舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

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第33話 学園祭

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***


数日後、学園祭が始まった。

校庭に植えられた金木犀の甘い香りが漂う。


たくさんの客が足を運ぶ。
その多くが女性だ。

校門から昇降口までの間には各クラスの看板が置かれていた。


客に紛れ、クラスTシャツに身を包んだ生徒達がビラ配りをしている。

その中には1年2組の生徒の姿もあった。

「1年2組ホストやってます。来てください」

スーツをかっこよく着こなし、髪の毛はワックスで遊ばせ、前髪は左に流し、耳にはいくつかピアスが付いていた。

その美少年がニコッと笑えば女性客は頬を染める。

「行きます!」

女性客はそのまま1年2組の教室へ。

そんな具合で、昇降口で声をかけたほとんどの女性客は1年2組に直行している。

「葵似合いすぎじゃねぇか?」

一緒にビラ配りをしていた蓮は、その美少年の頭からつま先までじっくり見る。

「そう? 男装嫌だったけど、意外と楽しいね」

そう──ほとんどの女性客を虜にしていたのは葵だった。

背丈の低い葵はシークレットブーツを履き、他の男子生徒と変わらない程だ。

「疲れた……休憩しよう」
「ああ、そうだな」

午前中はずっとビラ配りをしていた葵と蓮。

1年2組の教室を覗けばたくさんの行列が出来ていた。

「すげぇ……」

蓮が思わず声を漏らす。

「あ! さっき昇降口にいた人ですよね! あなたを指名します!」
「あたしも!」
「私も!」

蓮の声で葵に気づいた女性客は次々に声を上げる。

「あ、えっと……」
「頑張れ」

戸惑う葵をよそに、蓮は小声でそう呟くと去っていた。

「(蓮の奴……覚えてろよ)」

葵は蓮の背中を睨みつけた。

その睨みに女性客から悲鳴が上がったのは言うまでもない。

「柚佑。俺、指名貰ったんだけどどうしたらいい?」

葵は教室の隅で休憩していた柚佑に声をかけた。

「葵ちゃ……じゃなかったね。じゃあ指名してくれた人の順番になったら案内して、飲み物とか聞いて話しといて」
「了解」
「それにしても似合うね。そこらの男よりかっこいいんじゃない?」
「あ、ありがとう」

柚佑の言葉に若干照れくさいのかそっぽを向く葵。

「いらっしゃいませ。お嬢様。こちらのお席へどうぞ」

指名してくれた人の順番となり、葵は席へ案内した。

「あ、あのお名前なんて言うですかぁ?」

案内したのは先程指名してきた3人組の女性客。

机を2つ縦に並べ、それを囲うように並べられた椅子。

髪の毛をクルクルと巻き、濃いめの化粧をした女が上目遣いで問いかける。

「……えっと、葵です。よろしくね」

キツめの香水が葵の鼻を掠め、思わず顔を逸らす。

「可愛いお顔してるね」
「本当に男の子?」

左右に座る、ショートカットにした女とツインテールの女が問いかける。

「男ですよ」
「(本当は女だけどさ……)」

葵は顔に出さず接客を続けた。

15分という時間はあっという間に過ぎ、帰る時間となる。

「今日はありがとう。また来てね」

葵が笑みを見せれば、3人組は顔を真っ赤に染め帰って行った。

「(今のうちにトイレ、トイレ)」

隙を見て、教室を出た葵。

「(どっちに入る?)」

葵はトイレの前で立ち止まる。

男装しているが中身は女。

このまま男子トイレに入った所で違和感はない。

ただ、クラスメイトにあった場合は気まずい。

変わって女子トイレは違和感しかない。

女性客に合えば大騒ぎになる可能性もある。

「(……あ、取ればいいのか)」

葵は頭に手を置くとそのまま髪の毛を掴みウィッグを外した。

髪の毛を整えれば男には見えない。

葵はそのまま女子トイレへと入って行った。

ウィッグを手洗い器の所に置き、個室に入り用を足す。

手を洗ってトイレを出ると、入る前には誰も居なかった廊下にたくさんの人がいた。

葵は蓮を探す為、昇降口へ向かう。

ウィッグをトイレに置き忘れたとも知らずに。

「(あれ? いないや。まだ休憩かな? なら、あたしも休憩しよう)」

昇降口を覗いたが、蓮の姿はなかった。



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