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第66話 不穏な空気①
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***
パンケーキを食べに行って数日後、葵は一人白狼の倉庫にいる。
そこは幹部以上のみが入れる部屋だ。
いつものように凌が迎えに来て倉庫へ向かった。
ただ、いつもいるはずの白狼が車の中にいなかった。
「……え、葵ちゃんなんでここにいるの?」
「あ! 日向だ。なんか今日人少ないんだね」
ドアが開き葵が視線を移すと、そこには驚いた顔をした日向がいた。
「今日は家に居てもらう予定だったんだけど、なんでいるの?」
「なんでって……凌が迎えに来たけど」
「……凌くんから葵ちゃんに家に居てって連絡してもらうはずだったんだけど……迎えに行っちゃったんだ……」
日向は眉間に皺を寄せて、困り果てていた。
「え……凌はそんなこと言ってなかった。みんなは用があるから1人で迎え来たとしか……」
「そっか。ごめん、僕これから出ないとなんだけど、絶対に部屋から出ないで!」
日向はそう言うと足早に部屋を後にした。
その顔にはいつもの笑顔はなく、真剣な表情だった。
「わ、わかった」
葵は日向が出て行ったドアをじっと見つめる。
日向のいつもとは違う態度に"何かあった"と理解した。
***
数十分後──
「……ん、なんだ?」
暇でうたた寝していた葵は外の騒がしい音で目を覚ます。
誰かの怒鳴り声と叫び声──それはだんだんと近づいてくる。
「……げて! 逃げて! うっ……!」
聞き覚えのある声がドアのすぐ傍から聞こえてくる。
「え、この声って……」
葵が立ち上がった瞬間、誰かによってドアが強引に開けられた。
開いたドアの隙間からはツンツンとさせた茶色い髪の毛が見えた。
「杏介っ!」
そこにいたのは下っ端リーダーの杏介だった。
葵は杏介を見つけると急いで駆け寄る。
「こんにちは。お姫様」
突然頭上から声が聞こえ葵は後ろに下がりながら顔をあげる。
「(……っ! くそっ、居たの気づかなかった。あの首に赤髪……)」
「黒蛇……蛇塚」
葵の瞳には、男の首筋に彫られた真っ黒い蛇が映る。
階段を上がりきった所に立っていたのは黒蛇の総長、蛇塚だった。
「覚えててくれて嬉しいよ。前にも言っただろ? 別に取って食おうなんて思ってねぇ。ちょっと着いて来てもらおうか」
「……なんで?」
葵はそう言うと杏介を隠すようにして蛇塚の前に立つ。
「白狼がどうなってもいいのか?」
男の鋭い目が葵を捕らえる。
「どういうこと?」
「今、白狼は俺たちで可愛がってやってる。お姫様が来てくれるならすぐに解放してやる」
「……わかった」
葵は少し悩むと口を開いた。
「じゃあ行くぞ」
男の声に葵は無言で後を追う。
杏介はその場に置いたまま。
幸い、大きな怪我はなく、気絶しているだけのようだ。
階段を下りると倒れている人影が見えた。
「(みんな……!)」
そこには下っ端達が数人倒れ気絶していた。
近くには黒蛇の仲間と思われる男達がニヤニヤと気味悪い顔をしている。
たまたま出払っていたのか、白狼の下っ端は杏介含め5人。
対して、黒蛇はその3倍以上いた。
男達の手にはバッドやナイフなどを持っている奴もいた。
「ねえ、あの子達病院連れて行っていい?」
「は? ダメに決まってんだろ?」
「……」
蛇塚の言葉に葵は睨みつける。
「お前が着いて来ないとあいつらはもっと酷い目にあうぞ」
「……わかった」
葵は渋々、仲間を置いて男の後に続いた。
倉庫の外に出ると黒いワンボックスカーが見えた。
「(あれ? この車……)」
それは見たことのある車だった。
蛇塚は車のドアを開けると──
「……っ! や、やめ……」
ハンカチで葵の口元を覆った。
「暴れられると困るからな……」
葵の意識はそこで途絶えた為、運転手の顔を見ることはなかった。
パンケーキを食べに行って数日後、葵は一人白狼の倉庫にいる。
そこは幹部以上のみが入れる部屋だ。
いつものように凌が迎えに来て倉庫へ向かった。
ただ、いつもいるはずの白狼が車の中にいなかった。
「……え、葵ちゃんなんでここにいるの?」
「あ! 日向だ。なんか今日人少ないんだね」
ドアが開き葵が視線を移すと、そこには驚いた顔をした日向がいた。
「今日は家に居てもらう予定だったんだけど、なんでいるの?」
「なんでって……凌が迎えに来たけど」
「……凌くんから葵ちゃんに家に居てって連絡してもらうはずだったんだけど……迎えに行っちゃったんだ……」
日向は眉間に皺を寄せて、困り果てていた。
「え……凌はそんなこと言ってなかった。みんなは用があるから1人で迎え来たとしか……」
「そっか。ごめん、僕これから出ないとなんだけど、絶対に部屋から出ないで!」
日向はそう言うと足早に部屋を後にした。
その顔にはいつもの笑顔はなく、真剣な表情だった。
「わ、わかった」
葵は日向が出て行ったドアをじっと見つめる。
日向のいつもとは違う態度に"何かあった"と理解した。
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数十分後──
「……ん、なんだ?」
暇でうたた寝していた葵は外の騒がしい音で目を覚ます。
誰かの怒鳴り声と叫び声──それはだんだんと近づいてくる。
「……げて! 逃げて! うっ……!」
聞き覚えのある声がドアのすぐ傍から聞こえてくる。
「え、この声って……」
葵が立ち上がった瞬間、誰かによってドアが強引に開けられた。
開いたドアの隙間からはツンツンとさせた茶色い髪の毛が見えた。
「杏介っ!」
そこにいたのは下っ端リーダーの杏介だった。
葵は杏介を見つけると急いで駆け寄る。
「こんにちは。お姫様」
突然頭上から声が聞こえ葵は後ろに下がりながら顔をあげる。
「(……っ! くそっ、居たの気づかなかった。あの首に赤髪……)」
「黒蛇……蛇塚」
葵の瞳には、男の首筋に彫られた真っ黒い蛇が映る。
階段を上がりきった所に立っていたのは黒蛇の総長、蛇塚だった。
「覚えててくれて嬉しいよ。前にも言っただろ? 別に取って食おうなんて思ってねぇ。ちょっと着いて来てもらおうか」
「……なんで?」
葵はそう言うと杏介を隠すようにして蛇塚の前に立つ。
「白狼がどうなってもいいのか?」
男の鋭い目が葵を捕らえる。
「どういうこと?」
「今、白狼は俺たちで可愛がってやってる。お姫様が来てくれるならすぐに解放してやる」
「……わかった」
葵は少し悩むと口を開いた。
「じゃあ行くぞ」
男の声に葵は無言で後を追う。
杏介はその場に置いたまま。
幸い、大きな怪我はなく、気絶しているだけのようだ。
階段を下りると倒れている人影が見えた。
「(みんな……!)」
そこには下っ端達が数人倒れ気絶していた。
近くには黒蛇の仲間と思われる男達がニヤニヤと気味悪い顔をしている。
たまたま出払っていたのか、白狼の下っ端は杏介含め5人。
対して、黒蛇はその3倍以上いた。
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「ねえ、あの子達病院連れて行っていい?」
「は? ダメに決まってんだろ?」
「……」
蛇塚の言葉に葵は睨みつける。
「お前が着いて来ないとあいつらはもっと酷い目にあうぞ」
「……わかった」
葵は渋々、仲間を置いて男の後に続いた。
倉庫の外に出ると黒いワンボックスカーが見えた。
「(あれ? この車……)」
それは見たことのある車だった。
蛇塚は車のドアを開けると──
「……っ! や、やめ……」
ハンカチで葵の口元を覆った。
「暴れられると困るからな……」
葵の意識はそこで途絶えた為、運転手の顔を見ることはなかった。
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