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「逃げないで…」

___パンッ!___

「んぅっ!」

部屋の中に響き渡る身体が当たる音…

「やっ…俺…もぅ……」

既に何度も放たれ、こいつの出した精液が俺の後孔から流れ出す。

___グジュッ___

「フフッ、溢れてる…もっと…俺のを飲み込んで。」

…おかしい…

「あぁんっ!」

揺すられて弱い所を擦られ、頭が朦朧とする。

「俺の愛しい…冬の女神アナスタシア…」

「それ、俺のセリフ…あぁあっ!」

攻略対象の俺が何で受なんだよっ!
おかしいっ…こうなるなんて……制作側、訴えてやるぅっっ!



********************


俺の異世界転生の生活は、妹が持ってきたゲームが原因だと思う。



___……俺の愛しい夏の女神ブロンディ…___



「い゛や゛ぁぁぁああああん‼︎イ~ケ~ボォォオッ!」

___バシバシッ!___

「お兄っ!マジ神ぃぃっっ!ありがとぉおおっっっ‼︎」

「痛いっっ!」

バシバシと叩きながらも画面に釘付けな妹の横で、俺は妹に頼まれたスマホの乙女ゲーム『4人の守護者と聖なる乙女』をやっていた。
この乙女ゲームは春のプリマヴェーラ、夏のブロンディ、秋のアルトゥル、冬のアナスタシア4人のそれぞれ四季の女神の加護を受けた守護者であり攻略対象が登場する。

妹は何故か夏にてこずっていたが、春・夏・秋・冬の順番に攻略が難しい。
最後の告白で愛してると言われたらハッピーエンドだが、最上級の愛してるという「愛しの○○(女神の名)」が出れば究極のハッピーエンドになる。
究極のEDはネットでもスチルの評価が高く、確かに綺麗だった。

「さっすがお兄っ♡春と秋は攻略したけど夏が何故か難しくてさぁ。」

「お前なぁ、それもゲームの醍醐味だろうがよ。どこの世界にアラフォー間近の兄に乙女ゲーの攻略頼む妹がいるんだよ?」

「え、ここにいるじゃん。」

ドヤ顔で決める妹…叩いて良いかな?

「とにかく、見たいスチルは見ただろ?冬は友達にでもやってもらえ。」

そう言って、俺は妹にスマホを返した。

「え~っ、だって会社じゃオタバレしてないんだもん。頼めないよっ。」

プクッと、頬を膨らませて拗ねる妹。
大人の自覚あんのか、コイツ。

「…ったく…ほら、貸せ。」

この膨らませて拗ねる姿に何度も騙されてんだけど…

「……っ…お兄っ。」

歳の離れた妹はなかなか2人目が出来なかった親が溺愛しているが、俺も大概コイツに甘い。

「だからお兄ぃ、だぁい好き♡」

「ハイハイ、冬な~……時間掛かるぞ~?」

「うん、だから週末に頼んだんじゃん!」

妹が嬉しそうに肩を寄せた。
小さな頃から「にぃに、にぃに」と、後追いしていた妹は、呼び方が変わった今も「お兄、お兄」と変わらず懐いてくれる。
彼女と違う可愛さもあり、妹の結婚式では俺はどうなるんだろう。

「ねぇ、お兄の彼女…最近来てないの?」

「ん~……あぁ…別れた。次は冬ルート…っと…」

「何で?」

「何でですかねぇ…」

「……私のせい?」

「ん、何でお前のせいになんの?」

確かに妹を溺愛してる自覚はあるが、彼女と同等に扱った覚えはない。

「だって、お兄…私を優先してくれるじゃん。」

妹が少し悲しい顔でこちらを見た。

「それはアイツも了解してたよ。今回も仕事のすれ違いと、アイツに好きなヤツが出来たの。」

そう。
基本俺は仕事を優先する。
今までの彼女も基本仕事を優先だったし、もちろん妹にも仕事があればそちらを優先してきた。
まぁ、結局俺がドライ過ぎたせいだろう。


……俺…なのかなぁ……


俺が昔からゲームが大好きだったせいか、妹もゲーム好きに育ってしまった。
付き合う彼女達はゲーム好きはあまりいなかったけど、妹とはこうしてゲームをしたり買いに行ったりと仲が良い方だ。

「お前こそ、彼氏は?」

「あっ、そうそう!聞いてよ~‼︎」

妹には高1の頃から付き合っている彼氏がいる。
紹介してもらったので人となりは知ってるのだが、お互い社会人になって数年。
そろそろ、結婚と思うんだが……

「アイツ…エッチな本隠してたんだよっ!」

「まぁ、男だし…エロ本の1冊や2冊あるだろう。」

「…BLだったの。」

「お~、イマドキの腐男子ってやつですか。」

アイツ腐男子だったんだ、意外だ。

「嫌われるかも…って、何でっ?私そんな風に見える⁈」

「いやぁ……見えん事も…」

まぁ、オタバレ同様腐も隠すだろ。
女のオタ友から、結婚前にBL本を実家に封印したとか聞いたこともあるぞ?

「実は男が好きでしたぁ、とか言われたのか?アイツ呼んで来い、殴って…」

「それはないけどっ、だって隠し事なんて…私…初めてで…」

うぉいっ!何だ⁈このピュアピュアカップル⁈
普通大人なら隠し事の1つや2つはあるだろう⁈

「話をちょっとしか聞いてないけど、それは好きだからこそ嫌われたくなくて内緒にしてたんじゃねぇのか?」

「…そうなの?」

「じゃなかったら、もっと早くに言ってたと思うぞ。」

詳しく話を聞くと、彼は大学受験の勉強の気晴らしに漫画をデジタルでノーマルな学園モノと間違えてBLを読んだらしく、純粋な恋愛(エッチなし)に心ときめいたそうだ。

「大っぴらに出来ないから机の下で手を繋いだり、カフェのテーブルが「少し狭いね」って膝をほんの少し引っ付いたりにときめいたんだって……私だってして欲しいわよっ!」

して欲しいのか。

「じゃぁ、そう言えば良いじゃん。」

「言えるかぁっ!」

「お前は可愛いなぁ。」

「もうっ!お兄っ、揶揄わないでっ‼︎」

プリプリと拗ねて怒る妹は、本当に可愛いと思う。
アイツ、こないだ偶然会社の近くで会った時に指輪買いに行きたいとか言ってたよな?
コイツには内緒だけど。

「ゴメンゴメン。さ、冬をやっちゃいますかぁ~。」


___♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫___


夏をクリアしたので、もう一度最初のオープニング画面に戻る。
早送りモードで聖堂のシーンまで進めて、大聖堂での聖女確定のシーンに来た。
ここ、結構ビジュが綺麗なんだよな。

『おぉっ…これは…まさに!』

神官達が感嘆の声をあげていく。

『私が…聖女?』

爽やかな陽気の舞い散る桜並木の間を主人公がゆっくりと歩いている。
グレーの長い髪に、爽やかな森の木漏れ日に合う新緑の瞳。
これが、3年…神聖力が落ち着いたら、新雪の朝の太陽に照らされた様な輝くシルバーの髪に変わるんだよなぁ。

「アンジェちゃん…グレーの髪でも可愛いよねぇ。」

「あぁ、可愛いな。」

俺はお前の方が可愛いと思うがな。

「あ、お兄…アドルってどこで出会うんだっけ?」

「それはな…」

確か攻略サイトでは…
俺はタブレットで攻略サイトを見ながら妹とあーでもないこーでもないとアドルを攻略していった。


___………•*¨*•.♬.•*¨*•.♬.•*¨*•.♬.•*¨*•.……___


「……ッ‼︎」

『……お前が…好きだ……』

『…アドル…』

画面の中でアンジェが抱き締められ、顔を上げた所で最高の微笑みで笑いかけるアドル。
そしてそのまま唇に行きそうかと思いきや、思わせぶりな感じでアンジェの頬にキスをした。

『…チュ…唇は……我慢出来なくなるから今は額で我慢する。俺の愛しい冬の女神アナスタシア…』

___…リーン…ゴーン……____

EDの曲が流れる中で、イラストが展開しヒロインは攻略者の塔に住んでめでたしめでたし…どこかの教会で鐘がなり画面の下に「End」の文字が現れた。

「実際、告白の決め台詞が女神の名前って相手に気持ちは伝わるのかねぇ…だって『俺の愛しい冬の女神アナスタシア』だぞ?俺なら自分の名前を呼んでほしいね。」

「その辺は言葉の雰囲気って事でしょ…って…このスチルッ!ひゃぁぁあっっ、鼻血出るぅっ‼︎」

「うわっ!本当に出てるぞ⁈ティッシュティッシュ~‼︎」

ドタバタしながら窓を見ると薄っすら外が明るい。

「お兄、この後隠しルートが出るんだけど…」

「それはまた今度だ、今日の夜はデートなんだろ?朝飯作ってやるから、帰って少し寝ろ。」

…うぉお…最近特に徹夜は厳しくなってきたぜ……俺はその後、妹に朝食を作って見送った後はぐっすりと眠りに落ちた。 
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