舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

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第45話 葵の家

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***

「帰るぞ」

竜は立ち上がると、葵を見つめる。

「へ? あ、うん」
「(そっか。今日は竜の話を聞くから早めに帰るのか……)」

葵はいつも帰る時間より1時間早く出ることになった。

「あれ? 葵ちゃん今日は帰るの早いんだね」

帰り支度をする葵に日向は声をかける。

「……うん」
「(どうしよう。何も理由考えてなかった……)」
「用があるらしい」

葵の代わりに答えたのは竜だった。

「そうなんだ。気をつけてねー」
「うん。バイバイ」

葵は手を振り、竜と共に倉庫を後にした。

「さっきはありがとう」
「……ああ」

竜はぶっきらぼうに返事をすると葵の頭にヘルメットを被せる。

「乗れるか?」
「うん」

葵はいつものように単車の後ろに軽やかに跨る。

それを確認した竜が単車を走らせた。

初めて葵を送るはずなのに、道案内せずとも自宅に到着した。

「ありがとう。竜ってなんであたしの家知ってるの?」

マンションの駐車場に単車を停めると、2人は葵の部屋へと向かう。

「お前を守るって言ったんだ、知らないわけねぇだろ?」
「あ、そうなんだ……」

本当は葵を初めて送り届けた日に蓮が幹部以上に報告していた。

だから、竜達は道を教えずとも場所を把握しているのだ。

「すげぇな……。何階だ?」
「1番上」
「すげぇ……」

竜は数秒タワーマンションを見上げると歩き出す。

2人はエレベーターに乗り込み、葵の住む最上階へと向かう。

「どうぞ」

葵は玄関のドアを開け、竜を招き入れる。

「家族はいねぇのか?」

部屋に入った竜は辺りを見渡す。

「いない。あたし1人だけ」
「そうか……」
「だからあたしの帰りが遅くなろうと心配する人はいないから。何時に帰っても、問題ないんだ」

それは竜と初めてあった日に言われた言葉だ。

"早く帰らないと家族が心配するだろ"

「まさか1人暮しだと思わなかったから。じゃあ、なんでその時に言わなかったんだ?」
「会ったばっかりだし、そこまで言う必要ないかと思って。竜はコーヒーとお茶どっち飲む?」

葵はキッチンに向かうとそう問いかける。

「そりゃそうだな。実家には帰ったりしてるのか? コーヒーで」

竜はリビングに設置されたソファーに腰掛けた。

「しない。縁切ったも同然だから。……でも、おじいちゃんにはたまに会う。この家もおじいちゃんのおかげで住めてるし」

葵が中学1年生の時から両親とは訳あって絶縁状態だ。

その時に出会ったのが萩人だった。

そして、身内で唯一葵を気にかけてくれたのが祖父だった──

「そうか……。なんか、何も知らなかったんだな」
「まあ、会ってそんなに経ってないしね。竜は?」
「俺は……さっき見ただろ? 背中の傷。あれは俺の母親に付けられた。小さい頃から虐待されてた……」
「竜……それはあたしが聞いてもいいの? まだ出会って1年も経ってないけど」
「出会ってからの日数なんて関係ねぇ。俺は葵だから話したいと思った」
「うん。わかった。はい、コーヒー」

葵は2人分のコーヒーをテーブルに置くと竜の隣に腰掛けた。

「悪いな」

テーブルに置かれたコーヒーを一口飲むと竜は話し始める。

──それは壮絶な過去だった。

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