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上司の上司さん

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「…遅刻…だ…」
 
 会社は家から自転車で30分くらいのところにある、デザイン会社だ。ちなみにぼくはデザイナーという花形じゃなくて、営業なわけだけど。
 自転車を全力でこいだけど、ギリギリ間に合わなかった。あとで上司に怒られるやつだこれ。こうなったらもうちょっと遅れてやろう。一度遅刻したら、さらに遅れても同じだ。
 
「社畜というものは大変なのだな。仕事など時間通りにきたからといって、うまくいくものではないだろう?」
 
 その通りだよ。そのクセ、終業時間はしっかり守らないからな。「時間を守れ」というなら、終業時間も守るべきじゃないですかー?全国の経営者のみなさまー?
 
「それをわかってるけど守らないといけないから、社畜なんだよ」
 
「そういうものか。」
 
「そういうもんだよ。あとお前がどの太宰か定かじゃないから、マサイって呼ぶことにするわ。異論はみとめない。」
 
「ふむ。それもひとつの太宰の形…か。」

フッと笑うマサイをスルーして、忠告を。
 
「あと頼むから会社では話すなよ?とてつもなくめんどくさそうだから」
 
 いや、本当にめんどくさそう。
 
 エレベーターでオフィスのある階につくなり、僕はちょっと身だしなみを崩し、息を切らす演技をしつつ、走って参上した。この演技力も、社畜の必須スキルである。
 
「おい。鈴木ィ。てめえ何遅れてんだ?」
 
 この人は上司の上司。上が名字で名が司。「うえ つかさ」と読む。たぶん、親が上司になるよう願ったんだと思う。知らんけど。
眼光鋭く、いつも無精髭のある、どことなく汚いオッサンだ。太ってはないけど。
 
「申し訳ございません!ちょっといろいろとありまして…。」
 
 バッ!と頭をさげ、ありもしない誠意を演じる。周りの視線が痛い。でもいろいろあったのは本当なんだよ?
 あ、申し遅れましたが僕、鈴木って言います。上はイチローから始まる全国の鈴木の中で、下位を競っている鈴木です。どうも。
 
「そもそも、遅れるならせめて連絡するのが常識だろうが!そんなこともできねーのか?」
 
 連絡する時間をつかって自転車こいできたんですけど、そうですよね。なるべく早くこれるようがんばった結果より「連絡する」っていう一手間が重要なんですよね。わかりますわかります。
 
「ちょっと心配すんだろうが(ボソッ)」
 
 ん?なんか言ったかな?もし聞き間違いなければものすごいツンデレをおっさんがやったことになるんだけれども。
 
「まあまあ、僕も反省してることだし、許してあげたまえよ。この僕に免じて、な。」
 
僕の口が勝手に動いた。僕はとっさに口を抑えたが時すでに遅し。
 
「…」
  
 あたりを静寂が包む。いや、今の僕じゃないからね?僕だけど、僕が言ったわけじゃないんだよ?
 
「…おい、鈴木?今のなんだ?お前か?お前、俺を馬鹿にしてるんか?」
 
 いいえめっそうもございません。馬鹿にしてるのは僕のリュックの中のバカです。
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