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2章。500人の美少女から溺愛される

36話。剣聖の奥義書

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「まあまあ。それじゃ、ルーくん。今日は晩御飯を一緒に食べていってくれるの? ミリアちゃんもご一緒に?」

 領主を「ちゃん付け」する母さん。これは、家族として早くも認めたということだ。

 問題ないかも知れないが、適応力が高すぎだろう。
 昔から母さんは、おおらかで天然だった。

「はい! お母様! 今のところ国王軍が攻めてくる気配はありませんし、御馳走になりたいと思います!」

 ミリアが元気良く答える。

 ボクたちは家に入って、テーブルを囲っていた。
 テーブルに置かれた皿には、コレットが用意してくれた鶏の唐揚げが、こんもり盛られている。

「そーだよ! 食べて行ってよ、お兄ちゃん! まだまだいっぱい作るから!」

 鶏の唐揚げはボクの大好物だ。
 ボクがいつ帰ってきても良いように、妹は毎日、唐揚げを作って待っていてくれたらしい。 
 ありがたくて目頭が熱くなる。

「ううん、うまいっ! もちろん、そのつもり」

 公爵家で出される贅沢な料理もおいしいが、実家の食卓の方が落ち着く。
 今日までの精神的疲労が洗い流されていくようだ。

「それにしてもルカ。いきなり店が王女様の御用商人に指名されて、ハイポーション1000個の注文が来たのには驚いたぞ」

 父さんが、上機嫌でお茶をすすりながら言う。

「そうそう。王女様の聖騎士だっていう、かわいい女の子たちがいっぱい来て、ポーションを買っていくから。お父さんが鼻の下を伸ばしちゃってね」

「ルーくんのおかげで、お店がにぎわって大助かりよ! でも、すぐに在庫がなくなちゃって。これからお父さんには死ぬ気でポーション作りをしてもらわなくちゃならないわ」

 母さんは笑顔だが、父さんを見る目が冷たい。

 父さんは、おおかた聖騎士の女の子たちに良い格好をしようと、気前良く割引などしたんだろうな。

「回復薬は戦に絶対に必要だから、父さん悪いけど頼んだよ」

「息子に頼りにされちゃ、張り切るしかないな」

 父さんは力強く頷いた。
 戦いに必要な物資の調達も急務だった。 
 北側諸侯からの支援物資が届いているが、回復薬は怪我人が大勢出たこともあって、まだ十分な量とは言えない。

「とこでお兄ちゃん、ミリア様とはホントにどういう関係なの?」 

「良くぞ聞いてくれたわ。結婚を前提に妹として、お付き合いしているのよ!」

 コレットの疑問に、ミリアが代わりに答えた。コレットは目をまたたく。

「そ、それは、どういう意味でしょう? 女の子同士なのに、結婚ですか?」
 
「私はお姉様の身体じゃなくて、魂を愛しているの。例えお姉様がお姉様でなくなったとしても。どのようなお姿になったとしても、私はルカお姉様を生涯愛するわ!」

 ミリアが胸を張って誇らしげに宣言した。

「ま、まだ、ミリアと結婚すると決まったわけじゃないから」

「そ、そうだよね。いくら何でも身分違いだもんね……!」

 ボクの言葉にコレットの顔が、ぱっと明るくなる。

「あら? でも、ルーくんが王女様なら身分は釣り合うのじゃないかしら?」

「さすがは、お母様!」

 ミリアは、我が意を得たとばかりに、母さんの手を握って叫ぶ。

「同性であることは何の障害にもなりません! 私とルカお姉様の結婚式には、お母様もお父様もコレットちゃんも、みんな列席してお祝いくださいね!」

「おっ、おう……」

「気が早すぎる!」

 ボクがツッコミを入るのと、通信魔法による緊急連絡が届いたのは、ほぼ同時だった。
 頭の中にイルティアの声が響く。

『ご歓談中、申し訳ありません! エリザが、ルカ様のお姿が屋敷のどこにも見えないと、大騒ぎしています!』
 
「なっ!? なんとか時間を稼げないか!?」

 ボクは仰天して応える。
 イルティアには王女の衣装を着てもらい、ボクを演じてもらっていた。  
 
『演技がバレて、エリザに詰め寄られてまして。ごまかすのが、もう限界です!』

 ボクとイルティアでは、性格が違い過ぎるし、ちょっとした所作にもイルティアには気品がある。

 事情を知っているエリザの目を長時間あざむくのは、難しかったようだ。

 ボクの頭の中に、エリザからの念話のコールが鬼のように連続して響く。
 個人間の通信魔法は双方の合意がないと、やり取りできない。ボクはエリザからの着信を拒否して告げた。

「そ、そうだ。エリザに嘘の居場所を伝えるとか……ボクは街にエロ本を買いに行っているから、探さないで欲しいとか!?」

『はあっ!? エロ本!? ルカ様のご命令であれば、そ、そのように伝えますが……私とルカ様の品位が疑われます!』

 ものすごく嫌そうな感情が伝わってきた。

『え、エリザ。お、落ち着いて聞きなさい。偉大なる我が主は、そ、そのエ、エ、エ……!』

 全身を屈辱と羞恥に震わせるイルティアの言葉が、そのまま伝わってくる。
 ものすごく悪質なセクハラをしている気分になったので、慌ててやめさせた。

「わかった! それは言わなくていい! 日が暮れるまでには帰るとエリザに伝えて!」

『はっ!』

 通信が切れる。
 ボクを全員が、呆然と見つめていた。

「ごめん母さん。できれば晩御飯を食べて行きたかったんだけど。連絡があって。近衛騎士団長が心配しているみたいだから」

「私もお母様の手料理をいただきたかったのですが。仕方ないですね、お姉様」

 ミリアも残念そうに肩を落とす。

「そ、そう。残念だけど、王女様って大変なのね。それじゃ、お土産を用意しなくちゃね。お父さん、あれを……」

「ああっ」

 母さんと父さんが、目配せし合う。
 なにか、思い詰めたような空気を感じた。
 どうしたんだろう?

 父さんが別室に向かい、書物を手にして戻ってきた。

「ルカ、お前が剣の道を極めるつもりなら、渡して欲しいと頼まれていたものだ。帰って読んでみるとよい」

 手渡された本の表紙には『破神流奥義書』と書かれていた。

「……これは何?」

「ルーくんの剣の師匠。母さんの兄さんから預けられていたものよ。きっとルーくんの力になってくれると思わ」
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