知らない異世界を生き抜く方法

明日葉

文字の大きさ
上 下
48 / 87

42

しおりを挟む
 
 
 
 ヒソクの魔力の流れに身を任せていると、先ほど声に滲んでいた疲労が消えたような声でヒソクが話しかけてくる。

『トワ、関わりのない世界の理に巻き込んですまん。わたしの力を受け入れるのはつらいだろう』

 声で答えようとしても、声が出ない。内心で思うだけで伝わるのだろうと、いいえ、と思ってみた。伝わっている気配に、そのまま続ける。

(このことのために関わりを持ったのだとしても、世界の理というのならきっと、こうして行き来できる以上互いの世界の理は絡み合っているのでしょう。関わりがないとは、言い切れません。それに、何の意味もなくお荷物のように現れた不審者のようなわたしに、この世界の方達はとてもよくしれくれました)


『この世界、ではなく、辺境伯家の者たちだろう』

(いいえ)

 苛立ちを孕んだ声を受け流す。不思議なほど、恐怖心は湧かない。流れ込んできているものが、体のどこかに蓄積されているはずなのにあまり実感もない。魔力を自分で流せない、使えない、と言うのはそもそも感じ取ることができていないと言うことなのだろうか。


(魔力を使うこともできず、この世界の魔素に耐性もなく、とても…赤ん坊より手のかかるわたしが困らないように、安心していられるように心を砕いてくれました。このような役割を与えられているとは、誰も思っていない時にです。今こうしてここにいられるのは、辺境伯家はもちろんですが、辺境伯家が預かった荷物を容認してくれた周囲の方々のおかげでもあります)

 何か言いたげな間があいているうちに、こちらから問いかけた。この神龍と言葉を交わせるのは、今しかないと思った。

(聞いてもいいですか?)

『もちろんだ』

(わたしはこうして受け取った後、どのように過ごせば良いのですか?)

 神龍の力を引き継ぐまで、その代わりをするとは聞いている。が、それは具体的にどうすれば良いのか。
 魔力を流せない自分ができることなのか。

『この場所は、ずっと、青の神龍が竜脈を守ってきた場所だ。だが、聞いているとは思うが、今代替わりを控えているのはわたしだけではない。だから、ここにいる必要はない。辺境伯の邸の近くでも、どこでも良い。トワの過ごしやすい場所に居を構えなさい。この木の小枝を一つ、そして洞の中に湧く水を一掬い、そこに持って行きなさい。庭先に枝をさし、水をかけなさい。そこに根付き、小さな泉ができ、こことつながる。基本的にはそこで過ごせば良い。だが、離れてはいけないわけではない。龍脈は世界中を流れている。存在することに意味がある。離れると循環させるのに使う魔力は多く必要になる。長くなる場合には、負担を減らすために葉を一枚でも持っていくと良いだろう』

 淡々と話されるそれは、まるでおとぎ話のようだ。
 そして、神龍であるヒソクが、当たり前のように辺境伯が領地を貸し、つまりは後ろ盾となってくれると信じて疑わないことに安堵する。竜たちに信頼された家。だから、竜の棲家の入り口に邸を構えているのだ。


『根付けば、そこからこの場所に容易に転移してくることもできる。ここは、強力な隠蔽の魔法がかけられている。招かれざるものは決して見つけることはできない。ここから株分を受けたトワの家にもその恩恵は付与される。わたしは役目を終えたらこの場所の護りを強化する。そして、神龍の核心となるものは、次代の誕生に備える。いずれどこかで、青の神龍の卵が見つかったと竜族が報せてくるだろう。その時は、その卵をこの洞の中にトワが移動させるのだ。その時には、卵の寝床ができているだろうからここにくれば分かる』

(どこかで、ですか?)

『世界のどこかで、いつか、だ。そして、わたしの最後の一部分は、トワが持ち運べるようになる。持ち帰り、トワの家に置き、必要なら外に出る時には持ち歩いても良い。わたしの加護は君のものだ。…そうは言っても、トワはこの譲渡が終わればあの竜騎士に運ばれるだけだろうから、勝手についていくがね』


 少し愉快げな口調で遺言のような言葉を継いだ神龍は、最後に、と締めくくる。





『卵から孵化する時に魔力を譲渡することになるか、孵化してある程度育ってから譲渡するか。どちらになるかは分からない。その時がくれば自然と魔力が流れようとするから分かるだろう。どの時期に譲渡することになったとしても、幼い新たな青の神龍の親代わりに、可能ならばなってほしい。そして、名を与えてやってくれ』




 トワ、と静かな声で呼ばれる。


『わたしに聞きたいこと、話したいことがある時は名を呼びなさい。わたしは消えるわけではない』








 体を支えるほどの奔流が、すっと消える。





 ああ、受け取ったのだな、と分かった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

天才第二王子は引きこもりたい 【穀潰士】の無自覚無双

柊彼方
ファンタジー
「この穀潰しが!」 アストリア国の第二王子『ニート』は十年以上王城に引きこもっており、国民からは『穀潰しの第二王子』と呼ばれていた。 ニート自身その罵倒を受け入れていたのだ。さらには穀潰士などと言う空想上の職業に憧れを抱いていた。 だが、ある日突然、国王である父親によってニートは強制的に学園に通わされることになる。 しかし誰も知らなかった。ニートが実は『天才』であるということを。 今まで引きこもっていたことで隠されていたニートの化け物じみた実力が次々と明らかになる。 学院で起こされた波は徐々に広がりを見せ、それは国を覆うほどのものとなるのだった。 その後、ニートが学生ライフを送りながらいろいろな事件に巻き込まれるのだが…… 「家族を守る。それが俺の穀潰士としての使命だ」 これは、穀潰しの第二王子と蔑まれていたニートが、いつの日か『穀潰士の第二王子』と賞賛されるような、そんな物語。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

処理中です...