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「フィリップ。」
「はい。」
「国王からの依頼で今度聖女召喚の儀式があるんだが…」
魔術師団長のクライヴ様から呼び出されて部屋で辞令を受けた。
僕の初めての任務にしては荷が重い。
「なぜ僕を?僕は入ったばかりですし、他の方が適任かと。」
「その点は大丈夫だ。今回召喚の儀式は力を持った者で行うこととなっている。もちろん君も力はあるのだが経験不足だ。だから今回は緊急の要員として立ち会ってもらいたい。」
「…緊急要員でしたら余計に力不足かと…」
「いや、聖女召喚なんて滅多にないことだ。本来は見学として君に来てもらいたいんだが、王宮からの任務だからな。精鋭を組んだし君は見学のつもりでいてもらっても構わない。ただし、見学と軽く考えて欲しいと言っても何が起こるか分からないのもある。私は良い経験になると思うんだがな。」
「それでしたら…」
「それに…」
クライヴ様が長い脚を組み直して僕に微笑む。
「その綺麗な顔が近くにいたら、みんなのやる気も上がりそうだろ?いるだけでそう思わせるなんて、君は罪な人だよね。」
「…ご冗談はおやめ下さい。」
「クスクス、君が王宮に来てからの笑顔は第2騎士団のユーリ・スチュワートにしか見せていないんだって?あんなに可愛い笑顔をしているなんて、私も最初見た時は気のせいかと2度見してしまったよ。」
「……彼は僕の大切な人なので…」
「確か幼い時に助けてもらったんだってね。彼はモテるからねぇ。気をつけないとあっという間に攫われてしまうよ?」
___ヒュオォォォ…___
「…攫われる?」
「寒っ!」
攫われる…そんな言葉…団長に言われなくてもよく理解している。
僕がこちらに入寮してユーリの話を聞いた時、どの人からも「ユーリはモテる」「ユーリはモテるが長続きしない」などとたくさん聞いた。
___モテるが長続きしない___
それは色々な人と付き合ったということ…
分かってる…あれだけ魅力的な人だ。
愛し合う人がいないはずはない。
話を聞かなくても男女問わず付き合ったらしいけど…長続きしなかったのはせめてもの救いだ。
この1年は珍しく相手はいないと聞いたけど……
こんな話を聞いても顔に出さないようにしていたが、この魔術師団長クライヴ・フェルプスはすぐに僕の気持ちに気付いた。
他の人にもバレていないか心配になったけど…
「全く…普段は氷の魔術師と言われている君が私に気持ちがバレた途端こうなんだから…しかも君、また魔力が上がったでしょ?水の魔力の調整が出来ていないよ。調整する魔道具はどうしたんだい?」
どうやら他にはバレてはいないらしい。
「…あ…」
手首にしていたブレスレットは綺麗に粉々になっている。
僕は風と水の魔法に特化しているのだけど特に水はなかなか自分の中でセーブ出来ないため、こうやって魔道具を作り身につけて調整していた。
「人同士の恋愛なら私でも教えることが出来るんだけどねぇ…獣人となると…」
「第2騎士団へは挨拶程度の付き合いですので…もう少し仲良くなってから聞いてみようと思います。」
「そうだね。」
その後、聖女召喚の詳細を聞いて僕は部屋を出た。
聖女召喚は異世界からこの世界のバランスを保つ為に必要だという。
…でもさ、相手の事を考えずに突然呼び出して「さぁ、君は今日から聖女だ。頑張ってね。」と、言われてすんなり受け入れるのが不思議だ。
まぁ、そういう環境に見を置いてる人が召喚されやすいというから問題はないんだろうけど……僕ならユーリと離れるばかりでなく異世界に行かされるなんて考えただけでもゾッとしてしまう。
___ポンッ___
「フィル。」
自分の寮へと続く廊下を歩いていると、後ろから肩を軽く叩かれた。
「ジェイソン様、お疲れ様です。」
「え~、硬ぁい。俺、最初の日に『ジェイ』って呼んでって言ったよな?何、あの話聞いた?」
肩を叩いたこの軽い人はジェイソン・ウォーカー。
僕の教育係だ。
今回の聖女召喚の召喚メンバーでもある。
だから僕の見学が許されたのもあるらしい。
「えぇ、ジェイソン様も参加なんですよね?今回も勉強させて頂きます。」
「え~、ジェイって言ってんのに…まぁ、そう言ってるのも可愛いから許してやるよ。その内『ジェイさんがいないなんて…僕…』とか言わせてやるからなっ!」
___ゴォッ!___
「遠慮致します。」
「寒っ!いや、寒さ通り越して痛いからっ‼︎」
長い間他の魔術師団への配属が多い中この魔術師団はなかなか入らず、入ったのは実力もありしっかりし過ぎてあっという間に副団長に登り詰めたダニエル様。
その後に入団した僕は弟の様に可愛いそうで、他の団員からも歓迎された。
みんな気さくで良い人ばかりだが王宮からの要望は絶えず魔力切れを起こして異動を願う者も少なくなかったらしいので、僕みたいに力を持て余している方が良いのだろう。
「全く…そんな可愛い顔して冷たい返事するから氷の魔術師って言われるんだよ。あ、実際氷を撒き散らすからある意味あってるのか。」
「ご希望とあらば氷漬けに致しましょうか?」
「止めろぉっ!」
手の平に魔力を込めて氷の結晶を作ると、カチカチと氷の玉が大きくなっていく。
何度かジェイソン様に攻撃したおかげか、今ではこれを見せるだけで距離を置いてくれるようになった。
「当日はジョナス様もご同席だそうだ……氷で攻撃するなよ?」
「……そのお約束は致しかねます。」
着任式の後の歓迎お披露目会で僕に求愛してきた王子ジョナス様。
ユーリの式服に見惚れていた僕にも原因はあるが、思わず水の魔法が暴走して凍らせてしまったのだ。
ジョナス様は笑ってゆるしてくれたけど、確かにここでクビになってはユーリと離れ離れになってしまう。
「…では、ジョナス様から一番遠い配置でお願いします。」
「了解、団長に頼んでおくよ。」
そして召喚当日、僕の人生は大きく変わっていく。
「はい。」
「国王からの依頼で今度聖女召喚の儀式があるんだが…」
魔術師団長のクライヴ様から呼び出されて部屋で辞令を受けた。
僕の初めての任務にしては荷が重い。
「なぜ僕を?僕は入ったばかりですし、他の方が適任かと。」
「その点は大丈夫だ。今回召喚の儀式は力を持った者で行うこととなっている。もちろん君も力はあるのだが経験不足だ。だから今回は緊急の要員として立ち会ってもらいたい。」
「…緊急要員でしたら余計に力不足かと…」
「いや、聖女召喚なんて滅多にないことだ。本来は見学として君に来てもらいたいんだが、王宮からの任務だからな。精鋭を組んだし君は見学のつもりでいてもらっても構わない。ただし、見学と軽く考えて欲しいと言っても何が起こるか分からないのもある。私は良い経験になると思うんだがな。」
「それでしたら…」
「それに…」
クライヴ様が長い脚を組み直して僕に微笑む。
「その綺麗な顔が近くにいたら、みんなのやる気も上がりそうだろ?いるだけでそう思わせるなんて、君は罪な人だよね。」
「…ご冗談はおやめ下さい。」
「クスクス、君が王宮に来てからの笑顔は第2騎士団のユーリ・スチュワートにしか見せていないんだって?あんなに可愛い笑顔をしているなんて、私も最初見た時は気のせいかと2度見してしまったよ。」
「……彼は僕の大切な人なので…」
「確か幼い時に助けてもらったんだってね。彼はモテるからねぇ。気をつけないとあっという間に攫われてしまうよ?」
___ヒュオォォォ…___
「…攫われる?」
「寒っ!」
攫われる…そんな言葉…団長に言われなくてもよく理解している。
僕がこちらに入寮してユーリの話を聞いた時、どの人からも「ユーリはモテる」「ユーリはモテるが長続きしない」などとたくさん聞いた。
___モテるが長続きしない___
それは色々な人と付き合ったということ…
分かってる…あれだけ魅力的な人だ。
愛し合う人がいないはずはない。
話を聞かなくても男女問わず付き合ったらしいけど…長続きしなかったのはせめてもの救いだ。
この1年は珍しく相手はいないと聞いたけど……
こんな話を聞いても顔に出さないようにしていたが、この魔術師団長クライヴ・フェルプスはすぐに僕の気持ちに気付いた。
他の人にもバレていないか心配になったけど…
「全く…普段は氷の魔術師と言われている君が私に気持ちがバレた途端こうなんだから…しかも君、また魔力が上がったでしょ?水の魔力の調整が出来ていないよ。調整する魔道具はどうしたんだい?」
どうやら他にはバレてはいないらしい。
「…あ…」
手首にしていたブレスレットは綺麗に粉々になっている。
僕は風と水の魔法に特化しているのだけど特に水はなかなか自分の中でセーブ出来ないため、こうやって魔道具を作り身につけて調整していた。
「人同士の恋愛なら私でも教えることが出来るんだけどねぇ…獣人となると…」
「第2騎士団へは挨拶程度の付き合いですので…もう少し仲良くなってから聞いてみようと思います。」
「そうだね。」
その後、聖女召喚の詳細を聞いて僕は部屋を出た。
聖女召喚は異世界からこの世界のバランスを保つ為に必要だという。
…でもさ、相手の事を考えずに突然呼び出して「さぁ、君は今日から聖女だ。頑張ってね。」と、言われてすんなり受け入れるのが不思議だ。
まぁ、そういう環境に見を置いてる人が召喚されやすいというから問題はないんだろうけど……僕ならユーリと離れるばかりでなく異世界に行かされるなんて考えただけでもゾッとしてしまう。
___ポンッ___
「フィル。」
自分の寮へと続く廊下を歩いていると、後ろから肩を軽く叩かれた。
「ジェイソン様、お疲れ様です。」
「え~、硬ぁい。俺、最初の日に『ジェイ』って呼んでって言ったよな?何、あの話聞いた?」
肩を叩いたこの軽い人はジェイソン・ウォーカー。
僕の教育係だ。
今回の聖女召喚の召喚メンバーでもある。
だから僕の見学が許されたのもあるらしい。
「えぇ、ジェイソン様も参加なんですよね?今回も勉強させて頂きます。」
「え~、ジェイって言ってんのに…まぁ、そう言ってるのも可愛いから許してやるよ。その内『ジェイさんがいないなんて…僕…』とか言わせてやるからなっ!」
___ゴォッ!___
「遠慮致します。」
「寒っ!いや、寒さ通り越して痛いからっ‼︎」
長い間他の魔術師団への配属が多い中この魔術師団はなかなか入らず、入ったのは実力もありしっかりし過ぎてあっという間に副団長に登り詰めたダニエル様。
その後に入団した僕は弟の様に可愛いそうで、他の団員からも歓迎された。
みんな気さくで良い人ばかりだが王宮からの要望は絶えず魔力切れを起こして異動を願う者も少なくなかったらしいので、僕みたいに力を持て余している方が良いのだろう。
「全く…そんな可愛い顔して冷たい返事するから氷の魔術師って言われるんだよ。あ、実際氷を撒き散らすからある意味あってるのか。」
「ご希望とあらば氷漬けに致しましょうか?」
「止めろぉっ!」
手の平に魔力を込めて氷の結晶を作ると、カチカチと氷の玉が大きくなっていく。
何度かジェイソン様に攻撃したおかげか、今ではこれを見せるだけで距離を置いてくれるようになった。
「当日はジョナス様もご同席だそうだ……氷で攻撃するなよ?」
「……そのお約束は致しかねます。」
着任式の後の歓迎お披露目会で僕に求愛してきた王子ジョナス様。
ユーリの式服に見惚れていた僕にも原因はあるが、思わず水の魔法が暴走して凍らせてしまったのだ。
ジョナス様は笑ってゆるしてくれたけど、確かにここでクビになってはユーリと離れ離れになってしまう。
「…では、ジョナス様から一番遠い配置でお願いします。」
「了解、団長に頼んでおくよ。」
そして召喚当日、僕の人生は大きく変わっていく。
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