大学生の俺が異世界召喚? もう一度、異世界で高校生やり直します! 

mana.

文字の大きさ
上 下
29 / 79

27☆

しおりを挟む


(しっかりしろ、俺。今はユリシーズのことだけ考えろ)

 ゆっくりと肺から息を吐きだして――今度は、大きく吸い込む。
 空気は悪いが、それでも、脳に目一杯の酸素を送り込む。

 そして気合いを入れ直し、脳内で出口までの距離をはじき出した。

 ――入口から崩落場所までにかかった時間はおよそ二十分。
 だが、うち半分以上は魔物との戦闘に費やした。

 ということは、実際に歩いた時間は長くて十分。歩行速度は分速八十メートル……だが、実際はもっと遅かっただろうし、立ち止まったりもした。それを考慮すると、分速六十メートルくらいだろうか。
 ――となると……。

(せいぜい六百メートルってところか。だが既に半分は過ぎているはず。つまり残りは三百メートル。……ハッ、楽勝だ)

 こうやって数値に表すと、漠然とした不安が消える気がする。

 データは希望にも絶望にもなり得るが、出口があるとわかっている今は希望の方だ。
 このまま魔物と遭遇しなければ、五分後にはマリアのところに辿り着けるのだから。


 ――だがそう思ったのも束の間、俺は直感的に足を止めた。
 前方から、何かが忍び寄る気配がする。


「とうとう来たか……」


 俺は背中からユリシーズを下ろし、地面に横たえた。

 グレンは逃げてもいいと言ったが、この狭い坑道で、迫りくる魔物から逃げきるなど不可能に近い。
 たとえ逃げたとしても、今の右足の状態ではすぐに追いつかれるに決まっている。

 つまり、倒す以外の選択肢は――ない。


「俺だって、やるときはやるんだよ」


 俺は自身を鼓舞するように呟いて、聖剣を引き抜いた。
 正面で構え、近づいてくる敵の様子を伺う。

 そして数秒の後、暗闇から姿を現したのは、瘴気をたっぷり吸いこんだであろう巨大な蛇だった。

「……っ」

(――でかい)

 長さは十メートル近く。大きな顎に鋭い牙、魔物特有の赤い瞳。
 食事の後なのか、胴がいびつな形に盛り上がっている。

 そのシルエットに、俺はどうしようもなく勘づいてしまった。

「……こいつ、まさか……」

(人間を……喰ってやがる……!)

 ここに入ったときから違和感は感じていた。
 マリアは遺体が放置されていると言ったのに、実際は誰一人見当たらないことに。

 俺はその理由が、ここが入口付近だからだと思っていた。
 けれど違ったのだ。この蛇が、人間の身体を丸呑みにしていたからなのだ。

「――っ」

 ああ……駄目だ。怖い。怖くて……足がすくんでしまう。

 魔物は人を襲う。それはグレイウルフと戦って、よく理解していたはずなのに。
 ユリシーズが隣にいないことが、自分一人で戦わなければならないことが、こんなにも恐ろしいことだったなんて……。


 ――でも……。





「……来いよ」





 ユリシーズは俺を守ってくれた。だから今度は、俺がユリシーズを守る番だ。

 それに、俺が手にしているのは聖剣。天下の大神官、サミュエルの聖剣だ。蛇ごときに負けるはずがない。

 俺は大蛇を見据え、剣先を向ける。


「お前は俺が倒す。これは決定事項だ」


 魔物に人間の言葉がわかるわけがない。まして蛇だ。犬や猫ではなく、蛇。
 そんな奴に、何を言ったって無駄。そんなことは百も承知だ。

 けれどそれでも、俺は言わずにはいられなかった。

 殺さなければ、殺される。
 
 そんな状況で、俺はそうでも言わなければ、今にも逃げ出したくなる気持ちを抑えてはいられなかった。


ってやる」


 こいつは俺がここで殺す。
 それ以外に、俺たちが生き延びる方法はないのだから。


 俺は蛇と睨み合う。


 そして数秒の後――蛇が動きだすと同時に――俺は一気に間合いへと踏み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい

パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け ★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

処理中です...