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14話。暗殺者集団を壊滅し、素材をゲットする

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 驚いた鳥たちが木々から一斉に飛び立った。
 魔物の王たる巨竜ヴァリトラが出現したのだから無理もない。

「はぁあああっ、す、すごい。これが最強無敵の守護竜ヴァリトラ様!」

 驚嘆するエリスを尻目に、僕はヴァリトラに変身したティニーの背に飛び乗った。

「ティニー、全速力で暗殺者のアジトに向かってくれ!」
「了解です」

 ティニーは身の毛がよだつような咆哮を上げて飛翔する。
 敵のアジトは、ベオグラードの北の森にある廃城だった。

「兄様。幸いなことに、敵拠点は私の支配領域圏です」
「わかった。ティニー、廃城近くの魔物に命令するんだ。『廃城を攻撃せよ』『女性は絶対に傷つけるな』だ」

 刺客が返り討ちにされたことは、通信魔法を通して筒抜けだろう。すぐにでも手を打たないとエリスのお母さんの命が危ない。

「近くにゴブリンの大規模集落があったので向かわせました。足の早い飛竜たちも急行させています」

 ティニーは主従関係を結んだ魔物と精神感応(テレパシー)によって繋がっており、遠く離れた配下にも一瞬で意思を伝達できた。

「ありがとう。なるべく派手に廃城を攻撃させて、注意を引くんだ」
「了解です」

 ティニーは音さえ置き去りにするような速度で飛ぶ。僕が風圧で吹き飛ばないのは、ティニーが防御結界を展開してくれているからだ。
 やがて、城壁の一部が崩れかけた廃城が見えてきた。

 ……アレだな。
 ゴブリンと飛竜の群れが廃城を包囲している。魔物の数は続々と増えており、否が応でも恐怖を煽った。

「ひぎゃああああっ!? ゴブリンが中に侵入してきたぞ!」
「脱出だ! とにかく、脱出しろ!」
「駄目だ! 周りは大軍に取り囲まれているぞ!?」

 ディニーが着地のために減速すると、暗殺者集団の悲鳴が聞こえてきた。

「ヴァリトラ様に楯突いた愚か者どもを、ぶっ潰せぇええええ!」
「人間どもに、地獄を見せよ!」
「女以外には、何をしても良いとの仰せだぁあああッ!」

 ゴブリンたちは武器を手にして、猛り狂っている。

「何か、ちょっと命令が歪んで伝わっていないか……?」
「仕方がありません。彼らは人間との戦いを私に禁止されて、フラストレーションが溜まっていますからね。大丈夫です。人質には手出しさせません」

 それなら、問題無いか……
 敵はすっかり怯えて戦意を失っているし、狙い通りではあった。

「おおっ! 我らが王たるヴァリトラ様がご到着されたぞ!」
「ヴァリトラ様、バンザーイ!」
「なにぃいいい!? しゅ、守護竜ヴァリトラだと!?」

 姿を現したティニーに、敵味方の双方から驚きの声が上がった。

「人質を発見しました。兄様、突入しますので衝撃に備えてください」

 ティニーは、そのまま廃城に急降下する。
 どうやら【千里眼】の魔法で、エリスのお母さんの居場所を掴んだようだ。

「よし、行けティニー!」

 ドガァアアアアアアン!

 ティニーが壁と天井を突き破って、強引に大部屋に降り立った。そこには縄で縛られた女性がいた。

 瓦礫が女性に雨のように降り注ぐが、ティニーが展開した魔法障壁が女性を守る。

「ぶきゃああああッ!?」

 暗殺者たちの大半は、崩れた天井に埋もれて気を失った。

「エリスの母上ですか!? ご無事ですか!?」

 僕はティニーから飛び降りて、人質に駆け寄った。

「はい! あ、あなた様は……!?」
「あなたが人質にされていると聞いて駆けつけてきました、ベオグラードの新領主のマイス・ウィンザーです。ご安心ください、エリスも無事です」

 女性は顔を殴られて、ひどい有り様だったが、命に別状はなさそうだった。
 エリスとの約束を守れて、僕はほっと胸を撫で下ろす。

「私のような者のために、ご領主様ともあろうお方が!? そ、それに今のドラゴンはまさか……!?」
「はい、王国の守護竜ヴァリトラです。えっと、実はヴァリトラは、僕の妹のティニーなんです」

 後ろを振り返ると、少女の姿になったティニーが、もうもうと立ち込める粉塵の中から現れた。

「はい。ご紹介に預かりましたティニーです。私の力は、すべて愛するマイス兄様のためにあります。マイス兄様を敵に回すということは、王国の守護竜ヴァリトラと300万の魔物の軍勢を敵に回すということです」

 ティニーは残りの敵を睨みつけた。
 粉塵まみれの暗殺者たちはあ然としていた。どうやら、状況が飲み込めていないようだ。
 その隙に、僕は女性の縄をほどく。

「これを飲んでください。回復薬です」
「これは!? もったいのうございます、マイス様! 貴重なエリクサーをまた頂戴できるなんて……」
「さあ、早く」

 エリクサーを一口飲んだ女性の傷が、嘘のように消え去った。その顔は色艶が増して、10年は若返ったように輝く。

「そ、そんなまさか……ッ! あ、あれは王国の至宝エリクサーでは?」
「なぜ、たった7つしか現存していないエリクサーを、あんな女に渡すんだ!?」

 暗殺者たちが息を飲んだ。

「ふっ。マイス兄様にとって、この程度の薬の錬成は造作もありません。素材さえあれば、エリクサーなどジュース代わりです」

 ティニーがドヤ顔になっている。
 女性はその場で泣き崩れた。

「ああッ、娘も助けていただけて、本当になんとお礼を申し上げれば良いかぁ……ッ!」

「バ、バカが! ターゲットがノコノコ、自分からやって来るとはな!?」
「お前を殺れば、一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るんだ!」

 ふたりの暗殺者が、僕に向かって飛びかかってきた。

「【パラライズ・ソード】起動!」
「ギャアアアア!?」

 僕が剣を抜くと紫電がほとばしり、暗殺者たちを貫いた。彼らは白目を剝いて昏倒する。

「と、とでもない性能の魔剣だぞ! コイツは、錬金術師としては無能じゃなかったのか!?」
「そ、それにこの小娘が守護竜ヴァリトラ……!」

 仲間が呆気なく倒されたのを見て、暗殺者たちは戦意を挫かれたようだ。

「兄様が無能? 不愉快極まる誤解です。兄様はパラケルススを超える天才です。やがて、世界中の人間がそれを思い知ることになるでしょう」

 ティニーが不機嫌そうに鼻を鳴らして前に出る。

「あなたたちを雇って、兄様を襲わせたのはウィンザー公爵家のアルフレッドですか? 素直に話さないと、私の配下の魔物が何をしでかすかわかりませんよ?」
「ヴァリトラ様の敵を殺せぇええええッ!」

 殺気立ったゴブリンと飛竜が、雄叫びを上げた。
 どうやらティニーが、暗殺者を威圧するために配下に命令を送ったようだ。
 
「ひぇえええええッ!?」

 その効果は絶大で、暗殺者たちは恐怖で顔面蒼白となる。

「す、素直に話せば、見逃してくれるのか!?」
「……あと、10秒以内に話さなれば、ゴブリンたちに集団でピーさせます。一生残るトラウマを植え付けますよ」
「ヒャアアアアアア!?」

 ティニーに伏せ字で脅されて、彼らは恐慌状態に陥った。

「小娘、お前に人の心はないのか!?」
「暗殺者にそんなことを言われたくありません。答えはイエスです。私はドラゴンですので」
「ひぎゃあああああッ!?」
「わ、わかった! 言う、素直に言う! だからピーはやめてぇえええ!」
「そ、そうだ! 俺たちの雇い主は、アルフレッド・ウィンザー様だ!」

 予想はしていたが弟の名前が出てきて、僕は唇を噛んだ。
 まさか、アルフレッドが他人を巻き込んで、ここまで非道なことをするなんて……

「兄として、アルフレッドにはお灸をすえる必要があるな。なにより、エリスたちに二度と手出しさせないようにしなくちゃいけない」
「はい、兄様。では今から、ウィンザー公爵家をドラゴンブレスで消し炭にしましょう。愚か者には死あるのみです」

「いや、それはさすがにやり過ぎでしょう!? この暗殺者たちをアルフレッドの元に送り返して、警告を与えよう。次は許さないぞ、とね」
「……わかりました。兄様がそうおっしゃるなら。ゴブリンたち、彼らを拘束してください」

 ゴブリンたちが、ちょうど扉を蹴破って姿を現した。

「おわああああ!? 約束が違う! 見逃してくれるんじゃないのか!?」
「誰がそんな約束をしましたか?」
「嫌ぁあああああ!? 人でなしぃいい! 悪魔ぁああああ!」
「はい、魔王ですので」

 ティニーの指揮の元、ゴブリンたちは手際良く、暗殺者たちを縄で縛っていく。

「安心してください、殺しはしません。ただ二度と暗殺などできないように、社会的に死んでもらいます」

 ティニーは【無限倉庫】から、嬉々として紙とペンと糊を取り出した。

「ヴァリトラ参上! 次にマイス兄様に手を出したら許しません。ウィンザー公爵家を地上から消してやります」
「私たちは3流暗殺者です(•ө•)♡」
「雇い主の情報をベラベラ話しちゃいました。テヘ」

 といった文章を紙に書いて、ティニーはペタペタ、暗殺者たちの額に張っていく。

「ふう。こんなものですかね」
「うーん……み、見事に社会的に抹殺したね」
「もっと時間があれば、顔にカワイイお花の絵など、描いてあげたのですが……残念です」
「いやぁあああ! いっそ、殺せぇええええ!」

 こんな醜態を晒したら、もうこの暗殺者組織は活動できないだろう。特に雇い主の情報を話してしまったのは致命的だ。
 これからは暗殺などせず、真面目に生きていってもらいたい。

「では、飛竜たち。彼らをウィンザー公爵家のアルフレッドの部屋に放り込んできてください」

 飛竜の群れが、次々に舞い降りてきた。
 暗殺者たちは飛竜の足に鷲掴みにされて、夜空に飛び上がって行く。

「ひゃああああああッ、お、降ろしてぇええ!」
「怖いよ、ママァ!」
「もう暗殺なんてしないから許してぇえええ!」

 彼らの悲鳴が遠ざかっていった。

 僕は床に転がった水晶玉を見つけて、拾い上げる。これは錬金術で造られた通信用の魔導具だ。
 魔力を注ぐと、憔悴したエリスの顔が映った。

「エリス。お母さんは無事、助けたぞ」
「あっ、あああッ!? ありがとうございます、ご主人様!」
「ほ、本当に感謝の言葉もありません! また娘と生きて会えるなんて……ッ!」
「お母様、本当に良かったぁ!」

 エリスはお母さんと、無事の再会を喜び合う。
 胸の熱くなる光景だった。

「良かったですね。兄様」
「ああっ。ティニーのおかげだな」

 ティニーが僕にそっと寄り添う。
 僕は妹の頭をやさしく撫でた。

「ヴァリトラ様、この廃城の倉庫に回復役(ポーション)や食料などの大量の物資がありましたゴブ。戦利品として、献上いたしますゴブ!」

 ゴブリンのリーダーと思わしき者が、ティニーに敬礼してきた。

「大量の回復役(ポーション)だって? それは助かる! すぐにそれらをベオグラードの街に運んでくれないか!?」

 エリクサーの素材となる回復役(ポーション)が不足していたが、これで解決の目処が立った。
 僕は喜びのあまり小躍りしたくなった。

「やりましたね。兄様!」
「ご、ゴブ? まさかあなた様が、ヴァリトラ様の創造主【至高にして至大であられるお方】ゴブか? はっ、すぐに作業いたしますゴブ!」
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