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しおりを挟むヒソクの魔力の流れに身を任せていると、先ほど声に滲んでいた疲労が消えたような声でヒソクが話しかけてくる。
『トワ、関わりのない世界の理に巻き込んですまん。わたしの力を受け入れるのはつらいだろう』
声で答えようとしても、声が出ない。内心で思うだけで伝わるのだろうと、いいえ、と思ってみた。伝わっている気配に、そのまま続ける。
(このことのために関わりを持ったのだとしても、世界の理というのならきっと、こうして行き来できる以上互いの世界の理は絡み合っているのでしょう。関わりがないとは、言い切れません。それに、何の意味もなくお荷物のように現れた不審者のようなわたしに、この世界の方達はとてもよくしれくれました)
『この世界、ではなく、辺境伯家の者たちだろう』
(いいえ)
苛立ちを孕んだ声を受け流す。不思議なほど、恐怖心は湧かない。流れ込んできているものが、体のどこかに蓄積されているはずなのにあまり実感もない。魔力を自分で流せない、使えない、と言うのはそもそも感じ取ることができていないと言うことなのだろうか。
(魔力を使うこともできず、この世界の魔素に耐性もなく、とても…赤ん坊より手のかかるわたしが困らないように、安心していられるように心を砕いてくれました。このような役割を与えられているとは、誰も思っていない時にです。今こうしてここにいられるのは、辺境伯家はもちろんですが、辺境伯家が預かった荷物を容認してくれた周囲の方々のおかげでもあります)
何か言いたげな間があいているうちに、こちらから問いかけた。この神龍と言葉を交わせるのは、今しかないと思った。
(聞いてもいいですか?)
『もちろんだ』
(わたしはこうして受け取った後、どのように過ごせば良いのですか?)
神龍の力を引き継ぐまで、その代わりをするとは聞いている。が、それは具体的にどうすれば良いのか。
魔力を流せない自分ができることなのか。
『この場所は、ずっと、青の神龍が竜脈を守ってきた場所だ。だが、聞いているとは思うが、今代替わりを控えているのはわたしだけではない。だから、ここにいる必要はない。辺境伯の邸の近くでも、どこでも良い。トワの過ごしやすい場所に居を構えなさい。この木の小枝を一つ、そして洞の中に湧く水を一掬い、そこに持って行きなさい。庭先に枝をさし、水をかけなさい。そこに根付き、小さな泉ができ、こことつながる。基本的にはそこで過ごせば良い。だが、離れてはいけないわけではない。龍脈は世界中を流れている。存在することに意味がある。離れると循環させるのに使う魔力は多く必要になる。長くなる場合には、負担を減らすために葉を一枚でも持っていくと良いだろう』
淡々と話されるそれは、まるでおとぎ話のようだ。
そして、神龍であるヒソクが、当たり前のように辺境伯が領地を貸し、つまりは後ろ盾となってくれると信じて疑わないことに安堵する。竜たちに信頼された家。だから、竜の棲家の入り口に邸を構えているのだ。
『根付けば、そこからこの場所に容易に転移してくることもできる。ここは、強力な隠蔽の魔法がかけられている。招かれざるものは決して見つけることはできない。ここから株分を受けたトワの家にもその恩恵は付与される。わたしは役目を終えたらこの場所の護りを強化する。そして、神龍の核心となるものは、次代の誕生に備える。いずれどこかで、青の神龍の卵が見つかったと竜族が報せてくるだろう。その時は、その卵をこの洞の中にトワが移動させるのだ。その時には、卵の寝床ができているだろうからここにくれば分かる』
(どこかで、ですか?)
『世界のどこかで、いつか、だ。そして、わたしの最後の一部分は、トワが持ち運べるようになる。持ち帰り、トワの家に置き、必要なら外に出る時には持ち歩いても良い。わたしの加護は君のものだ。…そうは言っても、トワはこの譲渡が終わればあの竜騎士に運ばれるだけだろうから、勝手についていくがね』
少し愉快げな口調で遺言のような言葉を継いだ神龍は、最後に、と締めくくる。
『卵から孵化する時に魔力を譲渡することになるか、孵化してある程度育ってから譲渡するか。どちらになるかは分からない。その時がくれば自然と魔力が流れようとするから分かるだろう。どの時期に譲渡することになったとしても、幼い新たな青の神龍の親代わりに、可能ならばなってほしい。そして、名を与えてやってくれ』
トワ、と静かな声で呼ばれる。
『わたしに聞きたいこと、話したいことがある時は名を呼びなさい。わたしは消えるわけではない』
体を支えるほどの奔流が、すっと消える。
ああ、受け取ったのだな、と分かった。
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