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第64話 戻って来ないか?
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「あ、ありがとう。車変えたの?」
「はい。ベンツだと目立つので、竜さんの指示でこちらに変えました」
そう答えたのは凌だった。
「わざわざごめん」
「いえ」
「あれー? 車変わってる!」
日向は車に乗り込むと興味津々そうに車内を見渡す。
楓は特に表情を変えずに乗り込んだ。
「あ、今日はこのまま家帰っても大丈夫?」
「大丈夫だけど、なんかあるの?」
「ちょっとね。あ、出かけないから心配しないで」
「そっか、ならいいよー。凌くんそのまま葵ちゃんの家にお願いね」
「承知しました」
そして、車はそのまま葵の家へ向かった。
***
家に着いた葵はソファーに体を預ける。
「(パンケーキ美味しかったー。 あ、そうだ。連絡しないと……)」
ズボンのポケットから携帯を取り出すと、萩人に教えてもらった菖人と桃李のアドレスに自分の名前と電話番号を入力して、メールを送信した。
すると、ものの数分で電話が架かってきた。
「っ! え……か、架かってきた」
携帯の画面に表示されたのは「菖人」だった。
それを見た葵は思わずドキッとする。
「も、もしもし……」
葵は平然を装ったが、その声は上ずっていた。
「あ、あおかー?」
電話口からは菖人の優しい声が聞こえてくる。
「う、うん……」
「よかった……無事だったんだな」
葵の耳に菖人の声が届く。
それは安堵のこもった声だった。
「無事? 」
「だって白狼といる時、黒豹に襲われたんだろ?」
「……それなら大丈夫。白狼と2人で倒したから」
「……は? お前喧嘩したのか? 龍華の総長ってバラしたのか?」
菖人は余程驚いたのだろう。
電話口からは菖人の焦った声とともに、物が落ちる音が聞こえてきた。
「え、大丈夫?」
「ああ。で、どうなんだ?」
「龍華の総長は菖人。私は元だよ。もと……バラシてはない。ただ、空手をしただけ」
「そ、うだよな」
「……菖人。この前、学校来てくれたのに取り乱してごめん」
菖人と桃李が葵の学校に来たのは文化祭の時──会えたのはほんの一瞬だった。
葵が取り乱した為、会話もろくに出来なかった。
「別に気にしてねぇよ。俺達も急に行って悪かった。でも、あおとこうして電話できるようになったからよかったよ」
「菖人……」
「なあ、あお……龍華に戻って来ないか?」
菖人は一呼吸置くと口を開いた。
それは真剣な声だった。
「ごめん……戻らない。これ以上仲間を失いたくない……。それに私が龍華に戻る資格なんてない」
「そっか。わりぃ変なこと聞いて」
「……ごめんな。私のせいで……私がもっとちゃんと周りを見てれば……朔と柑太はあんな事にならなかったのに……」
葵は携帯を持ってない左手を握りしめた。
「だから……っ! あれはあおのせいじゃねぇって言ってんだろ? あいつらお前のこと大好きだったんだよっ! 総長としてお前のこと尊敬してたし信頼してた! だから助けたんだよ! もう、私のせいでなんていうんじゃねぇよっ!」
菖人は葵の言葉を聞くなり声を荒らげた。
それは携帯を耳から話したくなるほどだった。
「うん。ごめん……。じゃあそろそろ切るね」
「わりぃ……言い過ぎた。また、電話してもいいか?」
菖人は先程荒らげていた声とは打って変わって、優しい声だった。
「……うん」
葵はそれだけ口にすると、耳から携帯を話すと電話を切った。
「はい。ベンツだと目立つので、竜さんの指示でこちらに変えました」
そう答えたのは凌だった。
「わざわざごめん」
「いえ」
「あれー? 車変わってる!」
日向は車に乗り込むと興味津々そうに車内を見渡す。
楓は特に表情を変えずに乗り込んだ。
「あ、今日はこのまま家帰っても大丈夫?」
「大丈夫だけど、なんかあるの?」
「ちょっとね。あ、出かけないから心配しないで」
「そっか、ならいいよー。凌くんそのまま葵ちゃんの家にお願いね」
「承知しました」
そして、車はそのまま葵の家へ向かった。
***
家に着いた葵はソファーに体を預ける。
「(パンケーキ美味しかったー。 あ、そうだ。連絡しないと……)」
ズボンのポケットから携帯を取り出すと、萩人に教えてもらった菖人と桃李のアドレスに自分の名前と電話番号を入力して、メールを送信した。
すると、ものの数分で電話が架かってきた。
「っ! え……か、架かってきた」
携帯の画面に表示されたのは「菖人」だった。
それを見た葵は思わずドキッとする。
「も、もしもし……」
葵は平然を装ったが、その声は上ずっていた。
「あ、あおかー?」
電話口からは菖人の優しい声が聞こえてくる。
「う、うん……」
「よかった……無事だったんだな」
葵の耳に菖人の声が届く。
それは安堵のこもった声だった。
「無事? 」
「だって白狼といる時、黒豹に襲われたんだろ?」
「……それなら大丈夫。白狼と2人で倒したから」
「……は? お前喧嘩したのか? 龍華の総長ってバラしたのか?」
菖人は余程驚いたのだろう。
電話口からは菖人の焦った声とともに、物が落ちる音が聞こえてきた。
「え、大丈夫?」
「ああ。で、どうなんだ?」
「龍華の総長は菖人。私は元だよ。もと……バラシてはない。ただ、空手をしただけ」
「そ、うだよな」
「……菖人。この前、学校来てくれたのに取り乱してごめん」
菖人と桃李が葵の学校に来たのは文化祭の時──会えたのはほんの一瞬だった。
葵が取り乱した為、会話もろくに出来なかった。
「別に気にしてねぇよ。俺達も急に行って悪かった。でも、あおとこうして電話できるようになったからよかったよ」
「菖人……」
「なあ、あお……龍華に戻って来ないか?」
菖人は一呼吸置くと口を開いた。
それは真剣な声だった。
「ごめん……戻らない。これ以上仲間を失いたくない……。それに私が龍華に戻る資格なんてない」
「そっか。わりぃ変なこと聞いて」
「……ごめんな。私のせいで……私がもっとちゃんと周りを見てれば……朔と柑太はあんな事にならなかったのに……」
葵は携帯を持ってない左手を握りしめた。
「だから……っ! あれはあおのせいじゃねぇって言ってんだろ? あいつらお前のこと大好きだったんだよっ! 総長としてお前のこと尊敬してたし信頼してた! だから助けたんだよ! もう、私のせいでなんていうんじゃねぇよっ!」
菖人は葵の言葉を聞くなり声を荒らげた。
それは携帯を耳から話したくなるほどだった。
「うん。ごめん……。じゃあそろそろ切るね」
「わりぃ……言い過ぎた。また、電話してもいいか?」
菖人は先程荒らげていた声とは打って変わって、優しい声だった。
「……うん」
葵はそれだけ口にすると、耳から携帯を話すと電話を切った。
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