舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
上 下
40 / 75

第39話 日向の過去③笑顔

しおりを挟む
「そうか。良い奴だったんだな。……顔?」
「可愛い顔がムカつくって……言われました」

日向は両手でズボンを握りしめたまま俯く。

「日向はいくつだ?」
「13です」
「それなら大丈夫だ。日向はまだ幼い。これから大きくなればかっこよくなる。それに可愛くたっていいじゃないか。可愛いとダメなのか?」
「……僕、こんな見た目だからナメられるんです……」

柾斗の問いかけに日向は顔を上げると、悔しそうな声を出す。

「……なら強くなるか? 」
「え?」

驚き数回瞬きを繰り返す日向。

「俺は白狼9代目総長だ。仲間になるか?」
「いいんですか?」
「ああ」

それから未来は白狼の倉庫に通い仲間になった。

***

「──ってことがあってさ。誰かと付き合うなんて懲り懲りなんだ。……だけど、さっき同じ中学だった子が来て告白された。……僕の顔が好きなんだって……もう大丈夫だと思ったけどやっぱりダメ、みたい」

震える右手を左手で押さえる日向。

「そっか。でも日向はすごいね。女を嫌いにならなかったんだから」
「それは……柾斗さんのおかげかな。柾斗さんが沢山話を聞いてくれたから……」
「そっか。いい人に会えて良かったね。柾斗さんって竜がお世話になってる人?」
「うん。そうだよ!」

葵が問いかければ日向はここに来て初めて笑顔を見せた。

「そっか。誰かと付き合うなんて懲り懲りって言ってたけど、別に誰かと付き合わなくてもいいんじゃない? 今はみんながいる。もし付き合いたいって人と出会えたらすればいいし皆に合わせる必要はないと思う」
「葵ちゃん……ありがとう」

手の震えはいつの間にか治まり、そこにはいつもの日向がいた。

「あーっ! 柚佑いたぞ!」
「2人共なにサボってるの?」

背後から物音がし振り返るとそこには──蓮と柚佑の姿が。

「あ、ごめ──」
「ごめんごめん。男装慣れなくて日向に付き合ってもらってた」

戸惑う日向の言葉を葵が遮る。

「そうか。昨日頑張ってたしな。もう大丈夫か?」

屋上のドアに寄りかかる蓮が心配そうな顔を浮かべ問いかける。

「うん。大丈夫」
「じゃあ残りも頑張るぞ」
「日向も行くよ」

蓮と柚佑はそう言うと、フェンスの方へ歩いてくる。

そして、葵と日向の背中を軽く押し屋上の外へ出す2人。

昨日同様、葵がビラ配りで笑顔を見せれば女の子達は1年2組の教室へ入って行く。

そんなこんなで学園祭は大盛況となった。

「お前ら……お疲れ様。よくやった。でも残念だったなお前たちは2位だ。よって奢りはなしだ」

学園祭も無事終わり、その日の夕方教卓には柊真の姿がある。  

その表情はどこか嬉しそうだ。

「学年だと1位だったじゃねぇか!」
「全校で1位なんて聞いてねぇ!」

そんな柊真とは裏腹に生徒達からはブーイングの嵐。

今回の学園祭優勝クラスは2年1組のホストだった。

それは竜と楓のクラスだ。

「そんなこと言われてもな……じゃあお菓子買ってきてやるからな」
「(そんな子供だましに引っかかるような──)」

葵は冷めた表情で柊真を見つめる。

「まじっ!」
「よっしゃー」
「さっきゅー! とっちゃん愛してる!」

柊真の提案に生徒達は嬉しそうに喜ぶ。

「(そういう奴らか……。楽しそうでいいな)」

葵は口角を上げ、辺りを見渡す。

みんな嬉しそうな表情をしていた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...