上 下
19 / 40

19話。弟アルフレッドを断罪する

しおりを挟む
 弟アルフレッドのバカ笑いが響いてきたのは、その時だった。

「ヒャッハー! 腐ってもウィンザー公爵家の長男だってか!? なかなか優秀な手駒を揃えているようじゃねぇか兄貴ぃいいい!」

 空を飛んで現れたのは、ライオンの頭とコウモリの翼、蛇の尻尾を持った魔獣キメラだった。
 その背には、アルフレッドがまたがっている。

「ってもよぉ! パラケルススの遺産であるこの【魔槍レヴァンティン】を俺様が持っている限り、偽物のヴァリトラなんざ目じゃねぇけどな、ギャハハハッ!」

 アルフレッドは赤い魔槍を誇らしげに投げ放った。

 ドォオオオオオオオオン!

 それはサイクロップスの一体に命中して、腕を吹き飛ばす。

「ぎゃあああああッ!?」
「およ!? ちっとコントロールをミスったが、やっぱりすげぇええ威力だぜ!」

 魔槍は、悦に入るアルフレッドの手元に戻っていった。

「みんな下がれ! アルフレッドは、僕とティニーが相手をする!」
「はっ! ご領主様。ご武運を!」

 ウィンザー公爵家が自慢とするキメラは軍用に開発されたSランクの魔獣だ。下手に相手をすれば死傷者が続出するため、僕はすぐに他の仲間を下がらせた。
 サイクロップスもエリクサーで治療すれば、命に別状は無いだろう。

「それにしても、パラケルスス遺産だって?」

 一瞬、驚いたもののその槍には見覚えがあった。
 なにより、あの命中精度の悪さと、持ち主の元に戻ってくる機能は……

「……もしかすると。あの槍は【魔槍レヴァンティン】の試作品じゃないか?」
「そのようですね。兄様が投げて、失くしてしまった魔槍を探し出したみたいです」

 僕の問いかけにティニーが頷く。
 立ち入り禁止区域である守護竜ヴァリトラの住処でなら、魔槍の実験ができると思って、持ち込んだんだよな。
 紛失してしまったソレを、まさかパラケルススの遺産だと勘違いしているのか?

「どうだ、ビビったか!? こいつはドラゴンの鱗すら簡単に貫く、最強無敵の武器だぜぇええ!」

 僕が呆れているのを、アルフレッドは恐怖したと受け取ったらしい。ますます調子に乗って魔槍を自慢した。

「さらには、ウィンザー公爵家の誇る錬金術を結集して造った魔獣キメラ! ヒャハハハハ! 万が一にもてめぇに勝ち目がねぇことがわかったか!?」
「……呆れましたね。あの程度の魔獣と、試作品の魔槍で兄様に挑むとは。いっそ、憐れみを感じます」

 ティニーがため息をつく。

「あっ? その偽物のヴァリトラは女の声でしゃべるのか? やっぱり、幻覚の魔法か何かでヴァリトラ様そっくりに見せかけてやがるんだな!? 見破ったぜぇええ!」

 守護竜ヴァリトラはこれまで人語をしゃべったことがなかったので、アルフレッドは盛大に勘違いしているようだった。

「土下座しろ兄貴ぃいいい! そしたら、苦しませずに一撃で殺してやるからよぉおおおおッ!」
「その前に質問して良いか? 王国政府がベオグラードの街を滅ぼすと決めたのは本当か?」
「はっ! 俺様の一存よぉ! そうでも言わねぇと、傭兵団のヤツラが首を縦に振らなかったんでな! アヒャヒャヒャ! こんな街なんて滅びても、どこからも文句なんざ出ねぇのによぉおおお!」

 その一言で、僕の腹は決まった。この前は、警告を与えるだけで済ませたが、今回ばかりは容赦する訳にはいかない。

「ここには、大勢の罪の無い人たちが暮らしているんだぞ? それがわかっているのか?」
「はぁ? 罪がねぇだ? 寝言は寝てほざけよな兄貴。ここは黒死病に犯されたクソどもの溜まり場だろ? 綺麗さっぱり掃除してやるのが、王国のためってもんだろうが、ヒャッハー!」

 アルフレッドが爆笑し、魔獣キメラが火炎を噴射する。
 だがティニーが放った冷気の魔法が、火炎を飲み込んで掻き消した。

「……あっ? キメラの炎を消しただと?」
「ここまで堕ちていたとは……アルフレッド。あなたは身内の恥です」

 ティニーが怒りをあらわにしていた。

「黒死病は、僕たちの家族であるティニーを奪った憎い敵だ。僕は黒死病にリベンジするためにも、ここに来た。アルフレッド、黒死病に犯されたクソどもと言ったな? お前にとって、ティニーもクソだったのか?」
「ティニーだ……? 5年も前におっ死んだ、クソ雑魚のことをまだ気に病んでやがるのかよ兄貴? はっ! 姉貴は栄光なるウィンザー公爵家に、病原菌を持ち込んだ正真正銘のクソだぜ? もし俺様が黒死病に感染するようなことになっていたら、どうしてくれたんだよ、あっあーん!?」

 アルフレッドは嫌悪に顔を歪める。

「……これが、我が弟とは……」
「そうか、良くわかったアルフレッド。ティニーはこの4年間、王国の平和と繁栄のために尽くしてくれていたのにな。僕は例えティニーが、どんな病にかかろうとも、どんな存在に変わろうとも決して見捨てたりしない」
「兄様……ッ!」

 ティニーは感極まったような声で僕を呼んだ。
 家族に見捨てられる痛みは、僕は誰よりも理解している。だから、僕は最後まで妹を守るんだ。

「兄として、お前を断罪する。王国政府の名を騙って、この街を滅ぼそうとした罪を償ってもらうぞ!」

 僕はアルフレッドに挑戦状を叩きつけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...