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3章。国王との決戦

44話。王女姉妹の対決

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「猫耳! 私にひっつきなさい!」

「わわっ!? なにするんですか、イルティアさん!?」

 地上では、イルティアが獣人少女フィナを抱き寄せていた。

「決まっているでしょうが。私の魔力を回復させてルカ様を援護するのよ! ルディアお姉様ごときの好きにはさせないわ!」

 かつての王宮では、イルティアは優秀な姉ルディアのスペアに過ぎなかった。

 双子の姉は、剣も魔法も、あらゆる面でイルティアを上回っていた。

 だが、それも昔の話。イルティアは勇者となり、魔王の軍勢と戦ったのだ。二年前に死んだルディアよりもレベルアップし、魔法の腕前も世界最高峰に達したと自負している。

 何よりルカの配下となったことで、イルティアは大幅なパワーアップを果たしていた。

 姉の死体から生み出された最強のアンデット軍団だろうと、遅れを取るつもりはない。

「は、はい! そういうことなら! フィナはもう一日中でも、イルティアさんに引っ付いています!」

「そうよ。あんたの良いところは、他人の魔力を回復できることなんだから! この私の力となれて光栄に思いなさい!」

 フィナと密着したことで、消耗したイルティアの魔力が回復していく。
 イルティアは声を張り上げた。

「聖騎士ども! 私とミリアを中心に円陣を組みなさい! 盾となって私たちを死守するのよ! これからアークデーモンを召喚して、召喚して、召喚しまくるわ!」
 
「……な!?」

 聖騎士の少女たちは驚き、戸惑う。

「お待ちなさいイルティア殿。あなたはルカ王女殿下より、ミリア様の護衛を任されたに過ぎなくてよ?
 聖騎士団の指揮は、団長が不在の今、一番隊隊長のこのアンジェラが執るのが道理ですわ!」

「そうよ、そうよ! 大罪人が、私たちに命令するなんて何様のつもり!?」

 一部の少女たちから、猛烈な反発があがった。彼女らの顔には嫌悪が浮かんでいる。

「はぁ? 私はルカ様のお助けするだけじゃなくて、お前たちまで守ってやろうと言っているのよ!」 

 イルティアは舌打ちして、少女たちを睨みつけた。

「ちょっと待ってください、みなさん! 確かにイルティアさんは大罪人で、どうしようもないほど根性がひん曲がっているかも知れませんが……! みんなが助かったのは、イルティアさんのおかげですよ!?」

 フィナが血相を変えてイルティアを弁護する。

「イルティアさんの召喚獣が、お空の島をうんしょうんしょしてくれたから。ルカ姫様の【滅龍聖矢(ゲオルギウス)】が間にあったんじゃないですか!?」

「でも隊長! ソイツは街をめちゃくちゃにした魔王の手先で……隊長だって、そいつのおかげで大怪我をしたんですよ!」

 フィナの配下である獣人少女からも、イルティアを非難する声が上がった。

「今はそんなことを言っている場合じゃないです! みんなで力を合わせなければ、国王様には……あの羽根生やしたナンタラ騎士団には、絶対に勝てないですよ!」

 フィナは両手を振って力説する。

「フィナはバカだから難しいことはよくわかりませんが。ルカ姫様は、街とミリア様を守るように言われました!
 ならそのために最善を尽くすのが、フィナたちの務めじゃないですか!?」

 正論に少女たちは、押し黙った。
 内輪もめをしている状況にないこと。最善手を模索しなければ、最悪、都市ごと全滅することは、誰もが理解しているのだろう。

「良く言ったわ猫耳! ルディアお姉様が例え500人いようが、5000人いようが、ルカ様の第一の家臣である私の敵じゃないことを証明してやるわ!」

 イルティアは地上に展開した魔法陣から、屈強な悪魔たちを鬼のような勢いで召喚する。
 空を飛ぶ天魔騎士団に対抗するには、最良の召喚獣だ。

「猫耳じゃなくて、フィナはフィナですよ、イルティアさん! フィナって呼んで下さい!」

「わかったわ、フィナ。特別に私が名前で呼ぶ名誉を与えてやるわよ」

「うわっ~。イルティアさんて、本当に根性がひん曲がってますね。そんなんだから、友達がいないんですよ。かわいそうだから、フィナが友達になってあげます!」

「はぁ!? 別に友達とか要らないし……!」

 イルティアとフィナのやり取りを見ていたアンジェラが、ため息混じりに口を開いた。

「……わかりましたわ。召喚師がやられたら、召喚獣はすべて消えてしまいますものね。腹立たしいですが、これもルカ様のため……聖騎士団はあなたを守ってやりますわ!
 その代わり、ルカ様の援護をなんとしても成功させますのよ!」

「もちろんよ!」

 アークデーモンたちが、天魔騎士団の迎撃に飛び立った。

※※※※

 ボクたちに魔法攻撃を浴びせていた天魔騎士団が、突然、大爆発に呑まれた。

「あれは、イルティアの召喚した悪魔!?」

 黒い巨体の群れが飛翔してきて、天魔騎士団に爆裂魔法を次々に叩き込む。
 天魔騎士たちは、魔法詠唱を邪魔されて、ボクたちへの攻撃が途切れた。

「フェリオ、チャンスだ! 振り切れ!」

『わかった!』

 ボクたちは、そのすきに最大スピードで、空中都市に向かって飛ぶ。
 天魔騎士が追撃してくるが、アークデーモンたちが割って入って、足止めしてくれた。

『なに!? おのれ、イルティア。貴様ごときが、ルディアに……余の天魔騎士団にかなうと思ったか!?』

『ルカ様。ここは私に任せてお進みください! お父様! ルディアお姉様! 残念だけど、ルカ様もオーダンも好きにはさせないわよ』

 イルティアの大声がアークデーモンを通して天空に鳴り響いた。

『いつまでも、昔の私とは思わないことね。ルカ様の第一の家臣であるこの私、勇者イルティアが相手になってやるわ!』
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