舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
上 下
18 / 75

第17話 刺青

しおりを挟む
「(この部屋ずっと気になってたんだよな。何があるんだろう)」
「この部屋は?」

部屋に入ると、そこにはベッドとテレビだけが設置されていた。

「ここは仮眠室みたいなもんらしいよ。眠くなったら誰でも使って良いって前に蓮から聞いたけど」
「へえ」
「じゃあ、服脱いで」

ドアを背にし向かい合う2人。

杏佳は葵の目をしっかりと見つめると真顔でそう言った。

「は?」
「いいから、脱いでくれない?」
「なんで?」
「そんなに警戒しないで。別に取って食うわけじゃないんだから」
「理由は? なんであたしが服を脱がなきゃいけないわけ?」

段々と詰め寄ってくる杏佳に対し、葵は距離をとろうと後ろへ後ずさりする。

「もう! いちいちうるさいわね」

葵の背中が壁にぶつかると、先程までとっていた距離はなくなる。

杏佳は更に距離を詰めると、葵の服に手をかける。

「ちょ、ちょっと! 何するのよ!」

その直後、部屋には葵の切羽詰まった声が響き渡る。

「おい! 葵大丈夫か!? 開けるぞ!」

ドアを叩く音ともに心配そうな蓮の声がドア越しに聞こえてくる。

「開けるなっ!」

ドアノブが下がったのを目にした葵は声を上げる。

それは、殺気さえ出てそうなドスの効いた声だった。

「あ、悪い……なんかあったら言えよ」

それに怖気付いたのか蓮は消え入りそうな声を出した。 

「ありがとう」
「……随分とドスの効いた声ね。こんなに可愛い顔をしてるのに……」
「うるさい。何も無理やり脱がすことはないだろ」

葵は怒りと苛立ちを含んだような声を出す。

その姿は、杏佳に洋服を剥ぎ取られ、上半身は下着姿だった。

「あなたがなかなか脱がないからよ。これに着替えてほしいのよ」
「……だったら、先に言え」

葵は杏佳が持つ大きな紙袋に視線を移す。

「なに? あたしに何かされると思って警戒してたの? 可愛い」
「うるさ……で、これに着替えればいいわけ……ってこれ」

杏佳から紙袋を奪い中身を確認した葵は思わず声を詰まらせる。

「そう。浴衣、あたしはその着付けをするために呼ばれたわけよ」
「……」

固まる葵をよそに、杏佳は紙袋から浴衣を取り出す。

「早く服脱いでくれない?」
「わかった……」

杏佳に背を向け服を脱ぎ始める葵。

前を隠すことに必死で"あれ"を見られないようにすることをすっかり忘れていた。

「あら、顔に似合わず刺青入れてるのね」
「……っ!」

杏佳の言葉に葵は慌てて右腰を手で抑えた。

「なんで隠すの?」
「だ、誰にも言わないで!」
「わかったわ。あなたの腰に龍と桜の刺青が入ってることは誰にも言わない」
「……ありがとう」

杏佳は慣れた手つきで葵に浴衣を着せていく。

着付けが終わると、髪の毛をアップにまとめ髪飾りを付け、軽く化粧をしたら完成だ。

「はい、出来た。あなた化粧映えするわね。こんなに綺麗なのにもったいない」
「めんどくさいし、顔になんか付けるの好きじゃない」
「そう。まあ、スッピンであんなに綺麗なのは羨ましいけど。さ、こんな時間だし行くわよ」
「……」
「はい、楽しみはこれからよ」

葵は強引に部屋から出され、みんなの前でお披露目をさせられた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

処理中です...