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第32話 男装
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***
「じゃあ1年2組はホストで決まりと。優勝したら飯奢ってやる。しっかりやれよ」
柊真の言葉にクラス全員から歓声が上がったのは言うまでもない。
夏休みも終わり数日経ったある日、学園の出し物を決めていた。
黒板には学園祭の出し物の候補がいくつか書かれていたが、クラス全員一致でホストに決まった。
黒蛇の総長、蛇塚と会ってから葵の送り迎えは念の為、車を使うようになった。
その効果もあってか、今の所何も起きていない。
今の所は──
まさか、あんな事になるとは誰も知る由もなかった。
だが、それはまだ先のお話。
「あ、言い忘れてた。葵は男装な」
柊真は黒板を消しながら呟いた。
「は?」
葵はその言葉を聞き逃さなかった。
「ホストなのに女の子いたらおかしいだろ?」
「裏方! 裏方でいいから! そしたら、男装しなくても──」
「男装。お前の衣装は用意しといてやる。な?」
柊真は葵の目の前まで来ると満面の笑みを浮かべ視線を交わす。
「……わかった」
「(何故かこの笑顔には勝てない。許しちゃう自分が嫌になる)」
柊真が席から離れると葵は誰にも気づかれないようため息を吐いた。
「葵ちゃんが男装するなんて学園祭楽しみだね!」
追い討ちをかけるかのように日向が満面の笑みを浮かべていた。
「全然楽しくない。裏方でいいのに……」
余程嫌なのか、葵は机に顔を伏せた。
***
「竜さんと楓さんは学園祭やるんですか?」
倉庫のいつもの部屋では日向が笑みを浮かべながら問いかける。
「ホスト」
竜はポツリと呟く。
「ホスト! じゃあ一緒ですね!」
「一緒……」
日向の言葉に竜は葵に視線を移した。
「(言いたいことは分かる。女のお前はどうするんだってことくらい。けど、無言で見つめるのはやめてくれ)」
葵は竜の視線に耐えきれず逸らす。
「なんと葵ちゃんも──」
「日向、やめとけ」
日向の言葉を遮ったのは蓮だった。
「え、ああ……なんでもないです」
葵の姿を目にした日向はこれ以上何も言うことはなかった。
いや、言えなかったんだ。
葵の瞳には光が宿っていないように見えたから。
「お前らもホストか。頑張れよ」
日向が言ったことには特に触れず竜は余裕そうな表情を見せた。
「(竜がホストやったらみんな集まるだろうな)」
葵はどこか遠くを見つめていた。
***
「ねえ、柊真。今日のどういうこと? なんであたしが男装しないとなんだよ!」
倉庫から自宅に送り届けられた葵は柊真に電話をかけた。
「ホストといったら男だろ? それにただ俺が見たいだけ。男装似合いそうだし」
葵に怒鳴られているというのに、柊真は嬉しそうにそう口を開いた。
「男装して、あたしが舞桜だってバレたら……!」
「舞桜の時は男装してたのか?」
冷静さを失った葵と違い柊真は冷静だった。
「してないけど……。でも、舞桜は男だって噂はある」
「男装してなかったんなら大丈夫だろ。萩人さんから聞いたけど、もしあいつらが来ても男装してればバレないんじゃないか?」
「……そっか。男装してればバレないか。分かった、あたしもホストやる」
柊真の言葉に納得した葵は男装をすることを決意した。
「じゃあ頑張れよ」
「ありがとう」
葵は嬉しそうに礼を伝えると電話を切った。
こうして、葵は裏方ではなく、接客としてホストをやることとなった。
まさか、あんなことが起きるとはこの時は思っても見なかった。
「じゃあ1年2組はホストで決まりと。優勝したら飯奢ってやる。しっかりやれよ」
柊真の言葉にクラス全員から歓声が上がったのは言うまでもない。
夏休みも終わり数日経ったある日、学園の出し物を決めていた。
黒板には学園祭の出し物の候補がいくつか書かれていたが、クラス全員一致でホストに決まった。
黒蛇の総長、蛇塚と会ってから葵の送り迎えは念の為、車を使うようになった。
その効果もあってか、今の所何も起きていない。
今の所は──
まさか、あんな事になるとは誰も知る由もなかった。
だが、それはまだ先のお話。
「あ、言い忘れてた。葵は男装な」
柊真は黒板を消しながら呟いた。
「は?」
葵はその言葉を聞き逃さなかった。
「ホストなのに女の子いたらおかしいだろ?」
「裏方! 裏方でいいから! そしたら、男装しなくても──」
「男装。お前の衣装は用意しといてやる。な?」
柊真は葵の目の前まで来ると満面の笑みを浮かべ視線を交わす。
「……わかった」
「(何故かこの笑顔には勝てない。許しちゃう自分が嫌になる)」
柊真が席から離れると葵は誰にも気づかれないようため息を吐いた。
「葵ちゃんが男装するなんて学園祭楽しみだね!」
追い討ちをかけるかのように日向が満面の笑みを浮かべていた。
「全然楽しくない。裏方でいいのに……」
余程嫌なのか、葵は机に顔を伏せた。
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「竜さんと楓さんは学園祭やるんですか?」
倉庫のいつもの部屋では日向が笑みを浮かべながら問いかける。
「ホスト」
竜はポツリと呟く。
「ホスト! じゃあ一緒ですね!」
「一緒……」
日向の言葉に竜は葵に視線を移した。
「(言いたいことは分かる。女のお前はどうするんだってことくらい。けど、無言で見つめるのはやめてくれ)」
葵は竜の視線に耐えきれず逸らす。
「なんと葵ちゃんも──」
「日向、やめとけ」
日向の言葉を遮ったのは蓮だった。
「え、ああ……なんでもないです」
葵の姿を目にした日向はこれ以上何も言うことはなかった。
いや、言えなかったんだ。
葵の瞳には光が宿っていないように見えたから。
「お前らもホストか。頑張れよ」
日向が言ったことには特に触れず竜は余裕そうな表情を見せた。
「(竜がホストやったらみんな集まるだろうな)」
葵はどこか遠くを見つめていた。
***
「ねえ、柊真。今日のどういうこと? なんであたしが男装しないとなんだよ!」
倉庫から自宅に送り届けられた葵は柊真に電話をかけた。
「ホストといったら男だろ? それにただ俺が見たいだけ。男装似合いそうだし」
葵に怒鳴られているというのに、柊真は嬉しそうにそう口を開いた。
「男装して、あたしが舞桜だってバレたら……!」
「舞桜の時は男装してたのか?」
冷静さを失った葵と違い柊真は冷静だった。
「してないけど……。でも、舞桜は男だって噂はある」
「男装してなかったんなら大丈夫だろ。萩人さんから聞いたけど、もしあいつらが来ても男装してればバレないんじゃないか?」
「……そっか。男装してればバレないか。分かった、あたしもホストやる」
柊真の言葉に納得した葵は男装をすることを決意した。
「じゃあ頑張れよ」
「ありがとう」
葵は嬉しそうに礼を伝えると電話を切った。
こうして、葵は裏方ではなく、接客としてホストをやることとなった。
まさか、あんなことが起きるとはこの時は思っても見なかった。
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