上 下
6 / 18

5

しおりを挟む
食事をした後「必ず次にお金を持って来るから」と、王子は店を出て行き、後日本当にお付きの人を連れて豪快に食事をしてお金を払っていった。
そこからは食堂の常連だ。

「レイッ、いるか?」

今日も元気に王子がやって来る。
王子の名前はウィルフリッド。
周りにはウィルで通り始めていた。
王子としては今の所ランスしか顔が知られていないので、少し遠い国から留学中の貴族な設定らしい。
簡単に寄り付けないオーラで周りを牽制してるけど……王子…設定通って良かったな。
存在自体が忍んでない。

「いるよ。ランチ終わっちゃったけど…良いの?」

「あぁ、今日は用事で来たからな。」

ランチが丁度終わって片付けの途中だったのでお客はいない。
ウィルがモジモジとしているの姿を見て……私は察知した。

「………ランスなら…あそこだよっ♡」

耳元でコソッと教えてあげた。

「………お前…何か勘違いしてるだろ……」

「え?何が?」

顔を見るとウィルが固まった。

「……いやっ……別に…………顔…近い…」

顔を赤くして俯いた。
アッハ~ッ♪照れちゃってぇ!バレて恥ずかしいんでしょ?
その顔、頂きましたっ‼

「あ、ウィル。今日はどうしたの?」

厨房から私達の声を聞いてランスが出て来たので、私はランスの方へ行くようにウィルの背中を押してあげた。

「……あぁ、前に教えてもらったクッキーを作ってみたんだが……………どうかな?」

恥ずかしそうにしたもののウィルはランスの元へ行き、少し耳元でコソッと話してから持ってきた袋を手渡した。

「…どれどれ?………ん…美味しい。良く出来てると思うよ。」

「……そぅか…良かった。王宮の料理人に頼み込んで作っている所を見てもらったんだ。」

フフフ……ホンワカしちゃってぇ……
しかし、よく王宮の料理人がOKしたよなぁ。
私はそばに行かずに近くのテーブル席から片付ける振りをして2人を眺めていた。


***レイチェル劇場***

『……ランスの為に…何か作りたいんだ……』

『え…?俺の……為に……?』

___トクン…ッ……___

『お前の物なら…何でも良いよ…』

ランスがウィルに近付いて顎を上げる。

『……お前以上に甘いのを……俺は知らないけどな……』

『………ラン…ス…………』


___自主規制___


***************


はぁぁぁぁぁんっ‼
な~んてなっっ☆
そっからのこれ!「美味しいよ♡」
いやぁぁぁっ!萌えるっ‼

しかもっ!ランスが私に見えないようにウィルを隠して何か言ってる?!
ちょっとウィルが硬い表情になってるっポイけど……何か告られたぁ??
クソッ!遠慮しすぎて少し遠かったか‼

「レイチェル。」

「何?」

ウィルから貰った袋を片手に持ってランスがこちらに来た。

「あ~ん。」

「あ~………むぐっ。」

「……美味し?」

「んぐ…………あ、美味しい♡」

アーモンドとかの砕いたナッツ系の入っているクッキーだ♪

「でしょ?これをおやつに3人で休憩がてらお茶しよう。」

「これ、ランスも好きじゃん。良いの?3人で分けて。」

「うん。俺は3人で食べたいな。ウィルはお昼をもう食べたって言うし、まかないはまだ作ってないから父さんに何かサンドイッチでも作ってもらってくるよ。」

別に2人で食べてくれても良いんだけどなぁ。

「分かった。じゃぁ、他のテーブルも片付けてくるね!」

私はテーブルを急いで片付けて3人でお茶をする事にした。

「おじさんとおばさんは?」

「あぁ、今日は3人で食べたい気分…かな。あとは……ちょっとね……ウィル……最近寂しそうなんだよね。」

「そうなの?」

私には凄く楽しそうに見えたけど?

「王子だから友達が少ないんだって。だから祭りも一緒に行ってみたいらしいよ。」

「えっ♡じゃあ!私は邪…いやっ…男同士の方が良いなら2人でも……っ‼」

「おっ…俺はお前達2人が良いっっ!」

もうっ!どこまで恥ずかしがり屋さんなんだ。
可愛くて妄想が止まらなくなるわっ‼
ハッ!いかんいかんっ。ここは冷静に……

「フフッ……私も一緒で良いの?」

ニヤけた顔をほほえんで誤魔化した。

「そうそう、レイチェルが一緒だとずっと食べてるよ?」

「あっ!ランスだってお酒飲んでばっかじゃん!」

「あ!シィ~ッ‼父さん達にバレたら怒られちゃう!」

……こんな小さな街じゃバレバレなんだけどなぁ。
笑い合いながら3人で祭りの話で盛り上がり、クッキーもあっという間に無くなった。

「………なぁ、レイ……クッキー…美味しかったか?」

ティカップを両手で持って俯きながらウィルが聞いてきた。

「うん、美味しかった♪凄いなウィルは。私料理苦手だもん。だから、結婚するなら料理上手な人とするんだ~。で、毎日作ってもらうの。」

「フフッ…レイチェル、昔から言ってるよねぇ。それに……未だに料理が壊滅的に出来ないもんね。」

笑顔で話していたランスが、何かを思い出したようにみるみると青ざめて言った。

……こないだ作ったオムレツの事を言ってんだろうか……

あれは確かに悪かった。
転生前は苦手でもそこそこ1人暮らしが出来る程度には作れたというのに…こないだ作ったあれは…何か人外な生物でも生まれるんじゃないかと思う程の出来栄えだった。

「……俺…1日寝込んだんだよな…」

そう、小さな頃からどんな料理も必ずランスは食べてくれる。
そして…必ず先生にお世話になっていた。

「……俺も……食べてみたい……」

「上手になったらね。」

じゃないと……私……刺客と間違えられるっ!

「じゃぁ!俺が料理を作るから………!」


___コンコン!___


「失礼致します!ウィル様っ‼お迎えに上がりましたっ‼」

「あ、お迎えが来たね。今日はここまでか。」

サシャはウィル専属の従者。
始めは付けで呼んでたが、歳が近いので今や呼び捨てだ。
ある程度公務は済ませては来るが立場は王子。
やらなければいけない事は沢山ある。
なので毎回王子専属の従者が迎えにやって来るのだ。

ランスがドアを開けると、サシャが息を切らして立っていた。

「全く…大体はこちらかレイ様のパン屋と分かってはいるのですが……出来れば次回からは私にもスケジュールを教えて頂けるとありがたいのですが……」

いやぁ……会社員じゃないんだから…平民のスケジュールなんてないんだけど。

「取り敢えずウィル様っ‼午後のお仕事が溜まり始めていますので戻りますよぉっ!」

「えっ!いやっ!まだ俺っ‼」

「………そんな中途半端な告白……俺は認めないよ。しっかりした状態で出直しておいでね。」

……?!何っ!何の告白ぅ⁉

ニッコリと笑いながらウィルをサシャに引き渡してドアを閉めた。

「レイチェル、今日もありがとう。今度は明後日手伝ってもらっても良い?」

「うん。家は大丈夫みたいだからいつでも良いよ。また明日も人手がいるようなら声を掛けてね。」

私はお土産のケーキをもらって家に帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)

凪ルナ
恋愛
 転生したら乙女ゲームの世界でした。 って、何、そのあるある。  しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。 美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。  そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。  (いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)  と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。 ーーーーー  とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…  長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。  もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

【完結】強制力なんて怖くない!

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。 どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。 そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……? 強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。 短編です。 完結しました。 なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

処理中です...