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1章。クズ悪役貴族、ゲーム知識で王女を救う
3話。妹エレナの秘めた想い
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【妹エレナ視点】
「セリカ様……一夜にして人が心変わりすることってあるんでしょうか……?」
グロリアス騎士学園へと向かう馬車の中で、私はセリカ様に相談を持ちかけました。
セリカ様はこの国の王女。私と同じ14歳で、騎士学園の1年生です。
「えっ? いきなりどうしたの?」
「実はヴァイス兄様が、メイドのティアの母親を助けるために、指輪を無償で渡したんです。それで、ティアは感激して泣いてしまって……」
セリカ様は目をパチクリさせています。
うっ、それなのに誤解から、ヴァイス兄様に木刀を向けてしまったのは、痛恨のミスでした。
でもヴァイス兄様は、怒るどころか、昔、一緒にやった剣術修行のようだと言ってくれたんです。
温かい気遣い……あまりに意外過ぎる出来事でした。
「これは私の希望的観測かも知れませんが……もしかすると、ヴァイス兄様は昔の真面目でやさしい兄様に戻られたのではないかと……」
「いやぁ。エレナには悪いけど、いくらなんでも、それはないんじゃないかな?」
セリカ様は手をヒラヒラ振って、苦笑しました。
「だってヴァイス君って、覗きとスカートめくりの常習犯でしょう? 『俺の夢は、騎士学園のすべての女子生徒のパンツを覗くことだ!』とか、豪語しちゃっている」
「ぐっ……そ、それは……」
他人から指摘されると、我が兄ながら恥ずかしいです。
「この前、ヴァイス君が、私たち女子の着替えを覗いていて。私が思い切り怒ったのを覚えている? エレナのお兄様だとしても、正直、アレはないなと思ったなぁ。うん」
「はぐっ……」
「そんな人がメイドを助けたと言われてもね。何か下心があるんじゃないかとしか、思えないけど?」
ま、まさに正論です。
「……確かにそうかも知れませんね」
「そのメイドにも、気を付けるように言っておいた方が良いじゃないの? 小さい恩を売ってから、過剰な見返りを要求するって、よくある悪人の手口よ。身体を寄越せとか言ってくるわよ、絶対」
「そ、そうですね」
覗き被害に合われたセリカ様は、辛辣でした。
その指摘は至極まっとうで、同意せざるを得ません。
ただ、どうしても腑に落ちない点があります。
あの指輪は、相当に高価な代物でした。
しかも、あの文書。『ヴァイス・シルフィードはティアにルビーの指輪を無償で譲渡する。見返りは一切求めない』。
これをティアに渡したということは、ヴァイス兄様にはセリカ様のおっしゃるような邪《よこしまな》な意図は無いということです。
何より気になるのは……
「……実は、今朝、兄様と喧嘩してしまったのですが、あっさりとあしらわれました」
「へっ?【栄光なる席次】ナンバー3のエレナが?」
セリカ様は呆気に取られました。
「はい、これは紛れもない事実です」
魔族の侵攻からこのローランド王国を守る騎士を育成するグロリアス騎士学園は、強さを絶対視し、生徒同士を自主的に切磋琢磨させるシステムを導入しています。
それが全校生徒を強さによって順位付けする【栄光なる席次】です。
「も、もしですよ? もし万が一、兄様が心を入れ替えられ、昔のように真面目に努力されたのなら……【栄光なる席次】ナンバー1を取ることだって、夢ではないと思います」
「は、はぇ? そ、そこまで言っちゃう?」
「はい。あの状況で的確な魔法を使って、私を傷つけることなく無力化する。恐ろしいほど冷静な判断力です」
それは歴戦の戦士にすら、難しいことです。
「戦闘において何よりも重要なのは、恐怖や焦りに囚われることなく、正しい判断を下せることです。真の強者しか、その境地には達せません」
今まで口に出したことはありませんでしたが、私はいつか昔の兄様に戻って欲しいと、ずっと願ってきました。
それが今朝、かつて神童と謳われていた頃以上の才能の片鱗を見せて下さったのです。
思わず期待に胸が高鳴ってしまいます。
「……う、う~ん。残念だけど、ヴァイス君が腐った原因は有名だよね? 速さを至上とするシルフィード伯爵家の風魔法とは相性最悪の『重くなる』スキルを授かったせいだって」
「そ、それは……」
セリカ様は、私を慰めるように肩を叩きました。
「学園最下位の彼に、3位のエレナを追い越すなんて期待をかけるのは、残酷だと思うけどな」
「うぐッ……」
「なにより、私はエレナには期待しているのよ。エレナが男子たちを蹴散らして、ナンバー1になってくれれば、私は婚約させられなくて済むんだし!」
「あっ」
私はうかつなことを言ってしまったと、自分を恥じました。
「……お任せください。我が家名にかけて、【栄光なる席次】ナンバー1の座を手に入れてみせる所存です」
「やった! エレナってば、凛々しくてカッコいい! もう好き好き!」
セリカ様は、はしゃいで私に抱き着きました。
おいたわしいことに、セリカ様は【栄光なる席次】ナンバー1になった学園最強の生徒と婚約するように、国王陛下より命令されているのです。
10歳の時【剣聖】のスキルを授かった私は、国王陛下より直々に、セリカ様の友人兼護衛になって欲しい、と頼まれました。
その時の誇らしい気持ちは今でも忘れません。
国王陛下のご期待に応えるべく励んできた私ですが、4年もの月日を共に過ごして、セリカ様と大の仲良しになっていました。
今では、たとえ国王陛下のご意向に背こうとも、望まない結婚から、セリカ様を守ってあげたいと思っています。
「大丈夫です。セリカ様は、何があってもこの私がお守りします」
「うん、ありがとうエレナ!」
でも、胸に去来する思いがあります。
できればヴァイス兄様と共に、セリカ様をお守りしたかったなと……
ドォオオオオオン!
その時、轟音と共に私たちの馬車が横転しました。
なんと土でできた巨大な腕が、馬車を殴りつけたのです。
「セリカ様……一夜にして人が心変わりすることってあるんでしょうか……?」
グロリアス騎士学園へと向かう馬車の中で、私はセリカ様に相談を持ちかけました。
セリカ様はこの国の王女。私と同じ14歳で、騎士学園の1年生です。
「えっ? いきなりどうしたの?」
「実はヴァイス兄様が、メイドのティアの母親を助けるために、指輪を無償で渡したんです。それで、ティアは感激して泣いてしまって……」
セリカ様は目をパチクリさせています。
うっ、それなのに誤解から、ヴァイス兄様に木刀を向けてしまったのは、痛恨のミスでした。
でもヴァイス兄様は、怒るどころか、昔、一緒にやった剣術修行のようだと言ってくれたんです。
温かい気遣い……あまりに意外過ぎる出来事でした。
「これは私の希望的観測かも知れませんが……もしかすると、ヴァイス兄様は昔の真面目でやさしい兄様に戻られたのではないかと……」
「いやぁ。エレナには悪いけど、いくらなんでも、それはないんじゃないかな?」
セリカ様は手をヒラヒラ振って、苦笑しました。
「だってヴァイス君って、覗きとスカートめくりの常習犯でしょう? 『俺の夢は、騎士学園のすべての女子生徒のパンツを覗くことだ!』とか、豪語しちゃっている」
「ぐっ……そ、それは……」
他人から指摘されると、我が兄ながら恥ずかしいです。
「この前、ヴァイス君が、私たち女子の着替えを覗いていて。私が思い切り怒ったのを覚えている? エレナのお兄様だとしても、正直、アレはないなと思ったなぁ。うん」
「はぐっ……」
「そんな人がメイドを助けたと言われてもね。何か下心があるんじゃないかとしか、思えないけど?」
ま、まさに正論です。
「……確かにそうかも知れませんね」
「そのメイドにも、気を付けるように言っておいた方が良いじゃないの? 小さい恩を売ってから、過剰な見返りを要求するって、よくある悪人の手口よ。身体を寄越せとか言ってくるわよ、絶対」
「そ、そうですね」
覗き被害に合われたセリカ様は、辛辣でした。
その指摘は至極まっとうで、同意せざるを得ません。
ただ、どうしても腑に落ちない点があります。
あの指輪は、相当に高価な代物でした。
しかも、あの文書。『ヴァイス・シルフィードはティアにルビーの指輪を無償で譲渡する。見返りは一切求めない』。
これをティアに渡したということは、ヴァイス兄様にはセリカ様のおっしゃるような邪《よこしまな》な意図は無いということです。
何より気になるのは……
「……実は、今朝、兄様と喧嘩してしまったのですが、あっさりとあしらわれました」
「へっ?【栄光なる席次】ナンバー3のエレナが?」
セリカ様は呆気に取られました。
「はい、これは紛れもない事実です」
魔族の侵攻からこのローランド王国を守る騎士を育成するグロリアス騎士学園は、強さを絶対視し、生徒同士を自主的に切磋琢磨させるシステムを導入しています。
それが全校生徒を強さによって順位付けする【栄光なる席次】です。
「も、もしですよ? もし万が一、兄様が心を入れ替えられ、昔のように真面目に努力されたのなら……【栄光なる席次】ナンバー1を取ることだって、夢ではないと思います」
「は、はぇ? そ、そこまで言っちゃう?」
「はい。あの状況で的確な魔法を使って、私を傷つけることなく無力化する。恐ろしいほど冷静な判断力です」
それは歴戦の戦士にすら、難しいことです。
「戦闘において何よりも重要なのは、恐怖や焦りに囚われることなく、正しい判断を下せることです。真の強者しか、その境地には達せません」
今まで口に出したことはありませんでしたが、私はいつか昔の兄様に戻って欲しいと、ずっと願ってきました。
それが今朝、かつて神童と謳われていた頃以上の才能の片鱗を見せて下さったのです。
思わず期待に胸が高鳴ってしまいます。
「……う、う~ん。残念だけど、ヴァイス君が腐った原因は有名だよね? 速さを至上とするシルフィード伯爵家の風魔法とは相性最悪の『重くなる』スキルを授かったせいだって」
「そ、それは……」
セリカ様は、私を慰めるように肩を叩きました。
「学園最下位の彼に、3位のエレナを追い越すなんて期待をかけるのは、残酷だと思うけどな」
「うぐッ……」
「なにより、私はエレナには期待しているのよ。エレナが男子たちを蹴散らして、ナンバー1になってくれれば、私は婚約させられなくて済むんだし!」
「あっ」
私はうかつなことを言ってしまったと、自分を恥じました。
「……お任せください。我が家名にかけて、【栄光なる席次】ナンバー1の座を手に入れてみせる所存です」
「やった! エレナってば、凛々しくてカッコいい! もう好き好き!」
セリカ様は、はしゃいで私に抱き着きました。
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10歳の時【剣聖】のスキルを授かった私は、国王陛下より直々に、セリカ様の友人兼護衛になって欲しい、と頼まれました。
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