大学生の俺が異世界召喚? もう一度、異世界で高校生やり直します! 

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17 閑話 1 ✽悠斗ver. 数年前のお話です✽

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いつも周りを明るくする母と、母が大好き過ぎる父に頼もしい兄と優しい姉。
普通より恵まれた環境で、普通より愛情を一身に受けているのは自覚している。
でも、そんな恵まれたありがたい状態なのに満たされず、かといって何が満たされていないのか分からなかった。

そんな中、母が病気で倒れた。
あちこちの病院を探す父や兄。
姉は受験もあって家と学校の往復でなかなか病院には足を運べず、まだ大人でない俺は当時俺の世話係だった佐奈田と一緒に病院で母のそばにいるしかなかった。

「悠ちゃんは…不器用さんなのねぇ。」と、晴れた日に佐奈田に車椅子を押してもらって一緒に病院内を散歩している時、母がのんびりと言った。

「どうしたの?急に。」

「ん~?ウフフ。何とな~く♪」

「何となく?」

「そうよ~。」


………ホ~ント………私の周りはみ~んな、不器用さんなんだから………


「あ、悠ちゃ~ん。あの日陰のあるテーブルに行きましょ~♪」

小さな母の呟やきは俺に聞こえないように言ったつもりだろうが…しっかり聞こえてしまった。
佐奈田は…佐奈田も聞こえただろう。
母に気付かれないように苦笑いをしていた。
ゆっくりと車椅子を押しながら、日陰のあるテーブルに持ってきたお茶と軽いお菓子を置く。

「ありがとう。悠ちゃん疲れたわねぇ。座ってお茶しましょ。あ、蒼ちゃんも一緒に座りなさい。」

「病院の中だし、疲れてないよ。でもお茶は飲みたいかな。」

自分が飲まないと母は飲まないだろうし。

「奥様、私は少し旦那様にお伝えしたい事がございましたので、少し席を外します。」

「あら?そうなの?じゃあ蒼ちゃん、パパに『ちゃんと寝なさい』って、言っておいて~。」

「かしこまりました。」

母は少しずつだが確実に身体が弱っている。
車椅子で外に出る回数も減っていて、今日は久々に「外の空気が吸いたい。」と、お願いされて中庭に出てきたのだ。

「あ~、やっぱりお外は気持ち良いよね~。」

「お母さん、ちょっと風があるから上着も羽織ろうか?」

「ウフフ。もぅ、パパそっくりになってきて。大丈夫♪今日は気分が良いのよ~。」

天を仰いでいた母が少し間を開けてから、いつもと少し違った顔を向けた。

「……悠斗ぉ…」

…悠斗…母があだ名で呼ばない時、それは真剣な話の時だ。

「ママねぇ……もうすぐこの世界から…いなくなると思うの。」

覚悟はしているつもりだが…ドキッとした。

「ママね…『私』としての人生に悔いはないのよ、パパが沢山くれたから。でもね…」

母は泣きそうな顔を我慢した、笑顔と泣き顔が入り交じった顔になっていく。

「貴方が何か満たされてないのが分かるの。でも…何かは分からない…それを…『ママ』…と…してぇ…見つけて…あげたかっ…た…ぁ…っ。」

母の可愛らしい顔が次第に悲しみで歪む。

「でもぉ…もう…時間…切れっ…なんだぁ…っっ…」

初めてその表情を見せた母は、その後は子どものようにポロポロと涙を流していた。

「…もぅ、ママったら…」

母が入院するまで呼んでいた「ママ」という言葉が自然に出て抱き締めた。
学校の友達も次第に大人びてきて、徐々に「ママ」から「お母さん」へと呼び方が変わっている。
名前呼びが「私」、「僕」が「俺」だったり…それぞれに意識が変わり始めていた。
俺は…早く大人になって母を助けたかったのかもしれない。

 「まだまだ…っ、いっぱいいっぱい…甘えられる歳なのにぃっっ!ご~め~ん~なさ~いっ‼」

俺に抱き締めてられた母は、俺達しかいない温かい日差しの静かな中庭で、更にわんわん泣いて落ち着くまで少し時間が掛かった。
多分佐奈田が気を利かせて看護師さんに人払いをお願いしたんだろう。
中庭には誰も来ることはなかった。

「……ふぅ…ゴメンねぇ…悠ちゃん…」

「フフッ…大丈夫だよ。お母さんの本当の顔も少し見れたし。」

そう…いつもニコニコと周りを明るく照らしてくれた母。
子どものようにはしゃぐ姿はあったが、子どものように泣いた姿は初めて見た。
裏では沢山の我慢があったかもしれない。

「……マ…マ…」

「ん?」

「『ママ』が良い…『お母さん』はイヤ。淋しいもんっ…」

「分かった、次からはそう呼ぶね。」

「悠ちゃんは早く大人になろうとし過ぎなのよ。もっと周りに甘えなさい。周りの大人はいくらでも手を差し伸べてくれるわ。」

「でも、俺は次男だけど花屋敷の人間だよ?早く兄さんのサポートに付けるように頑張っていかないと。」

「そんな事考えてたの?にぃには貴方をそう見てないわよ。蒼ちゃんはお仕事柄諦めたみたいだけど、にぃには「最近、俺のこと『にぃに』って言ってくれなくなった。」って、しょげてたもの。もっと甘えなさい。ねぇねも同じ事言ってたわよ。」

流石にそろそろその呼び名は止めないと…恥ずかしいんだけどなぁ…

「分かった…考えておくよ。」

「今は満たされない自分に孤独を感じるかもしれない…でも、必ずどこかに心を満たす人やものがあるから。砂浜の中に光る石を探す『宝探しゲーム』と思って探してみてね。探し甲斐あるわよぉ~♪」


__そして、見つかったら…絶対、離さないで大切にしてね__


母は1ヶ月後、みんなに見守られて眠るように静かに息を引き取った。
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