舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

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第60話 黒猫

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「……っ!」
「(え、な……なんで……)」

驚いた葵は、咄嗟にドアを閉めようとするも、男は無理やりドアの間に足を滑り込ましてくる。

「あお開けて。俺不審者で通報されちゃう」

男は周りの様子を確認しながら、口を開いた。

「……」
「(な、んで……ここがわかったの?)」

葵は無言のままドアを閉める手に力を込める。

「痛っ! あおー! 痛いし、俺本当通報されちゃうから開けて」

少し焦った声が聞こえてくる。

「……別にいいと思う」
「ひどいな。そこは通報されたら困るとか言ってくれよ……。ほら、話がしたいから来たんだ。入れてくんない?」
「……わかった」

葵は一瞬考えるとその人物を招き入れた。

靴を脱ぎ、家の中へ1歩踏み入れた葵はそこで男に体を向ける。

「あーこれはここで話せってことか」

男はため息をつくと右手で頭を搔く。

静かに閉められた玄関のドア──

2人の間に沈黙が流れた。

「……しゅ、萩ちゃん、なんで……なんでここが分かったの?」

沈黙を破ったのは葵だった。

葵は目の前にいる萩人を見つめる。

その瞳は僅かに揺れ、あきらかに動揺していることがわかる。

「(誰にも言わずに来たのに……。ここを知ってるのはおじいちゃんだけ……萩ちゃんとおじいちゃんは会ったことないはず……なのに、なんでっ……)」

なぜ居場所がバレたのか分からず、葵は色々考えるが答えは出てこなかった。

それもそのはずだ──

「え、なんでって……後追ってきたから?」

萩人の思いもよらない答えに葵は一瞬言葉を失った。

「……は? ストーカー?」
「ストーカーじゃねえ。尾行だ! !」

どうやら、萩人は買い物をしていた葵を偶然目撃し、そのまま後を追ってきたようだ。

「そんなこと龍華の奴らには言うなよ。真似されたら困る。そんなことしないで声かければいいじゃん」
「悪い。けど、あお声かけた所で逃げるだろ?」
「それは、そうだけど……」
「まあ、もうやらねぇよ。……あお、なんで出て行ったんだ?」

萩人は一瞬考え込むと悲しげな目つきを見せた。

「も、もう……龍華には……いられない……。あ、あたしのせいなんだよ……っ! あたしがもっと気をつけてれば……っ。朔も柑太もあんなことにはならなかった……んだよ!」

葵は今にも泣き出しそうな声で必死に伝えた。

その声は悲しげに震えていた。

「それは俺も聞いた。けど、あれはあおのせいじゃない。悪いのは黒猫ブラックキャットだろ」
「で、でも……あたしが避けなければ男が鉄パイプに突っ込んで……崩れることはなかった……っ。そうすれば朔が下敷きになることはなかった……! もっと……もっと周りを見てればあたしの代わりに柑太が……っ刺されて……し、死ぬことはなかったのにっ……」

葵は拳をきつく握りしめる。

それは、両方の手の平に爪痕が残るほどだ。

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