うちの可愛いの

明日葉

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 どんな魔法を使ったのか。圭人の部屋に近づきもしなかった琴葉が、その部屋に入ったのは恭と夕飯を作ってくれた日だった。
 辛辣で歯に衣着せぬ、痛いところをついてくる恭の言葉は、実はとても優しい。人を寄せ付けないけれど、それをくぐって近づいた人間は大抵、あいつに惚れると思う。

 そうやって、週末には圭人の部屋を掃除するようになり、圭人から借りて読んでいたという漫画の新刊が出ると買ってきて、圭人の部屋で読み、新しく買った小さな本棚に並べて出てくるようになった。今まで使っていた本棚の様子を変えるのはいやだと、そんなことをしている。
 月命日、とか、そういった日を選んでそこに行くのは、抵抗がある様子だった。




「人を間にしてサカるのやめてっ」
 と、言い置いて犬の散歩にいつも通り暗い時間に出て行った琴葉の足音が聞こえなくなってから、その体の分だけ隙間のあった恭の体を引き寄せた。
「おい」
「お前のせいだろう?」
 言いながら仰向けになり、腹の上にそのまま恭を横たわらせた。腹の間で硬くなったものが互いに擦れる。無意識に揺れる腰に息が上がる自覚をしながら低く笑う。
「恭、俺相手にサカったんじゃないだろう」
「…」
 恭の手は、琴葉の腹を撫でていた。こいつにそういう「欲」があるのだなと意外な思いをしながらその動きを目を瞑ったまま布団の中で感じていたが、その手の甲は俺に当たるのだ。俺の方は、完全にこいつのせいだ。
 綺麗な顔を引き寄せて唇を重ね、舌をからめとる。粘膜が擦れ合うのが気持ちいい。そうしながらもう片方の手で肌理細かい恭の素肌を這い、胸の頂を弾く。
「っん、あぁ」
 俺の口の中に吸い込まれてくる声が湿っている。恥じらうようにむずかる体をしっかりと抱き寄せ、足をからめとって動きを封じれば、もどかしげに腰が揺れているの動きでこちらまでが煽られる。
「なあ、恭」
 焦らすように両手を動かす。放っておいても、重ねた唇はもう逃げていかない。ガチガチになった互いのものをこすり合わせながら、もどかしげに揺れる腰が求めるものを笑い、指を伸ばしてクイと押し当てた。
「っはっ」
 反射的に背をのけぞらせた美しい体と、こんなことをしているのに汚れを感じさせない綺麗な、綺麗な恭。
「俺のは、お前のせい。でも、お前は違うだろ」
「ゆうと、やめっ」
 行為を、なのか。この今言おうとしている言葉を、なのか。
 のけぞって浮き上がった腰を引き寄せて、一気に貫いた。きゅう、と締め上げられ、持っていかれそうになるのをやり過ごす。
「お前、ば…か」
 苦しげに息を細かく吐きながら俺の腹の上に両手を置いて堪える恭のそんな言葉は、煽るだけだ。気持ち良さそうな顔をして。
 全部知ってる。俺だけが知っている。
 俺も、恭も、ゲイじゃない。多分。バイでも、ない。好きなのが、互いなだけ。別の男にこんなことしたいと感じたことは一切ない。女は、恭と会う前、あるけれど。恭は、男でも女でも、俺だけ。俺だけだった。
 恭のイイトコロも。いろんな表情、声。温度。
 人との接触を好まない恭には、俺だけだった。仕事は、別らしい。あれは、仕事。脳を切り替えるだけだとさらっと言っていた。
 ゆるゆると、わざと少し外して揺さぶって、イけそうでイけない辛そうなのを気づかぬ顔で、恭の前に手を伸ばし、強めに握りながら先端を塞ぐ。
「ぐっ」
「恭…」
「悠人、お前…」
 こんな時でも、冷静な恭の頭。わからなくなるほどは、滅多に乱れないやつ。
 本人が嫌がるから、そうしないのもあるけれど。


「お前、試してみろよ」



「は?」



 怪訝な顔をされるのと同時に、一気に突き上げた。
 恭の、イイトコロを。


「あぁぁああっ」


 出口を塞がれたまま、俺の上で身を捩る。


「琴葉、触りたいと思ったんだろう?」
「な、にを、いっているんだ」




 普通とか、普通じゃないとか。
 そういうのは気にしない。そういう括りは考えたことはない。


 ただ、人との触れ合いをそもそも求めていなかった恭を引き込んだのは、多分、俺。
 恭に魅入られたのが俺だとしても。
 恭が自分から触れたのが、琴葉。
 俺とのことで、だいぶ色々ハードルは下がっていたのだろうけれど。


 それに、本当は。
 あの距離で一緒に眠っていて。しかもさっきは、恭の手のせいで主張する胸の先端が当たって意識させられた。本当は、触れたいと、思った。恭がいるのに、他の誰かに興味を持ったのは初めてだ。




 圭人は、何を思ってあんなことを望んだんだろう。


 手を離して恭を開放してやりながら、同時に達した。
 しっかりと抱きしめて、耳元に伝える。
「琴葉に触れればいいだろう?俺は気にしない」
「嫌がるだろう。男のパートナーがいる相手にそんな風にされても」
「…お前が、じゃないんだな。じゃあ、上出来だ」



「…パートナーにそんなことを勧められるのは複雑だ」



 お前が誰かに興味を持ったのが、嬉しいんだよ、と額にキスをする。
 嫉妬にならないのは、不思議だった。他の誰かが恭のいいところを見つけて褒めたり、少し親しげに談笑しているだけでもモヤモヤするというのに。





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