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しおりを挟むわたし?と頭が処理し終わる前にヴィクターが眉間に皺を寄せ、美味しそうにシチューを食べているスライムを見ている。どういう仕組みになっているのか、とりあえず食べる時にはぱかっと口らしきものができるが、その後の様子は見えなくなる。この「食事」と、先ほどワームを飲み込んだのの違いがあるのだろうが、一見しては分からない。
「契約するかどうかの前に、条件をどうするつもりだ?」
ヴィクターの問いに、なぜかケルベロスもスライムも嬉しげな様子を見せる。なんだか一緒につい食事をしてしまったりしっかり話を聞いてしまうのは、どういうわけか彼らの様子が感情豊かに見えるからかもしれない。先ほどのワームとは違う、意思の疎通ができる、感情のやり取りができる存在。
「…なんだかこのご飯、さっき減った魔力とか色々回復する気がする。この森だと回復が早いからわかりにくいけど」
そういえば。
「身内」以外に振る舞う想定をしていなかったから忘れかけていたが、そうだった。タイちゃんの加護のおかげかなんなのか。作った食事、さらに食材も自分で育てているとなおさら、色々回復効果があるのだ。癒し、浄化、治癒…。使い分けができるのかなど、研究もしていたがセージ先生がいないとなかなか進まない。旅に出て料理の機会が減ったのもあるし、食材の栽培はできていない。
「一緒にいる時に、ご飯を食べる時には一緒に食べさせてほしい。君も食べる余裕がない時にまで食べさせろとは言わないから」
「…それだけ?」
「元の契約者は、こちらの条件は設定しなかった。絶対服従、全ての命令に従え、と。食事は自分で調達して勝手にしろ。これを聞いても、それだけだと思うか?」
「むしろそれを基準にしないで欲しいんだけど」
反射的に言い返してしまった。
そんな「飼い主」と一緒にしないでほしい。むっとしていると含み笑いの声が重なる。ケルベロスたちが笑っているようだ。笑い事ではないのに。
「こちらは、君のことを守り、命ずることにも従おう」
「…わかった。ヴィクター、これ、タイちゃんは嫌がらない?」
フォスは、嫌がるだろうと思う。それならタイちゃんはと。少し竜と竜騎士とは違う気がしているから、大丈夫だとは思うのだけれど。
「あまり前例のない話だからはっきりとは答えられないが、トワを守るものが増えることを嫌がりはしないだろう」
そう言ってからそれよりも、とヴィクターは首を傾げる。
「気にするのはそちらか。ヒソクやノルはいいのか?」
龍の花嫁、なんて異名の印象が強いのだろう。それは、ヒトが誤ってつけたものだけれど。しかも、実際の聖女たちはもうずっと、花嫁なんて呼べることは行っていない。むしろ害を為してさえいる。
「ヒソクのあれは、養育係とか乳母みたいなものだし。ノルに至ってはあれ、消極的な自殺の手助けを強制的にさせられそうになっただけというか…」
時間が経って冷静に思い返すとそれぞれそんな印象なのだ。
ヴィクターも思い返して当てはめたのか、珍しく失笑している。
ふは、と表情を一変させたヴィクターの顔が珍しくて思わず見つめてしまった。そう、何よりも。
「本当に花嫁だというならそもそも、番になんて勧めるわけがないと思わない?」
「違いない」
不意に温かい魔力が通ってくる。先ほどの戦闘で多少の魔力は消費したものの、ヴィクターにとっては大したことはない。そこへこの森の魔力飽和とわたしの食事が重なればあっという間に回復してしまうのだろう。
2人分の体を循環しながら、ついでに相変わらず自分での魔力変換が満足にできないわたしの方に蓄積される。
どうやら、このケルベロスとスライムの願いを聞き届けることに問題はないらしい。
「わたしの条件は、守ってくれるのもお願いを聞いてくれるのもありがたいけど、あなたたちの命を最優先すること。嫌なことは嫌だと言うこと」
「え?」
「で、どうやれば契約ができるの?」
「名をつけてやれ、トワ」
強制的な契約は、魔法陣などを用いて結びつけ、強制的に与えた名を受け入れさせるらしい。合意の元では、与えられた名を受け入れることで成立すると。
これ、気に入らない場合は何回もやり直せるのかと思わず尋ねると、揃って笑われた。
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