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第73話 蓮の過去 ②母ちゃんとお母さん
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「急でびっくりしたよな。俺もびっくりしてる。けど、父さんは母さんが嫌いになったわけじゃないと思う」
睡は蓮の後に続き、ベットに座った。
「じゃあ、なんで新しいお母さんなんて紹介すんだよ……!」
蓮は涙を浮かべ声を荒らげる。
「俺は父さんじゃないし、聞いてないから分からない……。けど、父さんは母さんと過ごした時間は思い出として、新しい人生を歩もうとしてるんじゃないかな」
「でも……っ!」
睡は蓮の言葉を遮ると再び口を開く。
「すぐには受け入れられないと思う。俺も同じだ。だから、父さんにも幸せになってもらえるように……いつか新しいお母さんのこと受け入れられるといいな」
「すぐじゃなくていいの?」
睡の優しい声色に落ち着いたのか、いつの間にか蓮の涙は止まっていた。
「ああ。まずは仲良くなって、いつかお母さんって言えるようになるといいな」
「でも、母ちゃんは母ちゃん1人だけ……なんだよ」
「母ちゃんは母ちゃんだけだ。新しいお母さんはお母さんって呼べば違うだろ?」
「……っ! そ、だね……」
睡の言葉に蓮は驚きの表情を見せたがすぐに悲しそうに俯いた。
睡の言葉で、蓮が"お母さん"と呼ばないという選択肢が無くなってしまった。
「まあ、すぐじゃなくていいんだよ」
睡はそう言うと蓮の頭を撫でて部屋を後にした。
新しい母が一緒に暮らすようになったのはそう時間はかからなかった。
***
「蓮くん、朝だよ。蓮くん、起きてる?」
「あーもう! うるさいな。起きてるよ!」
ドア越しから新しい母の声が聞こえ、蓮は声を荒らげた。
寝起きで機嫌が悪い蓮は眉間にシワを寄せ、勢い任せに毛布を捲った。
「そう。起きてるならよかった。朝ご飯出来てるから食べてね」
「ん」
右手でガシガシと頭をかくとクローゼットを開けた。
新しい母と一緒に暮らすようになって1週間。
2人の距離は全く縮まらず──
「蓮くん。おはよう」
「……おはよう」
着替えを済ませた蓮がリビングに顔を出すと、母は嬉しそうに頬を緩ませる。
「睡くん、ご飯足りた?」
「大丈夫。お母さん、ありがとう」
蓮は睡の言葉を聞き逃さなかった。
目を見開き睡を見つめる。
「(なんで、お母さんなんて呼んでるの? もう受け入れたの? 父さんも兄ちゃんも酷いよ……。母ちゃんと過ごした時間を思い出にするなんて無理だよ……)」
睡の隣に座った蓮は俯いたままご飯を食べ始めた。
「蓮くん、ご飯足りた?」
「……ん」
俯いたまま頷く蓮。
母のことは受け入れられないが、問いかけに応えようと頑張る蓮。
だが、それも長くは続かなかった。
新しい母が来てから2ヶ月程だったある日。
蓮は自分から話しかけたり、笑ったりするほど心を許し始めた。
だが、"お母さん"とはまだ呼べていない。
母は蓮と睡の部屋の掃除をしていた。
蓮の部屋で掃除機をかけていると、持ち手の部分に何かが当たり割れる音が響いた。
「え? え、嘘っ……わ、割れてる。どうしよう……」
掃除機を止めた母はしゃがみ込み狼狽えていた。
その視線の先にあるのは無惨にもガラスが飛び散ったガラスの置き時計だ。
「……何やってるの?」
遊びから帰ってきた蓮は部屋に入るとしゃがみ込み込んでいる母に問いかけた。
睡は蓮の後に続き、ベットに座った。
「じゃあ、なんで新しいお母さんなんて紹介すんだよ……!」
蓮は涙を浮かべ声を荒らげる。
「俺は父さんじゃないし、聞いてないから分からない……。けど、父さんは母さんと過ごした時間は思い出として、新しい人生を歩もうとしてるんじゃないかな」
「でも……っ!」
睡は蓮の言葉を遮ると再び口を開く。
「すぐには受け入れられないと思う。俺も同じだ。だから、父さんにも幸せになってもらえるように……いつか新しいお母さんのこと受け入れられるといいな」
「すぐじゃなくていいの?」
睡の優しい声色に落ち着いたのか、いつの間にか蓮の涙は止まっていた。
「ああ。まずは仲良くなって、いつかお母さんって言えるようになるといいな」
「でも、母ちゃんは母ちゃん1人だけ……なんだよ」
「母ちゃんは母ちゃんだけだ。新しいお母さんはお母さんって呼べば違うだろ?」
「……っ! そ、だね……」
睡の言葉に蓮は驚きの表情を見せたがすぐに悲しそうに俯いた。
睡の言葉で、蓮が"お母さん"と呼ばないという選択肢が無くなってしまった。
「まあ、すぐじゃなくていいんだよ」
睡はそう言うと蓮の頭を撫でて部屋を後にした。
新しい母が一緒に暮らすようになったのはそう時間はかからなかった。
***
「蓮くん、朝だよ。蓮くん、起きてる?」
「あーもう! うるさいな。起きてるよ!」
ドア越しから新しい母の声が聞こえ、蓮は声を荒らげた。
寝起きで機嫌が悪い蓮は眉間にシワを寄せ、勢い任せに毛布を捲った。
「そう。起きてるならよかった。朝ご飯出来てるから食べてね」
「ん」
右手でガシガシと頭をかくとクローゼットを開けた。
新しい母と一緒に暮らすようになって1週間。
2人の距離は全く縮まらず──
「蓮くん。おはよう」
「……おはよう」
着替えを済ませた蓮がリビングに顔を出すと、母は嬉しそうに頬を緩ませる。
「睡くん、ご飯足りた?」
「大丈夫。お母さん、ありがとう」
蓮は睡の言葉を聞き逃さなかった。
目を見開き睡を見つめる。
「(なんで、お母さんなんて呼んでるの? もう受け入れたの? 父さんも兄ちゃんも酷いよ……。母ちゃんと過ごした時間を思い出にするなんて無理だよ……)」
睡の隣に座った蓮は俯いたままご飯を食べ始めた。
「蓮くん、ご飯足りた?」
「……ん」
俯いたまま頷く蓮。
母のことは受け入れられないが、問いかけに応えようと頑張る蓮。
だが、それも長くは続かなかった。
新しい母が来てから2ヶ月程だったある日。
蓮は自分から話しかけたり、笑ったりするほど心を許し始めた。
だが、"お母さん"とはまだ呼べていない。
母は蓮と睡の部屋の掃除をしていた。
蓮の部屋で掃除機をかけていると、持ち手の部分に何かが当たり割れる音が響いた。
「え? え、嘘っ……わ、割れてる。どうしよう……」
掃除機を止めた母はしゃがみ込み狼狽えていた。
その視線の先にあるのは無惨にもガラスが飛び散ったガラスの置き時計だ。
「……何やってるの?」
遊びから帰ってきた蓮は部屋に入るとしゃがみ込み込んでいる母に問いかけた。
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