舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
上 下
46 / 75

第45話 葵の家

しおりを挟む
***

「帰るぞ」

竜は立ち上がると、葵を見つめる。

「へ? あ、うん」
「(そっか。今日は竜の話を聞くから早めに帰るのか……)」

葵はいつも帰る時間より1時間早く出ることになった。

「あれ? 葵ちゃん今日は帰るの早いんだね」

帰り支度をする葵に日向は声をかける。

「……うん」
「(どうしよう。何も理由考えてなかった……)」
「用があるらしい」

葵の代わりに答えたのは竜だった。

「そうなんだ。気をつけてねー」
「うん。バイバイ」

葵は手を振り、竜と共に倉庫を後にした。

「さっきはありがとう」
「……ああ」

竜はぶっきらぼうに返事をすると葵の頭にヘルメットを被せる。

「乗れるか?」
「うん」

葵はいつものように単車の後ろに軽やかに跨る。

それを確認した竜が単車を走らせた。

初めて葵を送るはずなのに、道案内せずとも自宅に到着した。

「ありがとう。竜ってなんであたしの家知ってるの?」

マンションの駐車場に単車を停めると、2人は葵の部屋へと向かう。

「お前を守るって言ったんだ、知らないわけねぇだろ?」
「あ、そうなんだ……」

本当は葵を初めて送り届けた日に蓮が幹部以上に報告していた。

だから、竜達は道を教えずとも場所を把握しているのだ。

「すげぇな……。何階だ?」
「1番上」
「すげぇ……」

竜は数秒タワーマンションを見上げると歩き出す。

2人はエレベーターに乗り込み、葵の住む最上階へと向かう。

「どうぞ」

葵は玄関のドアを開け、竜を招き入れる。

「家族はいねぇのか?」

部屋に入った竜は辺りを見渡す。

「いない。あたし1人だけ」
「そうか……」
「だからあたしの帰りが遅くなろうと心配する人はいないから。何時に帰っても、問題ないんだ」

それは竜と初めてあった日に言われた言葉だ。

"早く帰らないと家族が心配するだろ"

「まさか1人暮しだと思わなかったから。じゃあ、なんでその時に言わなかったんだ?」
「会ったばっかりだし、そこまで言う必要ないかと思って。竜はコーヒーとお茶どっち飲む?」

葵はキッチンに向かうとそう問いかける。

「そりゃそうだな。実家には帰ったりしてるのか? コーヒーで」

竜はリビングに設置されたソファーに腰掛けた。

「しない。縁切ったも同然だから。……でも、おじいちゃんにはたまに会う。この家もおじいちゃんのおかげで住めてるし」

葵が中学1年生の時から両親とは訳あって絶縁状態だ。

その時に出会ったのが萩人だった。

そして、身内で唯一葵を気にかけてくれたのが祖父だった──

「そうか……。なんか、何も知らなかったんだな」
「まあ、会ってそんなに経ってないしね。竜は?」
「俺は……さっき見ただろ? 背中の傷。あれは俺の母親に付けられた。小さい頃から虐待されてた……」
「竜……それはあたしが聞いてもいいの? まだ出会って1年も経ってないけど」
「出会ってからの日数なんて関係ねぇ。俺は葵だから話したいと思った」
「うん。わかった。はい、コーヒー」

葵は2人分のコーヒーをテーブルに置くと竜の隣に腰掛けた。

「悪いな」

テーブルに置かれたコーヒーを一口飲むと竜は話し始める。

──それは壮絶な過去だった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

処理中です...