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19話。弟アルフレッドを断罪する
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弟アルフレッドのバカ笑いが響いてきたのは、その時だった。
「ヒャッハー! 腐ってもウィンザー公爵家の長男だってか!? なかなか優秀な手駒を揃えているようじゃねぇか兄貴ぃいいい!」
空を飛んで現れたのは、ライオンの頭とコウモリの翼、蛇の尻尾を持った魔獣キメラだった。
その背には、アルフレッドがまたがっている。
「ってもよぉ! パラケルススの遺産であるこの【魔槍レヴァンティン】を俺様が持っている限り、偽物のヴァリトラなんざ目じゃねぇけどな、ギャハハハッ!」
アルフレッドは赤い魔槍を誇らしげに投げ放った。
ドォオオオオオオオオン!
それはサイクロップスの一体に命中して、腕を吹き飛ばす。
「ぎゃあああああッ!?」
「およ!? ちっとコントロールをミスったが、やっぱりすげぇええ威力だぜ!」
魔槍は、悦に入るアルフレッドの手元に戻っていった。
「みんな下がれ! アルフレッドは、僕とティニーが相手をする!」
「はっ! ご領主様。ご武運を!」
ウィンザー公爵家が自慢とするキメラは軍用に開発されたSランクの魔獣だ。下手に相手をすれば死傷者が続出するため、僕はすぐに他の仲間を下がらせた。
サイクロップスもエリクサーで治療すれば、命に別状は無いだろう。
「それにしても、パラケルスス遺産だって?」
一瞬、驚いたもののその槍には見覚えがあった。
なにより、あの命中精度の悪さと、持ち主の元に戻ってくる機能は……
「……もしかすると。あの槍は【魔槍レヴァンティン】の試作品じゃないか?」
「そのようですね。兄様が投げて、失くしてしまった魔槍を探し出したみたいです」
僕の問いかけにティニーが頷く。
立ち入り禁止区域である守護竜ヴァリトラの住処でなら、魔槍の実験ができると思って、持ち込んだんだよな。
紛失してしまったソレを、まさかパラケルススの遺産だと勘違いしているのか?
「どうだ、ビビったか!? こいつはドラゴンの鱗すら簡単に貫く、最強無敵の武器だぜぇええ!」
僕が呆れているのを、アルフレッドは恐怖したと受け取ったらしい。ますます調子に乗って魔槍を自慢した。
「さらには、ウィンザー公爵家の誇る錬金術を結集して造った魔獣キメラ! ヒャハハハハ! 万が一にもてめぇに勝ち目がねぇことがわかったか!?」
「……呆れましたね。あの程度の魔獣と、試作品の魔槍で兄様に挑むとは。いっそ、憐れみを感じます」
ティニーがため息をつく。
「あっ? その偽物のヴァリトラは女の声でしゃべるのか? やっぱり、幻覚の魔法か何かでヴァリトラ様そっくりに見せかけてやがるんだな!? 見破ったぜぇええ!」
守護竜ヴァリトラはこれまで人語をしゃべったことがなかったので、アルフレッドは盛大に勘違いしているようだった。
「土下座しろ兄貴ぃいいい! そしたら、苦しませずに一撃で殺してやるからよぉおおおおッ!」
「その前に質問して良いか? 王国政府がベオグラードの街を滅ぼすと決めたのは本当か?」
「はっ! 俺様の一存よぉ! そうでも言わねぇと、傭兵団のヤツラが首を縦に振らなかったんでな! アヒャヒャヒャ! こんな街なんて滅びても、どこからも文句なんざ出ねぇのによぉおおお!」
その一言で、僕の腹は決まった。この前は、警告を与えるだけで済ませたが、今回ばかりは容赦する訳にはいかない。
「ここには、大勢の罪の無い人たちが暮らしているんだぞ? それがわかっているのか?」
「はぁ? 罪がねぇだ? 寝言は寝てほざけよな兄貴。ここは黒死病に犯されたクソどもの溜まり場だろ? 綺麗さっぱり掃除してやるのが、王国のためってもんだろうが、ヒャッハー!」
アルフレッドが爆笑し、魔獣キメラが火炎を噴射する。
だがティニーが放った冷気の魔法が、火炎を飲み込んで掻き消した。
「……あっ? キメラの炎を消しただと?」
「ここまで堕ちていたとは……アルフレッド。あなたは身内の恥です」
ティニーが怒りをあらわにしていた。
「黒死病は、僕たちの家族であるティニーを奪った憎い敵だ。僕は黒死病にリベンジするためにも、ここに来た。アルフレッド、黒死病に犯されたクソどもと言ったな? お前にとって、ティニーもクソだったのか?」
「ティニーだ……? 5年も前におっ死んだ、クソ雑魚のことをまだ気に病んでやがるのかよ兄貴? はっ! 姉貴は栄光なるウィンザー公爵家に、病原菌を持ち込んだ正真正銘のクソだぜ? もし俺様が黒死病に感染するようなことになっていたら、どうしてくれたんだよ、あっあーん!?」
アルフレッドは嫌悪に顔を歪める。
「……これが、我が弟とは……」
「そうか、良くわかったアルフレッド。ティニーはこの4年間、王国の平和と繁栄のために尽くしてくれていたのにな。僕は例えティニーが、どんな病にかかろうとも、どんな存在に変わろうとも決して見捨てたりしない」
「兄様……ッ!」
ティニーは感極まったような声で僕を呼んだ。
家族に見捨てられる痛みは、僕は誰よりも理解している。だから、僕は最後まで妹を守るんだ。
「兄として、お前を断罪する。王国政府の名を騙って、この街を滅ぼそうとした罪を償ってもらうぞ!」
僕はアルフレッドに挑戦状を叩きつけた。
「ヒャッハー! 腐ってもウィンザー公爵家の長男だってか!? なかなか優秀な手駒を揃えているようじゃねぇか兄貴ぃいいい!」
空を飛んで現れたのは、ライオンの頭とコウモリの翼、蛇の尻尾を持った魔獣キメラだった。
その背には、アルフレッドがまたがっている。
「ってもよぉ! パラケルススの遺産であるこの【魔槍レヴァンティン】を俺様が持っている限り、偽物のヴァリトラなんざ目じゃねぇけどな、ギャハハハッ!」
アルフレッドは赤い魔槍を誇らしげに投げ放った。
ドォオオオオオオオオン!
それはサイクロップスの一体に命中して、腕を吹き飛ばす。
「ぎゃあああああッ!?」
「およ!? ちっとコントロールをミスったが、やっぱりすげぇええ威力だぜ!」
魔槍は、悦に入るアルフレッドの手元に戻っていった。
「みんな下がれ! アルフレッドは、僕とティニーが相手をする!」
「はっ! ご領主様。ご武運を!」
ウィンザー公爵家が自慢とするキメラは軍用に開発されたSランクの魔獣だ。下手に相手をすれば死傷者が続出するため、僕はすぐに他の仲間を下がらせた。
サイクロップスもエリクサーで治療すれば、命に別状は無いだろう。
「それにしても、パラケルスス遺産だって?」
一瞬、驚いたもののその槍には見覚えがあった。
なにより、あの命中精度の悪さと、持ち主の元に戻ってくる機能は……
「……もしかすると。あの槍は【魔槍レヴァンティン】の試作品じゃないか?」
「そのようですね。兄様が投げて、失くしてしまった魔槍を探し出したみたいです」
僕の問いかけにティニーが頷く。
立ち入り禁止区域である守護竜ヴァリトラの住処でなら、魔槍の実験ができると思って、持ち込んだんだよな。
紛失してしまったソレを、まさかパラケルススの遺産だと勘違いしているのか?
「どうだ、ビビったか!? こいつはドラゴンの鱗すら簡単に貫く、最強無敵の武器だぜぇええ!」
僕が呆れているのを、アルフレッドは恐怖したと受け取ったらしい。ますます調子に乗って魔槍を自慢した。
「さらには、ウィンザー公爵家の誇る錬金術を結集して造った魔獣キメラ! ヒャハハハハ! 万が一にもてめぇに勝ち目がねぇことがわかったか!?」
「……呆れましたね。あの程度の魔獣と、試作品の魔槍で兄様に挑むとは。いっそ、憐れみを感じます」
ティニーがため息をつく。
「あっ? その偽物のヴァリトラは女の声でしゃべるのか? やっぱり、幻覚の魔法か何かでヴァリトラ様そっくりに見せかけてやがるんだな!? 見破ったぜぇええ!」
守護竜ヴァリトラはこれまで人語をしゃべったことがなかったので、アルフレッドは盛大に勘違いしているようだった。
「土下座しろ兄貴ぃいいい! そしたら、苦しませずに一撃で殺してやるからよぉおおおおッ!」
「その前に質問して良いか? 王国政府がベオグラードの街を滅ぼすと決めたのは本当か?」
「はっ! 俺様の一存よぉ! そうでも言わねぇと、傭兵団のヤツラが首を縦に振らなかったんでな! アヒャヒャヒャ! こんな街なんて滅びても、どこからも文句なんざ出ねぇのによぉおおお!」
その一言で、僕の腹は決まった。この前は、警告を与えるだけで済ませたが、今回ばかりは容赦する訳にはいかない。
「ここには、大勢の罪の無い人たちが暮らしているんだぞ? それがわかっているのか?」
「はぁ? 罪がねぇだ? 寝言は寝てほざけよな兄貴。ここは黒死病に犯されたクソどもの溜まり場だろ? 綺麗さっぱり掃除してやるのが、王国のためってもんだろうが、ヒャッハー!」
アルフレッドが爆笑し、魔獣キメラが火炎を噴射する。
だがティニーが放った冷気の魔法が、火炎を飲み込んで掻き消した。
「……あっ? キメラの炎を消しただと?」
「ここまで堕ちていたとは……アルフレッド。あなたは身内の恥です」
ティニーが怒りをあらわにしていた。
「黒死病は、僕たちの家族であるティニーを奪った憎い敵だ。僕は黒死病にリベンジするためにも、ここに来た。アルフレッド、黒死病に犯されたクソどもと言ったな? お前にとって、ティニーもクソだったのか?」
「ティニーだ……? 5年も前におっ死んだ、クソ雑魚のことをまだ気に病んでやがるのかよ兄貴? はっ! 姉貴は栄光なるウィンザー公爵家に、病原菌を持ち込んだ正真正銘のクソだぜ? もし俺様が黒死病に感染するようなことになっていたら、どうしてくれたんだよ、あっあーん!?」
アルフレッドは嫌悪に顔を歪める。
「……これが、我が弟とは……」
「そうか、良くわかったアルフレッド。ティニーはこの4年間、王国の平和と繁栄のために尽くしてくれていたのにな。僕は例えティニーが、どんな病にかかろうとも、どんな存在に変わろうとも決して見捨てたりしない」
「兄様……ッ!」
ティニーは感極まったような声で僕を呼んだ。
家族に見捨てられる痛みは、僕は誰よりも理解している。だから、僕は最後まで妹を守るんだ。
「兄として、お前を断罪する。王国政府の名を騙って、この街を滅ぼそうとした罪を償ってもらうぞ!」
僕はアルフレッドに挑戦状を叩きつけた。
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