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 ___召喚当日___


「それでは儀式を執り行う!術者は位置に、騎士団は周りを囲め!」

 ___ザッ!___

ジョナス様の声を合図にそれぞれ配置へと付く。
ぼくはジョナス様とは正反対の位置で真正面だと目が合うからと、騎士団の中でも長身の騎士の後ろに配置してもらった。
この人、公式な場所なら大丈夫なんだけど…まだよく知らない事が多いから気を引き締めておかないと。

大きな魔法陣の内側にクライヴ様・ジェイソン様を含んだ召喚する術者が円を組んで、騎士は第1騎士団から実力者達が魔術師の周りを囲んだ。
王と団長のリチャード様はいざと言う時の為にここにはいないそうだ。
そう…僕が見学出来ると言われても…いくら精鋭とはいえ召喚は何が起こるか分からない。
ただ最悪のケースを考えても、バランスの良い精鋭チームである事は変わらない。
獣人が多い第2騎士団からという話も出ていたが、歴代の召喚された聖女が獣人のいない異世界からの召喚者が多かったため、精神の安定を兼ねて王と団長の周りを警護している。

「杖を持て!」

___パァァァア…___

魔術師達が杖を高々と掲げ、それぞれの身体から魔力が放出されていく。
魔力はそれぞれの属性に沿った色だが、元々考えられた配置のせいか属性ごとに分かれていた。

「天の神々、地の精霊…周りに溶け込む全てのものへ、我が祈りを届け給え。我らのこの地に安寧をもたらす者……他の世界、他の星々、他の時空……我らに祝福をお与え下さいませ。」

クライヴ様の言葉にみんなの杖も反応し、魔術師全体の魔力が混ざり合うのが分かる。

「騎士団、聖なる剣を掲げよっ!」

「「「「ハッ!」」」」

クライヴ様の合図に騎士の剣が高々と上がった。
へぇ…この剣って聖剣だったのか。
通りで部屋の空気が綺麗なはずだよね。

「聖女…召喚っ‼︎」

 ___カッッ!___

眩い光が辺りを包む。
思わず倒れそうになる所を踏みとどまり、目を開けると魔法陣の中心に幼い女の子がしゃがみ込んでいた。

「…聖女だ…」

「じゃあ…」

「「「成功だっ!」」」

___ワァッ‼︎___

「お初にお目にかかります聖女様。お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

歓声の中で、王子が聖女の元へ行き跪いて手を取った。

「…私…私は……」

ん~…見えないな…
ジョナス様は見たくないけど、ユーリが気にしてたし聖女は見たい。

「…えっ⁉︎」

あ、見え

「きゃぁぁああっっ!貴方、フィルフィルゥッ⁉︎」

聖女と目が合うなり、目を見開いて叫ばれた。

「フィル…フィ…いえ…僕は…」

フィルフィルって誰だよ、それ。

「…えっ…じゃあ…貴方は…ジョナス王子?」

「素晴らしい、既に聖なる力を発揮とは…」

「じゃあ、貴方は…フィルフィルの幼馴染の…ニール?」

「えっ…あっ…はい…」

「貴方はダニー…いえ、ダニエルですよねっ?」

「え…えぇ、ダニーは愛称です。」

「しかも…ジェイ様まで…」

「俺の名前をご存知とは…」

何でジェイソン様は普通なんだよ。
この後、聖女は次々と指を指して騎士や魔導師の名を当てていく。
あ、何人か分からない人はいるみたい。
聖女とは力があるから召喚されたのかな?
いや、異次元の通路を通る際に力の種が身体と溶け込み、召喚後次第に力を開花していくと聞いていたんだけど。

「いやぁあん♡これって…これって……」

「聖女?」

「BLゲームの世界じゃんっ♡」

___びーえるげぇむの世界……?___

「ねぇ、フィルフィルッ」

「フィルです。」

「あ、ごめんなさい。仲間内で貴方の愛称フィルフィルとか、フィルたんって呼んでたんですよ。じゃあ…フィルたんにしますか?」

___…フィル…たん…___

……駄目だ、意味は分からないけどゾッとした。

「フィルで結構です、聖女様。」

何で僕らを知ってるんだろう?

「あ、私の自己紹介がまだだった……えっと、私の名は斎藤サイトウ 華子ハナコです。華って呼んで下さいっ。宜しくお願いします!」

「えっと…僕は…」

「私から紹介致しましょう。」

ズイッと、僕らの間に入ったジョナス王子が聖女の側に立って僕らを紹介して言った。
何か聖女の顔がみるみる破顔していくけど大丈夫かなぁ。

「……以上、他の者達に関しては追々ご紹介させて頂きます。まずは王に謁見致しましょう。」

「…………」

「ハナ様?」

「……ハッ!あっ…大丈夫です!でも………ウフフフフフ…」

何だろう…騎士のニールやダニーが武者震いしてる。
僕も何だか背筋がゾワゾワした。

「ハナ様、まずはお荷物をお預かりしましょう。」

「荷物……ハッ!」

荷物と、言われて急に慌ただしくカバンの中身を確認する。

「スマホスマホ……異世界はスマホが使えないところもあったわよねぇ……頼むよ~っ…女神ぃっ!」

ハナ様が嬉しそうにゴソゴソと取り出した小さな板は、魔法を使えない異世界から召喚されたと言うのに指先一つで灯りがついた。

___オォッ!___

「何と素晴らしい!この度の聖女はこんなにも魔力が高「あの、黙ってて下さい。」…はい…」
 
何この聖女、面白い!
感動して聖女に話し掛ける王子に必死の形相で黙らせる聖女。
確かに書物に書いてある歴代の聖女とは違うらしい。
この王子…いや、ジョナス様は少しシュンとしているけど…うん、ユーリよりとは天地の差だ。可愛くない。
ユーリはこう………あぁ、ユーリに会いたいなぁ…

「…っ…あ…っ………ハレルヤッ!」

「ハナ様⁉︎」

「アワワワッ!大丈夫ですっ、これは見ないで下さいっ!…あっ、この板は聖なるもので…えっと…この地に来る前に女神に出会って……あっ、これは見せてはいけないって言われてるんです!あの、この世界はバッテリーと言うものはありますか?」

「バッリー?」

「惜しいっ、王子。バッリーです。この板にエネルギーを入れて使えるようするんです。私が持ってるものはあと2回くらいしか……」

「では、この者に任せましょう。フィル。」

「はい。」

ジョナス様に呼ばれて慌ててハナ様の前で跪いた。

「このフィルは王宮魔術師団に最近入団した者ですが、フィルの家は魔導具研究に長けている者を輩出しています。このフィルもその素質は十分にある。貴女はフィルを知っている様ですし…貴方をお守りする者達はこちらで選出いたします。フィルは剣術にも長けておりますので警護を兼ねてお付け致しましょう。」

「なっ…ジョナス様っ、僕は…」

「いや、これも王宮の仕事だよ?バルキリーを作る事を第1任務とし、君の補佐に何人か付けて良いから進めて欲しい。あ、予算は団長にも話すけど気にしなくて良いからね。」

「バッテリーですジョナス様。ハァ…分かりました。任務をお受け致します。」

全く…この人公式な場所では顔が整ってる分しっかりと見えるんだよなぁ。
しかも王子から直接言われたら勅命なんだから断れるわけないじゃん。
ユーリに会う時間減っちゃうよ…毎日でも会いたいのに…

「フフッ、そのすました顔も良いな。成功のあかつきには君の望むままにしよう。僕の1日独占権とか…」

「いりません、有り難く返上し長期休暇を要請致します。」

「アハッ!」

___ゴッ!___

「グフゥッッ!」

後ろで笑いから即ヒジ打ちの音がした。
ブレスレットもまた粉々だ…魔法石もう少しいいヤツに変えなきゃ。
…ニールとダニーか…ニールのヤツ、今研究してる薬を飲ませてやるからな。

ハナ様が楽しそうに笑い、ジョナス様がゆっくりとハナ様をエスコートした。
こんな若い女の子なのに異世界に来て不安なはずはないのに…凄いな。
異世界の人間は精神が強いのだろうか?
僕はみんなの後に続いて歩きながら、ユーリとの日々を取り戻すために早くバッテリーと言う物を作ろうと考えていた。
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