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第24話 迷子と柚佑
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葵は体勢を持ち直し視線を前に向ける──
だが、そこに日向達の姿はなかった。
「(あれ? いないな……はぐれたか)」
辺りを見渡すも姿は見当たらない。
「(痛っ……!)」
それどころか、先程よろけた際に鼻緒が切れ上手くあることさえ出来ないでいた。
「(仕方ない……ここで待つか)」
近くの石段に腰掛け迎えを待つ葵。
「(……あ、携帯忘れた。確か服の中だ)」
巾着の中をいくら探しても携帯が見つからない。
それは浴衣に着替える前、着ていたズボンのポケットに入れたままになっていた。
人々が行き交う姿をただ眺める葵。
「あの……」
そんな葵に声をかけてきた人物が。
「なに?」
「あの……よ、よかったら……こ、これから一緒に……」
スキンヘッドの彼はオドオドと話だした。
「無理。人待ってるの!」
そんな男の言葉を遮りバッサリと断った。
「おい、まだかよ」
男の背後から現れたのは、これまたスキンヘッドの男。
サングラスまで身につけていた。
「い、いや……」
「おせぇんだよ! おい、姉ちゃん。ちょっと来てくれねぇか?」
ダミ声で話始めたサングラス男。
「だから、人待ってるって言ったよね?」
「この女、生意気だな! さっさと来いよ!」
サングラス男は葵の左腕を掴むとそのまま立ち上がらせた。
「ちょっと、何するの!」
葵は腕を振り払い、男から1歩離れる。
「手荒な真似はしたくないからさ。あんただよな? 白狼のお姫様は」
「あたしは姫じゃない」
「でも、守られてるだろ!」
サングラス男はそう言うと、葵の腹部を蹴り飛ばした。
「……今蹴ったよな?」
葵をサングラス男から目をそらさずに下駄を脱ぎ捨てる。
「だからなんだ」
「正当防衛……」
葵はボソッと低い声を出すと、サングラス男目掛けて飛び蹴りをした。
右足はサングラス男の左頬を直撃。
「痛てぇ……お前らやっちまえ」
男の言葉を合図に木陰から次々と男が出てきた。
その数、4人──
動きにくい浴衣を着ながらも、残りの4人を次々となぎ倒した。
最初に声をかけてきた男は逃げ出したのか、姿がなかった。
「(久々だな……けど、浴衣だと動きにくかったな)」
全て片付けた終えた葵は地面に転がっている男達を見ながら肩を回す。
密かに葵の行動を見ていた人物がいた。
そんなことを知る由もない葵は男の近くに落ちている下駄を拾い、石段に腰掛ける。
「え……だ、大丈夫?」
「……っ!」
「(見られたっ!)」
石段で足の裏に付いた汚れを払い、鼻緒の壊れた下駄を履き直し立ち上がると見知った声がした。
「これって……1人でやったの?」
柚佑は地面に倒れる男と葵を見て驚いていた。
「あー、しつこくて……空手とかやってたから……」
葵は言葉を振り絞る。
だが、それはあながち嘘ではない。
幼少期から空手、柔道を習わされていた葵は龍華に入った時から強かったのだ。
「そっか。とりあえず、行こっか。歩ける?」
「なんとか……」
「あ、鼻緒が切れてる……ちょっとそこ座って」
数歩、歩いたところで柚佑は葵か履いている下駄の鼻緒が切れていることに気づいた。
葵を石段に座らせると、柚佑はズボンのポケットかは薄いハンカチと財布から5円玉を1枚取り出した。
「ハンカチと5円玉でどうすんの?」
「まあ、見てて」
薄いハンカチをひも状にし、それを5円玉の穴に通す。
手際よく、草履の穴に通しハンカチを結べば完成だ。
「これなら歩けるかな」
「お、凄い! ありがとう」
葵は立ち上がり試しに歩いてみる。
それは鼻緒が切れる前と同じで歩きやすかったようだ。
「あ……花火だ」
口笛のような音の後に破裂音が聞こえ、葵は空を見上げる。
薄暗い空に花が開くとそれはすぐに消え、続けて別の花が開く。
「日向に連絡したから、花火見終わってから行こっか」
「うん」
葵は石段に深く腰掛け直すと、夜空を再び見上げた。
だが、そこに日向達の姿はなかった。
「(あれ? いないな……はぐれたか)」
辺りを見渡すも姿は見当たらない。
「(痛っ……!)」
それどころか、先程よろけた際に鼻緒が切れ上手くあることさえ出来ないでいた。
「(仕方ない……ここで待つか)」
近くの石段に腰掛け迎えを待つ葵。
「(……あ、携帯忘れた。確か服の中だ)」
巾着の中をいくら探しても携帯が見つからない。
それは浴衣に着替える前、着ていたズボンのポケットに入れたままになっていた。
人々が行き交う姿をただ眺める葵。
「あの……」
そんな葵に声をかけてきた人物が。
「なに?」
「あの……よ、よかったら……こ、これから一緒に……」
スキンヘッドの彼はオドオドと話だした。
「無理。人待ってるの!」
そんな男の言葉を遮りバッサリと断った。
「おい、まだかよ」
男の背後から現れたのは、これまたスキンヘッドの男。
サングラスまで身につけていた。
「い、いや……」
「おせぇんだよ! おい、姉ちゃん。ちょっと来てくれねぇか?」
ダミ声で話始めたサングラス男。
「だから、人待ってるって言ったよね?」
「この女、生意気だな! さっさと来いよ!」
サングラス男は葵の左腕を掴むとそのまま立ち上がらせた。
「ちょっと、何するの!」
葵は腕を振り払い、男から1歩離れる。
「手荒な真似はしたくないからさ。あんただよな? 白狼のお姫様は」
「あたしは姫じゃない」
「でも、守られてるだろ!」
サングラス男はそう言うと、葵の腹部を蹴り飛ばした。
「……今蹴ったよな?」
葵をサングラス男から目をそらさずに下駄を脱ぎ捨てる。
「だからなんだ」
「正当防衛……」
葵はボソッと低い声を出すと、サングラス男目掛けて飛び蹴りをした。
右足はサングラス男の左頬を直撃。
「痛てぇ……お前らやっちまえ」
男の言葉を合図に木陰から次々と男が出てきた。
その数、4人──
動きにくい浴衣を着ながらも、残りの4人を次々となぎ倒した。
最初に声をかけてきた男は逃げ出したのか、姿がなかった。
「(久々だな……けど、浴衣だと動きにくかったな)」
全て片付けた終えた葵は地面に転がっている男達を見ながら肩を回す。
密かに葵の行動を見ていた人物がいた。
そんなことを知る由もない葵は男の近くに落ちている下駄を拾い、石段に腰掛ける。
「え……だ、大丈夫?」
「……っ!」
「(見られたっ!)」
石段で足の裏に付いた汚れを払い、鼻緒の壊れた下駄を履き直し立ち上がると見知った声がした。
「これって……1人でやったの?」
柚佑は地面に倒れる男と葵を見て驚いていた。
「あー、しつこくて……空手とかやってたから……」
葵は言葉を振り絞る。
だが、それはあながち嘘ではない。
幼少期から空手、柔道を習わされていた葵は龍華に入った時から強かったのだ。
「そっか。とりあえず、行こっか。歩ける?」
「なんとか……」
「あ、鼻緒が切れてる……ちょっとそこ座って」
数歩、歩いたところで柚佑は葵か履いている下駄の鼻緒が切れていることに気づいた。
葵を石段に座らせると、柚佑はズボンのポケットかは薄いハンカチと財布から5円玉を1枚取り出した。
「ハンカチと5円玉でどうすんの?」
「まあ、見てて」
薄いハンカチをひも状にし、それを5円玉の穴に通す。
手際よく、草履の穴に通しハンカチを結べば完成だ。
「これなら歩けるかな」
「お、凄い! ありがとう」
葵は立ち上がり試しに歩いてみる。
それは鼻緒が切れる前と同じで歩きやすかったようだ。
「あ……花火だ」
口笛のような音の後に破裂音が聞こえ、葵は空を見上げる。
薄暗い空に花が開くとそれはすぐに消え、続けて別の花が開く。
「日向に連絡したから、花火見終わってから行こっか」
「うん」
葵は石段に深く腰掛け直すと、夜空を再び見上げた。
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