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___…チチチチ……___


「……ん…ぁ……」


___あれ?ここ…どこ…?___


見慣れない高い天井、格調高い家具…

「……えっ、俺?」

声…違……

___ガバッ!___

「ハァ⁈手ェほっそっ…え……何……」

起き上がった時の感じがいつもと違い、景色もいつもより低い。
何よりここはどこなんだ⁈
夢でも見ているんだろうか…俺はフラフラとサイドテーブルにあった鏡を手に取った。

「……子…ども…」


___ズキィィィン‼︎___


「あ゛ぁ゛っ…!」


___ドサッ!___


「失礼致します…っ!アドル様っ‼︎」


俺はさっきまでしていたゲームと同じ名前を呼ばれた気がしながら意識を手放した。



**************


「アドル!」
「アドルッ‼︎」

目を開けると、今まで見た事もない綺麗な女の人と…隣は……あれ、これ夢?テーマパークじゃねぇよな?
執事カフェの制服着た高校生くらいの男の子が横にいる。

「…あんた達…誰…?」

「…アドル…ッ!」
「誰かっ!医者をっ!」

バタバタと周りが騒ぎ始める。
意識がまだはっきりしていない俺は他人事の様に眺めていた。

___バタバタバタ___

「失礼致します!お連れ致しました!」

「待っていたわっ、アドルの様子がおかしいのっ!」
「そうなんです!俺だけならともかく奥様まで分からないなんて…」

___奥様?___

「…診てみましょう。失礼致します。」

寝ている俺の手首を掴んで脈を…見てねぇな…何だ…これ…

「…ん゛わっ……」

身体の中に何かが流れてくる。
ゾワゾワする様な…気持ち良い様な…

「…申し訳ございません…すぐに終わりますから…」

掴まれた手首を見ると薄っすらとキラキラと粉が舞っていた。

「…………」

「アドル様は魔力がかなり失われておりますね…それに……」

___ツキン…___

「う゛っ…」

「アドルッ!」
「アドル!先生、大丈夫なんですか!」

「落ち着いて下さい……アドル様、お疲れ様でございました。」

先生と呼ばれた人はゆっくりと俺の手を離して立ち上がった。


「アドル様は…何故か魔力を極端に消耗され……そして……」


___記憶をなくされております___


「…っっ‼︎」
「奥様!」

横を向くと奥様が倒れ、さっきの高校生とはまた違う執事服を来た男が支えていた。

「奥様をお部屋へ!先生、ご一緒にお願いします。俺はアドル様の様子をもう少し見てからそちらに向かいます。」

「分かりました。」

「みなさんも行って下さい、旦那様にも連絡を。」

「分かった。」

慌ただしく周りの大人達が入れ替わり立ち替わり入った後、俺は最初に声をかけてくれた従者と2人きりになった。

「……さて…」

___ギシッ…___

「…っ…」

高校生の手が俺の額を優しく撫でる。
…って、何か髪の色は染めてるし目の色カラコンっぽいし、年齢分かんねぇんだよな。

「熱は…なさそうだな…大丈夫か…アドル…あ…記憶がないんだった……申し訳ございません、アドル様、初めてお会いした時に敬語は止めるように言われておりましたので…」

「ア…ドル…俺の…名前…?」

俺は…四季って言うんだけど…

「えぇ、貴方のお名前はアドルフォ・エルミ。王宮近衛隊長の1人息子です。そして俺は、貴方が幼い頃に俺を街で拾ってくれてからの専属従者をしているミモザと申します。」

「ミモザ…」

「えぇ、そうです。」

…ん~…この顔、どっかで見たんだよなぁ……それに…アドルフォ……アドル…

「あ゛ぁっ、ア~ド~ルゥゥッ⁈」

___ガバァッ!___

「うわっ!アドル様、急にっっ‼︎」

「う゛っ!」

起き上がったと同時に強い吐き気に襲われる。
俺はあまりの不快感に前屈みになった。

「良いから…吐いちまえ…いやっ…吐いて良いですよっ。」

「…くっ…ぷっ……ゃ…だっ…汚…」

「良いから…」

背中を優しくさすられて俺は我慢できずにベッドに吐いてしまった。

「ゲホッ……ッ……ごめ……っ…」

「大丈夫です。こんなの、昔は当たり前の所に住んでましたから問題ありません。それより…服を脱いでお風呂に入りましょう。」

ミモザが手慣れた手つきで俺の服をあっという間に脱がせ、シーツで俺を包んで抱き上げた。
コイツ、今の俺より1~2歳年上くらいだよな…なのに…

「ミモザ…超力持ち…だな。」

「浮力の魔法です。」

浮力の魔法を補強して抱き上げてるそうだ。

「…なぁ…敬語…今の俺にもやっぱ止めて…あと『様』も…でさ…俺、今何歳?」

「…分かった…お前はもうすぐ16だよ。」

「ミモザは?」

「俺は分からないけど、お前が誕生日を考えてくれた。旦那様がきっと1~2歳年上だろうと、俺は17か18くらいかな。」

やっぱりそうか。
俺は他の従者?使用人が用意してくれた風呂に入りながらミモザと話した。
あまり詳しく話してはくれなかったがミモザとの出会いは俺が7歳くらいの頃、通りで物乞いをするミモザを見つけて連れて帰ったらしい。

「犬猫じゃないんだから…」

「…みたいなもんだ…あの時はな…」

この世界はまだ奴隷制度もあるらしく、ミモザは奴隷生活から逃げ出して放浪していたらしい。

「あの時にお前に出会わなかったら俺は死んでいただろう…だから…」

___チャプ…___

「俺は、記憶がなくてもお前に一生仕えるよ。」

俺の髪を優しく撫でる。
この感触…ちょっと懐かしい…アドルの記憶なのかな?
…しかし…アドルフォ・エルミ…それって…ゲームの冬の守護者だよな?
おかしい…ゲームじゃ結構な剣術使いだったよな?
この腕の細さ…今が成長期なのか?

「…アドル?」

「…ん…いや…何でもない。」

「フフッ…お前…変わったな。」

「え?」

「…今の方が良い。」

「え、そうかな⁈」

しまった!アドルって沈着冷静だっけ?
でも、仲良い奴にはデレるんだよな?

「うん、表情が柔らかくなった…」

まぁ…良いなら…良っか。

「でも、何も覚えてないぞ?俺、近衛隊長の息子だろ?それにこの暮らし、貴族だよな?」

確か学園は貴族と王族中心の学校だったよな。

「まぁ…まだ学園にも入ってない。時間はあるからゆっくり思い出したら良いさ。」

学園は高校生のはずだからまだ3年くらいはある。
今は吐いたあとの怠い身体と頭では思考力は低下しているし…ミモザの言うとおりに従っておこう。

「じゃあさ…」

俺はこの家の事をミモザに色々と聞き、風呂から上がる頃には再び眠気が襲ってきて早々にベッドに戻る事となった。
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