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第33話 学園祭
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数日後、学園祭が始まった。
校庭に植えられた金木犀の甘い香りが漂う。
たくさんの客が足を運ぶ。
その多くが女性だ。
校門から昇降口までの間には各クラスの看板が置かれていた。
客に紛れ、クラスTシャツに身を包んだ生徒達がビラ配りをしている。
その中には1年2組の生徒の姿もあった。
「1年2組ホストやってます。来てください」
スーツをかっこよく着こなし、髪の毛はワックスで遊ばせ、前髪は左に流し、耳にはいくつかピアスが付いていた。
その美少年がニコッと笑えば女性客は頬を染める。
「行きます!」
女性客はそのまま1年2組の教室へ。
そんな具合で、昇降口で声をかけたほとんどの女性客は1年2組に直行している。
「葵似合いすぎじゃねぇか?」
一緒にビラ配りをしていた蓮は、その美少年の頭からつま先までじっくり見る。
「そう? 男装嫌だったけど、意外と楽しいね」
そう──ほとんどの女性客を虜にしていたのは葵だった。
背丈の低い葵はシークレットブーツを履き、他の男子生徒と変わらない程だ。
「疲れた……休憩しよう」
「ああ、そうだな」
午前中はずっとビラ配りをしていた葵と蓮。
1年2組の教室を覗けばたくさんの行列が出来ていた。
「すげぇ……」
蓮が思わず声を漏らす。
「あ! さっき昇降口にいた人ですよね! あなたを指名します!」
「あたしも!」
「私も!」
蓮の声で葵に気づいた女性客は次々に声を上げる。
「あ、えっと……」
「頑張れ」
戸惑う葵をよそに、蓮は小声でそう呟くと去っていた。
「(蓮の奴……覚えてろよ)」
葵は蓮の背中を睨みつけた。
その睨みに女性客から悲鳴が上がったのは言うまでもない。
「柚佑。俺、指名貰ったんだけどどうしたらいい?」
葵は教室の隅で休憩していた柚佑に声をかけた。
「葵ちゃ……じゃなかったね。じゃあ指名してくれた人の順番になったら案内して、飲み物とか聞いて話しといて」
「了解」
「それにしても似合うね。そこらの男よりかっこいいんじゃない?」
「あ、ありがとう」
柚佑の言葉に若干照れくさいのかそっぽを向く葵。
「いらっしゃいませ。お嬢様。こちらのお席へどうぞ」
指名してくれた人の順番となり、葵は席へ案内した。
「あ、あのお名前なんて言うですかぁ?」
案内したのは先程指名してきた3人組の女性客。
机を2つ縦に並べ、それを囲うように並べられた椅子。
髪の毛をクルクルと巻き、濃いめの化粧をした女が上目遣いで問いかける。
「……えっと、葵です。よろしくね」
キツめの香水が葵の鼻を掠め、思わず顔を逸らす。
「可愛いお顔してるね」
「本当に男の子?」
左右に座る、ショートカットにした女とツインテールの女が問いかける。
「男ですよ」
「(本当は女だけどさ……)」
葵は顔に出さず接客を続けた。
15分という時間はあっという間に過ぎ、帰る時間となる。
「今日はありがとう。また来てね」
葵が笑みを見せれば、3人組は顔を真っ赤に染め帰って行った。
「(今のうちにトイレ、トイレ)」
隙を見て、教室を出た葵。
「(どっちに入る?)」
葵はトイレの前で立ち止まる。
男装しているが中身は女。
このまま男子トイレに入った所で違和感はない。
ただ、クラスメイトにあった場合は気まずい。
変わって女子トイレは違和感しかない。
女性客に合えば大騒ぎになる可能性もある。
「(……あ、取ればいいのか)」
葵は頭に手を置くとそのまま髪の毛を掴みウィッグを外した。
髪の毛を整えれば男には見えない。
葵はそのまま女子トイレへと入って行った。
ウィッグを手洗い器の所に置き、個室に入り用を足す。
手を洗ってトイレを出ると、入る前には誰も居なかった廊下にたくさんの人がいた。
葵は蓮を探す為、昇降口へ向かう。
ウィッグをトイレに置き忘れたとも知らずに。
「(あれ? いないや。まだ休憩かな? なら、あたしも休憩しよう)」
昇降口を覗いたが、蓮の姿はなかった。
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