知らない異世界を生き抜く方法

明日葉

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 心配しているかな、と気がつくと考えている。
 考えてから、すごいな、と思う。心配してくれていると信じられる。ヴィクターが。アメリアが。セージも、ラウルもエリンも。屋敷の人たちが。
 フォスは…心配で済んでいるといいけれど。


「トワ?」

 耳に馴染んだ声。この声のおかげで、この空間の中で何にもぶつからずに動くことができる。少し歩幅を間違えると、壁に額をぶつけたりもした。鼻が低いから鼻は無事なのよね、と言ったら、違う声が少し笑った。世話をしろ、と言われた誰かの声。


「心配しているんだろうな、と思ったら、なんだかわたし、恵まれているなと実感したの」

「ん?」

「だって、わたしは降ってわいた…わけのわからない、身元も不確かな人間よ?それがあんな親切な人たちに助けられて、しかも何不自由なく過ごさせてもらって望むとおりに学ばせてもらって。こうして離れていれば、その人たちが自分を心配してくれていると思えるくらいいい人たちに最初に会えたんだから。恵まれているでしょう?」

「そもそもの最初にやられたことは気にならんのか」

「チャラかな」

「チャラ?」

 うん、分からない言葉を使った。
 たぶん、こちらの言葉に変換できない言葉はそのまま聞こえるんだろう。言葉がどうなっているのかは分からなけれど、文字を見ると見覚えがない文字だったから。読めるのが不思議だったけれど。



 この、最初から導いてくれている声はブレイク。
 そして、世話をしろと言われたのはレイ。



 ここに来た翌日から5日間は地獄のようだった。いや、わたしが、ではない。この2人にとって、だ。
 見えないけれど、2人は拘束をされている。どんな風にかは分からないし教えてくれない。知らなくていい、と言われる。目が見えるようになればわかるのに。目隠しを外すなと厳命されたけれど。



 拘束されている2人には、複数の魔道具が装着されている。らしい。
 それぞれどんな目的の魔道具なのか教えてもらえないけれど、食事は魔道具から供給されていた。口から、ではない。点滴のように。
 食事に混ぜ物がされており、口に流し込むようにしていたが抵抗するためそのように抵抗できない方法で栄養、というよりも「混ぜ物」の方を確実に投与され続けた。それがどれほどの期間だったのかは知らない。



 世話をしろ、と言われ、食事が運ばれてくるようになった。いや、初回だけ、運ばれてきた。
 食わなければその女が罰を受けることを承知していろ、と、それを伝えるために来たようだった。そのあとは、時間になると、食事が現れる。
 空間転移魔法、というらしい。転移の魔道具が置かれていて、繋がっているところから送られてくる。
 便利だな、と感心していると、呑気なやつだな、とブレイクは呆れていた。
 食事を口にするのは危険だと伝えるために、ブレイクは最初にその、混ぜ物の話はしてくれた。今わたしは多分立場が宙に浮いていて、扱いを間違えると問題が大きくなるような気がするけれど。それも王家がやれば全て帳消しになるんだろうか。
 そう聞くと、不機嫌そうな声が応じる。
「あの王子のやることはわからん。それに少し前に召喚された聖女が後ろで何をしているかわからん。あいつが来てからだ。こんなことになったのは」
 こんなこと、がどんなことなのかわからない。ただ、いろいろなことを知っていそうなブレイクが「聖女」と呼ぶということは、やはり彼女が本当に聖女なのだろう。どっちもハズレってこともないかな、と思ったが流石にそれはないらしい。
「本来この国はまだ聖女を呼ぶ時期ではなかった」
「時期?」
「聖女を召喚するには人間には大きすぎる魔力を要する。だから貯めるんだ。各国が順に、聖女を呼ぶ時期がやってくる。どの国にもいない時期もある。聖女は瘴気を浄化する力を持ち、弱まった龍脈を補修する。聖女を抱える国はその間はこの世界に影響するから他国から攻められることはなく優位に立つ。だからこそ、順を違えることはないんだ」
「それを違えた?」
「たまたま、魔力が強い人間がいた。吸い続けたんだ」

 それが、時折呻き声が聞こえるだけの人なのか、と思ったけれど、それを聞く前にブレイクが食事に話を戻した。

「お前の食事にも盛られている。聖女からの贈り物だと、それまでと違うおかしな魔道具があの人に装着され、それまでと違う薬が混ぜられた」





「ねえ」


 じれて、口を開いた。
 世話をしようにも、情報が曖昧で。どうしたらいいのかわからない。


「濁さないで教えて。嫌なことなのかもしれないけれど、わたしにはあなたたちのことは見えていない。後腐れはないわ」
「そういう心配をしているんじゃない。ただ…気分のいい話じゃない」


 手が触れるところにある「食事」。どれが誰の分、という指示もない。どれを誰が食べても同じだということなのか。
 ならば、わたしにも同じ薬が盛られているということだ。
 そう言うと、あからさまな舌打ちが聞こえる。

「変に度胸がいいな、お前。入っているのは媚薬だ。あとは、弛緩剤」
「……え??」

 だって、拘束されているのよね?
 そんなもの、どうすると?


「弛緩剤は、なければ俺はこんな拘束役に立たないからな。俺の方に媚薬は入っていなかった。今は全部一緒くただから全員に、だな。まあお前に弛緩剤を与えてどうやって俺たちの世話をさせるつもりなんだか」


 そうじゃなくて。



「理由は簡単だよ」

 初めて、声が聞こえた。けれど、朦朧としたような、声。

「悪趣味な話だ。僕の腹には子宮があるらしい」


「え??」

「珍しい話じゃないっつってんだろうが」

 苛ついたブレイクの声。

「人間の魔力じゃ役に立たないから気づかないだけだ。俺たちの種じゃ当たり前だ」


「どう言うこと?」


「俺は獣人だ」

 うん、それはみたい。もふもふしているんだろうか。なんの獣人だろうか。けれど、そこじゃない。そこを気にするのは今じゃない。


「獣人には番がいる。男同士も女同士もある。まあいいんだ。子をなすのに重要なのは魔力だ。人間は魔力が足りないからオスとメスの精子と卵子で子をなすことが多いが。獣人や他の魔力の強い種は、両方ある」

 理屈を理解するにはもう少し時間が必要だから置いておこう。


「珍しい話じゃないなら、いいんじゃない?」

「人間は使い道がないからわかることが滅多にない。だが、レイは魔力が強いから成熟してしまった」


「…この世界のことはわからないんだけど、それが珍しいことじゃなくて、魔力が強いことも歓迎されることで、と言うならどこに問題が?」


 なんというか、情報量が多すぎてパンクしつつある。
 しかもそれでなんで、媚薬を盛るの?



「人間には滅多にない。だが、今、この国は女性が極端に少ない。このままでは人口減少が始まる。聖女様が王家自ら解決策をと魔道具を寄越した」


 なんだろう、悪趣味、と言う言葉と相まって嫌な予感しかしない。





「強制的に、四六時中射精させられている。空間転移の魔道具をつけられ、直接自分の子宮に」








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