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第41話 菖人と桃李 ②不安
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「帰るか」
「あ、うん」
「とりあえず、あおの居場所が分かってよかった。それに……俺たちがいなくても萩人さんが居れば大丈夫だろ」
「(本当は……俺があおの隣にいてやりたかった……。もう一緒にいることは出来ねぇのか?)」
昇降口を出た菖人は再び後ろを振り返る。
だが、そこに葵の姿はもうない。
「(もう、いねぇか。会えた……会えて嬉しい。けど、あそこまで拒絶されるのはキツイな……)」
「菖人はさ……葵に戻ってきてほしいとは思わないの?」
「……そりゃあ、戻ってきてほしいに決まってんだろ。あのことを知ってる奴らだって受け入れてくれるとは思う。だけど、肝心のあおがあんな調子じゃぁまだ難しいだろうな」
「だよね。いつか……葵が落ち着いたらゆっくり話したいな。あれは葵のせいじゃないんだから……1人で背負わないでほしい……っ」
桃李は下ろされた拳をきつく握りしめる。
あの日、葵を含めた龍華はとある倉庫にいた。
暫くして、あることをきっかけに鉄パイプの下敷きになった桜玖の姿が──
桜玖に駆け寄る葵。
柑太に名前を呼ばれ葵が振り向こうとした瞬間──
葵の後ろには血だらけの柑太の姿があった。
──慌ただしく逃げ出す人。
──動揺する仲間たち。
──そして、震えた声で泣き叫ぶ葵。
それをきっかけに龍華を去ることになった葵。
「そうだな。でもあおが生きてることが分かった。あいつら……桜玖と柑太が守った命だ。それだけ知れてよかった。な?」
菖人は拳を握り俯く桃李の肩に腕を回す。
桃李は菖人の問いかけに無言で頷く。
そして、2人はその場を後にした。
「出してくれ」
菖人と桃李は学校近くに停めさせていた真っ黒い車の後部座席に乗り込む。
そして、菖人は運転席に座る大塚一犀(オオツカ イッセイ)に声を掛ける。
「承知しました」
黒い髪をハーフアップにした一犀はミラー越しに菖人と桃李の姿を確認すると車を走らせた。
葵の学校から数十分かけ、龍華の倉庫に到着した。
「到着しました」
「サンキュー」
「ありがとう」
一犀が車を停めると菖人と桃李は礼を告げ降りていく。
「菖人さん、桃李さん! おかえりなさい」
倉庫の2階には幹部以上が入れる部屋がある。
そこを開ければ青髪の男が心配そうな顔を浮かべている。
部屋には茶色のローテーブル。
そして、テーブルを囲うように様々な大きさのソファーか置かれてていた。
3人掛け用のソファーに座る彼は倉田桔平 (クラタ キッペイ)、現幹部だ。
葵がいた時は下っ端リーダーだった。
祭りの目撃情報を菖人達に教えてくれた人物でもある。
「ああ」
菖人はそう口を開くと1人掛け用ソファーに腰掛ける。
「桔平大丈夫だから、そんな顔しなくても。葵はいたよ。……まだ、話せる状態じゃないけどね」
菖人の代わりに桃李が口を開く。
桔平の不安そうな顔を見た桃李はなるべく明るく話していた。
「葵さんいたんですね。よかった……」
"話せる状態じゃない"というのはあまり喜ばしいことではないが、"生きていた"その確認が取れたことに桔平は安堵の表情を見せた。
「あ、うん」
「とりあえず、あおの居場所が分かってよかった。それに……俺たちがいなくても萩人さんが居れば大丈夫だろ」
「(本当は……俺があおの隣にいてやりたかった……。もう一緒にいることは出来ねぇのか?)」
昇降口を出た菖人は再び後ろを振り返る。
だが、そこに葵の姿はもうない。
「(もう、いねぇか。会えた……会えて嬉しい。けど、あそこまで拒絶されるのはキツイな……)」
「菖人はさ……葵に戻ってきてほしいとは思わないの?」
「……そりゃあ、戻ってきてほしいに決まってんだろ。あのことを知ってる奴らだって受け入れてくれるとは思う。だけど、肝心のあおがあんな調子じゃぁまだ難しいだろうな」
「だよね。いつか……葵が落ち着いたらゆっくり話したいな。あれは葵のせいじゃないんだから……1人で背負わないでほしい……っ」
桃李は下ろされた拳をきつく握りしめる。
あの日、葵を含めた龍華はとある倉庫にいた。
暫くして、あることをきっかけに鉄パイプの下敷きになった桜玖の姿が──
桜玖に駆け寄る葵。
柑太に名前を呼ばれ葵が振り向こうとした瞬間──
葵の後ろには血だらけの柑太の姿があった。
──慌ただしく逃げ出す人。
──動揺する仲間たち。
──そして、震えた声で泣き叫ぶ葵。
それをきっかけに龍華を去ることになった葵。
「そうだな。でもあおが生きてることが分かった。あいつら……桜玖と柑太が守った命だ。それだけ知れてよかった。な?」
菖人は拳を握り俯く桃李の肩に腕を回す。
桃李は菖人の問いかけに無言で頷く。
そして、2人はその場を後にした。
「出してくれ」
菖人と桃李は学校近くに停めさせていた真っ黒い車の後部座席に乗り込む。
そして、菖人は運転席に座る大塚一犀(オオツカ イッセイ)に声を掛ける。
「承知しました」
黒い髪をハーフアップにした一犀はミラー越しに菖人と桃李の姿を確認すると車を走らせた。
葵の学校から数十分かけ、龍華の倉庫に到着した。
「到着しました」
「サンキュー」
「ありがとう」
一犀が車を停めると菖人と桃李は礼を告げ降りていく。
「菖人さん、桃李さん! おかえりなさい」
倉庫の2階には幹部以上が入れる部屋がある。
そこを開ければ青髪の男が心配そうな顔を浮かべている。
部屋には茶色のローテーブル。
そして、テーブルを囲うように様々な大きさのソファーか置かれてていた。
3人掛け用のソファーに座る彼は倉田桔平 (クラタ キッペイ)、現幹部だ。
葵がいた時は下っ端リーダーだった。
祭りの目撃情報を菖人達に教えてくれた人物でもある。
「ああ」
菖人はそう口を開くと1人掛け用ソファーに腰掛ける。
「桔平大丈夫だから、そんな顔しなくても。葵はいたよ。……まだ、話せる状態じゃないけどね」
菖人の代わりに桃李が口を開く。
桔平の不安そうな顔を見た桃李はなるべく明るく話していた。
「葵さんいたんですね。よかった……」
"話せる状態じゃない"というのはあまり喜ばしいことではないが、"生きていた"その確認が取れたことに桔平は安堵の表情を見せた。
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