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第36話 弱い僕
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学園祭2日目。
「北原くん、あたし中学の時一緒だったんだけど覚えてない?」
昇降口でビラ配りをしていた日向に1人の女の子が声をかけた。
セーラ服に身を包んだ小柄な女のコ。
彼女は胸下まで伸びた髪の毛を指でクルクルさせている。
「えっと……ごめん」
日向は女性をじっと見つめ考えるも思い出せずにいた。
「……そっか。大丈夫、ほとんど喋ったこともなかったしね。あたし山下桃(ヤマシタモモ)。ちょっといいかな?」
「あ、うん」
彼女は歩き出し、人気のない空き教室へ入って行く。
「あのね、あたし……き、北原くんが好きです……っ! 付き合ってください!」
彼女は頭を下げる。
「ごめん。付き合えない」
「どうして? あたし北原くんが好きなの! もし良かったら友達からでもいいの」
振られたことが余程ショックだったのか、日向に駆け寄る彼女。
「……じゃあ聞くけど、僕のどこが好きなの?」
それは今までの日向では考えられないほど低い声だった。
「そんなの決まってるじゃない! その可愛い顔よ。あたし北原くんを初めて見た時一目惚れしちゃったの! ね? だからあたしと付き合お」
「顔ね……彼女とかいらないから……ごめん」
日向はそう言うと彼女に背を向け歩きだす。
彼女は日向を追いかけることなくその場に立ち竦む。
「日向おかえり」
同じく昇降口でビラ配りをしていた葵が声をかける。
昨日取り乱していたことが嘘かのようだ。
あれから龍華の2人にはまだ会っていない。
たとえ会いたいと思ったとしても、連絡先を全て消した葵には会うすべがない。
「……ただいま」
「なんか元気ないけど大丈夫?」
日向の顔を見た葵が心配そうな顔を浮かべる。
「サボろっか」
「え……じゃあ、屋上行こう」
日向の言葉に一瞬驚きを見せた葵は歩き出す。
「気持ちいい……っ!」
屋上のドアを開けると葵に向かって風が吹いてくる。
金木犀の甘い香りが葵の鼻を掠める。
「日向がサボろうなんて珍しいね。なんかあった?」
葵はフェンスに寄りかかるとドアの前に立つ日向に問いかける。
「……僕さ、いつも明るくて元気で悩みなんてなさそうってよく言われるんだ。……だけど、これって結構大変だし悩みもあるんだよ……」
そう笑う日向の顔はいつになく弱々しく今にも壊れてしまいそうだった。
「うん。いつも明るく元気なのはそれだけ周りに気を使ってるからできることだよね。別にいつも元気で明るくいる必要はないんじゃない?」
「でも……それをしたら……」
動揺から日向の黒い瞳は左右に揺れる。
「周りが気になる? 心配かけちゃうって思ってる? それなら、あたしの前では無理しなくていい」
「いいの? 弱い僕でもいいの?」
「いいんだよ。話聞くだけしか出来ないかもしれない。でも自分の心に溜め込むより口に出した方が絶対いい」
「葵ちゃん……ありがとう。……僕ね、この顔が……嫌いなんだ」
日向は喋りながら歩き出す。
「顔?」
「うん。聞いてくれる?」
葵の隣に立つと日向は話し始める。
学園祭2日目。
「北原くん、あたし中学の時一緒だったんだけど覚えてない?」
昇降口でビラ配りをしていた日向に1人の女の子が声をかけた。
セーラ服に身を包んだ小柄な女のコ。
彼女は胸下まで伸びた髪の毛を指でクルクルさせている。
「えっと……ごめん」
日向は女性をじっと見つめ考えるも思い出せずにいた。
「……そっか。大丈夫、ほとんど喋ったこともなかったしね。あたし山下桃(ヤマシタモモ)。ちょっといいかな?」
「あ、うん」
彼女は歩き出し、人気のない空き教室へ入って行く。
「あのね、あたし……き、北原くんが好きです……っ! 付き合ってください!」
彼女は頭を下げる。
「ごめん。付き合えない」
「どうして? あたし北原くんが好きなの! もし良かったら友達からでもいいの」
振られたことが余程ショックだったのか、日向に駆け寄る彼女。
「……じゃあ聞くけど、僕のどこが好きなの?」
それは今までの日向では考えられないほど低い声だった。
「そんなの決まってるじゃない! その可愛い顔よ。あたし北原くんを初めて見た時一目惚れしちゃったの! ね? だからあたしと付き合お」
「顔ね……彼女とかいらないから……ごめん」
日向はそう言うと彼女に背を向け歩きだす。
彼女は日向を追いかけることなくその場に立ち竦む。
「日向おかえり」
同じく昇降口でビラ配りをしていた葵が声をかける。
昨日取り乱していたことが嘘かのようだ。
あれから龍華の2人にはまだ会っていない。
たとえ会いたいと思ったとしても、連絡先を全て消した葵には会うすべがない。
「……ただいま」
「なんか元気ないけど大丈夫?」
日向の顔を見た葵が心配そうな顔を浮かべる。
「サボろっか」
「え……じゃあ、屋上行こう」
日向の言葉に一瞬驚きを見せた葵は歩き出す。
「気持ちいい……っ!」
屋上のドアを開けると葵に向かって風が吹いてくる。
金木犀の甘い香りが葵の鼻を掠める。
「日向がサボろうなんて珍しいね。なんかあった?」
葵はフェンスに寄りかかるとドアの前に立つ日向に問いかける。
「……僕さ、いつも明るくて元気で悩みなんてなさそうってよく言われるんだ。……だけど、これって結構大変だし悩みもあるんだよ……」
そう笑う日向の顔はいつになく弱々しく今にも壊れてしまいそうだった。
「うん。いつも明るく元気なのはそれだけ周りに気を使ってるからできることだよね。別にいつも元気で明るくいる必要はないんじゃない?」
「でも……それをしたら……」
動揺から日向の黒い瞳は左右に揺れる。
「周りが気になる? 心配かけちゃうって思ってる? それなら、あたしの前では無理しなくていい」
「いいの? 弱い僕でもいいの?」
「いいんだよ。話聞くだけしか出来ないかもしれない。でも自分の心に溜め込むより口に出した方が絶対いい」
「葵ちゃん……ありがとう。……僕ね、この顔が……嫌いなんだ」
日向は喋りながら歩き出す。
「顔?」
「うん。聞いてくれる?」
葵の隣に立つと日向は話し始める。
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