舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
上 下
65 / 75

第64話 戻って来ないか?

しおりを挟む
「あ、ありがとう。車変えたの?」
「はい。ベンツだと目立つので、竜さんの指示でこちらに変えました」

そう答えたのは凌だった。

「わざわざごめん」
「いえ」
「あれー? 車変わってる!」

日向は車に乗り込むと興味津々そうに車内を見渡す。

楓は特に表情を変えずに乗り込んだ。

「あ、今日はこのまま家帰っても大丈夫?」
「大丈夫だけど、なんかあるの?」
「ちょっとね。あ、出かけないから心配しないで」
「そっか、ならいいよー。凌くんそのまま葵ちゃんの家にお願いね」
「承知しました」

そして、車はそのまま葵の家へ向かった。

***

家に着いた葵はソファーに体を預ける。

「(パンケーキ美味しかったー。 あ、そうだ。連絡しないと……)」

ズボンのポケットから携帯を取り出すと、萩人に教えてもらった菖人と桃李のアドレスに自分の名前と電話番号を入力して、メールを送信した。

すると、ものの数分で電話が架かってきた。

「っ! え……か、架かってきた」

携帯の画面に表示されたのは「菖人」だった。

それを見た葵は思わずドキッとする。

「も、もしもし……」

葵は平然を装ったが、その声は上ずっていた。

「あ、あおかー?」

電話口からは菖人の優しい声が聞こえてくる。

「う、うん……」
「よかった……無事だったんだな」

葵の耳に菖人の声が届く。

それは安堵のこもった声だった。

「無事? 」
「だって白狼といる時、黒豹に襲われたんだろ?」
「……それなら大丈夫。白狼と2人で倒したから」
「……は? お前喧嘩したのか? 龍華の総長ってバラしたのか?」

菖人は余程驚いたのだろう。

電話口からは菖人の焦った声とともに、物が落ちる音が聞こえてきた。

「え、大丈夫?」
「ああ。で、どうなんだ?」
「龍華の総長は菖人。私は元だよ。……バラシてはない。ただ、空手をしただけ」
「そ、うだよな」
「……菖人。この前、学校来てくれたのに取り乱してごめん」

菖人と桃李が葵の学校に来たのは文化祭の時──会えたのはほんの一瞬だった。

葵が取り乱した為、会話もろくに出来なかった。

「別に気にしてねぇよ。俺達も急に行って悪かった。でも、とこうして電話できるようになったからよかったよ」
「菖人……」
「なあ、あお……龍華に戻って来ないか?」

菖人は一呼吸置くと口を開いた。

それは真剣な声だった。

「ごめん……戻らない。これ以上仲間を失いたくない……。それに私が龍華に戻る資格なんてない」
「そっか。わりぃ変なこと聞いて」
「……ごめんな。私のせいで……私がもっとちゃんと周りを見てれば……朔と柑太はあんな事にならなかったのに……」

葵は携帯を持ってない左手を握りしめた。

「だから……っ! あれはあおのせいじゃねぇって言ってんだろ? あいつらお前のこと大好きだったんだよっ! 総長としてお前のこと尊敬してたし信頼してた! だから助けたんだよ! もう、私のせいでなんていうんじゃねぇよっ!」

菖人は葵の言葉を聞くなり声を荒らげた。

それは携帯を耳から話したくなるほどだった。

「うん。ごめん……。じゃあそろそろ切るね」
「わりぃ……言い過ぎた。また、電話してもいいか?」

菖人は先程荒らげていた声とは打って変わって、優しい声だった。

「……うん」

葵はそれだけ口にすると、耳から携帯を話すと電話を切った。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...