニークスキルの中には極稀に、使えば使うほどパワーアップしていく晩成型のモノがあった。
そうか、【超重量】もやっぱりそうなのか。
俺は歓喜した。
おそらく、レベル1の【超重量】は、単に太りやすくなるだけのスキルだったに違いない。
それが5年経過する間に、レベル2の『触れた物体の重量を増加できる』能力にいつの間にかレベルアップし、ヴァイスはその真の力に気づかないまま過ごしたのだ。
これは思っていた以上に優れたスキルだぞ。
「す、すごい勝った!? ヴァイス君が魔族に!?」
セリカが喜びのあまり、背後から抱き付いてきた。
「おう!?」
体験したことの無い柔らかな感触が押し付けられ、思わず胸が高鳴る。
前世から今までずっと、『彼女いない歴=年齢』の俺には刺激が強すぎだった。
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魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
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