舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
上 下
14 / 75

第13話 パンケーキ

しおりを挟む
「竜は料理どこで習ったの?」
「居候先」
「そうなんだ。じゃあそこの人は料理上手だったんだ」
「……何も聞かねぇの?」

竜は眉をピクっと動かすとボソッと呟く。

「だって出会ってまだ1週間だよ。そんなずけずけ聞けないし、誰でも言いたくないこともあるだろうしさ」

葵はそう言うと影を落とした。

「(あたしだって言えないことだらけだ)」
「居候してた所、白狼元総長の家」
「へえ。昔からの知り合い?」
「いや、俺が荒れてた時に救ってくれた人。今でも世話になってる」
「そっか。いい人に出会えてよかったね」
「ああ」

決して笑みを浮かべている訳ではないが、その表情は少し柔らかくなっていた。

「そういえば、日向と葵はどこ行ってたの?」

柚佑の言葉に固まる葵。

「(これ、言ったら楓へそ曲げちゃうんじゃないの?)」
「えっとね、パンケーキ食べてきたよ!」

そう笑顔で言ってのけたのは日向だった。

「は?」

日向の言葉に反応したのはやはり、楓だ。

「(ほら、やっぱり)」

葵は憐れむような目で楓を見つめた。

「見てくださいよ。すっごい美味しかったんですよ」

先程、カフェで葵に見せたのと同じいたずらっ子のような笑みを浮かべた日向は、携帯で撮影した写真を見せびらかした。

「俺が最初に見つけたのに……」

写真を見ただけでそこがどこかなのか分かった楓は悔しそうな表情を浮かべる。

「楓さんも行ったらいいじゃないですか?」

日向の言葉に顔を上げ辺りを見渡す楓。

だが、その部屋にいる誰一人とも目が合わない。

いや、皆目を伏せ、会わないように必死だった。

白狼幹部以上で甘いものが好きなのは日向と楓だけ。あとは皆苦手なのだ。

だから、道ずれにされないよう必死だ。

「(やばっ! 目合ったけど、女嫌いだし大丈夫だろうな)」

唯一、目が合ったのは楓が苦手な"女"、葵だ。

「甘いものは好きか?」

口を開いた楓の目はしっかりと葵の目をとらえていた。

「へ? あ……うん」
「しょうがね、今度行くぞ」
「えーと、あたしと楓がこのお店に行くってことでOK?」
「他に何がある?」
「いや、日向と行けばいいじゃん。女嫌いなんだから、あたしと行かなくてもいいんじゃない?」
「洒落た店に野郎2人で行けるわけねぇだろ」

楓は日向を一瞬だけ視界にいれると元に戻した。

「……それは、うん。あたしが悪かったです」
「行く、行かない?」
「別に行ってもいいけど」
「(パンケーキすごい美味しかったし、他のも食べてみたかったんだよね)」

お店のメニューを思い起こした葵は嬉しそうに微笑む。

「なんで上から目線なんだよ。じゃあ、また言う」

そんなこんなで、何故か葵は楓でとカフェに行く約束を交わしたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

処理中です...