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第47話 竜の過去 ②疑い
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──竜が小学3年生の頃。
「じゃあみんな手を合わせていただきます」
「いただきます」
生徒たちの机の上にはプレートに盛られた温かい給食があった。
「(美味しい!)」
お腹を空かせた竜は給食を勢いよく口に頬張る。
「今日は1人お休みなのでパンが余ってます。誰か食べますか?」
竜が給食を食べ終える頃、担任が教卓の上から声を上げる。
「(え! パンもらえるの? 欲しい! 夜ごはんにしようかな)」
「はい! 食べたいです!」
手を挙げたのは竜だけだった。
「はい、どうぞ」
担任から手渡されたのは先程食べたのと同じ食パンだ。
「ありがとうございます」
竜はそれをバレないようランドセルの中にしまい込んだ。
そして、夜。
隣の部屋にいる母が寝静まったのを確認した竜はランドセルから食パンを取り出すと夢中で頬張る。
「(美味しい……。これで毎日お腹空かなくてすむんだ)」
食パン1枚はあっという間になくなってしまった。
それからというもの、竜は給食の余り物が出れば、すかさず手を挙げていた。
その余り物は竜の夕飯となった。
そんな生活を続けていたある日、竜は自分の家は普通ではないと気づく。
それは竜が小学6年生に上がった頃──
「お母さん」
「……」
「お母さん。ねえ! なんで返事してくれないの?」
竜が呼んでも母は返事をしてくれず、居ないもの同然の扱いを受けていた。
小学校高学年になれば更に父に似てきた竜の顔。
最近は母と顔を合わせる事も少なくなってきた。
土日の食事も出されることは無くなり、月に1000円のお小遣いを貰いごはんを買いに行っていた。
***
「竜! これから俺ん家で遊ぶんだけど来るか?」
「行く!」
小学6年生の秋。
夏が終わり、だんだんと過ごしやすい季節となってきたある日。
同じクラスの男の子、杏(キョウ)が竜に声をかける。
「お母さん! ただいまー! 友達連れてきた!」
「おかえり」
そう出迎えてくれたのは杏の母親だ。
彼女は優しそうな笑みを浮かべていた。
「(優しそう……お母さんとは全然違う)」
竜は自分の母親と比べ一瞬影を落とす。
「お邪魔します。柏木竜です」
「竜くんいらっしゃい。ゆっくりしてね」
「(杏のお母さん笑ってる。そういえば俺のお母さんいつ笑ってたっけ?)」
「竜! 俺の部屋行こうぜ!」
「あ、うん」
靴を脱いだ2人は階段を上がった角部屋へ入って行く。
「ゲームしよう! 竜これやったことある?」
「ゲーム? あ、これはない」
「(これっていうか……ゲームやったことないな。買ってくれるわけないし……)」
「じゃあ、俺が教えるからやろう!」
「うん」
──コンコン
「はーい」
杏がゲームの準備をしているとドアをノックする音が聞こえてくる。
「杏、開けるわよ」
「うん。どうしたの?」
「飲み物とおやつ。竜くん食べれるかな?」
「おやつ? ……いいの?」
初めて出される"おやつ"に竜は目をまん丸くさせる。
「お母さんが出してくれたんだ。食べようぜ!」
「ありがとう……」
「いただきます!」
「いただきます……ん! おいし……」
竜はバームクーヘンをひとくち口に入れる。
「(甘い……美味しい)」
「そう。お口にあって良かったわ」
「ありがとうございます」
「(初めて食べたな……これはなんだろ? けど、聞くのもおかしいよね……)」
目尻を下げ、頬を緩ませた竜は味わいながらもバームクーヘンを完食した。
「俺このバームクーヘン本当好きなんだ! 竜も気に入ってくれてよかったよ」
「うん、美味しい!」
「(これはバームクーヘンっていうのか……もう食べることはないだろうけど、本当に美味しかったな……)」
それから竜は杏に教わりながらゲームを楽しんだ。
「じゃあみんな手を合わせていただきます」
「いただきます」
生徒たちの机の上にはプレートに盛られた温かい給食があった。
「(美味しい!)」
お腹を空かせた竜は給食を勢いよく口に頬張る。
「今日は1人お休みなのでパンが余ってます。誰か食べますか?」
竜が給食を食べ終える頃、担任が教卓の上から声を上げる。
「(え! パンもらえるの? 欲しい! 夜ごはんにしようかな)」
「はい! 食べたいです!」
手を挙げたのは竜だけだった。
「はい、どうぞ」
担任から手渡されたのは先程食べたのと同じ食パンだ。
「ありがとうございます」
竜はそれをバレないようランドセルの中にしまい込んだ。
そして、夜。
隣の部屋にいる母が寝静まったのを確認した竜はランドセルから食パンを取り出すと夢中で頬張る。
「(美味しい……。これで毎日お腹空かなくてすむんだ)」
食パン1枚はあっという間になくなってしまった。
それからというもの、竜は給食の余り物が出れば、すかさず手を挙げていた。
その余り物は竜の夕飯となった。
そんな生活を続けていたある日、竜は自分の家は普通ではないと気づく。
それは竜が小学6年生に上がった頃──
「お母さん」
「……」
「お母さん。ねえ! なんで返事してくれないの?」
竜が呼んでも母は返事をしてくれず、居ないもの同然の扱いを受けていた。
小学校高学年になれば更に父に似てきた竜の顔。
最近は母と顔を合わせる事も少なくなってきた。
土日の食事も出されることは無くなり、月に1000円のお小遣いを貰いごはんを買いに行っていた。
***
「竜! これから俺ん家で遊ぶんだけど来るか?」
「行く!」
小学6年生の秋。
夏が終わり、だんだんと過ごしやすい季節となってきたある日。
同じクラスの男の子、杏(キョウ)が竜に声をかける。
「お母さん! ただいまー! 友達連れてきた!」
「おかえり」
そう出迎えてくれたのは杏の母親だ。
彼女は優しそうな笑みを浮かべていた。
「(優しそう……お母さんとは全然違う)」
竜は自分の母親と比べ一瞬影を落とす。
「お邪魔します。柏木竜です」
「竜くんいらっしゃい。ゆっくりしてね」
「(杏のお母さん笑ってる。そういえば俺のお母さんいつ笑ってたっけ?)」
「竜! 俺の部屋行こうぜ!」
「あ、うん」
靴を脱いだ2人は階段を上がった角部屋へ入って行く。
「ゲームしよう! 竜これやったことある?」
「ゲーム? あ、これはない」
「(これっていうか……ゲームやったことないな。買ってくれるわけないし……)」
「じゃあ、俺が教えるからやろう!」
「うん」
──コンコン
「はーい」
杏がゲームの準備をしているとドアをノックする音が聞こえてくる。
「杏、開けるわよ」
「うん。どうしたの?」
「飲み物とおやつ。竜くん食べれるかな?」
「おやつ? ……いいの?」
初めて出される"おやつ"に竜は目をまん丸くさせる。
「お母さんが出してくれたんだ。食べようぜ!」
「ありがとう……」
「いただきます!」
「いただきます……ん! おいし……」
竜はバームクーヘンをひとくち口に入れる。
「(甘い……美味しい)」
「そう。お口にあって良かったわ」
「ありがとうございます」
「(初めて食べたな……これはなんだろ? けど、聞くのもおかしいよね……)」
目尻を下げ、頬を緩ませた竜は味わいながらもバームクーヘンを完食した。
「俺このバームクーヘン本当好きなんだ! 竜も気に入ってくれてよかったよ」
「うん、美味しい!」
「(これはバームクーヘンっていうのか……もう食べることはないだろうけど、本当に美味しかったな……)」
それから竜は杏に教わりながらゲームを楽しんだ。
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