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「ゲームじゃこの辺なんだけどなぁ…」

しばらく川沿いを歩いて行き、そろそろ太陽も高い位置に来ているから昼頃だろうか。
しばらく歩いているとハナ様がキョロキョロとし始めた。
周りを見ても特に変わった所は無く、気になるといえば樹の下とかに可愛らしい野イチゴがたくさんある事だろうか?

「…イチゴ…食って良いかなぁ。」

「ニール、任務中。」

野イチゴは屋敷でも見かけたりするけど、イチゴからは甘くて美味しそうな香りが漂っている。

「う~ん……野イチゴがたくさんある場所なんだけどなぁ…あっ、あった!」

ハナ様がある場所で立ち止まり、手をかざすとフニャリと景色に違和感が出た。

「ここが入口ね。フィル、妖精の粉をちょうだい。」

「はい。」

ハナ様に妖精の粉が入った瓶を渡すと粉を手に少し取り出し、口元に寄せて息を吹いた。

「…フゥー…」

___パァ…___

妖精の粉が目の前の景色が歪んで薄っすらと扉が現れる。

「森の精霊地の精霊、森の女神フローディアに申し上げる。我ら妖精達に許しをもらい、この地へやって来た。どうか扉の開錠を、そして湖までの道標を…」

___ポワッ…___

「わぁ…」

現れた扉は歴史の教科書で見たような重厚な造りなのに景色と溶け込んで、扉だけなのに倒れもせずに立っていた。

「じゃぁ、ニールとダニーはしゃがんでちょうだい。」

2人がしゃがむと、再びハナ様が妖精の粉を振りかけて言葉を紡いだ。

「森の精霊地の精霊、妖精の友である証にこの粉を振りかけよう。地を血で汚さず邪な心を持たずにこの地へ踏み入れると誓う。」

……心……

「…ププッ…じゃあ、ハナ様入れないんじゃ…」

「ニール黙れ。」

「ヒャいっ。」

ハナ様の瞳が怪しく光り、ニールから変な返事が漏れた。

___シーーーーン___

「あ゛っ、必ず誓うからぁっ!ニールゥッ!」

「ハイッ、スンマセン!本当に誓うっス‼」

慌てて扉に向かって懇願すると聞き届けたのか、ゆっくりと扉が音を立てて開いていった。

___ギィィ…___

開いた扉から見える景色は、まだ陽が落ちていないのに先が暗い。
いや、暗いけど小さな光が道を照らして出迎えてくれた。

「これから先は森の女神フローディアの加護の強い場所になるの。フローディアは戦いを嫌うから、騎士の貴方達は特に殺気には気を付けてね。あっという間に外へ弾かれるわよ。」

「外にって?」

「そりゃ外よ。下手したら森の外じゃなくて別の土地へ飛ばされるかもよ。」

そうなんだ。
ハナ様が言うには、ハナ様がゲームで僕を誘導してユニコーンを見つけようとしたら自分だけ別の土地へ飛ばされたらしい。

「あの時は戻るのに苦労したわよ。聖女なのにさぁ。」

「何で飛ばされたの?」

「え~…それは…ゴニョゴニョ…」

「え、聞こえない。」

僕の顔を見て言葉を濁すって事は…

「フィルフィルとユニコーンのエチエチなシーンが幻想的で…」

「……っ!」

「落ち着け、フィルッ!」
「扉閉まっちゃうよ!」

思わず魔力が暴走しそうになった時、ニールとダニーの声で我に返った。

「ハッ…!そうだよね、ゴメン。」

落ち着け…僕っ。

「でも、それはフィルフィルが誰とも引っ付いてない時よ。今はユーリがいるじゃない。」

「誰かと恋人同士ならユニコーンは大丈夫なの?」

「……の、はずよ。私もユニコーンの回はフィルフィルがフリーの時しかやってないから分からないけど。」

そうなんだ。
ハナ様もゲームの通りに進んでない所もあるって言ってたけど、要は僕がしっかりとしていたら良い話だよね。

「でも、本来ユニコーンは聖女に懐くもんだろ?じゃあ、ハナ様も可能性あるんじゃないッスか?」

「アハハ、私~?ないない、私は壁で良いのよ。」

「…ハナ様、それこの前借りた『フラグ』って、ヤツじゃ…」

「えっ、止めてよねっ!さぁ、行くわよっ!」

ドキドキしながら僕らは中に入ると…

___ギィィ……バタン___

ゆっくりと扉は閉じられ、辺りは仄かな道標の明かりと暗闇に包まれた。

「…どうやら、許しはもらえたようだね。」

「良かった~。」

「ハナ様、この道を進めば良いんですか?」

「えぇ、道標のままに進むと明るくなった先が湖のはずよ。」

知らない場所、暗い道。
普通であれば怖いと思うはずのこの道は、何故か心が温かく楽しささえ思えてくるのは女神が歓迎してくれている証拠だろうか?
前を歩くニールとダニーもそう思っているのか、顔付きはまるで夜の散歩を楽しむ恋人同士だ。
ハナ様がいなかったら手でも繋いでるんじゃないかな?

「…手を繋いでも良いのよ~。いや、むしろ繋いで。」

「ハナ様、知らない道だし俺達護衛中でしょ?」

「そうッスよ、い…一応任務中なんですからっ。」

ニール、そのワキワキした手は誤魔化しきれないぞ。
こっそり小指だけでも繋ごうと思ってたな。

「フィルもユーリと来たかった?」

「…いや、僕は…」

うん、正直来たかったかな。
こんな幻想的な道標でユーリと一緒に歩けたら…まるで暗闇の中でも2人ならもっと楽しめたじゃないか。
でも、ユーリは妖精に怖がられるほど戦いをしてきた。
まずは妖精と仲良くなる方が先だろう。

「…うん、来たかったかな。」

ユーリだって、騎士として戦いの日々に満足しているとは思うけど今は昔に比べて魔獣もへって平和な世の中になってきた。
だからこそ浅い眠りが当たり前じゃなく、こんな光景を美しいとゆっくり堪能出来る時間を僕と作って欲しいな。

そして、道標は思ったより早く途切れ…
眩い光の先に今まで見た事もない綺麗な湖が僕らの目の前に現れた。
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