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態度の大きな副団長殿
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エリアスは、自身の執務室で悠然とお茶を飲んでいるその男を、辟易した思いで見やった。
不意打ちでやってきた男、騎士団副団長ローランド・ウェルムは、なんとなく都合の悪い話をしにきたと察したエリアスが忙しいと追い返そうとしたのを平然と無視した。待ちますのでお構いなく、と。
片や第3王子、片や一介の騎士団副団長。本来ならあり得ない構図なのだが。
なぜか、この男だと成立してしまう。ここ最近、リラ嬢の絡みで若干情けない部分を見せてはいるが、基本的にこの男、絶対に敵に回してはいけないタイプなのだ。それは王家であっても。
万が一、王家がこの男の機嫌を損ね、他国へ逃してしまったなら、損失は甚だしい。彼自身の能力ももちろんであるし、彼が持っているこの国に関わる様々な知識が国外に出て行くことになる。
そんな男を怒らせた自分の父である現国王は、時々なぜ愚かなことを言い出すのだろうと心底不思議になる。普段が賢王であるからこそなおさら。時折突拍子もなく愚かなことをしないとバランスが崩れるとでもいうのか。
「殿下。手が止まっていますが、仕事はお済みですか」
圧力までかけるなよ、と思うが、目を閉じ、深く息を吐き出して気持ちを落ち着ける。ボロを出してはいけない。どうせこの男が今、動くとなれば、リラ絡み一択。
「リラ嬢がどうかしたか」
手を休め、話を聞いてやろうという空気を出してエリアスが問えば、ローランドの眉が上がった。
王家とシェフィールド家の不自然な関係。ついでに、シェフィールド家の執事と主家の謎の強弱関係も併せて聞かれれば、こっちじゃなくて向こうに聞け、とエリアスは追い返したくなる。
なぜ、王家という本来気軽に扱われるはずのない立場の方に聞きにくる。
まあ、と、エリアスはため息をつく。自分だって、シェフィールド家の人間に聞きたくはないが。それは、事情を知っている立場だからでもある。
ただまあ、あの兄弟の誰がまともに教えてくれるかって…想像しようとして、エリアスは諦めた。誰1人、まともに相手をしそうな人間が思いつかない。ローランドにとっては部下に当たるはずのリンデンでさえ、だ。であればせめて騎士団長のディラン・ハッブルズを通せと思うが。知る者が増えるだけで何もいいことはない。
「シェフィールド家は、世襲される爵位の家ではない。が、代々一代限りの爵位を受けるだけの働きをし続けた結果、古い家柄の貴族と並ぶほどに長く仕えている家柄でもある。それはつまり、働きからも能力からも、長年優れた人材を輩出し続け、尽力し続けてきた家柄ということだ」
王家がシェフィールド家を尊重しても不思議はないだろう、とエリアスは語る。それは表向き、語られる話であり、事実でもある。
これで満足をするはずはないな、と思いつつも、エリアスはそれしか伝えることはできない。
事実は、この国の王位継承権にまで関わってしまう話になるから。
代わりにと、もう一つの質問には、少し核心に近づけることを伝えてやる。これは知られて困る話でもなければ、むしろ知っておいた方が良いかもしれない話。リラに求婚しているこの男であれば。
「シェフィールド家の執事は、乳兄弟だから子どもの頃からずっと一緒にいるのは事実だ。ただ、彼の母が、シェフィールド家の乳母なのではない。先代のシェフィールド夫人が彼の乳母になった。だから、誰かの乳兄弟なのではなく、彼はシェフィールド家の兄弟と、乳兄弟だ」
リラを除いて。
告げられた言葉に、ローランドは感情を見せない顔でわかりました、と頷く。
内心は、納得や解決と一緒に、さらなる疑問が生まれて渦巻いて穏やかではないけれど。その事実はつまり、あの執事、レイがどこかの貴族などの息子であるということ。なぜその彼が、ずっと、しかも使用人としてそこに居続けるのか。どこの誰なのか。
ただ、今はエリアスはこれ以上を話す気はないのを示すように、また仕事に戻っている風をローランドに見せる。
ようやく、リラが自分の方に向き始めた。気になるのに、ローランドの情報収集力を持ってしても水面下で得ることのできない情報。それでも知らなければ、リラとの関係を進めるのに足を掬われる余感がして仕方ない。
リラが同じ屋根の下にいることは嬉しいが、一緒に小姑たちもいる。しかも、長引いている原因は、あの女が逃走しているから。いつまたリラに危害を加えるかわからない状況は、歓迎できるものではない。
じっと考え込み、ローランドは立ち上がると、エリアスにしてみれば腹立たしいほどに美しく、騎士の礼をとって見せた。
「殿下、またまいります」
「来なくていいっ」
反射的に口をついて出た叫びは、不敵な笑顔に打ち消された。
不意打ちでやってきた男、騎士団副団長ローランド・ウェルムは、なんとなく都合の悪い話をしにきたと察したエリアスが忙しいと追い返そうとしたのを平然と無視した。待ちますのでお構いなく、と。
片や第3王子、片や一介の騎士団副団長。本来ならあり得ない構図なのだが。
なぜか、この男だと成立してしまう。ここ最近、リラ嬢の絡みで若干情けない部分を見せてはいるが、基本的にこの男、絶対に敵に回してはいけないタイプなのだ。それは王家であっても。
万が一、王家がこの男の機嫌を損ね、他国へ逃してしまったなら、損失は甚だしい。彼自身の能力ももちろんであるし、彼が持っているこの国に関わる様々な知識が国外に出て行くことになる。
そんな男を怒らせた自分の父である現国王は、時々なぜ愚かなことを言い出すのだろうと心底不思議になる。普段が賢王であるからこそなおさら。時折突拍子もなく愚かなことをしないとバランスが崩れるとでもいうのか。
「殿下。手が止まっていますが、仕事はお済みですか」
圧力までかけるなよ、と思うが、目を閉じ、深く息を吐き出して気持ちを落ち着ける。ボロを出してはいけない。どうせこの男が今、動くとなれば、リラ絡み一択。
「リラ嬢がどうかしたか」
手を休め、話を聞いてやろうという空気を出してエリアスが問えば、ローランドの眉が上がった。
王家とシェフィールド家の不自然な関係。ついでに、シェフィールド家の執事と主家の謎の強弱関係も併せて聞かれれば、こっちじゃなくて向こうに聞け、とエリアスは追い返したくなる。
なぜ、王家という本来気軽に扱われるはずのない立場の方に聞きにくる。
まあ、と、エリアスはため息をつく。自分だって、シェフィールド家の人間に聞きたくはないが。それは、事情を知っている立場だからでもある。
ただまあ、あの兄弟の誰がまともに教えてくれるかって…想像しようとして、エリアスは諦めた。誰1人、まともに相手をしそうな人間が思いつかない。ローランドにとっては部下に当たるはずのリンデンでさえ、だ。であればせめて騎士団長のディラン・ハッブルズを通せと思うが。知る者が増えるだけで何もいいことはない。
「シェフィールド家は、世襲される爵位の家ではない。が、代々一代限りの爵位を受けるだけの働きをし続けた結果、古い家柄の貴族と並ぶほどに長く仕えている家柄でもある。それはつまり、働きからも能力からも、長年優れた人材を輩出し続け、尽力し続けてきた家柄ということだ」
王家がシェフィールド家を尊重しても不思議はないだろう、とエリアスは語る。それは表向き、語られる話であり、事実でもある。
これで満足をするはずはないな、と思いつつも、エリアスはそれしか伝えることはできない。
事実は、この国の王位継承権にまで関わってしまう話になるから。
代わりにと、もう一つの質問には、少し核心に近づけることを伝えてやる。これは知られて困る話でもなければ、むしろ知っておいた方が良いかもしれない話。リラに求婚しているこの男であれば。
「シェフィールド家の執事は、乳兄弟だから子どもの頃からずっと一緒にいるのは事実だ。ただ、彼の母が、シェフィールド家の乳母なのではない。先代のシェフィールド夫人が彼の乳母になった。だから、誰かの乳兄弟なのではなく、彼はシェフィールド家の兄弟と、乳兄弟だ」
リラを除いて。
告げられた言葉に、ローランドは感情を見せない顔でわかりました、と頷く。
内心は、納得や解決と一緒に、さらなる疑問が生まれて渦巻いて穏やかではないけれど。その事実はつまり、あの執事、レイがどこかの貴族などの息子であるということ。なぜその彼が、ずっと、しかも使用人としてそこに居続けるのか。どこの誰なのか。
ただ、今はエリアスはこれ以上を話す気はないのを示すように、また仕事に戻っている風をローランドに見せる。
ようやく、リラが自分の方に向き始めた。気になるのに、ローランドの情報収集力を持ってしても水面下で得ることのできない情報。それでも知らなければ、リラとの関係を進めるのに足を掬われる余感がして仕方ない。
リラが同じ屋根の下にいることは嬉しいが、一緒に小姑たちもいる。しかも、長引いている原因は、あの女が逃走しているから。いつまたリラに危害を加えるかわからない状況は、歓迎できるものではない。
じっと考え込み、ローランドは立ち上がると、エリアスにしてみれば腹立たしいほどに美しく、騎士の礼をとって見せた。
「殿下、またまいります」
「来なくていいっ」
反射的に口をついて出た叫びは、不敵な笑顔に打ち消された。
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