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 寒い。



 重くて動かすこともできない体は、寒くても震えてもくれない。



 寒い原因は、気温や気候のせいではない。こんな寒気がするほどの熱を出した記憶はかつてない。
 体調を崩しても自覚症状なくやり過ごすことがほとんどだったのだ。


 魔力の器としては今回複数の神龍の受け皿になる必要があることもあってか、無駄に大きいらしいが、何せ魔力を感じ取ることができない。そして魔力変換と放出ができないから体にひたすら合わないらしいのだ。
 それは、ヒソクの神龍の器になった時にも寝込んだことで察してはいたのだが。
 思えば、タイちゃんと契約をした時にも体に影響はあった。ただあの時は外に出しすぎての魔力欠乏だと言われたが、どうやら外に出ていくことのないまま精霊と契約をすれば魔力飽和を起こしかねないらしい。竜と並んで精霊との契約も大事だと言うのはそういう意味もあるのだとか。器がなければ契約はできない。

 今回は、完全に魔力飽和だ。
 相変わらず魔力を感じ取ることはできていないけれど前後の状況を考えれば。



 王弟殿下にヒソクに与えてもらった葉と水を持って行ってもらった後、とにかくまずは与えられた役目ができるようにしなければ、と思ったのだ。
 龍脈を流す役割。


 神龍はそれを自然にやるのだという。
 あの体の大きな竜たちも、神龍でなければその役目を担うことはできいないのだという。
 龍脈を感じることもできるし、滞った流れを見つけることもできる。けれどそこに干渉することはできない、と。
 神龍が持つ特殊な能力、なのかもしれない。
 世界中に張り巡らされている龍脈はその場所によって様々だとヒソクはいう。魔素が濃い、と言われる場所は太い流れの近くだったり、細い流れが緻密に張り巡らされているような場所もある。太い流れの周辺は竜族の棲家になっていたり、エルフ族や獣人など魔力量の多い種族がヒトが立ち入らないよう結界を張って里を作っていたりするのだとか。
 細い流れのところは精霊が住み着いて増幅させたり、彼らの力で補ったりして維持している場所もあるらしい。
 流れを助けるのは、太いところの流れが足りなくならないように、細いところに太い流れの量が一気に流れ込んで龍脈を壊さないように、そして何よりも、滞って魔素溜まりを作り瘴気を発生させないように。



 まずは龍脈を感じ取ることができなければ、そこに流れる魔素に干渉することなんてできるはずもない。
 ただ、いるだけでその役割は果たされると言われたけれど、何か起こった時には意図的に干渉しなければいけないのではないか尋ねると、ヒソクはため息混じりに頷いた。
 滞っているところを流すには壊さない程度の強めの流れで押し出すのだという。瘴気を発生させ始めていれば、神龍には瘴気を浄化する力があるわけではないから影響が極力出ないように飛散させあるいは濃縮してどこかで放出するのだというが、神龍の器には浄化の力があると言われた。


「それは、困る」


 聖女と競合してしまう。
 いや、それができる人が複数いるのはいいことなのだ。


 ただ、あの聖女がそれを受け入れるとは思えない。むしろ、知られてはいけない。



 そんなやりとりをしながら、目眩しがかけられた家で過ごしていた。
 龍脈の流れに干渉している時には、膨大な魔素が体内を通過していく。らしい。
 魔力飽和を自覚してなんとかする余地もないほどのものだから危険だとヒソクに言われ、ヒソクの声に誘導されながらその練習をする時には部屋にこもって立ち入り禁止にした。
 ヴィクターをはじめ、みんな不満そうだったけれど。そこで何かあっても気づけない、助けられない、と。



「黒持ちでも、触れれば命を落とす流れだ。特別な契約が交わされなければ、近づくことはできない」


 伝えろと言われたヒソクの言葉をそのまま伝えた。

 特別な契約とは何かとヴィクターが食い気味に尋ねたが、それに答えはなかった。



 教えるべきと感じた時にフォスに教えるように言ってある、とヒソクは後で教えてくれたが。黒持ちでも命を落とす、という言葉が頭に残って離れない。
 意図的に干渉した時には、何かの流れに飲み込まれたように身動きができなくなる。そしてひどく体が重くなる。それですまない、ということだ。
 魔力を感じ取れない人間が、体の不調でその存在を実感できるほどの何か。


 そこに晒す危険は避けたい。
 あの過保護な人は、方法を知ってしまえば躊躇いなく実行しそうで。


「ヒソク、ヴィクター様がそれを聞き出す必要性を感じないくらい、頑張るから」


 頑張ることではないんだがな、と応じたヒソクは、それでも体に無理のない範囲で導いてくれていた。




 それを狂わせたのは、あの来客だ。



 目眩しがされているはずの家。


 招いたものしか見つけられず、到着することもできないはずの家の戸を叩いた。



 漆黒のその来客は、待ちきれずに来てしまったと小さく、申し訳なさそうに笑った。



 そうして、覚えのある奔流が体を飲み込んだ。




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