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1章。機神の錬金術師ヘルメス
1話。幼馴染の聖女から追放される
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「ロイ、あんたはもう私には必要ないわ。追放よ!」
その日、俺は食堂で、相棒の聖女ティアから追放宣言を受けた。
思わず手に持ったフォークを落としそうになる。
俺とティアは幼馴染だ。ふたりで冒険者パーティを作って、これまでずっと一緒にやってきた。
ティアは誰もが振り返るほどの16歳の美少女だ。勝ち気な青い瞳で、俺を見下している。
「ちょ、ちょっと待ってよ。どうして、俺が追放なんだ?」
「はぁ~~、あんたバカァ? 私は大錬金術師ヘルメス様との婚約が決まったの。その私の相棒が、あんたみたいな魔法も満足に使えないカスだと知れたら、私の価値が下がるじゃない?」
ティアは小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「えっ……つ、つまりはヘルメスと婚約するために、俺が邪魔だと?」
あまりのショックに俺は目まいを覚えた。3年前にパーティーを結成した時は、例え何があっても助け合っていこうと約束したのに。
「そういうことよ。あんたとは兄妹同然の幼馴染みだから、今まで我慢して面倒を見てきてやったけど、もうここまでね。聖女の私と、あんたみたいな荷物持ちしか能が無いクソゴミとでは、住んでいる世界が違うのよ!」
ティアは美しい顔を傲慢に歪めた。
ティアは稀有な聖魔法の才能に恵まれ、聖女と讃えられた。
そのため、ティアはすっかり天狗になって、最近では俺をバカにするようになっていた。
子供の頃は聖魔法で、俺の怪我を治してくれた心の優しい少女だった。そんなティアを俺は好きなり、いつかまた元の彼女に戻ってくれると信じていたんだけどな……
「俺は荷物持ちの他に、索敵やタンク役もこなして、ティアを助けてきたつもりだったけど……俺は必要無かったのか?」
「はっ、バカね。そんなのAランクのレンジャーを雇えば良いだけの話でしょう? お金なら、もうたくさんあるのよ。今まで、お義理で付き合ってやってたんだから、感謝しなさいよね!」
ティアは俺に罵声を浴びせると、懐から銀色の板を取り出す。それに愛おしそうに頬擦りした。
「ああっ、このヘルメス様が開発したタブレット型スタッフ【クリティオス5】は最高だわ。魔法増幅率はなんと250%と過去最高! 遠く離れた人と通話ができる機能もあるし、デザインもこのメタリックな感じがカッコいいのよね!」
ティアは最近購入した新型スタッフに夢中だった。
スタッフとは、魔法を発動するのに必要な魔法使いの杖のことだ。
錬金術師ヘルメスは、6年前にこれをポケットに入れられるくらいの板状にデザインチェンジし、世界に衝撃を与えた。
それまでは、魔法を使うには詠唱を必要としたが、【クリティオス】を使えば無詠唱で魔法が使えるようになり、爆発的に普及した。
「それは失敗作なんだけどな。新しく搭載した通話機能だけど……魔力バッテリーの持ちが悪くて、すぐに魔力切れを起こして使えなくなるし。結局、『魔法が使えない人にも最高の通信環境を』というコンセプトを実現できていない」
「はぁ!? あんたにこの偉大な【クリティオス5】の何がわかるの!? 私のヘルメス様をバカにする気!? クソ錬金術オタクごときが!?」
ティアは声を荒らげてテーブルを叩いた。
「い、いや、そんなつもりは無かったのだけど……」
俺はスタッフ開発に、強いこだわりを持っている。その理想に届いていないのが許せなくて、ついつい口走ってしまった。
俺はティアにずっと秘密にしてきたことがある。
これは国王陛下から口止めされていることなんだけど、ティアとは国王陛下の薦めで婚約が決まった訳だし……俺も昔より、はるかに力をつけた。もう言っても構わないと思う。
「実は、俺がその【クリティオス】を開発した錬金術師のヘルメスなんだ」
「はぁっ……?」
ティアは呆気に取られた。
「……ロイ、あ、あんた私にケンカ売っているわけ? あんたが私の憧れのヘルメス様なわけないでしょう!? これはヘルメス様への最大の侮辱だわ!」
「いや、事実なんだよ。俺は魔法の詠唱が致命的に苦手だから、無詠唱で魔法を発動できる新型スタッフ【クリティオス】を開発したんだ」
錬金術師ヘルメスは俺の裏の顔だ。
俺は生まれつき魔法の発動速度が遅くて、魔法が満足に使えなかった。
それを補うために、8年前、ちょうど8歳のころに新型スタッフ【クリティオス】を発明した。
俺の父さんは宮廷錬金術師だった。父さんから画期的な発明だと絶賛され、王国軍で採用されることになった。
だけど、悲劇が起きた。
俺の存在を危険視した隣国が、俺を殺害しようとしたのだ。
俺を隣国の暗殺者から守ろうとした両親は死亡し、妹は大怪我を負った。
国王陛下は、俺の存在を他国から守るために、正体を隠すように命じた。そして、表向きは俺は死んだことになり、別人に成りすました。
こうして、すべてが謎に包まれた錬金術ヘルメスが生まれたのだ。
俺は本来の黒瞳を、魔法で碧眼に変えられた。
さらに身寄りの無い子供として、聖職者だったティアの両親に預けられた。
「それに俺は、ティアの能力をバフ魔法で底上げしていたんだ。俺抜きにダンジョン攻略なんかしたら、ティアはトンデモナイ目に合うぞ」
バフは魔法が苦手な俺の唯一の取り柄だ。
これだけは人並み以上に使えるように、8年間鍛えてきた。
すべてはティアを陰ながら守るため、もう二度と悲劇を繰り返さないためだ。
「バカじゃないの? ヘルメス様の【クオリティオス】を使っても魔法の発動に3秒もかかるようなクソ落ちこぼれが、ヘルメス様を騙るなんて!? しかもバフで私を支援ですって!?」
ティアは大激怒した。
「い、いや、でも国王陛下の仲介で、俺たちは結婚するわけだし、今のうちに俺の正体を知っておいてもらった方が良いかなって……」
国王陛下は俺がティアのことが好きなことを知ると、気を回して錬金術ヘルメスと聖女ティアの婚約を取りはからってくれた。
「まだそんなことを言うわけ!? ロイの分際で! 私があんたと結婚する訳ないじゃない。絶対にお断りだわ!」
「えっ、いやでも……俺はティアを守るため、ずっとがんばってきて……もう正体を明かしても問題無い力を手に入れたんだ」
「はぁ!? 何妄想を垂れ流しているのよ、正体ですって!? バカじゃないの! もう顔も見たくないわ!」
ティアはテーブルに食事代を乱暴に叩きつけた。
「ちょっと待って、証拠となる品を出すから……!」
「うるさい!」
ティアは呆然自失とする俺を置いて走り去った。
俺は幼馴染みのティアから追放された上に、こっぴどく振られることになった。
『私があんたと結婚する訳ないじゃない』
という絶望的な一言が、いつまでも脳内に反響していた。
「……そうか。ティアはそんなに俺のことが嫌いだったのか……はははっ」
がっくりとしてしまう。
それにしても、ヒドイ言い草だった。
ティアが昔の彼女に戻ってくれることを期待していたなんて、バカみたいだ。俺の好きになった女の子は、もう記憶の中だけの存在だったのだ。
……クソっ、辛い現実だけど、なんとか受け止めなくちゃな。
俺はポケットから、【クリティオス・カスタム】を取り出す。俺が自分専用にカスタムチューンアップした特別なタブレット型スタッフだ。
ティアが待ってくれれば、これを俺がヘルメスである証拠として見せようとした。
画面をタップして、国王陛下に魔法回線を繋ぐ。
ワンコールで繋がり、恐縮した様子の国王陛下の映像が、空中に映し出された。秘密保持のため、国王陛下の音声と映像は、俺にしか見聞きできないように設定されている。
『これはヘルメス様、いかがされましたでしょうか?』
「……実はティアから、俺とは絶対に結婚したくないと言われたんです。残念ですが、彼女の気持ちを尊重して、俺は身を引こうと思います」
『そ、それはどういうことでありましょうか? 聖女ティアはヘルメス様の大の信奉者。ヘルメス様と結婚できるなんて夢みたいだと喜んでおりましたが……』
ヘルメスの正体が、俺だと知られたら幻滅されるだけだろう。
二度も振られるのは、ごめんだ。
「……とにかくそういうことですので、ティアとの婚約は破棄したいと思います。国王陛下からティアに俺との婚約破棄を伝えてください。よろしくお願いします」
『わ、わかりました......! 我が国に絶大なる貢献をしておられるヘルメス様がそうおっしゃるなら!』
国王陛下は慌てて頷いた。
『おのれ、聖女め。ヘルメス様のご不興を買うとは、ゆ、許し難し……!』
国王陛下は怒り心頭で魔法回線を切った。
あとで、ティアが何か不利益を被らないように国王陛下にフォローしておくべきかも知れない。
だけど、今はとにかく精神的に参ってしまった。まずは宿に荷物を取りに帰ろう。今日からは、ティアと別行動だ。はぁ~。
そう肩を落として、食堂を出た時だった。
ドドオオオオォォン――ッ!
突如、目の前で大爆発が起こり、家屋が吹っ飛んだ。噴き上がった爆炎に照らされたのは、巨大なドラゴンだ。
「ひぎゃあああ!?」
人々が悲鳴を上げて、逃げ惑う。
なっ、そんなバカな……ここは外壁に囲まれた街中だぞ。
こんな最強クラスのモンスターが突然現れるなんて、絶対にあり得ない。
「いやぁぁあああっ!」
ティアの悲鳴が響き渡った。
まさか、まだ近くにいたのか。慌てて悲鳴が聞こえた方向に走って、彼女を探す。
「た、助けてヘルメス様ぁああ!」
尻餅をついたティアを、ドラゴンが見下ろしていた。まさか、ドラゴンはティアを狙っているのか?
仕方がない。これを使うには王国政府の許可が本来なら必要だけど、迷っている暇はない。
懐から【クリティオス・カスタム】を取り出して、緊急チャンネルを開いた。
「こい! 機神ドラグーン!」
『応(おう)!』
俺はドラゴンを元に開発した究極の決戦兵器を召喚した。
その日、俺は食堂で、相棒の聖女ティアから追放宣言を受けた。
思わず手に持ったフォークを落としそうになる。
俺とティアは幼馴染だ。ふたりで冒険者パーティを作って、これまでずっと一緒にやってきた。
ティアは誰もが振り返るほどの16歳の美少女だ。勝ち気な青い瞳で、俺を見下している。
「ちょ、ちょっと待ってよ。どうして、俺が追放なんだ?」
「はぁ~~、あんたバカァ? 私は大錬金術師ヘルメス様との婚約が決まったの。その私の相棒が、あんたみたいな魔法も満足に使えないカスだと知れたら、私の価値が下がるじゃない?」
ティアは小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「えっ……つ、つまりはヘルメスと婚約するために、俺が邪魔だと?」
あまりのショックに俺は目まいを覚えた。3年前にパーティーを結成した時は、例え何があっても助け合っていこうと約束したのに。
「そういうことよ。あんたとは兄妹同然の幼馴染みだから、今まで我慢して面倒を見てきてやったけど、もうここまでね。聖女の私と、あんたみたいな荷物持ちしか能が無いクソゴミとでは、住んでいる世界が違うのよ!」
ティアは美しい顔を傲慢に歪めた。
ティアは稀有な聖魔法の才能に恵まれ、聖女と讃えられた。
そのため、ティアはすっかり天狗になって、最近では俺をバカにするようになっていた。
子供の頃は聖魔法で、俺の怪我を治してくれた心の優しい少女だった。そんなティアを俺は好きなり、いつかまた元の彼女に戻ってくれると信じていたんだけどな……
「俺は荷物持ちの他に、索敵やタンク役もこなして、ティアを助けてきたつもりだったけど……俺は必要無かったのか?」
「はっ、バカね。そんなのAランクのレンジャーを雇えば良いだけの話でしょう? お金なら、もうたくさんあるのよ。今まで、お義理で付き合ってやってたんだから、感謝しなさいよね!」
ティアは俺に罵声を浴びせると、懐から銀色の板を取り出す。それに愛おしそうに頬擦りした。
「ああっ、このヘルメス様が開発したタブレット型スタッフ【クリティオス5】は最高だわ。魔法増幅率はなんと250%と過去最高! 遠く離れた人と通話ができる機能もあるし、デザインもこのメタリックな感じがカッコいいのよね!」
ティアは最近購入した新型スタッフに夢中だった。
スタッフとは、魔法を発動するのに必要な魔法使いの杖のことだ。
錬金術師ヘルメスは、6年前にこれをポケットに入れられるくらいの板状にデザインチェンジし、世界に衝撃を与えた。
それまでは、魔法を使うには詠唱を必要としたが、【クリティオス】を使えば無詠唱で魔法が使えるようになり、爆発的に普及した。
「それは失敗作なんだけどな。新しく搭載した通話機能だけど……魔力バッテリーの持ちが悪くて、すぐに魔力切れを起こして使えなくなるし。結局、『魔法が使えない人にも最高の通信環境を』というコンセプトを実現できていない」
「はぁ!? あんたにこの偉大な【クリティオス5】の何がわかるの!? 私のヘルメス様をバカにする気!? クソ錬金術オタクごときが!?」
ティアは声を荒らげてテーブルを叩いた。
「い、いや、そんなつもりは無かったのだけど……」
俺はスタッフ開発に、強いこだわりを持っている。その理想に届いていないのが許せなくて、ついつい口走ってしまった。
俺はティアにずっと秘密にしてきたことがある。
これは国王陛下から口止めされていることなんだけど、ティアとは国王陛下の薦めで婚約が決まった訳だし……俺も昔より、はるかに力をつけた。もう言っても構わないと思う。
「実は、俺がその【クリティオス】を開発した錬金術師のヘルメスなんだ」
「はぁっ……?」
ティアは呆気に取られた。
「……ロイ、あ、あんた私にケンカ売っているわけ? あんたが私の憧れのヘルメス様なわけないでしょう!? これはヘルメス様への最大の侮辱だわ!」
「いや、事実なんだよ。俺は魔法の詠唱が致命的に苦手だから、無詠唱で魔法を発動できる新型スタッフ【クリティオス】を開発したんだ」
錬金術師ヘルメスは俺の裏の顔だ。
俺は生まれつき魔法の発動速度が遅くて、魔法が満足に使えなかった。
それを補うために、8年前、ちょうど8歳のころに新型スタッフ【クリティオス】を発明した。
俺の父さんは宮廷錬金術師だった。父さんから画期的な発明だと絶賛され、王国軍で採用されることになった。
だけど、悲劇が起きた。
俺の存在を危険視した隣国が、俺を殺害しようとしたのだ。
俺を隣国の暗殺者から守ろうとした両親は死亡し、妹は大怪我を負った。
国王陛下は、俺の存在を他国から守るために、正体を隠すように命じた。そして、表向きは俺は死んだことになり、別人に成りすました。
こうして、すべてが謎に包まれた錬金術ヘルメスが生まれたのだ。
俺は本来の黒瞳を、魔法で碧眼に変えられた。
さらに身寄りの無い子供として、聖職者だったティアの両親に預けられた。
「それに俺は、ティアの能力をバフ魔法で底上げしていたんだ。俺抜きにダンジョン攻略なんかしたら、ティアはトンデモナイ目に合うぞ」
バフは魔法が苦手な俺の唯一の取り柄だ。
これだけは人並み以上に使えるように、8年間鍛えてきた。
すべてはティアを陰ながら守るため、もう二度と悲劇を繰り返さないためだ。
「バカじゃないの? ヘルメス様の【クオリティオス】を使っても魔法の発動に3秒もかかるようなクソ落ちこぼれが、ヘルメス様を騙るなんて!? しかもバフで私を支援ですって!?」
ティアは大激怒した。
「い、いや、でも国王陛下の仲介で、俺たちは結婚するわけだし、今のうちに俺の正体を知っておいてもらった方が良いかなって……」
国王陛下は俺がティアのことが好きなことを知ると、気を回して錬金術ヘルメスと聖女ティアの婚約を取りはからってくれた。
「まだそんなことを言うわけ!? ロイの分際で! 私があんたと結婚する訳ないじゃない。絶対にお断りだわ!」
「えっ、いやでも……俺はティアを守るため、ずっとがんばってきて……もう正体を明かしても問題無い力を手に入れたんだ」
「はぁ!? 何妄想を垂れ流しているのよ、正体ですって!? バカじゃないの! もう顔も見たくないわ!」
ティアはテーブルに食事代を乱暴に叩きつけた。
「ちょっと待って、証拠となる品を出すから……!」
「うるさい!」
ティアは呆然自失とする俺を置いて走り去った。
俺は幼馴染みのティアから追放された上に、こっぴどく振られることになった。
『私があんたと結婚する訳ないじゃない』
という絶望的な一言が、いつまでも脳内に反響していた。
「……そうか。ティアはそんなに俺のことが嫌いだったのか……はははっ」
がっくりとしてしまう。
それにしても、ヒドイ言い草だった。
ティアが昔の彼女に戻ってくれることを期待していたなんて、バカみたいだ。俺の好きになった女の子は、もう記憶の中だけの存在だったのだ。
……クソっ、辛い現実だけど、なんとか受け止めなくちゃな。
俺はポケットから、【クリティオス・カスタム】を取り出す。俺が自分専用にカスタムチューンアップした特別なタブレット型スタッフだ。
ティアが待ってくれれば、これを俺がヘルメスである証拠として見せようとした。
画面をタップして、国王陛下に魔法回線を繋ぐ。
ワンコールで繋がり、恐縮した様子の国王陛下の映像が、空中に映し出された。秘密保持のため、国王陛下の音声と映像は、俺にしか見聞きできないように設定されている。
『これはヘルメス様、いかがされましたでしょうか?』
「……実はティアから、俺とは絶対に結婚したくないと言われたんです。残念ですが、彼女の気持ちを尊重して、俺は身を引こうと思います」
『そ、それはどういうことでありましょうか? 聖女ティアはヘルメス様の大の信奉者。ヘルメス様と結婚できるなんて夢みたいだと喜んでおりましたが……』
ヘルメスの正体が、俺だと知られたら幻滅されるだけだろう。
二度も振られるのは、ごめんだ。
「……とにかくそういうことですので、ティアとの婚約は破棄したいと思います。国王陛下からティアに俺との婚約破棄を伝えてください。よろしくお願いします」
『わ、わかりました......! 我が国に絶大なる貢献をしておられるヘルメス様がそうおっしゃるなら!』
国王陛下は慌てて頷いた。
『おのれ、聖女め。ヘルメス様のご不興を買うとは、ゆ、許し難し……!』
国王陛下は怒り心頭で魔法回線を切った。
あとで、ティアが何か不利益を被らないように国王陛下にフォローしておくべきかも知れない。
だけど、今はとにかく精神的に参ってしまった。まずは宿に荷物を取りに帰ろう。今日からは、ティアと別行動だ。はぁ~。
そう肩を落として、食堂を出た時だった。
ドドオオオオォォン――ッ!
突如、目の前で大爆発が起こり、家屋が吹っ飛んだ。噴き上がった爆炎に照らされたのは、巨大なドラゴンだ。
「ひぎゃあああ!?」
人々が悲鳴を上げて、逃げ惑う。
なっ、そんなバカな……ここは外壁に囲まれた街中だぞ。
こんな最強クラスのモンスターが突然現れるなんて、絶対にあり得ない。
「いやぁぁあああっ!」
ティアの悲鳴が響き渡った。
まさか、まだ近くにいたのか。慌てて悲鳴が聞こえた方向に走って、彼女を探す。
「た、助けてヘルメス様ぁああ!」
尻餅をついたティアを、ドラゴンが見下ろしていた。まさか、ドラゴンはティアを狙っているのか?
仕方がない。これを使うには王国政府の許可が本来なら必要だけど、迷っている暇はない。
懐から【クリティオス・カスタム】を取り出して、緊急チャンネルを開いた。
「こい! 機神ドラグーン!」
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